羂索 in ユメ先輩が征くゲマトリア   作:Nikich

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雷帝、連邦生徒会長の設定は独自解釈が含まれています


九話 「骨肉相食」

——エデン条約

 

歴史的にも深い対立関係にあった”トリニティ総合学園”と”ゲヘナ学園”との間で締結された不可侵条約。

両陣営から代表者を出して構成されるエデン条約機構(Eden Treaty Organization)が、双方の紛争調停と問題解決を担うことで、全面衝突の回避を目的としている。

 

この機構は、かつて”雷帝”と呼ばれたゲヘナ前生徒会長に対抗するため、若き頃の連邦生徒会長が打ち立てた奇策の一つであり、その成立経緯は公然の秘密とされている。

 

 

「……エデン条約、ね」

 

 相変わらず生活感の欠けた部屋の中、久々に情報収集へと没頭していたユメ(羂索)は、

パソコンの画面から視線を外し、静かに深い溜息をついた。

 

ベアトリーチェとの話の後、軽くネットで調べただけでも賛否両論の記事がずらりと並んでいた。

当然だろう、百年単位で確執を抱えてきた学園同士が、一つの条約で手打ちになるはずがない。

もっとも、今のところは政治に関心のある者以外、さほど興味を示している様子はなかった。

 

「エデンか……なんとも趣味が悪いね、連邦生徒会長」

 

 この千年間、こうした条約は山程目にしてきたが、最後まで守られた試しなど一度もない。

裏切られるか、上手く逆手に取られるのがオチだろう。

どう転んでもろくな事にならないであろう条約に、思わず会ったこともない名付け親への愚痴が漏れる。

 

 

 だが、条約そのものには、さほど興味はない。

今重要なのは、ベアトリーチェの儀式だけ——そのはずだったのだが、別口でまた興味深い存在が浮かび上がってきた。

 

「……それにしても、”雷帝”か」

 

 書類の角を指先で軽く叩きながら、ユメ(羂索)は薄く笑みを浮かべた。

エデン条約の主役の一人であり、ゲヘナの元生徒会長。

 

 もう一人の立役者、”連邦生徒会長”については、嫌でも覚えている。

キヴォトスを少しでも調べれば、最終的にその名へ行き着くといっても過言ではない。忘れるほうが難しいほどだ。

 

 その圧倒的なカリスマと統率力によって、犯罪率を700%低下、違法兵器の根絶を実現を成し遂げ、オーパーツなどの発掘、再現にも力を入れているという。

まさに”超人”。

千年を生きた羂索でさえ、もはや化物と評するほかない。

 

 

 しかし——興味があるのは、”雷帝”のほうだ。

大体の敵なら真正面から叩き潰せるであろう連邦生徒会長が、条約という迂遠な方法に頼ってでも対抗しようとした人物。

 

 しかも、各方面に名が知られている連邦生徒会長に対して、雷帝に関する情報が異様に少ない。

ここ学園都市キヴォトスにおいて、生徒会長という役職は王と呼んでも過言ではないほどの権力を持つ存在だ。

廃校寸前だったアビドスの生徒会長、梔子ユメでさえ名はそれなりに知られていた。

 

 にもかかわらず、キヴォトスで一、二を誇るマンモス校のゲヘナにおける生徒会長だったという人物の情報がここまで出てこないのはあまりに不自然。

恐らく、意図的に情報が秘匿されている。

 

ただの”生徒”という立場だったなら、ここで手詰まりだっただろう。

だが、今の羂索には、強力なバックアップが存在する。

 

軽く肩を伸ばし、目的の人物に電話をかける。

相手が出るまで、三コールもかからなかった。

 

『クックック……あなたから連絡してくるのは久しぶりですね。ご用件は?』

「どうしても聞きたいことがあってね。——ゲヘナの”雷帝”について、何か知っていることはあるかい?」

『……どこでそれを?』

 

”雷帝”という言葉を出した瞬間、電話口の黒服の雰囲気が、明らかに変わった。

 

「個人的に”エデン条約”について調べていてね……妙に情報が少ないと思って」

『……なるほど』

『どうするか……いや、彼女なら——アレを動かせるかもしれませんね

 

 電話越しでは判然としなかったが、黒服が含み笑いを漏らした気がした。

だがそれも一瞬のこと。すぐに、冷静な声音へと戻る。

 

「……なにか言ったかい?」

『いえ、何も。——急で申し訳ありませんが、直接お会いして話すことはできませんか?』

 

 正直、意外だった。

”キヴォトス最高の神秘”に牙を向けられるリスクを理由に、外出を避けさせているのは他ならぬ黒服自身だ。それを押してでも会おうとするのなら、よほどの事情があるということだろう。

 

「……訳アリみたいだね。構わないよ、場所と日時は?」

『一週間後、私が指定した場所に来ていただければ。あなたにお見せしたいものがあります』

「分かった、それじゃまた後で」

 

 ツー、と短い電子音を残して通話が切れる。

スマホを無造作に机へ置いたユメ(羂索)は、静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

——一週間後

 

人気のない海辺の倉庫前で、二つの人影が対峙していた。

 

 片方は、かろうじて”人”の形を保ちながらも、もはや異形としか形容できない存在。

もう片方は、深くフードを被った少女。海風に煽られた外套の裾が、静かな波音に混じって揺れる。

 

「クックック……お待ちしておりました」

 

 異形——黒服が、歪んだ笑みを浮かべながら言った。

対する少女——ユメ(羂索)もまた、ゆっくりとフードを外し、疲れたように息を吐く。

 

「また辺鄙な場所を選んだね。ここまで来るのに苦労したよ」

「それは申し訳ございません。ただ、どうしてもあなたに見せたいものがありまして……私に着いてきてください」

 

 話もそこそこに黒服が歩き出す。

異形と少女、異様な組み合わせだが、並んで歩く姿は妙に調和して見えた。

 

「それで、見せたいものというのは?」

「そうですね……それを語るにはまず、”雷帝”という人物について話す必要があります」

 

波音が静かに打ち寄せる中、黒服はゆっくりと歩を進めながら語り始めた。

 

「私が”神秘”、そして”崇高”を追い求めていることはあなたもよく知っているはずです。そして、そのために生徒を求めていることも」

 

 黒服の淡々とした声は、潮騒に混じってゆらめくように響いた。

ユメ(羂索)は何も言わず、ただその背中を見つめる。

 

 黒服は、その沈黙を咎めることもなく、まるで独り言のように続けた。

 

「私が追い求めていた”神秘”は三つ。

 一つ目が”暁のホルス”こと小鳥遊ホシノ。

 二つ目が”箱庭のYHWH”、連邦生徒会長。

 そして三つ目が——”地獄(ゲヘナ)のソロモン”、雷帝です」

 

 そこまで語り終えると、黒服はふっと息を吐いた。

歩みを止めない二人のあいだに、潮風がただ吹きつける。

 

「ですが——私がいま”暁のホルス”を求めていることからも分かるように、あの二人を手に入れることはできませんでした」

「……確か、”雷帝”はもう卒業していたね。けれど、連邦生徒会長はまだ在籍しているだろう?」

 

ユメ(羂索)の言葉に、黒服はゆっくりと首を振った。

 

「……彼女を手に入れることは不可能に近いと私は考えています。立場云々ではなく、因果律的な何か。我々にも捉えることができない神秘であり、ある意味では”完成形”とも言える存在です。もし我々が箱庭の探求者だとするなら、彼女はその管理者と呼ぶべきでしょう」

 

 一瞬、黒服の声に悔しさと、同時に興味の色がにじんだ。

だがそれもすぐに、いつもの冷静な調子へと戻る。

 

「失礼——”雷帝”の話でしたね。彼女もまた、私の誘いには頷きませんでした。地獄の悪魔を統べる神秘にして、天才的な策略家。そして、発明家としても類い稀な才覚を持つ人物です」

 

そこまで語り終えた黒服は、わずかに声を落として言った。

 

「ちょうどあなたが来る少し前に——彼女は、ゲヘナを、ひいてはキヴォトス全体を混沌の渦へと叩き落とした。”ゲヘナの暴君”とも呼ばれています」

「……なるほどね。どうせなら、この目で見たかったよ。面白い話ができそうだったのに」

 

 ほんのわずかな親近感とともに、ユメ(羂索)は息をついた。

その仕草を見た黒服の笑みが、ゆっくりと歪む。

 

「まだ遅くはありませんよ。そのために、あなたを呼んだのですから」

「……彼女は、卒業したんじゃなかったのかい?」

「ええ、その通りです。しかし、彼女の”遺産”はまだ残っている。キヴォトスを混乱に巻き込んだ類まれなる発明家としての、彼女の遺産が」

 

 

 黒服の足が、一際大きな倉庫の前で止まった。

ユメ(羂索)もそれに合わせて足を止める。辺りに響くのは、波の音だけだった。

 

「遺産、ね」

「”雷帝”その人が作り出した兵器群の総称です。現ゲヘナ政権が探し回っているようですが、まだ彼女の手によるものは残っています……ここから先は見たほうが早いでしょう」

 

 眼の前の南京錠に触れるのかと思いきや、黒服は壁に手を当て、一定のリズムで軽く叩いた。

次の瞬間、壁がわずかに震え、人一人が通れるほどの隙間が開く。相変わらず、キヴォトスの技術には驚かされる。だが、今はそれに感心している場合ではなかった。

 

仕掛けに反して、中はどう見てもただの寂れた倉庫だ。

だが、それをそのまま信じるほどユメ(羂索)は愚かではない。

 

「……それじゃ、頼むよ」

「クックック……それでは、御覧ください」

 

黒服が、ゆっくりと手を掲げた——。

倉庫の奥で、微かな振動音が響いた。

そして、闇の中に金属の光が浮かび上がる。

 

徐々に浮かび上がってくるその全容に、ユメ(羂索)は思わず目を見開いた。

 

「列車……?」

「はい、かつてのアビドス生徒会とセイント・ネフティスの兵器開発計画に、”雷帝”本人が協賛して造られた要塞兵器——列車砲”シェマタ”です」

 

 

 

 

——二ヶ月前。

 

「……それは、受けられない話だな」

「クックック……貴方にとっても悪い話ではないと思いますよ」

 

ネフティス子会社の応接室で、二人の影が向き合っていた。

片方はキヴォトスでは見慣れたロボットのような存在。もう片方は、かろうじて人の形を保つ異形だった。

 

「”列車砲シェマタ”――それをこちらに明け渡していただくだけで、使用料として二十億円をお支払いすると言っているのですから」

 

 

”セイント・ネフティス”。

 

 かつてアビドス自治区の繁栄を支え、一時はその経済の大半を担っていた大企業。

だが、度重なる砂嵐と砂漠化の進行により徐々に衰退が進んでいった。起死回生を狙った列車事業も、多額の負債を残すだけの大失敗に終わる。

 

 今ではかつての鉄道計画の名残をとどめるいくつかの子会社と、本社がかろうじて存続しているに過ぎない。

 

 近頃こそ業績にわずかな回復の兆しが見られたが、それも本社のみの話だ。本社が列車事業から完全に撤退した今、不景気にあえぐ子会社の倒産は時間の問題とされていた。

 

 しかし、惰性で続けられていた地質調査が思いがけず起死回生の一手となる。

 

 予定よりも深く地盤を掘削していた際、ボーリングマシンの故障をきっかけに行われた再調査で、信じがたいものが発見された。

 

——雷帝の遺産、”列車砲シェマタ”

 

 かつてアビドス生徒会とネフティス本社が共同で進めていたとされる兵器開発計画の産物。

しかしそれは、長らく都市伝説や噂の域を出ないものとされていた。

 

 もはや打つ手のないネフティスにとって、それはまさに劇薬だった。雷帝の遺産を狙う者など、キヴォトスにはいくらでもいるだろう。

 

 だがこれを本社へ引き渡しても、自社の利益になる見込みは薄い。それどころか、放置すればアビドスのみならずキヴォトス全体が危機に陥る可能性すらある。

 

 〝超兵器〟は、ただの一子会社が扱える代物ではなかった。

『本社に渡すべき』『破壊すべき』──上層部が真っ二つに分かれる中、その隙を突いて接触してきたのが黒服だった。

 

「”雷帝の遺産”をこちらに渡すなら、使用料をそちらに払う」

 

 最初は迷いなく首を横に振った。

いくら金を積まれても、あれを外部に渡すわけには行かない。しかし、その姿勢も長くは続かなかった。

 

 徐々に、しかし確実に苦しくなっていく経営。

黒服の提示する金額は、こちらの足元を見透かしたように釣り上がっていく。

事業も厳しさを増していく中で、黒服の次の言葉が決定打となった。

 

「我々に渡すことができないならば、貸し出してくださるだけでも構いません。もちろんその場合も、年間使用料を払わせていただきます」

 

 ——年間使用料。

それは借金にあえぐネフティス子会社にとって、まさに願ってもない提案だった。

毎年、確実に一定の入金が保証される。黒服の言う額であれば、少なくとも利子に追われることはない。

 

 そして、心情的にも”渡す”と”貸す”とでは大きく違う。

”渡す”というのは、完全に自分の手の届かぬところへ行ってしまうということ。

だが”貸す”ならば、少なくとも所有権はこちらに残る。

 

 黒服の言葉に揺れる社長の脳裏に、従業員たちの顔がよぎった。

その行動がどういう意味かは分かっている。だが、彼にも彼なりの責任がある。

 

 そして——社長は、ついに折れた。

 

「……分かった。契約を結ぼう」

「えぇ、それでいいのです。もちろん、すぐに使用料はお支払いさせていただきます」

 

 ネフティスの証が、その書類に押される。

それを確認した黒服の笑みが歪んだ。

 

 ——”雷帝の遺産”が、決して渡してはならない人間の手に渡った瞬間だった。

 

 

 

 

「……大きく出たね。そこまでする理由が、これにあるのかい?」

 

 黒服のもとに列車砲が渡った経緯を聞いたユメ(羂索)は、その巨体を静かに見上げながら言った。

 

「私自身は、さほど興味があったわけではないのですが……ベアトリーチェが目をつけましてね。

交渉事は私の方が得意なので、代わりに手を貸しました。もっとも、まったく関心がないわけでもありませんが」

 

 ユメ(羂索)を案内しながら、黒服はこともなげに言った。

 

「それにしても、わざわざ私を呼ぶ理由があったのかい?雷帝のことを教えてくれたのは助かるが、私は機械方面は専門じゃなくてね」

 

 一応簡単なトランシーバーぐらいなら作れるが、流石にこれほど大きな兵器となると運用の見当もつかない。せいぜい交渉材料として扱えるくらいのものだろう

 

ユメ(羂索)の言葉に、黒服はゆるやかに首を振った。

 

「いえ、技術的な協力をお願いするつもりはありません。そこはご安心を——私が求めているのは、あなたの()()です」

「立場?」

 

 羂索はわずかに眉をひそめた。

 宗教家としてもカルト的な人気と影響力を持っていた夏油傑ならともかく、梔子ユメは、今や廃校寸前の学校の生徒会長に過ぎない。金もなければ、彼女の死が公になっている以上、人脈も使えはしないはずだ。

 

 それをよく分かっているはずの黒服は、その言葉に静かに頷く。

 

「正確に言うなら——”アビドス生徒会の生徒会長”という立場です。これを引き渡された後、我々も起動だけは試みたのですが……すべて権限の有無を理由に拒絶されました」

 

そこまで語り終えた黒服は、ユメ(羂索)の方を静かに見て笑みを浮かべた。

 

「しかし、あなたなら話は別です。この兵器の建造を雷帝に依頼したのは、当時のアビドス生徒会とネフティス本社。つまり、あなたなら——”権限”を持っていても不思議ではない」

 

 理屈は分からなくもない。だが、黒服は一番肝心な点を言っていなかった。

 

「だが、私は死亡と判定されているんだろう。今の生徒会長は、小鳥遊ホシノになってるんじゃないかい?」

 

ユメ(羂索)の言葉を遮るように、黒服が口角を歪める。

 

「それは、あくまで《世間上での話》です」

 

 その声には、確信めいた響きがあった。黒服の目がゆっくりと細められる。

 

「あなた——”梔子ユメ”は、書類上では行方不明のまま止まっています。学生としてのあなたは、まだ生きている。生徒会長の地位をどう扱うかを決められるのは、小鳥遊ホシノ本人。そして——彼女は、()()()()()()()()()()()()

「……なるほどね」

 

 ユメ(羂索)の口から、くぐもった笑いが漏れた。

それは次第に大きくなり、やがては抑えきれない笑い声へと変わっていく。

 

「……可哀想になってくるね、気の毒すぎて。四ヶ月の間砂漠から帰って来ない人がどうなったかなんて、考えたら分かるだろうに。私は彼女の魂まで空っぽにした覚えはないんだがね」

 

 ”帰ってくる”と信じている人間の役職を奪い、そのまま平然と暮らせるほど厚顔な者など、そう多くはない。

 そして——小鳥遊ホシノもまた、その例外ではなかった。

 

梔子ユメ(羂索)は——()()()()()()()

 

 ここキヴォトスにおける”生徒会長”の権限は凄まじいものを誇る。たとえそこが廃校寸前だったとしても、だ。そしてそれは、最悪の人間に渡ってしまった。

 

「それはともかく、起動できるのはネフティスを除けば、あなたくらいのものでしょう……ああ、ありました。起動口はここです」

 

 黒服が指さした先は、どう見てもただのモニターだった。

 訝しみながらユメ(羂索)が近づいた、そのとき——

 

『列車砲《シェマタ》 シーケンス起動。プログラム構築完了。承認準備を開始します』

 

 突如としてモニターが光を放ち、起動する。

 瞬間、二人のプロフィールが映し出された。

 

『名称”ERROR” 所属”ERROR” 資格”無し” 承認は無効化されました』

 

 黒服を映していた画面に、その無機質なメッセージが浮かぶ。

 そして、驚愕に目を見開くユメ(羂索)のプロフィールも続けて表示された。

 

『名称”梔子ユメ” 所属”アビドス生徒会 委員長” 資格”有り” 承認は有効です』

 

 モニターが再びメッセージを表示する。

 その反応を見て、黒服の声に喜びが滲んだ。

 

「やはり……アビドス生徒会長のあなたならできると思っていましたが……当たりだったようですね」

「いや、喜ぶには早いと思うよ」

 

 黒服がモニターに手を伸ばそうとした瞬間、ユメ(羂索)がそれを静止した。

 モニターに新たなメッセージが浮かび上がっていた。

 

『”梔子ユメ” key ”ゴールドカード”の反応を確認できず 承認は無効化されました』

 

 瞬間、先ほどまでの反応が嘘のように、モニターは沈黙した。

 黒服は呆然としたように画面を見つめる。期待していただけに、虚しさが漂っていた。

 

「……ゴールドカードというのは?」

「キヴォトスでも最高位のクレジットカードです。限度額が存在せず、持っているものは両手で数えられると言われています。確かにネフティスなら持っていてもおかしくは無いでしょうが……」

 

 若干元気のなくなった声で黒服が返事をした。

 

「力になれなくてすまないね。まあ、こちらとしては情報をもらえただけでもありがたかったけど」

 

 ”雷帝”の情報だけでなく、生徒会長に関する情報まで得られたのは大きい。

羂索が今後の策を巡らせていると、黒服は再びいつもの調子を取り戻し、口を開いた。

 

「いえ、こちらこそ急にお呼び立てしてしまい申し訳ございません。

 起動は叶いませんでしたが、こちらも十分な情報を得られました」

 

 いつもの胡散臭い笑みを浮かべる黒服を横目に、ユメ(羂索)は踵を返そうとした。

 そのとき——

 

「……少々お待ちください」

「なんだい?」

 

 黒服の声が背中に響いた。

心当たりがなく、ユメ(羂索)はゆっくりと振り返る。

 

「情報提供の代わりといってはなんですが、あなたに調べていただきたいものがありまして」

「そっちから来るなんて、珍しいね」

 

 いつもは情報を”受ける”側だった羂索に、黒服のほうから依頼が来るとは思わなかった。

 

「いえ、そう大したことではないのですが……あなたに調べてほしいのは、”百鬼夜行連合学園”についてです」

「……”百鬼夜行”?」

 

 キヴォトスでは、学園名は地名を模したものが多い。その中で、この名前だけは異質だった。

聞き覚えのある響きに、思わず眉をひそめる。

 

「百鬼夜行連合——怪談、そして”黄昏”が蠢く、謎多き学園です。私としても興味はあるのですが、”大預言者”の影響で少々動きづらくてですね……あなたに調査をお願いしたい」

「……へぇ」

 

 ”怪談”——懐かしい響きだった。

流石に、かつて自分が生きてきた”呪い”と同質のものではないだろう。だが、類似する存在がこの地にあるとすれならば、お目にかかりたい。

 

 胸踊らせながら、ユメ(羂索)は笑みを浮かべた。

 

「怪異か、いいね……私が君の立場でもそうするだろう。構わないよ」

 

——千年を生きた”呪い”が、再び怪異に目をつけた。




補足:黒服がこのベストマッチな依頼を出した理由は偶然です
「神秘に異様に詳しいからゲマトリアの調査役としては適役」+「“生徒”だから大預言者も目をつけないだろう」で選びました。

投票ありがとうございます!今のところ幕間の案はシリアスとギャグがありますが、どちらを先にみたいですか?

  • シリアス
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