人混みの中で王子――まだその身分を知らぬ少年――とアリアは、並んで歩いていた。
「お父さんとお母さんを探してるんだね。」
「うん。でも……どこ行っちゃったのかな。」
不安そうな声に、少年はにっと笑って胸を張る。
「任せろ!このあたりは僕、よく知ってるんだ!」
探すあいだ、2人は他愛のない話をした。
「ねぇ、名前、なんて言うの?」
「アリア!」
「へぇ、綺麗な名前だね。僕は—―リオン。」
「リオンくん!」
呼ばれて、少年――リオンは少し照れくさそうに頬をかいた。
しばらく歩いた後、リオンが首を傾げる。
「アリアは、どこから来たの?」
「えっとね、森のはずれの村!お父さんとお母さんと、3人で住んでるの。」
「森のはずれか……いいなぁ。僕、森って行ったことないんだ。」
「じゃぁ今度一緒に来る?すっごくきれいだよ!」
「……うん、行ってみたいな。」
そんな約束のような会話に、ふたりの笑い声が重なった。
やがて、遠くに見慣れた二人の姿が見えた。
「お父さん!お母さん!」
アリアは嬉しそうに駆け出す。
振り向いたガイルとグレイスの顔に、安堵が広がった。
「この子を見つけてくれたのか?」
「うん! レオンくんがいっしょに探してくれたの!」
その名を聞いた瞬間、ガイルとグレイスの表情がかすかに強張る。
レオンの服の裾に刺繍された、金糸の紋章。
それは――王家の印だった。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
ふたりは深く頭を下げた。
しかしレオンは気にも留めず、「いいよ! 友達だから!」と笑う。
その無邪気な声に、胸の奥に冷たい不安が広がっていく。
――あの子が、王族と関わるなど……。
それでも、何も言えぬまま、祭りの残り時間を過ごした。
夜、家に帰ったあと。
囲炉裏の前で、ガイルとグレイスは向かい合う。
「グレイス……やっぱりあの少年は……」
「ええ。間違いないわ。王の子よ」
焔がゆらめき、二人の顔を照らす。
「アリアに悪い子じゃなかった。でも、王族と関われば……」
「……何が起きるかわからん」
沈黙ののち、ガイルが重く息を吐いた。
「明日、あの子に言おう。あの少年には、もう近づくなとな」
翌朝。
「アリア、昨日の子のことなんだがな……」
パンをかじっていた少女が、きょとんと顔を上げる。
「レオンくん? どうしたの?」
「……もう、あの子には近づいちゃいけない」
「え?なんで?」
「なんでもだ!」
思わず声を荒げた父に、アリアの瞳が揺れる。
「……ごめんね」
母がすぐに抱き寄せ、震える声で言う。
「ごめんね、アリア。でも、あなたが大事なの」
アリアはわけもわからず、ただ小さく頷いた。