なんで、私がホワイトベースに!?   作:むにゃ枕

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08 戦後の皮算用

 シロウズを自称している青年は、明らかにシャア・アズナブルだった。

 

 ブライトに告げ口をするが、彼はシロウズを一般人と考えているようだった。

 

「US- 0800便は確かに記録があります。それに、機体トラブルの原因が油圧の故障ということにも異論はありません。おそらく彼らは一般人でしょう」

「いや、明らかに赤い彗星だよ。オーラがある」

「オーラですか? 私はあの青年に何も感じませんが…」

 

 いや、シャアだって!

 

 ガンダムの整備をしていたアムロを捕まえる。それから、シャアの前に連れていく。アムロとはちょっとギスってるので、何だよみたいな顔をされた。

 

「シャアですね。で、それがどうかしました?」

「明らかにシャアだから捕縛するべきだ」

「やれば良いじゃないですか?」

「それが出来ないから困っているんだ!」

 

 書類が完璧であるし、シロウズがシャア・アズナブルである証拠がない。捕まえたいが捕まえられないのだ。怪しいから拘束するとしたら、クルーから私への好感度がダダ下がりになってしまう。オーガスタの一件で不審を買っているのだ、これ以上怪しい動きは出来ない。

 

「セイラくん、あれシャア・アズナブルだよね?」

「……ッ、アレは鬼子です」

 

 騒ぎを聞きつけてやってきたセイラに話題を振った。

 あれ、セイラさんの怒りがカンストしている…? シャアは一体、何をしたんだ?

 

 ぬるっとシャアが、私に近づく。

 

「やあ、大尉さん、あなたの名前は?」

「マリー・セラーです…」

「ああ、やはりそうか」

 

 シャアは私の手を取り甲に口付けをした。

 

「は??」

  

 そして、そのままニュータイプの感応がはじまろうとする。キャンセル! キャンセルで! クーリング・オフ!! ブロック!! やめろ!!

 

「マリー、私を拒むのか?」

「セラーで!」

「マリー」

「セラーだ!!」

「マリー、君と私は分かりあえる。今は、敵味方だが、私は君と新しい世界を」

「名前呼びやめろ!! ぶっ殺すぞ……」

 

 仲間面してるが、シャアと私はほぼ初対面だ。しかも敵同士である。戦場のラブロマンスとかそういうことはない。

 

「君は、私の素性を知っている。なら、私の利用価値も十分に認識しているはずだ。私は、ジオン・ズム・ダイクンの子、キャスバル・レム・ダイクンだ」

 

 コイツ、完全に私に執着してないか? 私がやったことは、シャアと感応したことくらいだ。あれが初めてだったということなのか? それで、私に執着しているのか?

 

「アルテイシア様!?」

「ラル…!」

 

 隣でもイベントが起こっている。あーもうめちゃくちゃだよ! 副機長がランバ・ラルだったということを見逃していたのか。シャアのインパクトにやられているな。うー。

 

「アルテイシアだと!? なぜここに…!」

「えっ、妹に気がついてなかったの??」

「君が魅力的すぎるからな」

「……うわ」

 

 ララァ・スン! 助けてくれ! シャア係は君に任せるから!

 

「それは、シャア・アズナブルとしての言葉? もしくはキャスバルとしての言葉?」

「どちらかと言えばシャア・アズナブルとしてだな」

 

 よし、言質は取った! コイツはシャア・アズナブルだ! 確保!

 

 

「待て待て待て、どうなってるんだ?」

 

 スレッガー・ロウ少尉が、ブライトに助けを求める。

 

「私にもさっぱり分かりません。セラー大尉、説明していただけますか」

 

 私にキラーパスを投げるブライト。理解しているのが私しかいないから仕方がないのか……

 とりあえず拘束したジオンの面々を交え、話し合いを行うことにした。この場には、ホワイトベースから将校が出席している。スレッガーも少尉のため同席しているのだ。

 

「そこの金髪が赤い彗星シャア・アズナブルだ。彼の正体がジオン・ズム・ダイクンの息子、キャスバル・レム・ダイクンだった。

そして、セイラくんがその妹のアルテイシアだ。

そこのランバ・ラル大尉は、ダイクン派の武官だ。それで、この場にいるということだね」

「ちょっと待ってくれ、俺は関係ない! 俺は何も聞いていないぜ!」

「スレッガー・ロウ()()。君は将校だ。出席する権利がある」

「勘弁してくれよ……」

 

 私も勘弁して欲しい。政治的な案件である。一介の大尉には荷が重過ぎる。

 

「バレてしまっては仕方ない。けれど、私は単なるシャア・アズナブルだ。マリー、君は私の同志だ。私は君と歩みたい」

「チェンジ! チェンジで…!」

 

 シャア・アズナブルは、顔と声の良い男だ。親とか血筋は最悪。性格も微妙。ニュータイプ能力も優秀止まりである。

 総合的に何でも出来るが特化した能力はない器用貧乏なやつなのだ。コイツと付き合った女は破滅している。私は破滅したくない。

 

「キャスバル兄さん、まだ復讐なんてものに囚われているの?」

「それのどこが悪い?」

「性欲に負けてホワイトベースに乗り込んできて、よく偉そうなことを言えるわね」

 

 セイラの直截的すぎる物言いにシャアは沈黙した。可哀想だ。

 

「そんな動機で……」

「愛に生きる男ね。俺は好きだぞ」

 

 ブライトは呆れ、スレッガーは囃す。シャアはすごく居た堪れなさそうだった。

 

「キャスバル様、アルテイシア様のことは知らなかったのですか?」

「ラル大尉、騙そうとしたわけではない。私はアルテイシアのことを知らなかったんだ」

 

 シャアも私より年下だ。性欲に負けることもあるよね。でも、その相手が私なのおかしいって。

 

「ブライトキャプテン、彼らをどうする? この場で捕虜とし上層部に引き渡すということもできる。連邦軍人としてはそうすべきだと思うがね」

 

 前髪をセイラに上げられたシャアが、絶望した表情を浮かべている。

 

「待ってくれ! マリー、君は私の母ッッ」

「もう黙ってください! 兄さん!」

 

 セイラが素晴らしいビンタを食らわせる。シャアは俯いた。

 

 シャアとランバ・ラルは懲罰房に投げ込まれることとなった。あとはレビル将軍がなんとかするだろう。

 

 

「……何をしているのかな?」

 

 ふと予感がして格納庫に行くと、まんまと房を抜けたシャアとランバ・ラルが、コア・ブースターに乗り込んでいた。

 

「セラー大尉。貴官は甘いな。南極条約など無視しあの場で処刑すれば良かったものを」

「あー。ラル大尉、もしかして歯に小型爆弾でも仕込んでいました?」

「正解だ。そこまで分かっているのなら検査すれば良かっただろう」

「今、思い出したんですよ」

 

 シャアはぐったりとしており、元気がない。

 

「その、シャアは無事ですか?」

「敵の心配をするか。どこまでも連邦は甘い。キャスバル様は無事だ。少しばかり失恋のショックが辛かったようだがね」

 

 あー!! 聞かなければ良かった!! 

 

 コア・ブースターは、搭載火器で格納庫の扉をぶち破り、夜闇に消えていった。巻き込まれないように格納庫から逃げたため、追撃は出来なかった。

 

 

「ブライトキャプテン。監視はどうなっていたんだ?」

「カイに割り当てていました」

 

 爆発が起きても、気が付かなかったということは無いだろう。おおかたサボっていたに違いない。

 

「カイ、なんとか言ったらどうなんだ?」

「すぃません。部屋で寝てました」

「おかげで捕虜が逃げ出したんだ! お前が監視をしっかりやっておけばこうはならなかった!」

 

 ブライトがカイを詰めている。カイはどうやら責任を感じているらしい。

 

「まあまあ。ランバ・ラル大尉が歯に小型爆弾を仕込んでいたらしい。相手はプロだ。カイに怪我がなくて良かったじゃないか。しかし規則は規則だ。罰として、カイのベルファスト基地への上陸は無し。ガンキャノンの整備を任せる」

「…………はい」

 

 ブライトに頬を張られたカイは不貞腐れた様子で、格納庫に向かっていった。

 

 ホワイトベースは、大きな問題を起こすことなく大西洋を越えた。ベルファスト基地に入港し、偽装ドッグで本格的な修理を受けることとなった。

 オーガスタ基地での修理は、その場しのぎのものだったし、そもそもレビル将軍の息が掛かっていない基地だ。機微な部分を見せるわけにはいかない。

 

「君がマリー・セラー大尉か」

 

 ベルファスト基地に着くや否や、私はレビル将軍のもとに呼び出された。内心ビクビクだ。オーガスタ基地で修理を受けたりモビルスーツを受領したことがバレたのだろうか?

 

「君のことは、グリム少将から聞いている。彼は君に心酔しているようだったよ。オーガスタ基地司令のアーレント大佐からも非常に君に好意的だ。これはどういう魔法を使ったのかな?」

 

 これは、全部バレてますね。レビル将軍を洗脳するという選択肢が浮かんだが、レビル将軍は悪人でも何でもない。それを洗脳するというのはジオンと同じだ。

 

「コーウェン少将の目となり耳となるのが、私の役目です。オーガスタ研究所での強化人間の製造やニュータイプ専用機といった噂。それをレビル将軍は耳にしたことがありますか?」

「噂程度では聞いている」

 

 これで、前提はクリアした。ここでレビル将軍が何も知らなかったら一笑に付されて終わりだ。

 

「これが、その実像を示した資料です。コーウェン少将からレビル将軍に是非にと言い含まれています」

「むぅ…これは」

 

 レビル将軍が資料に目を通す。深く溜息を吐くと、私の目を真っ直ぐ見て言った。

 

「セラー大尉、これを私に知らせて何をしたいのかな?」

「私はコーウェン少将の部下です。閣下の考えていることは私程度には分かりません」

「そうか……コーウェン君は連邦軍の現状を憂いているのだな」

 

 コーウェン少将は何も知らない。全部、勝手に私がしたことだ。もし運命が変わりレビル将軍が生き残るようならば、連邦軍は盤石になるだろう。

 

「レビル将軍、ジオンとの和平の際はコロニー・レーザーにお気を付けてください」

「……覚えておこう」

 

 レビル将軍が生き残れば、傀儡化したグレイヴとオーガスタ基地を切れば良い。

 逆に正史のように死ねば、連邦軍内の軍閥化が促進される。そうなった場合は、コーウェン派としてやっていくのは不可能だろう。彼には政治センスがない。

 

 ティターンズという選択肢が浮かんだ。

 

 しかし、まだ戦争に勝利したわけではない。私の第一目標は宇宙世紀を生き残ることである。余裕が出てきたからか、余計なことを考えてしまう。

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