御幸引退後の沢村とのあれこれストーリー   作:片桐秋

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お待たせいたしました。どうぞご覧ください。




第18話 故郷からのお守り

 沢村が寮の近くにあるベンチに着くと、御幸はまだいなかった。

 

「まだ、飯食ってるのかな」

 

 沢村も、ショッピングモールまで持っていった肩掛けカバンがそのままだった。

 

 中には、御幸の親父さんへの贈り物である、焼き菓子の菓子折りが入っている。

 

「御幸は、いったん寮に荷物置きに行ったのかな」

 

 沢村の肩掛けカバンの中には、御幸の親父さんへの菓子折り以外にも、ちり紙、スマホ、財布、それに生徒手帳を入れた、革製のカードケースが入っていた。

 

 肌寒くなる夕方以降のために、薄手の上着も入れておいた。

 

 薄型のカードケースの中には、母親から送られてきた、故郷の村の神社のお守りも入れてあった。

 

 あまり大きな神社ではないが、伝え聞くところでは古代からの由緒ある神社だ。沢村は幼い頃から、そう聞いて育った。

 

──日本神話に出てくる神様だけでなく、あの土地だけの神様も祀(まつ)られてるんだよな。鎌倉時代以前はお諏訪(すわ)様じゃなくて、別の地元の神様が祀られていたって聞いたけど、当時の支配階級の武士たちが、武士に信仰されていたお諏訪様を諏訪大社から分社して建てたって聞いたな。

 

 長野県、すなわち信州の神社と言えば、なんと言っても諏訪大社が有名だ。長野県には、この諏訪大社の分社がたくさんある。諏訪大社の主祭神は、『古事記』にも出てくる建御名方神(タケミナカタ ノ カミ)である。

 

 沢村の村にもある、分社の諏訪神社にも祀られるタケミナカタは、様々な役割を持つが、勝利を授ける軍神としての一面も強い。地元では、お諏訪様とも呼ばれる。

 

 そのお守りを、母親が送ってくれたのである。

 

 諏訪大社そのものは、古代の奈良時代からの日本で最も古い由緒ある神社の一つだが、周囲の地方の分社である諏訪神社は、鎌倉時代に幕府と諏訪大社のつながりが強くなってから、当時の領主である武士たちにより建てられたものが多い。

 

──でも、土地の神様は、諏訪神社とは直接の関係はなかったんだよな。だから別々の小さな社(やしろ)に祀られてたって聞いた。明治時代になってから、村の各所の社は諏訪神社一つにまとめられて、国に管理されるようになったって、先生やじいちゃんから聞いたな。

 

 沢村は、あたりを見た。すっかり夜も更けて、秋風が涼やかに吹いていた。

 

──鎌倉時代からの、村で一番大きな神社の諏訪神社に、うちの地元のその土地だけの神様も、同じ境内(けいだい)に小さな社を建てられて末社(まっしゃ)としてまとめられ、名前も『古事記』とかに載ってる神の名前にされたんだよな。でも、元々の土地神様の祠(ほこら)は、今でも残ってる。神社とは別に、こっそり祀っていたって聞いた。

 

 沢村は、その祠の写真を自分のスマホで見た。

 

──へへ、けっこう厳(おごそ)かな感じだよな。東京の道祖神やお地蔵さんの祠って、ちょっと寂(さび)れてるのが多いみたいだけど、俺の故郷のは、ちゃんとみんなで丁寧に掃除したり、お供え物供えたりしてるからな。

 

 その写真の祠には、小さな陶器製の花瓶に活けられたパンジーの花と、350ミリリットル小瓶に入った日本酒が供えられていた。それも写真に写っている。

 

 沢村は、スマホから顔を上げた。まだ御幸は来ない。

 

──あ、連絡アプリに、じいちゃんが俺の宝物アップしてくれたぞ。へへ、小学校の時に見つけた、ヘビの抜け殻。脱皮した後のやつだ。三十センチあるヘビだ。だけど、祠の写真もだけどさ、こういうの、御幸に見せたらなんて言うかな。田舎くさいとかガキっぽいっとかって思われねえかな。

 

「よう、待たせたな」

 

「あっ! 御幸」

 

 御幸が現れた。もう肩掛けカバンは寮に置いてきたようだ。沢村の物より小ぶりの茶色のカバンは、すでに持っていなかった。

 

「何見てんだ?」

 

 沢村は、少し恥ずかしそうにした。

 

「うん、故郷の、土地の神様を祀った祠とか、縁起が良いって言われてるヘビの抜け殻なんだけどさ。東京育ちの御幸に、こんなの見せて面白いのかなって」

 

「東京育ちねえ…。まあ、東京には違いないんだが。そんな都会じゃないしな。それにお前の故郷の事は、俺も知りたいよ」

 

 沢村は、それを聞いて顔を輝かせた。

 

「じゃあ御幸、これ見てくれ!」

 

 沢村は、まずは自分の宝物の、ヘビの脱皮した後の抜け殻を見せた。

 

 薄い、少しだけ半透明になっているような、乾燥したヘビの皮だ。薄茶色のウロコの様子も見えた。三十センチほどの長さの物が二つに切れているのを、紙の上に並べて撮影していた。

 

「へえ、すごいな」

 

「御幸、こういうの関心あるか?」

 

「面白いよ。俺の実家は自然の豊かな郊外にあるし、青道の周辺も割とそうだけど、こんなのはまず見つからないからな。へえ、かなりでかいヘビの皮じゃねえか? きれいな形で残ってる。よく見つけたな」

 

 御幸は、沢村の予想に反して、実に熱心に見入っていた。

 

「そうか! よかったよ。御幸が関心持ってくれて」

 

「…お前は、ここよりもずっと自然の豊かなところで、伸び伸びと育ったんだな」

 

「ああ、伸び伸びさせてもらったぜ。あんまり勉強しろとか言われなかったしさ。まあ、おかげで成績は良くねえけど、でもそれは俺が選んだことだ。何とか赤点は取らねえように頑張るよ」

 

 そこで沢村は、食堂での会話を思い出した。

 

「あ、そうだ。降谷が、御幸からもらったノートのコピーくれるってさ。何冊かはノートのほうを俺にくれて、降谷がコピーを持ってるって言った」

 

「へえ、そうなのか。降谷がそんなことを」

 

「うん。御幸のノートもらえるんだ。御幸にも報告しとくよ。俺、御幸のノートの匂い、嗅(か)ぐからな」

 

「何言ってんだよ」

 

「へへ」

 

「別に良い匂いなんてしねえぞ」

 

「ハハハ。でもさ、降谷がすげえ分かりやすいノートだって言ってたよ。だから間違いなく赤点回避できるってさ」

 

「はは。まあでも、ちゃんと覚えとかなきゃテストの問題は解けないからな。分かった気になってるだけじゃ駄目だぞ」

 

「分かってるって。ちゃんとテスト前には勉強するよ!」

 

 それから、二人はそろって笑顔になった。

 

続く






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