「……」
「………て」
「……お………きて」
そんな声が重なってひどく遠くから聞こえた気がした。
一つはだんだんと離れて消えてしまい。それと同時におなかがいっぱいになった時のような、
おなかがすいたときのような、そんな矛盾した感覚だった
「……おきて」
そしてもう一つの声はだんだんと近づいてきて、鮮明に聞こえてきた。
「おーい、おきてー」
その声がとても元気で透き通っている声だと感じるとともに体中に何かがいるような気がした。
「んぅ……お、き、ろー!」
瞬間、大声とともに少年の体に群がっていた青い蝶たちは一斉に飛び去っていき、眠っていた少年に向かって飛び蹴りが繰り出される。
「ぐぇ、」
眠っているところに来たのは少女の介抱ではなく、容赦のない飛び蹴り、予想外の攻撃に思わず声が出る。と、同時に痛みによって意識が覚醒する
「あーやっぱり起きてたんだー!」
「そりゃ、お…」
目を開けるとそこには一人の少女がこちらを見ていた。
髪は空のように青く、髪先は銀色に輝いていた。
また髪の中にある狼耳はその存在を主張するかのようにピンと立っている。
また、髪と同じ色の彼女の目はまるですべてを引き寄せるような魅入ってしまうほどである。
そして、彼女が羽織る明らかにサイズの合わないマントは引きずられているせいか泥がだらけになっていて、顔にも引っ掻き傷のように泥がかかっていた。
首元から牙のついたペンダントとちょうど本が一冊入るほどの革の小さなポシェットをぶら下げており、腰には木の枝を削って作ったと見られる剣のようなものを差していた。
「起きてるのに寝てるのってダメなんだよ!」
「…」
あまりにも理不尽な会話に、少年は反論を試みるも、直後遮られ、追い打ちをかけられたところで、『あ、これは何をやっても無駄だ』と悟っていた。
「私の名前はアルシア・アルシア。チアキ村を出て、いずれ勇者になるものよ。」
考え事していると、アルシアは仁王立ちをし、自慢げに語りかけられた。
「僕の名前は…」
「ねぇ、待って絶対当ててみせるから!私、人名前を当てるのは得意なの!」
少年も自己紹介をしようと語りかけたところでアルシアが自信満々に手を挙げて待ったをかけ、突然の意外な頼みをされて、またも少年の言葉は遮られてしまう。
「うーん、あなたの名前わぁー、『テオ』でしょ!」
「うんうん、違う」
「えー、嘘だー。私これだけは間違えたことなかったのに。」
自信満々に答えたのに対して、正解とは全く違う答えが返ってきて少年はがっかりするも、アルシアの表情を見て、もう一度答えるチャンスをあげることにした。
「じゃあ、もう一回なら応えてもいいよ。」
「あー、言ったね。絶対当ててやるんだから!あと、これ当たったら、さっき外したのはなしだから。」
その言葉でアルシアは一瞬で元気を取り戻し、ここぞとばかりに声を出して喋り始めた。
「ズバリ、あなたの名前はオルト、オルト・グラウィンでしょ
!」
そうアルシアは自信満々に答える。それも、さきほどと違いこの世界における苗字のようなものまで一緒にだ。
「せ、正解。」
「ほら、やっぱり合ってたー!これで名前当てゲーム三百連勝だ!」
記録更新と合ってたいたことがよほど嬉しかったのか、木の枝の剣を抜き、マントを揺らしながらジャンプをしていた。
「なんで分かったの?」
「勇者になる私にはそういう特別な力があるんだよー。」
ニマニマとした気分のよさそうな顔で適当に答えられたが、さらっと三百回も当てていたことを知り、オルトはとても驚いていた。
「というか、獣人なんて初めて見た‼、でも顔は人間なんだ。」
「確かに顔も動物の人もいるけどだいたいはオルトと同じなんだよ」
そう満点の笑みでニコッと笑う彼女は太陽よりもまぶしかった。
「そういえばどうしてこんなところで寝てたの?」
青色の透き通った声の持ち主は顔を横にし、耳を立てながらそう尋ねてくる。
「わかんない。寝てたらいつの間にかここにいたんだ。」
オルトは手を顔に当てて、あやふやな記憶を思い出し、記憶を鮮明にしてゆく。
『たしか、朝は剣聖レクスの冒険譚をみんなと読んでたけど、うるさくしすぎて教会の人たちに怒られたんだっけ。昼は僕の好物のパルバーナ(肉と野菜を炒めた一般的な料理)を食べて、その後はお父さんに剣の練習をさせられて。夜は眠くなって寝ちゃったけど、お父さんとお母さんは昔、冒険者だった頃の友達だっていう女の人が来てたっけ?背中におっきな翼を広げたなんかのマークのついたローブをかぶってて顔がよく見えなかったけど、それもあまり関係ないなさそうだし、うーん。』
これと言ってここにいる直接的に思い当たるものはなく、なぜここにいるかはわからなかった。
「ねぇ、私がオルトの両親を一緒に探してあげるわ。その代わり、私の話に付き合ってよ!」
彼女ハ胸に手を当ててそう高らかに宣言していた。その姿は、まだ幼い少女そのものだが、彼女の中にある確かな自信は不思議とオルトに不安を覚えさせなかった。
「ねぇ、そういえばオルトって外から来たんだよね。いったいどこから来たの?」
アルシアは足元の木の枝を拾い、剣のように前に掲げながら草木をかき分けて、先行して歩きながら、おそらくずっとききたかったのであろう質問をしてくる。
「うん、龍骨都市ってとこから」
「うそ!それってもしかしてダンジョン都市の!?」
「そう!」
アルシアのいうダンジョン都市っていうのはこの世界に五つある、ある一つの巨大なダンジョンへの入り口を管理する都市のことである。そしてダンジョン都市はそれぞれの魔女によって管理されていて彼女らは大昔に大賢者のやつによって管理を任された者たちの力を受け継いできた人たちのことだ。僕の両親はその街で居酒屋を営んでいて、冒険者や探索者の人から冒険談を聞くのは僕の楽しみの一つだ。
「ダンジョンってどんなものなの?」
「僕も入ったことはないんだけど、タロン族っていう珍しい種族のルロルさんっていう人が言うにはまるで魔物の胃袋にいるみたいなんだって。」
「なにそれ!、どんなかんじなの? 今度魔物の中に入ってみようかな。」
「えっ」
「あはは、冗談だって。さすがの私も入ろうは思わないよ。」
「ほんとかなー」
初めて会う獣人の女の子のアルシアは村には同じことを話せる人はいないみたく、とても喜んでいた。僕も話居る間は時間も、不安も忘れていることができた。そう思っていた時、「グチャ」という音が僕の足元から聞こえてきた。そうとても不快な感触とともに。
「あっ、昨日雨降ったから泥沼には気を付けてね。」
「もう遅いよー!」
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「……っぱり僕は英雄譚なら勇者ラスカーが一番好きだなぁ。だってあの龍と人間で唯一龍に勝ったって言うんだし。すごくない?」
「えー、まぁ私は英雄譚ならやっぱり剣聖レクスの話が好きだなぁー、確かに勇者ラスカーもかっこいいし、強いんだけど、剣聖レクスは剣を一振りするだけで天を割り、天候を操ったって言うんだし。それにレクスは生涯魔法は使わなかったって言うし。それなら魔法の使えない私たちでもなれかもしれない!なんてね。」
「絶対、、、なれるよ!それに僕も魔法は使えないんだ。他のみんなはもう使えてるのに僕だけが使えないんだ。お父さんもお母さんももう少しすれば使えるからっていうけど僕は使える気がしないんだ。けど、英雄譚の人たちはみんな、はじめから英雄なんじゃなくて、むしろ僕みたいな不安を持ってる人ばっかって知ってとても嬉しかったんだ!僕もあの人たちのようになれるのかなって思えたから。」
「うん、そうね!魔法なんか使えなくても英雄にはなれるもんね。」
あれから、1時間程たちの、2人は終わりのない広大な森の中を突き進んでいた。だが、子供の体力とは恐ろしいもので、好きな英雄の本や話ら外の世界のことを話している間は、まったく疲れなど感じさせず、むしろとても楽しそうに、心地良さそうに2人は語り合いながら話していた。
しかし、それから1時間ほどたっても、景色が変わらないことに、オルトは不安を感じ、
「アルシア、本当にこっちにお父さん、お母さんはいるの?」
「大丈夫だって、私、人間の匂いは知ってるから。狼人の嗅覚をなめないで!」
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あれから三十分ほど経ったころ何かに気が付いたように突然アルシアが走りだした。
「待ってよ、アルシア。早いって。」
「遅いよ、オルト。そんなんじゃ日が暮れちゃうよー」
森を駆け抜けて行くアルシアについていくのに必死で途中、ピッリっとした感覚がしたのもすぐに忘れて走っていた。
うっそうと草木の茂る森のなかを、アルシアは駆け足で進む。まるで草木が彼女を避けるように、そこに川でも流れてるんじゃないか、というほどに止まることなく進んでいく。オルトはアルシアが作ったその道をたどり、必死についていく。『だけど、本当にお父さんとお母さんは見つかるのだろうか。アルシアは自信ありげだけど、何か手があるのかなぁ。』そうオルトが考え込んでいると。
「オルト!もうすぐだよ。」
次の瞬間、森は開けてゆき、大きな広間のような場所に僕たちは出た。そこには大勢の人間がいた。おそらく、アルシアはこの人たちに僕のお父さんとお母さんのところまで連れて行ってもらうつもりだったのだろう。
先ほど言ったとおり僕が住んでいる町はダンジョン都市というだけあって町にいる人のほとんどが武器を携帯している、自衛のためでもあり、ダンジョン攻略のためでもある。だから武器や防具を身に着けている彼らを冒険者だと思ったのだろう。
たぶん、その作戦は成功していただろう。ただそれは彼らが善良な冒険者や大人であったなら。
だか、彼らは違う。どこからどう見ても冒険者ではない。長年、僕はあの街で冒険者や探索者を見てきたんだ。彼らは僕にとっての憧れなんだだから間違えるはずがない。あれは冒険者の服装ではない。
じゃあ、いったい何なのか。
冒険者でもないのに獣人たちの住む亜国に入ろうとする者たち。だが、何の目的で?
ほかの国はいることはそれだけ命を落とす行為と言われるほど危険な行為だ。人はみな生まれた国の精霊から祝福を受ける、だからその国では基本健康でいられる。だが、国を出ればその恩恵を受けることができない。つまり、ほかの国で戦った場合、相手は精霊の加護があるのに対し、こちらは何の加護もなしに戦はなければならない。だから、冒険とはとても危険な行為なのだ。
そんな危険な行為を冒してでもやること、それだけの見返りがあるもの。それは、獣人の誘拐。
教会の、大賢者の、あんなもののせいでアンナは…………。
だけど、今は違う。それはあとでいい。
結局奴らは盗賊だ。それも大勢の、ざっと見ても百人以上。それもあれは冒険者崩れだろう。その証拠に大半の人間が持っている武器が対人用の武器ではなく、対モンスター用の武器を持っているものが多く、また久しく戦っていないのか武器の手入れがなっていない。
またそれとは別にそれに持っている武器を使い慣れていない感じがする人たちもいる。おそらく適当に武器を渡されたのであろう。本来、冒険者であればそんなことはしない。命に関わる重大な問題だからだ。
あれはたぶんただの村人なんだろう。
そして、それらとは明らかに別格なのが二人いた。ひとりはローブかぶった魔法使いの女。もう一人は彼らの頭目、リーダー的な存在であろう背中に大剣を携えた巨体の男だ。
ローブかぶった魔法使いの女は昨日両親が会っていた人ととは別の人で、僕たちが現れたとき僕たちをただまっすぐ見ていて、とても不気味な女だった。肌は真っ白でローブの奥には黒く長い髪が見えた。
巨体の男は少し遅れてゆっくりとこちらを向いた。この森にいたのかはたまたその道中にいたかはわからない魔獣を丸焼きにして、まるで戦い前の下ごしらえとばかりにむしゃぶりながら大量に食っていたため、口元は血だらけにしていた。そして二メートルほどの巨体は立ち上がり、
「獲物だ、捕まえろ」
そのひどく低い一言で僕とアルシア対盗賊団の捕まれば終わりの鬼ごっこが始まった。