羂索 in ユメ先輩が征くゲマトリア   作:Nikich

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タイトルの in の前後を間違えてました……
報告してくださりありがとうございます!


二話 「悪い大人」

「私を、そのゲマトリアという組織に加入させてほしい」

「……は?」

 

黒服は、意表を突かれたように声を漏らした。

当然だ。興味深い実験体を雇おうとしたら、その相手から「自分を組織に入れろ」と言われたのだから。

 

「……何故です?あなたに入ってメリットがあるのですか?」

「三つあるよ」

 

そう言ってユメ(羂索)は、静かに三本の指を立てた。

 

「一つ、神秘の研究についての同業者がなるべく多くほしい」

「……それなら入らなくてもいいのでは?私があなたに紹介すればいい話ですから」

 

黒服が訝しげに眉を寄せる。

対するユメ(羂索)の答えはあっさりしたものだった。

 

「君の紹介では、会える人が限られるかもしれないからね」

「なるほど……まあ、分かりました」

 

黒服が一応の納得を見せたところで、二つ目の理由が告げられる。

 

「二つ、後ろ盾……というより、”所属”がほしい。何かと便利だからね」

「ですが、私達の組織は公の場で言えるようなものではありませんよ? 表には出ていませんから」

「構わないよ。無いよりはマシだ」

 

ここで言う”便利”とは、何かあったとき責任を擦りつけられる場所が欲しい、という意味だ。

前世で呪霊組を隠れ蓑にしたのと同じ理屈である。

 

もちろんそんな意図を微塵も見せず、ユメ(羂索)は最後の理由を口にした。

 

「そして三つ目……面白そうだからね」

「……面白い、ですか?」

 

黒服が思わず聞き返す。

それだけで得体のしれない自分たちの組織に加わるのかという疑問が滲んでいた。

 

「面白いと思ったことが本当に面白いかどうかは、実際に実現するまでわからない。

まずは一歩踏み出す、自分の理想に一歩近付く……ただそれだけの話だよ」

 

ユメ(羂索)は肩を竦めて笑った。

その笑みに深い打算があるのか、単なる好奇心なのか——黒服には判別がつかなかった。

 

しかし、三つの理由——いずれも否定できないものだった。

 

そして何より、神秘ではなく眼の前の相手自身に興味をいだいている自分が居た。

眼の前の相手は、何を見せてくれるのか。

——崇高に、たどり着けるのか

 

「……あなたが入りたい理由は分かりました。しかし、私の一存で決められるものではありません。それまでは待っていただくことになるでしょうね」

「構わないよ。できれば衣食住は用意してほしいけど」

「えぇ、もちろんです」

 

そう言うと、おもむろに黒服は手を差し出した。

一瞬困惑したユメ(羂索)だったが、すぐに意図を理解し、手を差し出し返す。

 

「まだ決まったわけではありませんが……私はあなたを歓迎しますよ」

「……よろしく頼むよ」

 

二人の間(悪い大人)で、握手が交わされた。

 

 

——三日後

 

アビドスに並ぶ廃ビルの一室で、ズドンと銃声が連続して鳴り響いていた。

しかし、気に留める者は誰も居ない。

 

過疎化のせいで人が居ないというのもあったが、大きな理由は別にあった。

 

「クックック…お見事ですね。経験でもお有りで?」

「少しね。こんな形で役に立つとは思わなかったけど」

 

銃口から煙を上げるスナイパーライフルを抱えながらユメ(羂索)は呟いた。

 

年端もいかぬ少女と怪しげな異形が銃の訓練をしている。

端から見れば完全に事案だが、ここキヴォトスではさして珍しい光景でもない。

 

数千もの学園が集まり形成されるキヴォトスは、超がつくほどの銃社会だからだ。

その主な要因は「神秘」にある。

 

神秘の加護によって、銃撃や砲撃の直撃ですら痛いで済んでしまう彼女たちは、ちょっとした揉め事でも銃撃戦に訴えることが多い。

「銃を持っていない生徒より、裸で歩いている生徒の方が多い」とまで言われるほど銃が普及しているキヴォトスにおいて、銃を持たないというのはあまりに不便すぎるのだ。

 

——というわけで、黒服がどこからか持ってきた銃をいくつか試していた。

 

流石の羂索も、その話を聞いた時は思わず驚いた。

だが、何から何まで自分の知る世界とは違うこの場所で、いちいち驚いていてはきりがない。

むしろ気に留める方が面倒だろう。

 

そもそも羂索自身、術師相手であれば通常兵器は積極的に取り入れるべきだと考えていた。

そのため過去に銃器を扱った経験も何度かあったのである。

 

そして、もう一つ興味深い点も合った。

 

「銃弾に神秘を乗せると多少火力が上がる……か。面白いね」

「しかし本当に神秘の扱いがお上手ですね。こちらも似たようなご経験が?」

「ずっと似たようなことをやってきたからね。十八番中の十八番だよ」

「……冗談のつもりだったのですが」

 

千年間、呪力を探求してきた羂索にとって、神秘を扱うことなど造作もなかった。

多少勝手は違うものの、自分の中にある力を引き出すという点では変わらない。

そのため、二日も経たぬうちに自在に使いこなせるようになっていた。

 

「じゃあ、こんなものにして私は帰るよ」

「了解です……それではまた」

 

一瞬名残惜しそうにした黒服を一瞥して自室——黒服から貸し与えられた部屋へと戻る。

どうもあの男は自分が気に入ったらしい。まあそれならそれで利用するまでだが。

 

部屋に戻った羂索は、机に積まれた膨大な資料を一つひとつ読み進めていく。

内容は黒服に頼んで用意させたもので、キヴォトスの歴史、神秘の体系、そして梔子ユメに関する情報までが網羅されていた。

 

どれも興味深い内容だったが、その中にひときわ目を引くテーマがあった。

 

「”神秘の反転(テラー化)について”か……面白そうじゃないか」

 

——羂索の望む混沌が姿を見せるのも、そう遠くはない。

投票ありがとうございます!今のところ幕間の案はシリアスとギャグがありますが、どちらを先にみたいですか?

  • シリアス
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