ベルファスト基地で警報が鳴り響いている。ホワイトベースクルーにとっては最早慣れっこなスクランブル警報だ。
「スレッガー、Gファイターで出れるか?」
「やるしかないでしょ。コア・ブースターは盗まれちまったんですから」
スレッガーの愛機であるコア・ブースターはランバ・ラルに乗り逃げされてしまった。ちなみにコア・ファイターは、予備機の余っていたやつを使っていた。データはほぼすっからかんだ。
「スレッガー少尉、君のGファイターは私のアシになる。くれぐれも落ちるなよ」
「おっ、重」
サブフライトシステムは便利だ。私の機体である狙撃型に魔改造されたペイルライダーは、推力はあるが飛行できるわけではない。ちなみにこの機体は、セラー大尉のやつとかスナイパー機とか呼ばれている。
ペイルライダー・スナイパーとでも呼ぶべきだろう。
「アムロ。セイラのGファイターの調子は?」
「良好です」
セイラ・マスは兄と再会したことによる心境の変化か、Gファイターのパイロットに志願していた。今のホワイトベースは
「ジオンの水陸両用機、新型です。これは、少なくとも30は居ます」
「マーカー……確かなのか??」
「はい。確かです」
多すぎるだろ。やばいわ。
「カイ、ジョブ・ジョン、ハヤト。私がマーキングした敵機を攻撃しろ。ホワイトベースはレビル将軍を乗せて撤退用意!」
「レビル将軍ですか?」
「そうだ。敵の狙いは閣下だ」
やってくれる! エルラン辺りの内通者がジオンにレビル将軍の所在をリークしたのだろう。レビル将軍はジオンにとっては不倶戴天の敵だ。将軍を殺せば、連邦軍は精神的支柱を失う。
「カイが居ません!」
「チッ、ジョブ・ジョン、ハヤト。面砲撃しろ。狙って撃つな。撃ちまくれ」
アムロのガンダムがビームライフルで敵のズゴックやアッガイを撃ち抜いていく。私もロングレンジビームライフルで、ヘッドショットを決めていく。
「多すぎるな…! ホワイトベース、上がれるな? 撤退用意!」
「レビル将軍がまだです!」
「早くしろ…! と伝えろ」
レビル将軍にここで死なれては困る。非常に困ったことになってしまう。
「カイが戻ってきました! キャノン、援護に加わります」
カイは良いから、早くレビルを乗せて逃げなければ。敵の数が多い。そしてやり手だ。シャアやランバ・ラルは居ないが、敵の練度が高い。
「ぐぉっ! あちゃー。セラー大尉被弾しました。撤退します」
「スレッガー…仕方がない。スレッガー機は撤退する。アムロ、セイラ。君たちも防衛戦を下げるように」
サブフライトシステムがやられたのでラインを下げるしかない。
アムロと私で半分はやっているのに敵に退く気配はない。決死の覚悟で来ているのだろう。敵の面制圧能力が高い。流れ弾だけでも相当な量だ。
気が付くと、守るべき市街地も、基地も炎に包まれていた。
「ベルファスト基地は無事か…?」
「いえ、……っ…レビル将軍……戦死されました」
あっ、終わったわ。戦後どころか、一年戦争の勝敗すら危うくなった。
ホワイトベースの輸送が立ち行かなくなるし、モビルスーツの量産計画とかどうなるんだろう……
「…………」
「おい、セラー大尉! 何をボサッとしてる! お前さん指揮官だろ!」
スレッガーの指摘で、ようやく我に返る。私が指揮をしなければいけないのだ。
「セラー大尉、敵が退いていきます。追撃しますか?」
「いや、友軍の支援が先だ。ベルファスト基地の生存者を救出する」
暗澹たる結果に打ちひしがれながら、ホワイトベース隊のモビルスーツで基地や市街地の瓦礫を除去する。
レビル将軍、死亡ドッキリとかじゃないかなぁと一縷の望みを抱いていたが、そんなことはなかった。
苦しまなかったのだろう。彼の遺体は安らかな表情を浮かべていた。
「ブライトキャプテン、今後の我々はジャブローとの連携が必要だ。頼る先は参謀本部だろうな……」
「ジョン・コーウェン少将ではないのですか?」
ブライトが不思議そうに聞く。済まない。コーウェン少将は無能なんだ。
「コーウェン少将が頼れる方は少ない。オデッサ作戦にも直接は参加されていないだろうしな」
「オデッサ作戦ですか……レビル将軍なしで成功させなければ」
オデッサ作戦が頓挫すれば、地球連邦軍は重力戦線での優位を失うだろう。そうなれば敗北だ。
「なんとしても成功させる。やるしかない」
ホワイトベースは、ベルファスト基地を後にして進路を東に向けた。修理を受けたミノフスキークラフトの調子は上々である。
「ジオンの襲撃は全くないな。オデッサに戦力を集中させているのか、ベルファスト襲撃に兵を割いたからだろうな」
「この戦区の指揮官はエルラン中将ですね。中将がジオンを上手く引きつけているのでしょう」
そんなことはないはずだ。エルラン中将は裏切者である。つまり連邦軍の膿だ。
「そうだと良いがな」
エルラン中将の指揮下にある戦区に入ったホワイトベースは、即座に戦闘機による熱烈なエスコートを受けた。
強制着陸させられ、乗り込んできた憲兵が武装解除を行っていく。
私は手錠を付けられ、何処かへ連れて行かれている。
「ルナツーでもこんなことが有ったな」
「マリー・セラー大尉。貴様にはレビル将軍暗殺の容疑が掛かっている。無駄口を叩くな」
銃口を向けられる。なるほど、そっちがその態度なら、やってやろうじゃないか。
「私に従ってください。これは命令です」
「は、…はい」
隊長であろう男は、私の支配下に落ちた。
ニュータイプ能力ってやっぱり便利だな。人間の心のなかに入り込んで、洗脳を行う。非常に危険な存在である。排除した方が良い。
隊長は私の手錠を外し、丁寧に接してくれた。優しい。後で洗脳は解いておこう。
「そこの軍曹。私をエルラン中将の下に連れて行きなさい」
「え?? よろしいのですか隊長??」
「ああ。問題ない」
憲兵隊長だけ洗脳したので、憲兵隊の部下は戸惑っている。上官の命令が絶対であるのは、軍隊の非常に良いところだ。
私の洗脳能力も万全ではない。遠隔で指示は出せないし、ニュータイプ通信もできない。その場で洗脳するだけだ。なので、洗脳したグレイヴ閣下やアーレント大佐が何をしているかは知らない。
スレイヴ・レイスとか作らないでオーガスタで大人しくしてろと洗脳したので、多分大丈夫だろう。
「貴様、なぜコイツをここに連れてきた? 処刑しろと命じたはずだが?」
「え?? そうなんですか?」
案内ありがとう。
「裏切者の薄汚い売国奴。あなたにも利用価値は有ります」
「貴様! 何を言っている! 憲兵さっさとコイツを…っっ」
オーラ全開!! オラ!! 洗脳!!
「……失礼した。セラー大尉。君は私の客人だった」
エルラン中将は私の傀儡になった。自我は残っているが、植え付けた命令を遵守する存在だ。
「裏切者は貴様だ…ジュダック!!」
拳銃の発砲音が響く。エルラン中将が副官であるジュダックを撃ったのだ。
「憲兵、ジュダックを連れていけ。ジオンに通じていた裏切者だ」
ジュダックも洗脳した。彼がジオンに内通した元凶であると暗示したのである。エルラン中将の罪を全部被ってくれる。
「ありがとうございます。エルラン中将」
「いえ、
「エルラン中将、あなたはコネクションを活かして、ジオン軍の残党組織を作り上げてください。
名前は、そうですね。
「はい。とても」
「まずは、この地球に巣食うジオンを駆逐しましょう。頼りにしていますエルラン中将」
「はっ。奮励努力します」
エルラン中将は涙を流していた。私に心酔しきっている。若干気持ちが悪いな。
オデッサに集結していたレビル派の部隊は、エルラン中将の指揮下に入ることで合意した。
連邦軍の兵力はジオンの数倍はある。平押しでも勝てるだろう。エルラン中将が兵法通りの用兵を行えば問題なく勝てる。
「核ですか? セラー大尉が望むなら調べましょう」
「よろしく」
ジオン軍の水爆発射基地をこちらの核で先制的に潰す。そうすれば勝利は揺るがないはずだ。南極条約違反だが、エルラン中将が対ジオン強硬派ということを示せれば良い。
「
「よし、モビルスーツ隊を前進させろ」
無事に疑いの晴れたホワイトベース隊も、味方のモビルスーツに混じり前進していく。
「サブフライトシステムってのは便利だねぇ。スナイパーにとっては絶好のポジションだよ」
「俺は重くて嫌だぜ。降りてくれよ」
「やだね」
Gファイターをサブフライトシステムとして使い、私は上空から撃ち下ろす。ガンダムも同様にセイラのGファイターに乗ってビームライフルで狙撃している。
「そもそも、アムロもあんたもなんで当てられるんだよ。普通、動く目標を動く機体から狙えねぇぜ」
「ニュータイプだからだね」
「はぁ……嫌な時代だねぇ」
大きなトラブルは起きなかった。ホワイトベース隊は活躍し、ジオン軍のオデッサ基地は陥落した。
予定調和だが、これで良いのだ。下手なハプニングは要らない。
ホワイトベースに戻り、ちょっとした祝賀会に参加する。レビル将軍が死んだ時はどうなるかと思ったが、何事もなくオデッサが陥落してよかった。
「セラー大尉…!」
「…なんだ、アムロくん?」
アムロは黙って私の手を引いていった。そして、壁を背にした私を逃げられないように両手で押し込める。いわゆる壁ドンだ。背丈は私の方が高いし、あまりサマになっていない。
「どうして、何も相談してくれないんですか!? 自分一人で全部抱え込んで!」
「……君は子どもだろう。職業軍人である私が責任を1人で抱え込んで何が悪い?」
アムロは唖然としていた。
「僕は、仲間じゃないんですか? そんなに頼りないんですか!?」
「敢えて言えば、その通りだよ」
茫然自失としたアムロの頭を撫でる。
「私が上手くやってやるさ。栄誉も汚名も全部被ってやる。君は守られるべき子どもだ」
思えば、この時が運命の分岐点だったのだろう。もしも、私がアムロを認めていれば、彼と共に歩めたかもしれない。