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レジに並んでから、御幸は、ふと気がついたように、
「あ、そうだ。明日の分の飯も作るんだったな。ま、親父は各種缶詰や冷凍食品を備蓄してるから、それでなんか、こしらえてもいいけどな」
と、背後の売り場を振り返る。
「ほう、お父様、いや親父さんはちゃんと栄養管理なさってますね」
「おお、なさってるぞ」
御幸は笑って、沢村の今も少し緊張しているような敬語使いをからかう。
「でもさ、缶詰の肉や魚もレンジで温めるか、そのまま食うだけでさ。冷凍食品の肉や野菜も、そんな感じだからな、そんなのでも、ちょっと手を加えるだけで、良い感じの飯になるんだぜって、ちゃんと作ってやりたくてさ」
「なんか追加で買っていくか?」
「うーん、まあいいよ。あとは家にあるやつで何とかする」
「米も家にあるんだよな?」
「うん。休みの日にまとめて、でかい土鍋で炊いて、あとは冷凍にしてるって言ってたな」
「おお、親父さん、ちゃんと自炊してたんだな」
「ま、米を一晩水に浸して、後(あと)は中火で炊きあがるまで待つだけだからな。うちのはガスコンロだから、炊きあがるまでは、そばを離れられないけどさ、ラジオ聴きながら火を見てるって言ってたな」
「おお、ラジオ。昔ながらのメディアだ」
「うん、ネットラジオじゃなくて、昔からの大手ラジオ放送局のだな」
沢村は、感慨深げな顔をした。
「親父さん、家の中きれいにしてた。仕事して、飯まできちんと作るのは大変だよな」
「まあな。だからもう高校野球は引退したし、土曜日に俺が作ってやろうと思ってさ」
沢村は優しげな笑顔になった。
「御幸、親父さん孝行だよな」
「ま、親父には面倒かけたしな。俺に野球やらせてくれて。ミットとかキャッチャープロテクターとかさ、小学生の頃からだからな、金も掛かるけど、自由にやらせてくれたし。少しでも恩返ししてえんだ。金の無い家は野球なんてできない。野球の強い寮付きの私立にも行けない。俺は恵まれてんだよ」
御幸は感慨深げな顔になっていた。沢村も、それを見て神妙な表情になる。
「うん…。俺も、親とじいちゃんには感謝しなきゃな」
二人はレジでの精算を済ませ、御幸の父親が待つであろう駐車場へと向かう。果たして、父親はすでに駐車場にいた。自前の白い大衆車にもたれかかって立っていた。
「やっぱり親父のほうが早かったな。はい、これ」
と、御幸はお釣りとレシートを渡しながら言う。父親は、それを詳細には確認せずに受け取り、二つ折り財布の中に入れた。
「ああ。今回はトイレットペーパーだけだからな。他はそろっている」
「じゃあ、帰るか」
「いや、その前にな、あのホームセンターで少し三人で買い物をしないか?」
「なんか買うもんあるのか、親父」
「ああ、沢村君のための食器を買おうと思うんだがね」
「ええ! お父様、俺のために食器を?!」
沢村の反応を少し大げさに感じたのか、御幸の父親は、大したことはないよと片手を上げて振ってみせた。
「ホームセンターの食器だから、そんなに高い物ではないからね。うちの他の食器も、ホームセンターか大きなスーパーで買ったんだよ。ここじゃなく、もっと駅の近くのスーパーだけどね。沢村君の分も買っておくよ」
「あ、ありがとうございます!」
個々で御幸が口を出した。
「なあ親父、沢村に親父さんって呼ばせていいよな?」
御幸の父親は、少し苦笑いをした。
「はは、そうだな。いつまでもお父様では大げさで他人行儀だからな。親父さんでいいよ。沢村君は礼儀正しい子だ」
「はっ! ありがとうございます! それでは親父さんと呼ばせていただきます!」
沢村は元気よく、まだいくらか緊張している様子で答える。
「それじゃ、食器を買いに行こう。スーパーで買った食品は、先に車に乗せておくといいよ」
と、御幸父。すでに十一月中旬、食べ物を車内に置いても悪くはならないと思われた。
「じゃ、後ろの席の真ん中に置いておくからな」
御幸は、後部座席のドアを開けて、食品を入れたショッピングバッグを二つ置いた。ショッピングバッグは十年以上使い続けているため、年季が入った感じがするが、ボロではなかった。
こうして、三人でスーパーのとなりのホームセンターに向かった。沢村にとっては、初めて入る店である。
「おお、こっちも大きな店ですね。駐車場も広い!」
「郊外の店は割と大きくて駐車場の広いのが多いんだ。都心部と違い、土地が余ってるからな」
と、御幸。
「え? 全然土地余ってないだろ? どこも建物か駐車場でさ。たまに空き地と畑を見るけどさ」
「あーまぁ、そうだな。都心と比べたら、ってことだよ」
ホームセンターの中に入っていった。先に御幸の父親が歩き、後から二人がついてゆく。
「食器売り場は奥だよ」
「はい。ありがとうございます!」
「沢村、声がでけえよ」
と、いつものツッコミを受けて、沢村は周りを見回す。驚いた顔で、こちらを見ている人もいた。
「やっぱり都会は人が多いや。田舎じゃ多少大きな声出してもさ、みんな大気や野原や山に吸い込まれたんだ。ここは何もかもが違う」
「はは、沢村君には都会に見えるかい? 郊外に住む我々は、自分たちを都会人とは思わないんだけどね」
「東京の大会で勝ち上がると、都心の球場でやりますけど。でも、やっぱり、このあたりも充分都会に見えるんですよね」
「そうかい。まあ買い物には困らないからね。外食できる場所もあるしね」
「はい、俺の田舎では、なかなかそうはいかなかったんです。村の中にも一応、日用品を売ってる小さな店はあったんですけどね。トイレットペーパーとかかさばるもんは、車で四十五分から一時間くらいで街へ出て、車に詰め込んで、家の空いてる部屋に置いとくんですよ。田舎だから家は広いんです。長野は山が多いから、坂道を走って山を越えるのが大変なんですけどね。食いもんは、地元では、だいたい物々交換でただで手に入れるもんだったし」
「なるほど。大変なこともあるだろうが、のどかで良い暮らしだ。農業をやるのは、難しい面もあるだろうけど、まあどんな仕事にも難しい面はあるからね」
「はい」
三人は、食器売り場にたどり着いた。
「一也、一緒に選んであげなさい。まあ、大した種類はないけどね」
「分かったよ、親父。じゃ、沢村、好きなの選べよ」
「うん…」
遠慮がちに沢村は、食器の並ぶ棚を見て回った。
続く
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