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「さあ、着いたよ。降りてくれ」
そう言って、御幸の父親は先に車を降りた。スーパーの駐車場は広々としていた。スーパーのとなりには、ホームセンターもある。
「ありがとう、親父。俺たちは食いもん買うから、親父は日用品買って車に積んでおいてくれよ」
「ああ、そうするよ。そうそう、お金を渡しておかないとな」
今では電子マネーを個人間で送金できるサービスもあるが、御幸の父親は、昔ながらの現金手渡しをした。ポケットから二つ折り財布を取り出し、一万円札を息子に渡す。
「ありがとう、親父。じゃあ、これで買ってくるよ。釣りとレシート、後で渡すよ」
父親から御幸への毎月のお小遣いも、銀行口座への振り込みである。ただし、銀行口座のネットアプリを使用しており、そこからの送金ではある。
御幸は、銀行口座から多少の現金も引き出して持ってはいるが、概(おおむ)ね電子マネーへのチャージで使っていた。
今日は久々に現金での買い物である。
「都会のスーパーって、ほとんど来たことないんだよな」
車から降りた沢村が、一階建ての大きなスーパーを見て言った。駐車場も割と広めで、自転車やバイクで来ている人もいるようだった。
「都会じゃねえよ。それと、ショッピングモールのスーパーと、そこまで変わらねえぜ。まあここは、肉魚とか野菜とか生鮮食品は多めだけどな」
「そっか。ちゃんと料理する人がこのあたりに多いんだな」
「車で来るなら、そう近くでもないかもだけどな。さ、入ろうぜ」
御幸の父親は、
「近くに美味しい中華料理屋もあるから、また今度おごってあげよう。一也も休ませないとな」
「ありがとうございます、お父様!」
「ありがとう、親父。また今度な」
三人はスーパーに入った。御幸の父親は息子とそのパートナーから離れて、トイレットペーパーなどの日用品があるコーナーに向かう。
「おー、なんかいっぱいあるぞ」
スーパーの入り口付近は、野菜がたくさん積まれていた。
「にんじんとキャベツ買うぜ。それと玉ねぎ。こんな野菜は、一年中安く出回ってる」
「都会にいると、旬って分からなくなるだろ?」
沢村のその言葉に、御幸はもう「都会じゃねえよ」とは言わなかった。郊外の民が何と言おうとも、沢村には、ここが都会に見えているのだ。
「でもない。安くて大量に出回るのが旬だ。まあ一年中どんな野菜でもスーパーには売ってるけどさ。新玉ねぎとか、春頃にしか出てこないもんもあるからな」
「新玉ねぎも美味いよな」
「今は普通の玉ねぎしかねえけどな」
御幸は、積み重ねられている買い物かごを手に取り、玉ねぎ三個、にんじん六本、キャベツ一玉(ひとたま)をその中に入れた。
「さ、次は味噌と料理用の日本酒買うぞ。麺つゆも買っておくぜ。塩とコショウ、しょう油、砂糖はあったから、みりんと七味唐辛子は買うぜ。砂糖と日本酒でもいいけどさ、やっぱりみりんには独特の風味と甘みがあるんだよな」
「うん。親父さんに良い物食べさせてあげたいんだよな」
「ああ、お前にもな」
それを聞くと、沢村は嬉しそうに笑った。
「へへッ」
「さ、先にエリンギと、しめじも買ってと」
御幸は、野菜コーナーの奥に進む。
「へへッ、御幸のとなりで買い物。もう家族になったみたいだ。御幸の匂い、嗅(か)ぎてえ」
「お前、何言ってんだよ、こんな時に。こんなところで匂い嗅ぐとか、するなよな」
「言ってみただけだよ」
御幸は気恥しそうな顔をしながら、エリンギとしめじをそれぞれ二パックずつ買い物かごに入れると、調味料のコーナーに歩いて行った。後ろから沢村もついて行く。
「よし。麺つゆ、日本酒、みりん、七味唐辛子もかごに入れたぜ。味噌も買っておくか。インスタントの、袋に小分けされたやつのほうが親父には扱いやすいだろうな。出汁入り味噌でも、大きなパッケージのほうが割安なんだけどな」
「うん。でも親父さん、いやお父様が扱いやすいほうがいいだろ」
「そうだな。インスタントの小袋に分けられたのを買っていくよ」
そこで少し沢村は、しんみりとした顔になった。
「お父様、一人であの広い家で、寂しかったんだろうな…」
ここで御幸はニヤリと笑った。
「なあ、『お父様』じゃなくて、親父さん、でいいぜ。親父もきっとそのほうがいい。俺が保証するから大丈夫だぜ」
沢村は、それを聞いて大きな目をより大きく見開いた。とまどっているような、心配しているような顔をしている。
御幸は、人生のパートナーのそんな顔を見て、こう思う。
──こいつ、目が大きくて可愛いよな。ま、可愛いって言うと怒るから言わねえけど。俺のことは可愛いって言うくせに。
沢村は、御幸のそんな内心には気づかずに、
「いいのか? まだ会ってから二時間ほどしか経ってないのに」
と、思わずその場に立ち止まって問い掛ける。調味料コーナーから精肉コーナーに向かう途中だった。
「いいって、いいって。堅苦しいのは無しだ。親父はそのほうがいい。親父はお前を気に入ってるから、大丈夫だって」
「そ、そうか。御幸がそう言うなら…」
「さ、豚肉買おうぜ。親父はもう先に車で待ってるかもな」
「トイレットペーパーだけなのかな」
「どうだろな? 洗剤やティッシュペーパーも買ったかもな」
二人は精肉コーナーに向かった。沢村は、
「重いだろ? 持つよ」
と、御幸から買い物かごを受け取ろうとした。
「じゃ、頼んだ。そのかごはもういっぱいだ。もう一つ、かご持ってきたからな」
そのもう一つは、沢村が持っていた。御幸は、それを手に取る。
「できるだけ脂身の少ない豚肉選ぶぞ。中には、脂身で全体が白っぽくなってるのがあるから、そういうのは避ける」
「うん」
豚肉も、大きめのパックを三つかごに入れた。
「よし、レジに行こう」
二人はレジに向かう。
「御幸の飯、すごく楽しみだよ」
「ああ。だけどお前も少しは手伝えよ」
「う、うん。野菜洗いと皿洗いはするよ」
「よし、頼んだぜ」
二人は笑ってレジに並んだ。
続く
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