隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回は色んな事件の裏側回です。ではどうぞ。


10.黒ゼツ

 

 

 

 ―――愛しているよ、誰よりも。

 

 ―――愛しているよ、これからも。

 

 ―――ずっと隣で生きていけると信じていた。

 

 ―――君と過ごす一秒一秒がかけがえのない宝物だった。

 

 ―――そう、オレは…………君と一つになんて、なりたくなかった。

 

 ―――もう、君の顔も、声も思い出せないけれど……。

 

 ―――それでもずっと愛している。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 そこは暗い暗い人など到底来ない地下の洞窟だった。

 人に知られていない、元誰かの狂った研究所。

 そこの割れた巨大ビーカーの側で、一人の男がブツブツブツブツと、誰かの女の名前らしき単語を呟きながら子供のように縮こまっていた。

 その顔は仮面に覆われ窺い知れない。

 黒いフード付きローブ越しでもわかる体は壮年の男であることを告げているが、ローブの下は指先まで全て包帯で覆われ隠されている。

 髪はいつから切っていないのか、ボサボサに伸びている。もしかしたらその仮面の下ではヒゲも伸びているのかもしれない。そうでないかもしれない。

 なにもかもわからない男であったが、それでもわかる事もある。

 

 ……男は当に正気では無かった。

 誰がどう見ても狂っていた。

 

「ねー、ねー、こいつほんとに使えるの~?」

 そんな誰もいなかった筈の空間で、場違いに明るい声が一つ。

 真っ白でグルグルと渦を巻いた人の物ではない顔と体をしている。実際にそれは人ではなく、ここにも地面を通って現われた。

「アア、問題ハナイ」

 そう答えたのもまた人ではなかった。

 人を模したグルグルとよく似た白い左半身と、真っ黒な黒い右半身をもつ存在……それは別の世界で黒ゼツと呼ばれていた、六道仙人の母大筒木カグヤが息子達に封印される前に生み出した末の息子である。

 母カグヤが封印されてからおよそ千年。

 ゼツはその復活だけを夢見て、ずっとずっと忍び達の歴史の裏で暗躍してきた。

 母を封印した憎き六道仙人大筒木ハゴロモの息子達が争うように仕向けてきたのもまた黒ゼツだ。

 歴史の裏で全てを手玉に取った黒幕を気取りつつ、自分の目的を果たす機会を伺っていた黒ゼツであったが、しかし彼はここ数十年自分の計画がちっとも上手く進まない事に強い苛立ちを覚えていた。

 そしてその象徴とも言える目の前の物足りない手駒を見ながら、吐き捨てる。

「所詮ハマダラノ代用品ダ」 

 本当は自分が手駒にするのは、こんな劣化品ではなかった筈なのだ。

 うちはマダラ……大筒木ハゴロモの長男であったうちは一族の祖大筒木インドラの転生者だった男である。

 ハゴロモの子供であるインドラとアシュラの兄弟はこの千年間で幾度も転生を遂げ、そしてその度に争ってきた。ゼツはそれを六道仙人の石碑を書き換えたりなどして激化するように仕向けてはいたが、奴等の転生者が争うのはいつものことである。

 だが、先代の転生者であるインドラを宿すうちはマダラと、アシュラを宿す千手柱間は過去これまで見た中で尤も目を見張る能力を持っていた。とくに千手柱間は過去見てきた中でも、これ以上ないというほどに異端な力の持ち主であった。

 先祖返りというべきか、ヤツに宿った能力は原初のチャクラを生み出した神樹に近かったのである。

 アシュラの力をインドラの転生者が取り込むことによって輪廻眼は宿り、輪廻眼によって無限月読を達成させ、尾獣を集めることによって母を蘇らせる。

 それがゼツの望みだ。そして、マダラを堕とす事が出来ればその願いは叶う筈だったのだ。

 

(うちは……イズナァ……!!)

 

 ギリギリと奥歯を噛みしめて悔しさに打ちひしがれる。

 そう、なにもかもゼツの掌の上だったはずなのに、全てのケチのつけはじめはマダラの弟で、後に二代目火影となったあの男にある。

 マダラの思考を誘導し、無限の夢を望むよう堕とす筈だったのに、結局マダラが堕ちることはなかった。全てうちはイズナが阻止したからだ。おまけに千年かけて書き換えた石碑もあの男、万華鏡写輪眼まで使って徹底的に破壊しやがった。ゼツは泣いた。

 だったら、木ノ葉や火の国への悪意を増幅させて追い詰めてやると頑張れば、何を考えていたのかヤツは火影を引退するなり兄のマダラを連れて、悪党退治の火の国行脚をはじめて、折角ゼツが育てた悪意の胤は残さず刈り取っていきやがった。ゼツは消沈した。

 あいつ、インドラやアシュラの転生者でもないくせになんだというのだ。なんでオレの邪魔をするのだ。

 そしてインドラとアシュラといえば、あいつらの転生者のくせにマダラと柱間がやたらと仲が良かったのもゼツにとっては許せないポイントだ。ふざけんなよ、いつも通り憎み合ってろよ、おのれうちはイズナ……!

 腹が立った黒ゼツは裏工作をした。

 人間は同性同士のそういう関係を噂される事が致命的なダメージになるという。

 なので、うちはマダラは千手柱間の女房役で股を開いてうっふんあっはんしている、あいつらデキているんだみたいな噂を流してやった。これを機会にギクシャクして仲違いをしてしまえばいい!! ざまあみろ!

 ……と思っていたのにあの柱間(アホ)は酒の席で『おお……そうとも! オレとマダラこそが木の葉隠れの里の父母ぞー!!』とかワッハッハと笑って肯定するものだから、『なーんだ酒の席のジョークかぁ』と噂が沈下してしまったのもマジ解せない!

 なんて忌々しいんだ、千手柱間。

 柱間のほうにもマダラを殺す夢を見せたり、色々干渉してやったのに、最期までマダラと仲が拗れる気配がなかったの本当お前はなんなのだ。

 おのれ、千手柱間!

 だが、忌々しいのはそれだけではない。

 あの武練祭とか名付けられて、里創設三年目から始まった祭りだ。

 火影の戦神への武練の奉納とやらは別にどうでもいい。

 問題なのは前座扱いになっている剣舞神楽のほうである。

 あれは、元々千手……アシュラの血統に伝えられている神楽を基盤に、うちはと合わせる為に再構築されたものだ。一対の男女と白黒の装束、揃いの隈取りとその動き、全ては森羅万象と両義……宇宙を顕わしている。

 それを陽のチャクラを持つ千手と陰のチャクラを持つうちはがよりによって始めたのだ。

 武練祭の剣舞神楽……あれは陰陽二つの力の調和でもって悪神を祓い善神を呼ぶ神卸の儀(・・・・)だ。

 黒ゼツはずっと、月に封印された母の復活をこれまで夢見て活動してきた。

 だからこそ、気付いてしまった。

 ……年々母の……月の封印が強固になっていっている現状に。

 そして月の封印を強めたその神楽を、はたして始めたのは誰だったのか……。

 ……そう、かの真眼のイズナである。

 おのれ、うちはイズナァ!!

 許せない、憎い。既に死んでいて尚、なんて憎たらしいんだあの男。

 ギリギリとこの千年でもっとも不快な日々を黒ゼツは送っていた。

 黒ゼツはなんとしても木の葉を潰さなければならないと思っていた。

 手始めに、マダラの死を切っ掛けに世界各地で火の国と木ノ葉の不信の目が芽吹くよう、せっせと裏工作をした。愚かな人間達は面白いくらいにゼツの掌で踊ってくれた。そうだ、やはり人間はこうでなければ。

 それに戦時中であれば、木ノ葉もあの忌まわしき神卸の儀を行うことはない。

 もう、ずっと戦争していてほしい。それがいい。

 そんなゼツの願いとは裏腹に戦争は終わった。それは再びあの儀式が始まることを意味する。

 ふざけるな、これ以上母の封印を強化などさせんぞ!

 ……と、気持ちの上で思うのだが黒ゼツ自身は生憎脆弱な身である。

 黒ゼツの本体はスライムのような軟体であり、他者に寄生して操ることは出来るが彼自身の戦闘力はお察しである。

 それでも生き意地の汚さと執念深さにかけては誰にも負けやしない。

 そして、今までずっと目の上のタンコブだったうちはイズナももういない。

 お前が今まで後生大事にしてきた木ノ葉隠れの里などいずれ潰してくれるわ!!

「ククク……」

 黒ゼツは嗤う。

 狂った男と人間ではない彼ら、それ以外誰もいない地下空間で見てろよ人間共と復讐心にも似た怒りと共に、愚かな人間達を上から目線で嘲笑う。

 

 

「……………………ィト……」

 完全に頭が狂ったと思われた仮面の男が、ブツブツと今まで呼んでいた女のものとは違う名を呟いた事に気付いたものはここにはいなかった。

 

 

 * * *

 

 

「千手のじいちゃん、ばあちゃん、こんちは~」

 オビトはいつも通りの調子で通い慣れた一つの屋敷に訪れた。

「おお、オビト今日も来たのか」

「オビトちゃん、いらっしゃい」

 そういいながら、千手伝来の白い装束を着た年老いた男女がニコニコと実の孫を見るような顔をして、紺色の上着にうちはの家紋を背負った少年……うちはオビトを迎え入れる。

「これ、ばあちゃんに」

 そういってオビトは訓練を兼ねて自分が育てた花を三輪老婆に差しだした。

「あらまあ良い匂い! オビトちゃんありがとうねえ」

 そういっていそいそと老婆は奥に向かう。きっと花瓶に生けるのだろう。そんな老婆をその夫である老爺と見送った後、オビトはキョロキョロと周囲を見回して、黒髪交じりの白髪の老人に「なぁ、扉間先生は?」と訊ねた。

「扉間様は今日はアカデミーの日だぞ、忘れたのか坊主」

「あ、そっか」

 とオビトはポンと手を打った。

 

 第二次忍界大戦が終結して、約半年が過ぎた。

 あれからオビトは相変わらずリハビリを兼ねて、Dランク任務と修行に従事する日々を送っている。

 とりあえず内蔵に移植したほうは馴染んだようなのだが、柱間細胞で作られた義肢に関して言えば完全に馴染んだとはまだ言えない。

 普通に義肢としてなら既に及第点な動きが出来るのは確かだ。だが、完全に馴染んだと判断するには何かが足りないと、そう漠然と感じていた。

 週に一度病院に通院するのも、同じく千手扉間への定期検診を受けなければいけないのもこれまで通りだ。

 おかげで、最近はCランク任務もちょくちょく任されるときもあるのだが……それでも遠出する任務などは任されることはなく、当然復帰以来既に上忍として働いているはたけカカシと同じ任務を受けることも出来ていない。

 一度だけ、ミナト先生に直訴したことがある。

 カカシと同じ任務に出してほしいと。

 すると四代目火影になったオビトの師は「扉間様の許可がとれたら良いよ」とニッコリ笑って拒否してから、「オビト、焦らなくても大丈夫だよ、君はちゃんと強くなっているから」と少し心配そうな顔でフォローされた。

 オビトは別に師を困らせたかったわけではない。

 完全に復帰したといえない自分がカカシと同じ任務について、不測の事態を招いたらまずいこともわかっている。それでもオビトはカカシの相棒は自分しかいないと自負していたし、実質ミナト班が解散状態になっている現状が寂しくもあった。ミナト班全員が揃った最後の任務がオビトが生身の半身を失った神無毘橋破壊任務だったから尚更だ。

 カカシは上忍として各地を飛び回っている。リンは医療忍者としての修行も兼ねて今は木ノ葉病院に研修に入って頑張っている。……下忍がやるような任務を受けて、里でヌクヌクしている自分だけが置いていかれたような気持ちになったのもまた確かだ。そんな時に扉間先生に言われたのだ。

「そろそろ木遁の勉強を始めても良かろう」

 オビトはそれまで木遁忍術を使った事なんてなかったし、同じく柱間細胞を使った義肢の被験者でも、拒絶反応こそなかったが木遁を開花しなかった者もいたと聞いていたが、その細胞の持ち主の弟でもある男はなにやらオビトは木遁を継いでいるという確信があったらしい。

 そうして彼はそのままオビトをこの千手屋敷まで連れてきて、管理人である老夫婦に引き合わせ、好きな時に来て好きに木遁に関する忍術書を読むが良いと許可を出した。

 木遁忍術に関しては一応箝口令が敷かれている。

 なにせ初代様しか使えなかったとされる伝説の忍術である。

 ある程度形になるまでは、伏せておいたほうがよからぬ輩を呼び寄せずに済むだろうとの判断であった。

 そして月に数回、扉間の監修の元で今年の春に下忍となったもう一人の木遁使い……柱間細胞適応者であるヤマトという髪の長い少年である。と共に実際に試してみることになったのだが、どうもオビトは攻撃系の木遁忍術と、ヤマトは建築や捕縛系の木遁忍術と相性が良いことが判明したりといった一幕もあった。

 オビトが大々的に木遁を試せるのは扉間監督下での訓練時くらいだったが、本当にオレ初代様と同じ木遁使えるんだ、と初めて使った時は感動したものだ。

 あとは日々勉強である。

 もっと細かい制御能力を鍛えろとのことで、そうして木遁の修行の一貫として自室で一から自分が出した花を育てているのだが、育てた花はこうしてお世話になった人にあげたり、木ノ葉病院に勤務しているリンにあげたりしている。やっぱり女性は花が好きな人が多いのだろう。こうして喜んでもらえると、オビトもとても嬉しくて胸がポカポカする。

 リンに 『綺麗だね、ありがとうオビト』なんて言われると、次はもっと綺麗な花を咲かせてやろうと思うのだ。

 あの笑顔を見ることが出来ただけでも、本当に扉間先生には感謝しかない。

 既に彼はもはやオビトの第二の師匠である。

 そんな風に甲斐甲斐しくオビトの面倒を見てくれている千手扉間であるが、彼はこの春から週に一度アカデミーで特別講師として授業を受け持つことになったらしい。

 千手扉間が一線を退き、教育現場から離れてもう二十五年以上になる。

 二代目であるうちはイズナが三代目である猿飛ヒルゼンに火影を譲る際に、彼もまた弟子のうちはカガミに二代目アカデミー校長の座を、志村ダンゾウに二代目木ノ葉忍術研究所所長の座を譲っていた。

 以来、今まで一研究者として引退を公表していた千手扉間は、一線を引いたスタンスを貫いていたのだが……「貴様と接して、また若き木ノ葉の子達に教えを与えるのも悪くないと思ってな」と笑いながらオビトに話して、一講師としての復帰を決めた。

 そう考えると、彼は心の底までとことん教育者だったのだろう。

 それで、自分の修行を見てもらえる時間が減ったとしても、オビトも喜んで応援した。

 

 まあ、中々完全復帰といかぬ我が身に思うところがないわけではないのだが、概ねは問題のない日々をオビトは送っている。

 そう、概ね……は。

「オビトちゃん、おはぎ作ったのよ、そろそろ休憩してお上がりなさいな」

「ありがとうな、ばあちゃん……!」

 木遁について書かれた巻物と向き合うこと一時間後、この館の管理人でもある老婆が善意たっぷりに笑いながらおはぎが二つ載った盆を差し出す。

 それに、オビトは内心必死にいつも通りのにっかりした明るい笑顔を浮かべながらそう答えるのだが……まさに、問題はここにあった。

(これ食ったら、夕飯入らないんだよな……)

 オビトの臓器のいくつかは自前のものではなく、柱間細胞を培養して作られた疑似臓器に置き換えられている。

 その影響なのかもしれないが、オビトは以前よりも食事をとれなくなっていた。

 食べられない、というわけではないのだが、普通の人が摂取するよりずっと少ない量で満たされてしまうのだ。おかげで最近は一日一食か二食しか食べない日も珍しくも無い。成長期の少年にあるまじき事態である。

 この事については既に扉間に報告済みであるのだが、「それは要改善だな」と頭が痛そうに答えた。

 曰く「食は人の基本である」とのことで、食わずとも平気というのは任務の遂行上は便利で良いが、人として生きていきたいならあまり良いことでもないとのことだった。

 まあ、でも結局は自分が夕飯を抜けば済む話といえば済む話である。

 困っているお年寄りを助けるのがうちはオビトのモットーだ。

 だから目の前の老女が喜んでくれるなら、自分の胃が犠牲になるくらいはたいしたことないのだ。

「うめえよ、ばあちゃんありがとうな」

「まあ、本当」

 だから今日もオビトは嘘をつく。

 本当は満腹で味なんて碌にわからなかったけれど、人を傷付けない為の嘘だった。

 

 続く

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