想いを音色に乗せて   作:猫柳/nekoyanagi

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目に留めていただきありがとうございます。
物書き自体初めてです。なので当然初投稿です。
稚拙でお見苦しい文章だとは思いますが温かく見て頂ければ幸いです。
では、よろしくお願いいたします。





第000曲  巣立ち

 

 

 

 ふ、と手に汗を握っていることに気がついた。それは、舞台照明によって舞台上の温度が上がっているからか、横に少し目線を移せば見えるであろう大勢の観客と自分たちと同じ全国から集まった中学生の目があるという緊張によるものか、これから否応なく宣告される結果に対する不安によるものか。

 

 そんな瑣末なことを考えているうちに、緊張による体の固さが弛緩していくのを感じた。そういえば、仲間はどうしているだろう、と木目に当てていた視点と下がっていた顔を上に向け目を忙しなく動かし、ある一点でぴたりと止まった。そこには、自身と同じく紺の制服に身を包んだ集団が座っていた。その様子はまさに十人十色だった。最高の結果を願うように手を胸の前で重ね目を瞑った者、演奏が終わったことで緊張の糸が切れたのかぼんやりと何処かを見ている者、両隣の仲間と手を繋いでいる者、平静を取り繕おうと真っ直ぐ舞台上を見つめる者、落ち着きなく周囲を見渡している者。

 

 演奏の時の頼れる仲間達の姿ではない、各々の普段の個性のでた姿に頬が緩んだ。同期とは三年間、後輩たちは二年間か一年間。よく自分の我儘によく着いてきてくれたなと思う。新体制に移行してすぐに行った全体ミーティングで告げた全国行ってみたいんだけど、という言葉。そこから始まった激動の日々。衝突も、迷いも、楽しさも、悔しさも、導くという難しさも全て未来の財産になると確信できるものになった。それは、結果がどうなろうと、だ。中学三年、最後の演奏。最高のものにできた自信がある。あとは、この自信を確信に変えるだけだ。

 

 千葉県代表、坂井中学校。自分の一つ前の団体の名前が呼ばれる。この学校は過去九回金を取った実績がある。実際、過去聞いた演奏はその結果に違わぬものだった。きっと今回も望んだ結果を獲られるだろう。

 

 次は自分たちの番だ。足を動かす。そして、止まる。隣には、この一年ずっと支えてくれた副部長の姿が。彼女は、高校でもフルートを続けるらしい。大阪の秀塔大学附属高等学校に行くつもりだと言っていた。仲は、どうだろう。悪くはないが、部内の衝突は大体この間で起きていた。顧問は飾りだったから、実質の指揮は部長副部長で行っていた。音をこうしたいああしたい。仲間のひとりが受験で部を去ったときも貴方は冷徹過ぎる、お前は情に流されすぎだ。学指揮をどちらが担うかも衝突した。そこに関しては最終的には、顧問がどうやら外部から人を呼んでいたようでその方に任せる方針で固まったが。顧問は顧問で中学生に全ての決定権を任せていたことに申し訳なさを感じていたようだ。人格者の先生らしいと思うと同時に、やりたいことを自由にできたのは彼のおかげだ。感謝はしてもしきれない。

 

「なに?」

 

 視線を感じたのだろうか。なによこっち見ないで、と言いたげなじとりとした睨み目をこちらに向ける彼女に笑みを苦笑のそれに変えて首を振る。そして、彼女にしか聞こえない声量で声を紡いだ。

 

「最高だった」

 

 たった、その一言。何を、とは言わない。それだけで、この三年を共に過ごしてきた彼女なら分かるだろうと思ったから。

 

「何急に。でも、同感…………貴方がいたからここに立てた。尊敬と、感謝を」

 

 驚いた。彼女がそう思っていたなんて。お互いに一線を引いて必要なことのみを議論し合い高め合う割り切った関係だったから彼女が何を思っているなんて考えたこともなかった。

 

「こちらこそ。貴女がいたからここまで来れた。敬意と感謝を」

 

 京都府代表、小倉西中学校。呼ばれた。

 

 この一年の集大成を、評価される。金、銀、銅。この三つのどれかを告げられる残酷さに、生唾を飲み込む。望むのは金、ただ一つだった。みんなの頑張りをずっと見てきた。最高の演奏をした。金以外受け入れられるはずがない。演奏をする前はそんな漠然とした不安と恐怖がどこかにあった。だが、演奏を終えて結果を待つのみとなった今はなかった。

 

 そっと、目を瞑る。耳に感覚を集め音に集中し、微かな音すらも聞き逃さんとするように。

 

「八番、京都府代表、小倉西中学校───」

 

 

 

 

 

 

 空はもう闇に染まっており、太陽の気配は消え月の支配が始まっていた。王に付き従う騎士のように、月の周りには星が囲んでいた。

 

 両手には表彰状と結果発表の際に舞台上の長机の上に置かれていたトロフィーの中で一番大きなもの。そう。金賞だ。今でも鮮明に脳裏に焼き付いている、「───ゴールド金賞」と告げられるあの瞬間。耳には仲間の喜ぶ歓声が、目に映った賞状に書かれた金の文字。ぞわあ、と鳥肌が立った。アドレナリンが脳を駆け巡るのを確かに実感した。あの瞬間はこの先の人生で決して忘れないだろう。しかし、なんだろうか。胸にぽっかりと穴が空いたようだった。心の拠り所がなくなったような感覚。そういえば、どうして全国を目指したかったのだろうか。そんなひんやりとした思考は、金賞を告げられたあの瞬間の興奮の熱に冷水をぶっかけられたようだった。

 

 さらにこの思考の海に沈みそうになった、そのとき。

 

「悠月先輩。ここにいたんですか」

「ん、あれ。久石ちゃん。」

「ちゃん付けやめてください……どうしたんです?そんなにぼうっとして。いつもの覇気がないですけど」

 

 思考の海に沈みかけた意識を浮かび上がらせ、その思考を一旦放棄してもはや恒例となったやり取りに頬を緩ませる。が、こちらを見ていた猫を思わせる可憐な容姿の美少女はこてんと首を傾ける。それによってしっかり手入れしているのだろうショートボブの毛先が重力に従って流れるのを横目で捉える。

 

「金賞ですよ?金賞。とんでもない快挙です。流石です。悠月先輩」

「皆のお陰だよ。僕一人じゃここまで来れなかった」

「またまたご謙遜を」

「謙遜じゃないさ。本気で皆が頑張ってくれたからだと思ってる。僕の成果だなんて言うのは傲慢もいいとこだよ」

 

 そう。皆のおかげ。副部長はどんな時でも部員に寄り添って人間関係で問題を最小限に抑えた上で部を鼓舞してくれていたし、久石は微かな火種を見逃さないよう情報収集をしながら副部長の振る舞いを学びながらユーフォニアムの技術向上というタスクをこなしてくれたし、各パートリーダー達は作りたい音を理解しようと、奏でようとどんな時でも言葉で、音でぶつかってきてくれた。最上級生は下級生の技術指導とお手本の演奏と振る舞いを、部活において立場が難しいと言われる二年生は必死に上級生としての振る舞いと演奏技術の向上に務め、一年生は右も左も分からないながらに一生懸命についてきてくれた。その姿がどれだけ部長の自分の不安を払拭して前に立つ勇気をくれたか。それに。

 

「それに」

「それに?」

「いや、なんでもない」

 

 無意識で繋げようとでた言葉だったが、何を言おうとしたのかが自分でも分からなかった。しかし、どういうわけか脳裏にはいつぞやの光景が映っていた。青い空に夕暮れを告げるかのように茜を差し始めた黄昏時の教室で奏でられる音色。どうして今この光景が?と思いながらも、話を逸らすために本来だったら卒部会後に伝える予定だったことを口にした。

 

「新チームの部長は副部長の妹に、副部長は久石ちゃんに任せる。これは僕と副部長、ドラムメジャー、各パートリーダーで一致してる。頼むな。新副部長」

「……私が副部長なんですね?私よりも詩音を選ぶんですか」

「はい……?」

 

 彼女らしい相手にどのように見られているのかを理解した可愛いを演出する振る舞いが消え、すぅ、と目が細められる。思わず困惑の声が漏れたが、何やら含みをこめているのを感じる問いかけなのは理解できたのでおそらくは茶化しているのだろうと考えて額面通りに受け取って予め用意していた答えを口にする。

 

「適所適材、適正の問題だよ。あの子は前に立てるタイプだし、ついて行きたいと思わせる魅力、カリスマを持ってる。まさに部長向きなんだよ」

「では私は?」

「久石ちゃんは卓越した観察眼と情報収集能力がある。だからある程度動きの幅を効かせられる立場にいる方が活きると俺が判断した。だからこその副部長補佐をしてもらっていた訳だし」

 

 一度息を入れて、言葉を続ける。

 

「君はなまじ器用だから部長もそつなくこなせてしまうでしょ。だからこそ、自分に原因を探そうとするんじゃないかという懸念があった。これは僕が感じたことで実際にどうかは君次第だけど、もしそうだったら部長の立場に据えてしまうと余計なものも抱え込んでしまうと思ったんだよ」

「……もしかして、心配してくれてるんですか?」

「当たり前だろ。可愛い後輩だからな」

 

 迷いなく答えて立ち上がる。目の前にいる自分の胸程に頭が来る少女の耳が微かに赤く染め指先を温めるように手を両手で合わせている彼女の肩に自身の羽織っているブレザーを掛けた。

 もう十月も中旬だ。あと数日たてば十一月だ。そんな時期にブレザーを羽織らずに夜の外に出れば肌寒さは厳しいものだろう。

 

「……優しいんですね。悠月先輩は」

「優しいというか、普通じゃないの。それに、わざわざ呼びに来てくれた子が寒そうにしているのを無視するほど薄情じゃないよ」

「そうですか……──────」

「ん?」

「いえ。なんでもありません」

 

 確かに、ブレザーを着ずにこの気温は肌寒い。申し訳ないことしたなと思いながら久石の頭に手を置いて告げた。

 

「何か困ったことあったら仲間に頼りな。それができないなと思ったんなら僕のとこに来ていいよ。なんでも聞くから」

「子ども扱い止めてください……」

「あ、そう?」

 

 口では嫌がりながらどけようとせず口元を緩めている様子に微笑ましさを覚えたが、この子がここにいるのが分かったのかに疑問を覚え頭から手を放す。その時、あ、と物足りなさそうな表情を浮かべているように見えたが、勘違いだろう。

 

「そういや、なんでここにいるって分かったんだ?」

「……悠月先輩。普段は皆に囲まれてるのにふとした瞬間はいつも一人で静かな場所にいるじゃないですか。だから、人気のないところにいるんじゃないかと思いまして」

「へ、へぇ。流石の頭の回転の良さと観察眼だな。久石ちゃん」

 

 軽く粟立つのを感じた。言い換えれば、軽く引いてしまった。普段であればよく見ているなぁと感心するところだが、自分がここまで見られているとは思わなかった。とはいえ、部長として見られていると思って行動するということを心掛けてはいたが。

 

 確かに時たま人気のない静かな場所で頭を休めたいと思うことはある。これは人が密集している場所や騒がしい場所が苦手な性質なのもあるのかもしれない。そういえば、中学三年になってからはそんな時間を作る余裕もなく常に誰かといるような状況だったから、その反動が今来ていたのだろう。

 

「そろそろ戻ろうか。そのために来てくれたんだろ?」

「あ、そうですよ。五分前行動って口酸っぱく言ってる悠月先輩が遅れるわけにはいかないでしょう」

 

 腕時計をちらりと見ると、針は集合時間の十分前を指していた。立ち上がりそう言うと、久石はテニスボールひとつ分の距離感で並んで集合場所へ向かっていると、と彼女はこちらを覗き込むようにして上目遣いでこちらを見て告げた。その可愛らしい仕草に、内心で同情した。主に、こういう振る舞いに勘違いして玉砕した男子諸君と、来年以降増えるであろう新入生男子諸君に。黙祷。

 

「どうだった?この代の演奏は」

「最高でした。どの学校よりも。だから、少し不安ですね」

「焦るなよ。背伸びする必要はない。種は僕たちの代が蒔いたから。一歩ずつ。地道にな」

「任せてください。先輩達に続きます」

「あぁ。見てる」

 

 それから数分後、最後のミーティングを終えて、役目は次の代へと継いだ。あわよくば、自分たちを飛び越えて欲しいと、そう願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月が経った。この間にも、定期演奏会、修学旅行、高校入試など学校の一大行事が目白押しだった。無事、第一志望に合格もでき、憂いを抱えることなくこの日を迎えることができた。そう、卒業式だ。

 

「おーい。明瀬ー。寄せ書き頼むわー」

「おー」

「あ、私も!」

「はいよ」

 

 式は滞りなく行われ、個人的に中学時代最大のイベントとなった卒業生代表の答辞も何の問題もなく行うことができた。そして、今は教室で最後のHRを終え、最後の語らいを各々大切な友達、もしかしたら恋人としながら、思い出として卒アルに寄せ書きを書きあっていた。それは悠月も例外ではなく、最後の一人を書き終える頃には手の感覚が重くなっているのを感じていた。

 

「部長ー。吹部で集まろうってさ。正門前集合だって」

「りょーかい。すぐ行くから先行ってて」

 

 廊下から教えてくれた同期であり仲間だった友人にそう伝えて、荷物を纏める。

 最後、その単語が頭をよぎった。この一年間使い続けた先輩方も使ってきた年季の入った机に感謝も込めてそっと触れる。

 

「……お世話になりました」

 

 僅かな寂しさを振り払って、ポリエステル素材のネイビーのスクールバッグを肩に掛け教室を後にした。そして、早咲きの桜が舞い散る正門前へと足を運ぶと、我が子の巣立ちに参列した家族と、晴れ晴れした笑顔を浮かべていたり感極まって涙を流す子息息女の姿が見えた。

 

「…………」

「おーい。部長!こっちこっち!」

 

 そんな声が聞こえてそちらを見れば、この三年間で最も顔を突き合わせた仲間が正門の卒業式と書かれた立て看板の近くに立っていた。自分でも頬が緩むのを感じながら、足早にそちらへ足を運ぶ。

 

「もう部長じゃないよ」

「あはは。でも私たちにとっての部長は明瀬君だもんな~。ね、凛ちゃん」

「え、私に振んないでよ」

「つんつんしてんなぁ相変わらず。たまにはデレろよ~藤堂~」

「ツンツンなんてしてないし」

 

 この代でいわばムードメーカー的な立ち位置にいたクラ担当の少女に唐突に話を振られた副部長───といっても頭に『元』がつくが───の藤堂凛は露骨に嫌そうな顔を浮かべる。それに周りにいた男子が絡みに行く様子を眺めていると、でも、と続けて凛はこちらを見てきた。

 

「よくやったんじゃないの」

「……サンキュ」

「じゃあ部長から何か一言!」

「え、何にも考えてないけど」

 

 唐突な前振りに困惑しながら難色を示すが、それに対し、口々に笑顔を浮かべて言った。

 

「いーのいーの。最後くらい完璧な優等生じゃなくていいんだよー」

「そうだぞー。最後くらい素で話せー」

「優等生ぶんのやめろー。お前が腹黒なのしってんだかんなー!」

「そーだそーだ。ぶちまけちまえー!」

 

 などなど、好き放題言ってくれる、と悠月は内心でそう思いながらも本音を曝け出せること、そしてそれを笑って受け止めてくれる仲間が目の前にいることに感無量な思いを胸に口角をにっと上げた。

 

「君らほんっとに自由で、遠慮なしで、纏めるの苦労したよ。一番頭を悩ませてくれた」

「部長が一番自由だったじゃない。私たちむしろ貴方に振り回された立場なんだけれど」

「はい静かに。でも、それもそうだね。僕の我儘から全てが変わった。変えてしまった。環境の変化に戸惑った人も居ただろう。前の環境の方が居心地が良かったと思う人もいたかもしれない。でも、僕の声を耳を傾けてくれて、音でぶつかってくれて、その姿が僕にとって救いであり、刺激だったんだ。そして、君たちにはどれだけ厳しい本音もぶつけてきた。嫌に思った事もあっただろう。でも、最後までついてきてくれて、ぶつかってきてくれて、ありがとう」

 

 深く、深く頭を下げる。そして、頭を上げ見納めるように皆の顔を見渡して綴った。

 

「最高の仲間と、最高の結果を皆で掴めて、そこまでの過程の酸いも甘いも、全部、全部皆と同じ経験ができた。っ……!」

 

 鼻の奥を、つんとした刺激が襲った。あ、駄目だ、と思った時にはもう遅く、目尻から頬を一筋の滴が伝った。視界がぼやける。男だろう。泣くなよ。でも、金賞を取った時にも流れなかったからもう枯れているものだと思っていた。そう思い込んでいたものを止めることはできなかった。でも、意地があった。相応しい表情で締めくくらなければ、という意地が。だから、笑った。

 

「……っ、音を、大切にしてくれて、最高の仲間でいてくれて、ありがとう……!」

 

 皆がどんな顔を浮かべているのか、涙のせいでよく見えない。変わらず笑顔を浮かべているだろうか、涙を流した事に困惑しているだろうか、同じように涙を浮かべているだろうか。

 

「おま、お前その顔でそれ言うなよイケメンがよぉ……!」

「あー!凛ちゃん泣いてるー!」

「な、泣いてなんて……!」

 

 こんな時でも変わらない皆のやり取り。この光景も、これで最後かと思うと今になってやはり名残惜しいものがある。これから皆はそれぞれの道に進むことだろう。この一年の経験が何かの役に立ったなら言い出しっぺをした甲斐があるというものだ。

 

 そんな光景を見ていると、肩にぐるりと回されてその力で思わずつんのめる。肩に手を回したのは、小学中学とずっと同じクラスだったもはや腐れ縁とも言える男子の姿だった。そして、そいつは皆に向けて大きな声で号令をかけた。

 

「よーし!じゃあみんなで写真撮ろうぜ」

「いーねいーね!ほら皆部長の方寄って~」

 

 おしくらまんじゅうのよう状態で揉みくちゃにされながらも音楽においては役に立ったことしかない優れた聴覚がパシャリ、というシャッター音を拾った。そして、それから一言二言、話をして互いの健闘を祈って解散となるのだった。

 

 この写真は、約一ヶ月後。送られることとなるのだが、悠月はそのことを頭からすっぽりと抜け落ちてしまうほどの出来事が立て続けに起こるのだが、この時はそんなことを知る由もないのだった。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

「いいのー?会わなくて。もう帰っちゃうよ?」

 

 私に後ろから抱きついた状態で鈴がなるような透き通った声で聞いてくる少女に、私は手元の用紙から目を離さずに首を振る。会わない。これは今日この学び舎から巣立った先輩方が卒部した後にした決意だった。

 

「いいの。今会ったら多分、頼りたくなっちゃうから」

 

 これからは、私たちが羅針盤として、この先輩方から託された舟を最高の場所へ導かなければならない。そして、先輩、前部長の悠月先輩は頼れと言ったが、私個人の考えとして、これからは今いる仲間で頑張ることが最優先であり前提なのだ。

 

「でも、他の子はそんなの関係なく会いに行ってるよ?それに、何か貰わなくて良かったの?悠月センパイに。他の子達、卒業生から何かしら貰ってるよ?あ、ほらあそこ。第二ボタン上げてる先輩いるし」

 

「私はもう悠月先輩から沢山託されてるから」

 

 それに、託されたばかりなのに頼ってしまうのは、なんだかとても格好悪いように思う。託されたからには、その期待に応えたい。その期待を飛び越えたい。言うなれば、これはエゴだった。

 

 それに、私はもう十分悠月先輩から、卒業生から託されている。それをサラリと言えば、詩音は抱きしめる力を強めながら食いついてきた。

 

「えっそうなの?!例えば?」

 

「ひみつ」

 

 狡いだろうか。悪い女だろうか。でも、言わない。言いたくない。これは、私が悠月先輩から託されたものだから。

 

「えー!!いいじゃーん!教えてよー!相棒じゃん!」

 

 誰が相棒か。詩音は前部長と前副部長の関係に憧れを抱いている。あのような関係になりたいという思いが言葉に現れたのだろう。私もあの関係は理想だと思う。でも。

 

「…………詩音」

 

「ん〜?どしたの?」

 

「先輩方。卒業したね」

 

「そだね」

 

「もう追えないね」

 

「でも、いっぱい教えてもらったよ」

 

 柄にもないことを言うだろう。だから、今、これを最後にする。華奢な詩音の身体を離れさせて、その瞳と目を合わせる。これは、覚悟だ。あんな風になるには、相応の格が必要だろう。

 

「全国金。取りに行こう」

 

「もっちろん!!」

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

「ただいま。父さん、母さん」

 

 無駄に広い家の和室で、向かい合う。

 

「俺、中学卒業したよ。北宇治高校に進学するんだ。父さんからしたらなんで堀山に行かなかったんだって言うだろうけど」

 

 苦笑混じりの自嘲を口にする。

 

「でも、何も考えずに北宇治を選んだわけじゃないよ」

 

 白檀の薫りが漂う。

 

「将来の目標は明確に決まってるから、あとは進むだけだ」

 

 凛と澄んだ音を鳴らし、手を合わせ目を瞑る。音が聞こえなくなり、目を開けた。

 

「頑張るから、応援して欲しい。」

 

 返事は、ない。でも、背中を押されたような、勇気を貰えたようなそんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 明瀬悠月。四月から北宇治高校に入学する。その手には、母から贈られた形見のトランペット。今ここに、一人の男の子の物語が、そして。

 

 次の曲が、始まるのです。

 

 

 

───────────────────────

【プロフィール】

名前:明瀬 悠月  Yuzuki Akase

誕生日:4月5日

性別:男

出身地:京都府京都市

身長:178cm

星座:射手座

出身地:AB型

座右の銘:Life isn’t about finding yourself.Life is about creating yourself.(人生とは自分を見つけるものではない。自分自身を創るためのものである)

担当楽器:トランペット

趣味:芸術鑑賞、カラオケ、読書、旅行、絵描き、ゲーム、バスケ

特技:耳がいい、多種楽器を扱える、作詞・作曲・編曲、絵描き、料理

演奏可能楽器:トランペット、キーボード、ピアノ、サックス、ヴァイオリン、ギター、ベース

楽器練度:Trp.>Vn.>Kb.=Pf.>T.Sax.

     >Gt.>Ba.

得意科目:数学

苦手科目:体育(持久走)

好きなもの:パイナップル、レモン、鍋

嫌いなもの:虫全般、パセリ

好きな曲:組曲「展覧会の絵」

好きな歌:雑食のため特になし

好きな色:サンドル・ブルー、青藤色

 

 

 







 ありがとうございました。


【変更】
・倉瀬凛→藤堂凛
・主人公の誕生日
 4/5に変更

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