御幸引退後の沢村とのあれこれストーリー   作:片桐秋

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第13話 図書室とグラウンド

 沢村と御幸は、図書室の中に入った。

 

「あと、三十分で閉まりますよ」

 

 図書室を管理する教師から言われた。あと三十分なら、六時半だ。

 

「はい、分かりました」

  

 沢村は答える。

 

「あんまり時間ないな。なんか読みたい物あるのか?」

 

「いや、何となく御幸とまだ二人でいたいんだ。秋だし寒くないから外でもいいけどさ、寮はもう別々なんだし、野球部の食堂にはもう入れないだろ? だから、ここくらいしかない」

 

「そうだな」

 

 グラウンドを散歩してもいいけどな、と御幸は言いつつ、図書室の中に足を進めた。沢村のほうが、後から着いていく形になる。

 

「御幸、これだよ。農業の本、ここにあった。まだ新刊だから目立つ位置に置かれてるな。これだよ。俺の故郷の話も少し出てる」

 

「そうか。俺の地元の市内や、さらに山梨に近いところでは、それなりに農業もやってるんだよな。概ね、地産地消、つまり現地で消費されて他には出回らないけど。郊外のスーパーやショッピングモールには、東京産の野菜が並んでいることもある」

 

「その話は載ってなかったな。ま、故郷の農業の心配より、目の前の野球だ。無事にプロになるためにも、今ここで野球に取り組まねえとな」

 

 二人で入り口に近い位置の椅子に座った。四人がけの大きな机を前にして。

 

 図書室には、他にも四名ほどがバラバラに座っていた。窓際の、一人ひとり別々になった、学習用の座席にいる。

 

 中間テストは十月の半ばだ。もう終わって一週間以上が経つ。

 

「真面目だな、あいつらは」

 

と、沢村。御幸は、

 

「大学一般入試のためかもな。三年生なら、今もきちんとやっていないといけないからな。野球部のベンチ入りメンバーの三年生は、大学入試は推薦で行けるから、もうそろそろ合格が確定する頃だけどな」

 

「勉強の成績もそれなりには良くないと駄目なんだろ?」

 

「そうだな、オール3くらいには」

 

「俺は無理かも知れない…」

 

「ま、赤点だけは避けろ。プロを目指してやっていけ。お前ならやれる。プロもお前と降谷には注目している。気を緩めずにやれよ」

 

「大丈夫だよ。御幸に心配掛けたくないもんな」

 

 そして降谷にも負けたくはない。沢村はそう思う。エースとなった今でも、降谷は同じチームの切磋琢磨し合える良きライバルだ。

 

「あいつには負けねえぞ。ヘヘっ」

 

 二人は他の人達の邪魔にはならないように小声で話していた。二人の前には、沢村が読んだ農業の本がある。

 

 御幸はそれを手に取り、パラパラとめくって目を通した。

 

「ふうん、これからの農業は法人でないと成り立たなくなっている、か。確かに、今の個人事業主としての農家だと、全責任を自分で負わなくちゃいけないけど、会社や組織にしたらそれぞれの専門分野をやればいいんだからな。今ある農家の嫁や婿になろうとは思わないし、自分で個人事業主やれる気はしないけど、組織の一人として農業やりたいって人ならそれなりにはいるかもな」

 

「そうそう、そんな事が書いてあるんだよ。さすが御幸だ。ざっと読んだだけで分かったんだな!」

 

「まずは裏表紙の説明書きと目次に先に目を通して、だいたいどんな内容か把握する。目次に示されたそれぞれの項目を、項目のタイトルの内容を頭に入れながら、そこに直接関連する部分だけ読む。結局何が言いたいのか、結論を探して読み取り、例として出された話や、寄り道的な話は飛ばす。こんな感じで読んだんだよ。もちろん、もっと丁寧にじっくり読む時もあるけどな」

 

「へえ、さすが御幸だ。勉強もそうだけど要領良いな」

 

「要領が良いだけでは駄目なこともある。俺は野球と料理に関しては要領を優先しない。ま、だからといって、わざわざ無駄なだけのこともしないけど。料理は簡単なもんしか作らねえし」

 

「俺、御幸の作った飯、食いてえよ」

 

「はは、作ってやるよ。秋季大会が終わったら、休みの日曜に俺の実家に来てくれるんだろ? そん時に作ってやる」

 

「やった! 御幸の作った飯食える!」

 

 と、沢村が思わず声を上げた時、

 

「あー、そこ、勉強している人もいるから静かにね」

 

と、図書室を管理する教師に注意された。

 

「すみません…」

 

 沢村は小声で謝り、頭を下げた。

 

「よし、グラウンドに出るか。その本、借りていくか?」

 

「いや、もう読んじまったからいいよ」

 

 二人は椅子から立ち上がり、そっと音を立てないように注意しながら図書室の外に出ていった。

 

 グラウンドには煌々(こうこう)と明かりが付き、練習をしている野球部員の姿も見えた。

 

「今日くらい休めよ、って言ってやりえてが、一日中休む気にはなれないんだろうな」

 

「そうだよ。俺もそんな気分だ。秋季大会の後の日曜日は、御幸の親父さんに会いに行くけどさ、それ以外は、完全にオフにはしないな。できないんだよ。ま、野球が好きだからな。それに、みんなも頑張ってるし。青道に来て、本当によかったよ。周りが頑張ってると、お互いにやる気になれる。同じ青道野球部員で、チームメイトで、でもライバルだ」

 

「そうだな」

 

 御幸と沢村は、二人で並んでグラウンドの周辺を歩き始めた。

 

「御幸と出会えてよかった。青道に来れて、本当によかったよ」

 

 沢村は、何度も言ってきた事をまた繰り返した。

 

「俺も、お前に出会えてよかった」

 

 二人は、その後は、黙ってグラウンドを散歩していた。

 

続く






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