かたや考察を続け、かたや動揺を隠せずにいる。
異形と
「……お見苦しいところをお見せしました。それでは改めて質問しましょう……あなたは誰ですか?梔子ユメは、あの時点で間違いなく死んでいたはずです」
紳士的な口調ではあったが、目は鋭く警戒を崩さない。
こちらも笑みを崩さず、あえて一歩踏み込んだ言葉を返す。
「君が知っている『梔子ユメ』という人物とは、少し違うのは事実だね……一言で言うなら”呪術師”といったところかな」
「呪術師……?」
その反応で確信した。相手は呪術とは無縁の存在だ。
もし関わりがあるなら、その単語に少なからず反応を示すはず。だが目の前の異形は、本気で困惑している。
とはいえ、説明してやる義理はない。むしろこちらが探りを入れる番だ。
「私自身も、この状況を完全に把握しているわけではなくてね。まずは君たちが名乗ってもらえないかな」
その言葉に、異形は興味深そうに目を細めた。
しかしすぐにそれを消し去り、仰々しい礼をしながら名乗る。
「私はゲマトリアで“研究”をしている者です。名前は……“黒服”とでも呼んでいただければ」
「……ゲマトリア?」
ゲマトリア——恐らく、ヘブライ語における解釈や暗号解読法に由来する言葉だろう。
だが、それ以上に気になったのは“研究”という言葉だった。研究と言うからには、必ず何かしらの実験を行っているはずだ。
相手にその意図はなさそうだったが、もし問い質せば——自分がなぜ、こうして存在しているのか。その答えが得られるかもしれない。
慎重に、言葉を選びながら質問を重ねる。
「もう一つ質問をしよう……ここはどこかな?」
それを聞いた異形——黒服は、驚愕の素振りを見せた。
しかし紳士的な態度はあくまで崩さず、むしろ笑みを深くして応える。
「……やはり、”外”から来た存在でしたか。クックック……あぁ、失礼しました。ここは”キヴォトス”。数千もの学園が集まり形成される学園都市です」
聞き馴染みのない言葉に、一瞬面食らった。少なくとも現代日本ではないことは確実だ。
“外”という黒服の言葉から推測するに、同じ世界ですらない可能性が高い。
だが黒服は、それ以上答える気配を見せなかった。
依然として情報が足りない。
一呼吸おき、もっとも核心に近い問いを口にする。
「私は、何故ここにいる?」
その問いに、黒服は好奇心を隠そうともせず、口元を歪めて笑った。
「それを説明するには、ここキヴォトスについて、もう少し知っていただく必要があります。少々長くなりますが……よろしいですか?」
「あぁ……お願いするよ」
黒服は静かに頷き、語り始めた。にわかには信じがたい、この世界の真実を。
☆
「キヴォトスが学園都市であることは、先ほどもお話ししましたね。詳細は割愛しますが……この世界における学園の生徒たちは、例外なく“神秘”と呼ばれるものを内包しています」
「……神秘?」
またしても耳慣れぬ言葉。
眉をわずかにひそめる
「生徒という“テクスチャ”の奥に存在する、様々な神格を基盤に形成された力。そう表現すれば、わかりやすいでしょうか。……あぁ、テクスチャという言葉については気にしなくて結構です」
依然として意味はわからないが、感覚としては理解できる。
恐らくそれが先程感じた、呪力とも違う”力”なのだろう。
「ここからは私の推測にはなりますが……あなたが生き返った理由。それは、この生徒——梔子ユメの神秘に関係すると思われます。ただ、それを聞く前にあなたにお聞きしたい」
「……何かな」
何が飛んでくるのかと身構える。しかし、黒服の質問は予想外のものだった。
「エジプト神話を読んだことはありますか?」
「……?一度読んだことはあるよ」
この千年の暇つぶしに、一度目を通した記憶がある。
しかしそれが、今の状況にどう関わるというのか——いや、まさか。
「クックック……話が早くて助かります。この生徒が宿す神秘は”オシリス”。冥界を司る王であり、死者を迎える神です」
「……なるほどね」
——”オシリス”
農耕や豊穣、植物の再生を司る神だったが、弟セトに殺害された後、イシスが死体を集めたことによって復活し、死後の世界を統べる「冥界の王」となった神。
日本に生まれていたら特級呪霊にもなれたかもしれない、と少し残念に思った記憶がある。
その”神秘”がどういうものかは分からないが、呪霊と同じように元となったものに基づいた力を得るとするならば……
「偶然か、はたまた必然か……奇しくも今の状況は神話に当てはまっているのです。
砂嵐——セトによって死に、イシス——私によって死体を集められた。
ならば次に起こることは——オシリスの復活」
言っていることは分からなくもない。だが明らかな矛盾点があった。
「君の言っている話に基づくなら、復活するのはその梔子ユメとかいう生徒ではないのかい?」
「クックック……その通りです。ですがそれも説明はできます。おそらく、その時点で梔子ユメの魂は残っていなかったのでしょう」
黒服の声には、次第に抑えきれない興奮が滲みはじめていた。
「”死んだ人間は蘇らない”——そう言われるのは、肉体とともに魂が昇天するからです。それは梔子ユメも例外ではなかった。おそらく彼女の魂は、死後の世界にでも行ったのでしょう。神秘がどれほど働こうと、それを覆すことはできません」
そこで一旦言葉を切り、黒服はゆっくりと
「本来なら話はそこで終わっていたはずでした。しかし、そこに居たのがあなただった」
「……ここで私が出てくる理由は?」
”死”と”魂”——
そのプロセスに介入できるのは、本来なら神だけだ。
オガミ婆のように魂を降ろす術者もいるが、あれは呪力が切れるまでの一時的なものに過ぎない。
もし本当に介入できるのなら、とうに自分が試している。そんな面白いことを見逃すはずがない。
「私は
本来なら肉体とともに昇天するはずの魂が、なぜかこちらに残っていた。——そこに神秘は目をつけたのです」
「それで、代わりに私の魂を選んだ、と」
話の腰を折られた黒服は、一瞬だけ拍子抜けしたような表情を浮かべた。
「驚かないのですか? ”外”から来たあなたには、到底信じられないと思っていたのですが……」
「まあ、前の世界でも似たようなことは起きていたしね……」
思い出すのは乙骨とリカの関係だ。
本来死んだはずの祈本里香は、乙骨の縛りにより呪霊として魂が残った。
あれは乙骨の血統が大きく関わる、例外中の例外。だが、似た現象があったのは確かである。
自分の境遇をことさら気にするでもなく淡々と返す
「あなたは”外”で何をしていたんですか?この際流しましたが、魂がこちらに残るなど本来ありえません。
「あぁ……なるほどね」
「……覚えがあるんですか」
黒服の声に、若干引いたような響きが混じった。
だが羂索にとって、肉体など飾りにすぎない。
この千年間、常に肉体を取り替え続けてきた自分に、肉体と魂の結びつきなどそもそも存在するはずがなかった。
黒服そっちのけで魂の経緯について考察していると、気を取り直したように黒服がこちらに向き直った。
「そこで……この際ユメさんと呼ばせていただきます。ユメさん、私と契約をするつもりはありませんか?」
「……内容によっては受けよう」
それを聞いた黒服はにやりと笑みを歪め、懐から紙を取り出した。
「外では、あなたは死んだ扱いになっています。ここで解放したところで、まず碌な生活は望めないでしょう」
「あぁ、それは大丈夫だよ。慣れてるから」
「……そうですか」
黒服が、今度ははっきりと引いた。
だがこちらは死体を乗っ取る生活をしてきたのだ。いまさら「死んだ扱いされている」と言われても、いつものことである。
「……ですが、あなたも情報が欲しいはずです。私たちは“神秘”について長らく研究しています。契約次第では、私が持っている情報を差し上げましょう」
「なるほどね……話を聞こうか」
”神秘”の情報。それはこちらにも無視できない話だった。
呪力とは違う、人間の新たな可能性。手を出さない理由はない。
乗り気になった
「まずあなたに求めること……単刀直入にいいましょう。私の研究対象となることです。もちろん手荒なことはいたしません。代わりに衣食住とあなたへの情報を保障します」
「研究か……いいね、私も君の立場ならそうしたよ」
笑みを浮かべる
「では、受けていただけると?」
「いや、一つ条件がある」
「……なんでしょうか」
黒服が警戒した様子で問いかける。眼の前の相手が金や権力を求めるとは思えない。
身構える黒服に飛んできた”要求”は、予想の遥か斜め上のものだった。
「私を、そのゲマトリアという組織に加入させてほしい」
「……は?」
黒服の呆然とした声が空き部屋に響いた。
羂索転生の経緯を雑にまとめたら
砂嵐(セト)によりユメ死亡 同時期に羂索死亡
↓
黒服の遺体の回収がイシスのそれになり、神秘の修正力が発動。
↓
ユメは成仏してるから込める魂がねえ!普通肉体とともに魂は昇天するから当然か……
↓
なんかすっごい不安定(肉体変更しまくったせい)な魂が漂ってるな……こいつでええやろ!
↓
今ココ
こんな感じです。大体神秘くんのせいです。
呪術の魂とブルアカの神秘は完全にオリジナルで解釈しました。
”独自設定”タグを追加しています。
投票ありがとうございます!今のところ幕間の案はシリアスとギャグがありますが、どちらを先にみたいですか?
-
シリアス
-
ギャグ