羂索 in ユメ先輩が征くゲマトリア   作:Nikich

12 / 15
遅くなってしまい大変申し訳ございません……
※百花繚乱編の百物語・怪書の能力に独自解釈が含まれます


十話 「奇々廻々」

——百鬼夜行・某所。

 

 観光を主要産業のひとつとする百鬼夜行では、大小さまざまな店が立ち並び、日ごとに賑わいを見せている。

 

 だがその北方——果てしなく続く大雪原の片隅に、ひとつだけ取り残された廃墟があった。

 吹き荒ぶ風の中、その建物の奥からだけぼんやりと灯りが瞬いている。

 

 現地の人間すら滅多なことでは足を踏み入れないその地に、二人の人影が佇んでいた。

 そのうちの一人、着物に袖を通した妖艶な美女がゆっくりと顔を上げる。 

 

「良う来てくれたね、シュロ」

「手前をお呼びでしょうか?コクリコ様」  

 

 もう一人の人影——シュロと呼ばれた鼠耳の生徒が、頭を上げながら言った。

 その様子をコクリコはゆっくりと見やる。

 

「まず初めに、改めてやけど聞いておきたいことが有る……私達の、百物語(目的)は何やったか覚えとるか?」

「百鬼夜行を焼き尽くし、怪談を復活させる。そして、手前たちの風流を取り戻すことです!」  

 

 シュロのどこか子供っぽさを残す仕草に、コクリコが一瞬微笑ましいものを見る目をした。

 だがそれも束の間、次の瞬間には、彼女の表情は再び妖艶で、底知れぬ気配を帯びたものへと戻っていた。

 

「よう頑張ってるね……シュロ、お前さんに渡したいものがあってな」

「コクリコ様が、手前に?」

 

 思わず疑問を漏らすシュロを前に、コクリコは懐から一冊の古びた本を取り出したを取り出した。それを見たシュロの顔が驚愕に染まる。

 

「か、怪書……稲生物怪録!?」

「そうや、シュロならこの意味がわかるやろう?」  

 

——怪書・稲生物怪録

 

 大預言者クズノハが作り上げたとされる”百物語(怪談)”を収めた本のうちの一冊。

 “百物語”を顕現させるためには欠かすことのできない、儀式の要となるといっても過言ではない代物である。

 

 これまで、コクリコに付き従ってきたシュロも、そのことは重々承知していた。だからこそ、眼前にあるその本が、どれほどの意味を持つかもわかっている。

 

「て、手前がこれを持ってもいいんですかぁ?」

「らしくないやないか。いつもなら、喜んで受け取ってたやろうに」

 

 あたふたとするシュロを見て、コクリコはわずかに微笑みながら言った。

 

「我はお前さんを、信頼しとるよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、シュロの瞳に一瞬だけ決意の色が宿る。彼女はそっと手を伸ばし、恐る恐る怪書を手に取った。

 

 あまりにも慎重なその様子に、コクリコは堪えきれず笑い声を漏らした。

 

「大丈夫や、取って食われたりはせえへんから」

「……でも、そんなに変わったところは見えませんねぇ。これで本当に百物語を顕現できるんですか?」

 

 もっと禍々しいものかと思っていたシュロは、思わず疑問を口にした。

 何か力が漏れ出しているなどということもなく、ひと目見ただけではただの古ぼけた本にしか見えない。

 

「そうやろうね。それはまだ、シュロに馴染んどらん」

「じゃ、じゃあ手前には扱えないんじゃ……!」

「そう焦らんでええよ、この怪書を真に扱うには、もっと怪談を理解せんとあかんからね。いずれはシュロにも、使いこなせるようになる」

 

 落ち着いたコクリコの声色に、シュロはほっと安堵したような素振りを見せた。しかし、次のコクリコの言葉に思わず背筋を伸ばすことになる。

 

「その前に、この怪書について教えとく必要があるやろうね」

「えぇと……怪談と百物語を顕現させるためのものじゃ?」

「それもそうやが、怪書にはそれぞれ“役割”がある。曰く——人の恐怖を映すもの、人そのものを映すもの」

 

 コクリコはそこで一拍置き、妖しい笑みを見せた。

 

「そしてこの“稲生物怪録”は、人の“欲望”を映すもの、と言えばええかな」

 

 欲望という言葉に、シュロは思わず首を傾げた。

 

「欲望……?」

「人は誰しも、何かを求めて生きとるもんや。偉うなりたいとか、金持ちになりたいとか……そういう“願い”や“欲”を、それは写し、叶える。——“百物語”としてな」

 

 なおも理解しきれないといった顔をするシュロを、コクリコはふっと睨みつけた。

 その瞳のどこか艶やかで冷ややかな光に、シュロは思わず息を呑む。

 

「それは、持ち主も例外ではない……お前さんが欲に呑まれたら、怪書もまた同じように返す。それを、くれぐれも忘れんようにしいや」

「は、はいっ!」

 

 思わず背筋を伸ばしたシュロを見て、ふっとコクリコは微笑んだ。空気がほぐれたことを感じ、シュロもそっと息をつく。

 

「それじゃ、シュロ。期待しとるで?我々……花鳥風月部(魑魅魍魎の長)の名に恥じぬものを、見せてくれることをな」

「はいっ!」

 

 元気よく返事ながら出ていったシュロを見て、コクリコは微笑ましい光景を見るような顔をした。

 しかし、シュロの足音が聞こえなくなった瞬間、その表情は冷酷な花鳥風月部の長としてのものに戻る。

 

「あの子も、舞い上がっとるみたいやね……私の予感が、外れ取るとええんやが」

 

 小走りで廊下を駆けるシュロの足音を聞きながら、コクリコはそっと息をついた。

 

 

 

 一方、時を同じくして、二人の人影がアビドスの一角で対峙していた。

 

「それじゃ、教えてもらおうか。“百鬼夜行”について」

 

 ユメ(羂索)がその言葉を発した瞬間、二人の間の空気がわずかに、しかし確実に重みを増す。

 黒服は考えるような素振りを見せた後、静かに口を開いた。

  

「いいでしょう。もっとも、私が知っていることは限られますが。まずあなたに調べてもらいたいことは、百鬼夜行において最も興味深いもの——“百物語”です」

 

「百物語……蝋燭とかと一緒に怪談を語っていくあれかい?」

 

 呪術の世界に身を置いていた羂索にとって、それは聞き馴染みのある言葉だった。

 数々の呪いが生まれる温床であり、古くから畏れられてきたまさしく禁断の遊び。

 

 だが、呪いが存在しないここ(学園都市)で、百物語がどのような扱いをされているのかが掴めない。

 そして、この世界の根幹を求める黒服が、何故わざわざそれに目を付けたのかということも。

 

 どちらの疑問も、羂索の興味を引くには十分だった。 

 

「そうですね、本来の百物語はあくまで遊戯に過ぎません。ですが、私が欲しているのは、百鬼夜行に伝わる独自のもの。端的に言うならば……噂や怪談()()()()でしょうか」

 

「……私が知っているものとは随分と違うみたいだね」

 

 己の知る“百物語”とは明らかに性質が異なることに、ユメ(羂索)は眉をひそめた。

 呪いを生み、呼び寄せる儀式——そうしたものではなく、もっと概念的で、情報のような何かを指している。

 

 そんなユメ(羂索)の反応を見越していたように、黒服は淡々と頷いた。

 

「私が注目しているのはその違いです。百鬼夜行における“百物語”とは、語られる怪談そのものが形を持つ現象……いわゆる、“言葉が現実になる”というものです。もっとも、詳細は言い伝えの域を出ませんが」

「……なるほど」

 

 ユメ(羂索)は興味深そうに目を細めた。その鷹揚な姿勢の裏で、脳内ではいくつもの仮説が組み上がっていく。

 

 黒服の語る“百物語”は、“呪い”と酷似している。

 

 この世界には呪力が存在せず、当然ながら呪霊や術式の類も存在しない。そのため羂索は、神秘やそれに準ずる異能について関心を向けていた。

 

 ——しかし、ここで話は大きく変わる。

 

 千年もの間、人間と呪力の可能性を追い、その真髄に触れんとした羂索にとって、“怪談”という概念は絶好の材料となる。

 

 恐怖が語られ、共有され、やがて形を持つ。

 

 もしそれが意図的に制御できるのなら、この学園都市は人間という枠を超えた、“生徒”という可能性の実験場になるだろう。

 

「……どうされましたか?」

「いや、こっちの話だよ。それで——私は何をすればいい?」

 

 笑みが漏れたのを誤魔化すように、ユメ(羂索)は静かに問い返した。

 

「聞いておいてなんだが、最初に頼んできたのはそっちだからね。頼むからには……何か目的があるんだろう?」

「クックック……その通りです。あなたに……いえ、あなたにしか頼めないことがあります。我々と同じくゲマトリアに属し、我々に持たぬ神秘を持つあなたにしか」

 

 黒服はそう言って、静かにユメ(羂索)を見据えた。両者の間に一瞬の沈黙が落ちる。

 そして黒服は、ゆっくりと口を開いた。

 

「かの大預言者クズノハが始まりとされる、“百物語”を顕現させしもの……“怪書”の入手をお願いしたい」

「……怪書?」

 

——呪いが、再び蘇ろうとしていた。




赤バーマックスになることができました!
今まで応援してくださった皆さんのお陰です!
本当にありがとうございます……!

投票ありがとうございます!今のところ幕間の案はシリアスとギャグがありますが、どちらを先にみたいですか?

  • シリアス
  • ギャグ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。