ブルーアーカイブ:〜ACⅥ Fires of Kivototh編〜   作:とある渓流にいるかわうそ

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11話 【ゲヘナ】たった30分の跡地。

 

 

〜〜10:35〜〜

 

 

イオリ「うっ……ごほっ!!」

 

チナツ「はぁ…!はぁ…!」

 

アコ「皆さん……無事ですか!?」

 

イオリ「あぁ、何とかな!」

 

チナツ「それより、何が起きたのでしょう?」

 

アコ「分かりません。言える事はいきなり

ゲヘナ学園の校舎が崩落したってこと

でしょうか。」

 

イオリ「きっと各地でいきなり起こった

爆発暴動と関係がある!ヒナ委員長が別件で

外に粛清に出かけたから、先に事態の鎮圧に

向かっているはずだ!

遅れを取るわけにはいかないぞ!」

 

チナツ「そうは言われても、この上の瓦礫が

邪魔して身動きが取れません。」

 

イオリ「とりあえず、まずはこの上の瓦礫を

協力してどかすぞ!!」

 

アコ「うえぇ!?私は作戦立案が主で、こういう

力仕事は柄じゃないんですよ!?」

 

イオリ「わがまま言うな!こいつをどかさなきゃ

どうにもならんだろ!」

 

チナツ「そうですね……非力ですが、私も協力

します。私は右端を、アコさんは反対側を」

 

アコ「チッ」

 

イオリ「舌打ちするな!しれっと私が1番重い

ところに割り当てられてるんだぞ!」

 

チナツ「無駄口叩かない!3、2、1で行きますよ!」

 

イオリ「よし!3!」

 

アコ「2!」

 

チナツ「1!」

 

 

カラリ

 

 

チナツ「って、あら?」

 

イオリ「やけに軽い……な……」

 

アコ「……は?」

 

チナツ「何ですか……!?これ!?」

 

 

 

辺り一面には何もない荒野と、忙しなく

動くMTの軍団。

 

 

 

スネイル:ここはこの地に住んでいた猿どもの

本拠地があっただけあって、立地がいいですね。

ここを【アーキバスキヴォトス本部】として、

作戦司令拠点並びに、『再教育センター』を

優先して設立し、それが建てられれば続けて

『ファクトリー』を建てなさい。:

 

アーキバス隊員:了解です!スネイル閣下!:

 

 

 

イオリ「………なん…なんだ……?これ…?

ほんの、数十分前まで……普通にグラウンドや

街並みがあったよな…?」

 

アコ「何で、更地しか…ないんですか…?」

 

チナツ「人は……人はどこに……!?学生の

皆さんで活気づいていた学園はどこ!?

何で…どこにもいないの……!?」

 

スネイル:そうですね、この【ゲヘナ】とやらは

それなりの広さがあるようです。

ヴェスパー部隊長各位で管轄地を分け、

運営することにしましょう。

もちろん、私はこの本拠点で管轄をいたします。

 

各地のヴェスパー部隊それぞれの管轄施設の

設立も急がせなさい。

割り振りと、運用ルールなどは後でこちらで

決めて、通達します。:

 

アーキバス隊員:はっ!各隊長殿にも、連絡

いたします!:

 

イオリ「……おま…えら……か………?」

 

スネイル:さて、先行してキヴォトス各地の

制圧にフロイトが向かっています。

今回の作戦をすっぽかした分は働いて

もらわねば。

各地の本拠地設営の目処も経ってきた頃

でしょう。

そろそろヴェスパー部隊を半数に分け

フロイトに続いてもらいますか。:

 

アーキバス隊員:えっと、第五隊長殿は…?:

 

イオリ「お前らがこれをやったのかあああ

あああああああああ!!!!」ダッ!

 

アーキバス隊員:!?:

 

アーキバス隊員:生き残りが!?:

 

スネイル:なに…?連絡がないというのですか?

まだ、テラフォーミングを完了出来ていない

という事か?

こんな原始人どもを相手に何をしているという

のです?:

 

イオリ「貴様あぁぁぁぁ!!!貴様がこの惨事を

起こしたリーダーだな!!!何故こんなことを

したああぁぁぁぁぁ!!!」

 

アーキバス隊員:えっと、私たちも助力の申し出に

出たのですが、第五隊長殿には断りを入れられ

まして……:

 

スネイル:ほう。……という事は、テラフォーミングを

出来ない理由が…… あぁ、なるほど。そんなところに

風紀委員長とやらはいたのですね。:

 

イオリ「風紀委員長!?ヒナ委員長か!?貴様ら

ヒナ委員長に何をしやがったああぁぁ!!!」

 

スネイル:では、改めて第五隊長に連絡を入れます。

もう必要ないから、テラフォーミングに出なさいと。:

 

イオリ「答えろおおおおおおおおお!!!」

 

アーキバス隊員:あの、スネイル隊長閣下。:

 

スネイル:なんです?:

 

アーキバス隊員:さっきからあそこの生存者が

我々に質問してきていますが……:

 

スネイル:捨ておきなさい。猿の相手など、

いちいちしていられません。:

 

イオリ「…そうか、それが答えってわけか…

じゃあ!お望み通りそのロボットもろとも

ガラクタに変えてやるよ!!!」

ドンドンドンドン!!

 

チナツ「イオリ!?」

 

アコ「何をしてるんです!!」

 

アーキバス隊員:あの、こちらに発砲もして

きましたが:

 

スネイル:猿の銃弾などいくら受けても全く

効きはしません。少し耳障りな程度です。:

 

イオリ「お前ら絶対に許さないぞおおぉぉ!!

覚悟しやがれええええ!!!」

 

チナツ「イオリ!相手を考えて!!」

 

アコ「無闇に刺激してはいけません!!」

 

イオリ「うるせええええええぇぇぇ!!!

ここまでやられて、風紀委員として黙って

られ

 

 

ドッッッッガアアアアアアアアアン!!!!!

 

 

オープンフェイスの【ブーストキック】

 

 

チナツ「……へ?」

 

アコ「あれ、イオリさんが消えて…?」

 

スネイル:はぁ、訂正しましょう。苛つく程度

には耳障りですね。

…気になるようであれば、私に聞かずに

さっさと自分たちで処理しなさい!

こんなことにまで私の手をわずらわせるん

じゃありません。」チャキ!

 

アーキバス隊員:ス、スネイル隊長閣下…:

 

 

【オープンフェイス】のプラズマ銃が光る。

 

チナツ「あれ?……イオリ?どこに……」

 

アコ「っ!?バカ!!避けなさい!!!」

 

 

ドシュン!!

 

 

アコ「ちぃ!!チナツさん!!!!」

 

ドン!!

 

チナツ「ふぇ」

 

 

バッヂイイイイイイイイン!!!

プラズマに飲み込まれるアコ。

 

 

チナツ「は…へ……? ア…コ……?」

 

 

スネイル:ちっ……、猿らしく身内の結束は

強いということですか。

まぁ、何の意味もありませんが。:ジャキン!

 

 

チナツに向けられるプラズマ銃。

 

 

チナツ「ひっ!?ひいいいいいいいい!!!!」

タッタッタッタッタッタッ!!!

 

 

 

スネイル:…ちっ、逃げるなら最初から逃げれば

いいものを…。余計な手間をかけさせます。:

 

アーキバス隊員(マジかよ…人の心とかないのか

この人は……)

 

アーキバス隊員(惨い事を平然としやがる…)

 

スネイル:さて、さっさと第五隊長に入電

を入れますか:

 

アーキバス:お、おい!?マジかよ……:

 

スネイル:?、どうしたというのです?:

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

〜〜10:30〜〜

 

 

ホーキンス:まさかここまで、耐えるとは…!:

 

ヒナ「あ……うぅ………」フラッフラッ

 

ほんの十数分だが、私は何度もヒナくんに

加減して、ACの直接的な殴打を繰り返していた。

その力加減も、だんだんと加減を弱めていき、

先ほど、ついにACにも有効なダメージと『衝撃』を

与えられる【ブーストキック】を繰り出した。

ACの純粋な殴打だけによる最強の攻撃、つまりは

加減を一切しない全力の殴打だったのだが、なおも

彼女は立ってくる…!

普通ならば、肉塊すら残らず肉片が四散するほどの

威力があるというのに…!

いや…… 即死しないとおかしいというだけで

効力は十分なほどにある。

彼女は、両脚の骨はあちこち折れ曲がっていて、

両腕はあちこちに折れた骨が露出しており、

胴体に関しても肋骨がほとんど見えている

状態だ…。

普通ならば、立つことなど出来ないはずなのに、

彼女は立ってくる。

……これが、【キヴォトス最強と謳われる

キヴォトス人の力】ってわけかい…!

 

だけれど、その最強の肉体も今の私にとっては

焦燥に駆られ、ただただ私の心を長く抉ってくる

だけの無意味な要素にすぎない……

 

ホーキンス:頼む……もう、立ち上がらないでくれ。

このままだと、君はもっと酷い目に遭うことに

なってしまう…!:

 

焦燥から私はつい言葉に出してしまった。

周りからは、もうすでにプラズマの破壊音も

閃光も止んだ…。今頃はアーキバスのための

環境づくりが始まっているだろう…

このままでは……他のメンバーが……

特にスネイルが、来てしまうかもしれない…

そうなったら……!

『再教育センター』。あそこほど、惨い施設は

ない……

いや、彼女ほどの戦闘力を持つならば、

もっと酷い目(『ファクトリー』)に……

 

 

ハルナ「……!」

 

アカリ(ホーキンスさん…やっぱり、何か

あるのですね… ヒナをここまで惨い目に

あわせてでも…)

 

 

ヒナ「そ…れ……は……で…き……ない……

そう……だん………」フラフラ

 

ホーキンス:……………:

 

ヒナ「わ…た…しは………この……ゲヘナ…の…

風紀……を……あず…か…る……身………

さい……きょ…う……の……しょう…ごう……

には………み…ん……な……の……………

希望………も………しん……らい………も………

こめ……られ……てる………。

だ…か……ら………… 風紀……いい……ん…ちょう

と……して…………そう簡単に………倒れる……

わけ…には………いかな……い………!」

フラり……フラフラ………

 

………………何という強固な意志だ……

おそらく………いくらやっても、彼女は

決して倒れることは無いだろう……

その最強たる肉体が、意志が、彼女を

倒させてはくれない……

そう、もはや【殴る蹴る】では………

 

……………………もう、賭けるしかない。

彼女の肉体が………【ACの兵装】をも

上回ってくれる事を……!

あまりに残酷だが…… これほどの強さ

スネイルに目をつけられたら、きっと利用

されてしまう…!

ただ、情報を吐かされるだけでなく…

彼女の肉体と意志を、彼女の守りたい

ものに向けさせられるように……!

それだけは……それだけは避けてあげ

なければならない。

 

彼女の、誇りのためにも!

 

ホーキンス:ふぅーーーーーー………:

 

私は、大きく息を吐き、ついに決断する。

 

 

ジャキン

 

 

ハルナ「…え?」

 

アカリ「ホーキンスさん…?」

 

イズミ「まさか……?武器を……!?」

 

ジュンコ「そんな……!?嘘ですよね……!?

いくらヒナ委員長とは言え、人に対して

そんなもの撃ったりなんてしませんよね…!?」

 

ヒナ「………………」フラフラ

 

ホーキンス:…これは、私から君の覚悟と強さへの

敬意と、信頼だ。

こんなもの、人に対して撃ちたくは無いが、もう

時間がない。

だから…これは私の心からの本音だ。

……どうか死なないでくれ。:

 

 

カチッ 引き金を弾く

 

 

ドシュン!!

 

 

ヒナ「……あ」

 

 

バッヂイイイイイ!!!

 

 

【Vvc-760PR】のプラズマ弾がヒナくんに

直撃する。

 

 

ヒナ: ヒュルルルル ドサッ! ブスブス…

 

 

結果は……黒焦げとなって、ピクりとも

動かなくなってしまった……

どれほど苛烈なACの殴打を受けても、

堅固な肉体と鋼の意志で立ち上がってきた

最強の風紀委員長でもひとたまりも

なかったか……

……やはり、無謀だったか。やはり、人の身で

ACの兵装の攻撃になど耐えられるはずは

なかったか……

罪の意識が、やるせなさが私を襲う。

だが、強烈ではない。最悪命を奪ってしまう

ことも予測はしていた。

彼女が生き残れる結果になってくれるのが、最良

というだけだ。

この悲惨な鉄の匂いが漂う世界には、生きるよりも、

死んだ方がよほど良い結末になるという事も

ままある。

 

ハルナ「ヒナあぁぁ!!」

 

アカリ「なんてことを…!」

 

イズミ「ひどいよ…ひどいよぉ!」

 

ジュンコ「本当に撃つなんて……!?

こんなの………!!」

 

4人が、黒焦げになったヒナくんの

遺体に駆け寄る。

……その4人の姿を見て、私は心が

潰されるような痛みを覚える。

必死に、これで良かったんだと

自分に言い聞かせる。

『あそこ』に送られるよりはマシだと…

 

ーーーだが、神は私にパンドラの箱の光を

見せてくれたようだ。

 

ハルナ「…!生きてます!!」

 

アカリ「良かったです…!でもひどい状態…」

 

ホーキンス:なに!?:

 

生きて、いてくれてたか……

あぁ、良かった。彼女の肉体がACの兵装を

上回ってくれたか……

普段なら彼女たちの言葉を信じられない

ほどに、混乱するだろうが、今の私の心には

安堵しかない。

 

ホーキンス:……よかった。:

 

思わず、私はそうつぶやいてしまった。

 

ジュンコ「…いいわけありませんよ。」

 

その呟きに、返されたのは氷のように

冷たいジュンコくんの声だ。

 

ホーキンス:っ:

 

ジュンコ「こんなものを……人に対して

撃つなんて… いくらヒナ委員長の身体を

信用したのだとしても、人の所業じゃ

ありません。」

 

イズミ「こんなの……ヒナ委員長だって

分かんないよ…… 最低…… いや、そんな

言葉すら生ぬるいよ、ホーキンスさん。」

 

ホーキンス:…………:

 

ジュンコ「あなたのことを聖人のような

人と言った事、取り消します。

あなたは……いや、お前は人心を持たない、

畜生にすら劣るクズ野郎よ!!」うるる

 

イズミ「最低!!ホーキンスさんこそ…

死ぬべき人間だ!!」ギリ!

 

ハルナ「…何か、事情があるのでしょう…。

私たちに、ヒナと一緒に逃げてほしい真意が

あるのは分かりましたし、ここまでしなければ

ならない理由もあるのでしょう……

それでも……私は正直あなたを心底軽蔑します。

ホーキンス。」ギロリ

 

アカリ「…………」ポロポロ

 

ホーキンス:…………そうだね。私は尊敬に

値する人間などではない。最低のひとでなしだよ…

 

…時間がない。早くヒナくんを連れて逃げて

くれ……

くれぐれも、他のアーキバスの人間にその子が

ヒナくんということを気づかれないように

してくれ。:

 

ジュンコ「気づかれないように…?

こんな状態で、誰もヒナ委員長だと

分かるやつなんていやしないわよ…!

人間かどうかすらも……!」

 

ホーキンス:…………すまない。:

 

イズミ「謝罪なんてしないで。胸糞悪いだけ

だから」

 

ホーキンス:………………:

 

ハルナ「…行きましょう。ここにいては

本当に命を落としかねません。」

 

ハルナくんの言葉を合図に、ハルナくんが

ヒナくんを背負い、4人は私の側の

道の先にある、脱出路へと駆け出した。

 

 

4人が、私の側を通り過ぎた時ーーー

 

ホーキンス:最後に言いたいことがある。:

 

私はつい4人を呼び止めてしまった。

その呼びかけに応じて、4人とも足を止める。

 

ホーキンス:君たちと、また一緒に美食巡り

したかったというのは、紛れもない私の本音だ。

 

……短かったけれど、君たちとの食事は楽し

かったよ。:

 

美食研究会「……………」

 

ホーキンス:…それだけだ。呼び止めて

悪かったね。:

 

 

アカリ:にこり

 

 

ホーキンス:!!:

 

 

タッタッタッタッタッタッ

 

 

彼女たちは何も言わずに、この場を

立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホーキンス:……ふふ。存外、アカリくんの

態度が1番堪えるものがあるな……

いっそのこと、3人のように嫌悪して、憎んで、

軽蔑してくれた方が気持ちが楽だったのにね…:

 

いつもニコニコしている彼女の、純粋な悲しみの

顔と…… 最後に見せたまだ私への信頼を残す笑顔。

………こうもキツイものとは思わなかったな…

……4人の顔が、私の目に焼き付いて離れない。

彼女らの嫌悪を、憎しみを、侮蔑を、悲しみを、

その顔を……私は生涯忘れることは出来ない

だろう。

 

 

ピロリピロリ

 

 

通信が来た。相手はスネイルだ。

ちょうど私に催促の通信をかけてきたと

いうわけか。まさに間一髪と言ったところか。

 

 

ピッ

 

 

ホーキンス:こちら、ホーキンス…:

 

 

だが、その通信の内容は、私が思っていた

ようなものではなく、私を『絶望』させる

ものだったーーーー

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

〜〜10:40〜〜

 

 

背中に誰かすら判断出来ない状態の

ヒナをおぶって、私は逃避行の道を駆け

抜けていきます。

驚くほど軽快です。とてもとても走りやすいです。

……それほどまでに、瓦礫すらも灰と化した

更地(ゲヘナ)を駆けてゆきます。

途中、ほとんど黒と化した赤黒い染みを

たびたび見かけますが、それが何かを考えず、

ただ無我夢中で逃走路を走ります。

 

アーキバス隊員:…生存者か。:

 

アーキバス隊員:ほっとけよ… わざわざ

殺さなくて良いだろ…… 彼女らも人なんだ…:

 

アーキバス隊員:そうだな。それより早く

補給倉庫やら宿舎やら準備しないと…

もたもたしてたらスネイルにどやされるぞ。:

 

アーキバス隊員:あぁ。:

 

逃避行の最中に、アーキバスの隊員たちから

奇異の目を向けられますが、誰も私たちを気に留めず

自分たちの作業を淡々と進めています。

……遠くで、知っている場所なのに、見た事のない

建造物が次々建っているのが見えます。

それを見ると、この地は本当に【ゲヘナ】では

なくなったのだと、実感させられ、心の中が

失意で満たされていくようです。

 

ハルナ「っっっ、あれは…!」

 

そんな道の中で、とても見知った人物が

倒れ込んでいるのが私の目に映ります。

…遠くからでも分かります。その状態が

とても普通のものではないことを。

うつ伏せの状態だと言うのに、両腕が

真上に…と表現していいのでしょうか。

とにかく言えることは幾重にもありえない

方向に折れ曲がっている事です。

脚も方向こそ違えど、体制的に普通なら

絶対にありえない向きだと言う事も一目で

分かります。

そうして、その人物の側に近づいた時、

ようやく…そう、何とか、何とかです。

私たちにとっては忘れようもないほどの

忌々しい存在の一人であるということを

何とか分かりました。

 

ハルナ「イオリ……」

 

アカリ「惨い……」

 

イズミ「生き…てるの……?これ…?」

 

ジュンコ「……そうよね…。ホーキンスさんで

さえ、【あんな】だったのに、他の連中が

もっとひどくないはずがないわよね…」

 

顔も、身体も、潰れて、ところどころ折れた

骨が露出しています…

この褐色肌と、かろうじて残っている髪型が

なければ、おそらくイオリと分から

なかったでしょうね……

 

 

チナツ「イオ…リ……?」

 

その時、別方向から声が聞こえます。

その声もよく聞く忌々しい声なのですが

今は、心に幾許かの安らぎを与えてくれます。

 

ですが、そのよく知っている落ち着いた声は

私たちの足元に転がるイオリの惨状を見て

ひどく錯乱した声色に変わります。

 

チナツ「あ、あああぁぁぁぁぁぁ!!!

イオリ!!イオリいいいいぃぃぃ!!!!」ダッ!

 

あまりの無惨な姿を見てでしょうか…

既に涙を溢していた目は更に滝のように

涙を加速させ、倒れ伏しているイオリに

抱きよります。

 

チナツ「何で!?どうしてこんな!?

アコさんも……!!!何で…何でこんな目に

遭わなければならないんですかああぁぁぁ!!」

 

アカリ「……何があったのですか?」

 

チナツ「ああぁぁぁぁ!!ごめんなさい!

ごめんなさい!!私が臆病だから……!

そのせいでイオリもアコさんもおおぉぉ!!

ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

イズミ「チナツ…」

 

チナツ「どうして!?どうしてこんな目に!?

私たちは、ただ皆さんのために!ゲヘナのために

働いていたというのに!!

どうしてこんな仕打ちを受けなければならないん

ですかあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

ハルナ「チナツ」

 

チナツ「あは…あはははははははは!!!

私…一人になっちゃったぁ♪

風紀委員のみんな…みぃーんな!

死ん

 

 

バッチイイイイン!!!

 

 

チナツ「っっっ」

 

ハルナ「しっかりしてください。」

 

私はチナツに張り手を飛ばしました。

チナツは私の張り手を受けて、少し

正気に戻ったらしいですね。

 

 

ピトッ

 

 

私は冷静にイオリの首筋の脈に指を当てます。 

 

 

ドクン…ドクン…

 

 

微弱ですが脈を感じます。

さすがは風紀委員会のNo.2。

死んでるとしか思えない状態でも、

何とかかろうじて生きていますか。

 

ハルナ「……微弱ですが、脈を感じます。

こんな状態ですけれど、まだ生きています。」

 

チナツ「っっっっ!!!! うぅ!ぐすっ…

よかった………

そうだ……ヒナ委員長も探さないと……」

 

ハルナ「その必要ならありません。ヒナなら

ここに……」

 

そう言って、イオリ以上に惨い状態のヒナを

おぶりながらチナツに見せると、彼女の少し

落ち着きを取り戻した顔がまたみるみるうちに

青ざめていきます…

 

チナツ「……え?…………ヒナ、いいんちょ…?

え?………それ、が……ですか?」

 

ハルナ「………信じられないかもしれませんが…

ヒナもまだ生きてはいます…」

 

ガクン

 

チナツ「なに……それ………?一体………

何をされたら………そんな惨いことに……!?」

 

アカリ「…………」

 

イズミ「……ごめん、なさい…………」

 

ジュンコ「思い出すのも………」

 

チナツ「何ですか?……それほどまでに惨い

事をされたという事ですか?

……ふふっ!ははははは!!

………みんな…、みんな……、ボロボロに

なって…… 私だけ…私だけが……

臆病者というわけですか…。

そのせいでアコさんさえも……」

 

ハルナ「……アコは…?」

 

チナツ「…私を、庇って………。奴らの

………うううぅぅぅぅ!!!」

 

ポロポロポロポロ

 

言い切れずに、ついにチナツが大粒の涙を

流して泣き始めます。

 

チナツ「せんせぇ……せんせええぇぇぇ…!

助けて…ください……!

いつものように…弱くて臆病な私を、私たちを

救ってくださいぃ………

うああぁぁぁぁぁぁ…………」

 

ハルナ「…………」

 

 

ぽん

 

 

堰を切って子どものように泣きじゃくる

彼女の肩に私は優しく手を置きます。 

 

ハルナ「……そうですね。みんなで、先生の

ところに行きましょう? 

あの方なら、きっと私たちを癒してください

ます。 ヒナもイオリだって救って…」

 

チナツ「…………」こくん

 

私の言葉を聞いて、落ち着きを取り戻した

チナツは、静かに頷いてくれました。

 

イズミ「チナツさん…肩貸すよ……」

 

チナツ「……すいません。」

 

アカリ「イオリちゃんは私がおぶっていき

ますね……」

 

ハルナ「えぇ… お願いしますわ………」

 

 

 

私たちは再び歩き始めます。心身共にに

ボロボロのチナツさんに合わせて。

 

私たちが頼れるところは、もう先生しか

いません。

確か、アビドスに滞在しているとヒナは

言っていましたね…… ならば、目的地も

アビドス高校という事になるでしょう。

 

 

……あぁ、この空はどうしてこんなに青いの

でしょう。

この地はこんなに真っ赤に染まっているというのに。

 

あぁ、この空はどうしていつもと全く変わらない

のでしょう。

この地は、もはやかつてのゲヘナの面影の

一つすら残していないというのに。

 

この空は雲一つない、何もない青空だけが

広がっています。

それだけが、今のこの地と一緒です。

……爽やかなはずの青空に、不安と

無情さしか感じないのは、そのせい

でしょうか?

まるで、果てまで続くこれからの未来(絶望)

表しているようで……。

 

 

そんな失意に満ちた心のまま、私たちは

アビドス高校(先生の元)へと、とぼとぼと歩き続けますーーーー

 

 

 

 

 

 

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