お待たせいたしました。どうぞご覧ください。
「じゃあさ、俺そろそろスーパーに買い出し行ってくるぜ。親父の自転車借りるな」
「あ、じゃあ、御幸、じゃない、一也先輩、俺も一緒に荷物持ちしますよ」
「自転車は一台しかねえぞ。俺のは学校だから」
「あ、じゃあ…歩いていくと遠いですか?」
「いや、それほど遠くもないけどな。ちょっと多めに買うから、自転車の荷台にしっかり乗せてえんだ。後ろの荷台のさ、左右に下げる形で専用の荷物入れバッグを取り付けて、たくさん積めるようにするんだよ、買い物の時は」
「ほう」
沢村は、そう返事をしたが内心では、
──おお、お父様と二人きりでは緊張する! 緊張するぞ! 御幸、早く帰ってきてくれよ。
と、叫んでいた。
その心の叫びが聞こえたわけではないだろうが、ここで御幸の父親が口を挟(はさ)んだ。
「車を出してもいいぞ。車のほうが積めるだろう? 三人でスーパーまで行こうじゃないか。ついでに、トイレットペーパーなども買っておくよ」
「おお、お父様。車を出してくださるのですか!」
「じゃあ、親父、頼んだ。これから週末には迎えに来てもらって、こいつも連れてくるからさ。料理は俺が作るから。調味料とか、日持ちのする材料は買っておきたいんだ。それと今日の昼飯の分も」
御幸の父親は立ち上がった。
「車を出すよ。戸締まりをして行こう。俺が先に出るから一也が玄関の鍵を閉めてくれ」
「うん、分かった」
御幸の父親は、先にリビングを出て玄関へ向かっていった。
沢村は、
──いいんだろうか? もうそんな家族の一員みたいな扱いしてもらって。
と、考えたが、
──でも、御幸の親父さんは、俺たちにこの家で一緒に暮らして欲しいんだよな…。俺は、それでもいいけど。でも俺の実家は、御幸に嫁入りして欲しいみたいなんだよな。
と思い、少しだけ御幸の顔を見た。
──御幸は、どうしたいんだろうな…?
御幸も沢村の顔を見た。にっこりと笑う。
「そんな緊張した顔すんなよ。もっとリラックスしていいんだぜ」
「うん…。初めての御幸の実家だからな。親父さん、いや、お父様にも、初めて会うわけだし」
「親父はお前のことを気に入ってる。それは間違いない」
その時、沢村のスマートフォンに通知が来た。長野にいる家族からだ。沢村にはすぐに分かった。
「ごめん、ちょっと連絡アプリ見るよ」
「ああ。俺は、食い物入れる買い物袋を持ってくるよ」
御幸はそう言って、くもりガラスの障子の向こうのダイニングに入っていった。
「なんだ、じいちゃんか。うん?」
そこには。
「栄純、しっかりやっとるか? じいちゃんはな、親戚と知り合いの皆に東京から嫁が来ると言っておいたぞ。
お前がプロになってやっていけるか確実なことは言えんが、何があっても、引退したあかつきには、お嫁さんの御幸一也君と田舎に帰ってきなさい。
村の皆で、東京からの御幸君の嫁入りを迎えるからな」
沢村は祖父からの連絡を見て、大きな目をよりいっそう大きく見開いた。
「ええええ!」
「なんだよ、大声で」
「あ、いや、あのさ。うん、なんでもないよ」
──じいちゃん、そんな! 気が早いよ! それに、御幸がうちの実家に来てくれるか、分かんねえんだから。そりゃ、農業会社の件では良い反応だったけどさ。御幸にも一人親の親父さんがいるし、御幸は一人息子で他に兄弟姉妹はいないし。うーん、どうすりゃいいんだ?
「さ、行くぜ」
「あ、ああ」
建物の外側の階段を下りると、駐車場の車に乗って御幸の父親が待っていた。駐車場には二台車が停められるようになっており、一台は今御幸の父親が乗る白の乗用車、もう一台は、この町工場の社名が入った、やはり白い色のミニバンである。
「親父、お待たせ」
「ああ。シートベルトはきちんと締めてくれよ」
と、運転席で待っていた御幸の父親は念のためにか、そう注意した。
「締めたぜ。これで大丈夫だ」
沢村と御幸を後ろのシートに乗せて、車は発信した。
「すぐ近くだからね。10分も掛からないよ」
と、運転席から沢村に。
「はい!」
必要以上に、元気のよい返事をしてしまう沢村だった。御幸は、そんな沢村の様子を見て少し笑い、続けて、
「昼飯だけでなく、親父がレンジで温めて食べられるように作り置きしておくぜ。今晩と明日、明後日の分までは作っておくよ。その分の材料も買うからな」
と、父親に言った。
「今晩の分だけでいいよ。お前もせっかくの休みなんだし、少しはゆっくりしたらいい」
「でもさ、親父には面倒掛けたしさ」
御幸の顔が少しだけ憂いを帯びる。彼は青道に来て良かったとは思っているが、やはり父親に対しては、いろいろ思うところがあるのだ。
「なに、大丈夫だ。スーパーの冷凍食品か惣菜や弁当を買うか、外食していたからね。近頃は良い物が出回っているから、特に不自由はなかったよ」
「それだけじゃ寂しいだろ?」
「はは。それなら、今晩と明日の分だけ作ってくれたらいいよ」
「うん、そうするよ」
そこで沢村が、
「お、俺も御幸、いや一也先輩の手料理食いた…いえ、食べたいです!」
空気を読まずに大声を上げた。御幸は苦笑しつつ、
「はは、食わせてやるって。あと、車ん中で大声出すなよ。うるせえから」
と、答える。
「あ、申し訳ございません、お父様」
「はは、元気があってけっこうだ。ケーブルテレビで観戦していても、沢村君がいつも元気に、チームを勇気づけていたのは見えていたからね」
「あ、ありがとうございます、お父様!」
「お前、声でけえって言ったろ」
こうして車はスーパーの駐車場に到着した。
続く
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