今回はミナクシ&ヒロイン回でお送りします。
木ノ葉隠れの里の現火影である波風ミナトと、その婚約者であった恋人のうずまきクシナが正式に籍を入れたのは、満を持して行われた、終戦後初となる夏至の日恒例武練祭が終わったその翌週の事であった。
この時点で波風クシナ……旧姓うずまきクシナは妊娠七ヶ月を迎えた身重の身である。
……本当はもっと早くに籍を入れたかった。
だが、波風ミナトは里長に就任したばかりの新米火影であり、今は第二次忍界大戦の終戦を迎えて戦後処理を行っている微妙な時期であり、なにより彼の妻となる女性クシナは……尾獣の中でも最強の呼び声高い九尾の人柱力で、二人の婚姻関係を万が一にも他里に知られるわけにはいかなかった。
もし知られてクシナが狙われれば、それは木ノ葉の弱みになる。
この微妙な時勢で政治的なことを考えたら、籍を入れるのも、子供が生まれて四代目政権が軌道にのり、色々な問題が落ち着いてからの方がいいことはミナトにだってわかっている。
それでも、子供を産む前に籍だけでも入れたのは、ミナトに現状で出来る妻への最大の誠意だ。
なにより、ミナトは子供の頃からずっと願っていた。
いつか、クシナをお嫁さんに出来たら良いなと……。
周囲の同級生が彼女をからかって半殺しにされ『赤い血潮のハバネロ』と恐れていた時も、元気が良くて活発的でコロコロ表情が変わる、そんな所が可愛いと思っていた。
クシナにはナヨナヨした女男みたいに思われていたのは知っていたけど、ずっと好きだった。だから、両想いになれたときは本当に嬉しかった。
子供が生まれる前に籍をいれたのは、クシナの為だけじゃない。自分のためでもある。ミナトはクシナと早く家族になりたかった。
だが、それでも……初代様の頃のように大々的に式を挙げることは出来ない。
(赤くて綺麗な髪に白いドレスが映えて、きっと花嫁姿のクシナも、夢のように美しかっただろうな……)
そのことが残念でもあった。
でも同時に頭の片隅に常にいる冷静な自分が、仕方ない事だとも告げていた。
ミナトは火影だ。
そこには責任が伴う。木ノ葉隠れの里全ての民を背負っている立場ならば、あまり私情で我が儘を言うわけにもいかない。
だからといって個人としての幸せや、家族の幸せを放棄するのもそれはそれで違う。
自分を幸せに出来ないヤツが、他人を幸せに出来る筈がない。
人は愛する者のため、守りたいものの為に強くなれる生き物なのだから……。
大切な人達に祝ってもらえるなら、それでいいじゃないか。
だから、愛する妻と大々的な式を挙げる事は出来なかったけれど、籍を入れた翌週、ミナトは教え子達を招いてホームパーティーを開くことにしたのだ。
ミナトの婚姻関係はまだ一部の者にしか知られていないが、自分の可愛い弟子達は身内としてそれくらいの特権は良いだろう。
参加者はパーティーの主役であるミナトとクシナ、それと彼の教え子であるはたけカカシ、のはらリン、うちはオビトと、四代目火影の護衛小隊である不知火ゲンマ、並足ライドウ、たたみイワシ……細やかな結婚祝いの席として、若夫婦の新居に招いたのはそれで全員だ。
ミナトの右腕である奈良シカクや、クシナの親友であるうちはミコトを招くことも考えなかったといえば嘘になるが、そうなると彼らの伴侶も招かなければならなくなり、そうなればちょっとホームパーティーで済ませるには規模が大きくなりすぎる。
特にクシナの友人であるミコトは、第一子も幼い上に現在第二子も妊娠中で、そろそろ産まれそうとのことなので、たとえ誘っていたとしても来るのは無理だっただろう。
本当はミナトの師である自来也にも来て欲しかったのだが、生憎先生は小説の執筆取材旅行中である。まあ、知らせは送っているし、今度木ノ葉に帰ってきた時に腹の子の名前の由来が、先生の小説の主人公から取ったことも含めてジックリ話を聞いて貰えば良い。
だから今日は可愛い教え子達と共に楽しもう。
金髪碧眼の爽やかな優男然とした四代目火影波風ミナトは、朗らかに微笑みながら、教え子達に「よく来てくれたね」と歓迎の言葉を放った。
「ミナト先生、クシナさん、御結婚おめでとうございます!」
「先生おめでとう!!」
「おめでとうございます」
リン、オビト、カカシの三人が手作りらしき、『祝ご懐妊&ご成婚』と書かれた横断幕を手にして口々に言祝ぎの言葉を若き火影夫婦にかける。
料理はクシナと一緒にリンが、食材と部屋に飾る花はオビトが、会場の飾り付けはカカシが用意した。
思えばミナト班がこうして全員揃うのは随分と久しぶりなことだ。
カカシはもう上忍に上がってしまったし、オビトは入院やリハビリに検査があったし、リンは木ノ葉病院に研修に入っているし、彼らの担当上忍師であるミナト自身は四代目火影と成った。その為、神無毘橋破壊任務後はミナト班は実質解散状態となっており、個々で集まることはあれど、全員が揃うことは滅多と無かった。
そんな子弟のやりとりを、ミナトの護衛小隊の面々は微笑ましげに見ている。彼らもまだまだ年若いのだが、カカシ達より数歳年上なので、弟妹を見ているような気分になるのだろう。
結婚祝いの場であるとはいえ、ここに集まったのは身内だけの気軽なものだ。
故に始まってしまえば実に和やかな空気で、話題になるのは当然二週間前に行われた戦後初の武練祭についてになった。
「やっぱミナト先生はつえーよな、こうビュンビュンとして、ダーとしたらぐわぁって飛んでくんだもんな~」
「なに、その頭の悪そうな感想」
「頭がわるそーとかゆーな!」
「格好良かったです」
「ありがとう、リン」
木ノ葉隠れの里が出来て三年目以降伝統となった武練祭は、既に二十六回目を迎えた。
この祭りは最初に複数の舞手達による剣舞神楽の奉納を行った後に、会場を谷へと移して、結界班の結界で守られている中で、当代火影と、トーナメントを勝ち抜いた選ばれし上忍との戦いを神に奉納するという、そういうお祭りだ。
武練祭で火影と戦えるというのはそれだけで名誉である。
(オレもいつかミナト先生と……)
だから、オビトもいずれそこで戦いたいとそう思っている。
だが、今のところ百回やってもどう足掻いてもオビトがミナトに勝つ事は無理だろう。それくらいに圧倒的に力の隔絶があり、写輪眼を手に入れてチャクラの動きとかがわかるようになったからこそ、改めてオビトはミナトと自分の実力差を実感していた。
忍界最速と呼び声高い第二次忍界大戦の英雄……木ノ葉の黄色い閃光波風ミナト。
なんてデカい壁なんだと思う。
だけど、でかい壁だからこそ、乗り越え甲斐があると言える。
そんな闘志に燃えるオビトを周囲は微笑ましく思う。いや、一部は『あんな戦い見せられてよくそれだけやる気になるな』と呆れている者もいたのだが、オビトの夢はそもそも火影なのだ。そしてミナトが強いのは彼にとって当たり前の常識で、なら折れる理由の方が存在していなかった。
「ま、ミナトが格好いいのは当然だってばね」
ふっふーんと胸を張って、自慢げに赤髪の美女が言う。自分の夫が褒められて嬉しかったのだろう。
「ノロケご馳走様です」
それに銀髪の少年カカシは、少し呆れたような色をのせながらそんな茶々を入れた。
ふと、気付けばじっとライドウが黒髪隻眼の少年……うちはオビトを見ている。それに、「何?」と不思議そうに彼が返すと、右に派手な傷跡を持つオビトとは逆に、左側の面相に大きな傷を持つ男……並足ライドウは「あ、いや、オビトお前……デカくなったなぁ」としみじみとした声で呟いた。
続いて不知火ゲンマとたたみイワシも言う。
「そういや、そうだな……オビトお前今身長いくつだ? 170くらいか?」
「まあ、図体だけでかくなっても顔はまだまだガキくせぇけどな!! カカシのほうがまだ大人っぽいぜ……!」
「うるせぇ! ガキ臭いは余計だろォ!?」
オビトは十四歳の誕生日を迎えてから、成長期に突入していた。
元々同年代の中ではオビトはアスマに次いででかいほうではあったのだが、第二次成長期の到来と共にその背丈はグングン伸びていき、今ではそこいらの大人と遜色ないほどだ。
元々カカシよりオビトの方が背が高かったとは言え、いまだ成長期が訪れていないらしいカカシと並べば、その差は一目瞭然である。今のオビトはカカシよりも頭半個分も背が高かった。
……であるのにも関わらず、この二人が並べば幼く見られるのはオビトのほうであった。
そのことを以前愚痴れば「お前が童顔なだけでしょ、あと子供っぽく見られたくないならもっと落ち着いたら?」とカカシからしたらアドバイス、オビトの耳には嫌味に聞こえる……をされて、ちょっぴり涙目になったのはここだけの話である。泣いてない、これは目にゴミが入っただけなんだからな、という言い訳は心の中に仕舞っておけるようになっただけ、オビトも成長したのかも知れない。
「そういえばオビト、あんた最近あのゴーグルつけてるところ見ないけど、どうしたの?」
ふと、クシナが今思い出したと言わんばかりに、そんな疑問をオビトに投げかける。
うちはオビトはずっと子供の頃からお気に入りの、オレンジ色のゴーグルをつけてきた。将来はオレの火影岩にこのゴーグルも彫って貰う! と口癖のように豪語するくらいにお気に入りだったゴーグルである。
だが、彼が半死半生になって木ノ葉隠れの里に帰ってきて以来、うちはオビトがそのゴーグルをつけた姿を見た者はいなかった。
「いや~……アハハ……」
それにオビトは気まずげにポリポリと首の後ろをかく。
思い出すのは木ノ葉病院を退院して、アパートでの一人暮らしにも大分慣れてきた頃のことだ。
オビトは久し振りにお気に入りだったオレンジのゴーグルと、オレンジの縁取りと襟がついた紺色の忍服を着ようとして唖然とした。
……全く似合っていなかったのである。
今のオビトには左目がない。だから額宛の布を左側だけ幅広でとって、眼帯代わりに左の顔半分を覆って耳の横で結び、右側は岩に潰された時についた渦のような皺のようないくつもの傷跡をそのまま晒している。
そんな片目がなくて、もう片方も傷だらけなオビトの今の顔には、ゴーグルは不似合いであるとしか言いようが無かったし、前は好んできていた忍服もツルツルテンでなんだかみっともなかった。
しょうがないので、以来オビトは中忍試験合格時に貰っていた中忍ベスト姿か、うちはの伝統的なうちは襟がついた装束のどちらかの服ばかり着るようになったのだが……そんなオビトを見てリンを除く同年代のくノ一達は言った。
「オビトあんた……本当にうちはだったのね」
「初めてオビトも
「でもねェ……顔はともかく、雰囲気が三枚目すぎるからやっぱうちは味微妙じゃない?」
「だよねー」
という好き勝手な感想に、お前らなんだよオレは元からうちはだよォ! てか、うちはって言葉になんか含み持たせてんだろ、ふざけんなチクショー!! と思っても流石に女子相手には声に出して文句を言えないオビトであった。
そんなことを思い出しつつ、オビトが返答に困っていると、リンが「クシナさん、これ本当に美味しいです!」と助け船を出すようにクシナが作った料理を褒め、カカシもまた「ま、オビトも大人になったってことでしょ」と年下とは思えない上から目線なフォローをしてきたが、助け船のつもりで言ったのは険のない口調からも読み取れたので、モヤモヤしたが文句を言うのは止めた。
そんな風に終始和やかに過ぎていったホームパーティーであったが、開始から三十分をすぎた頃にクシナはある事に気付いた。
「ちょっとオビト、あんた全然食べてないじゃない。成長期なんだからしっかり食べないとダメでしょ!」
オビトの皿からはちょっとつまみを並べたくらいの量しか乗っておらず、ご飯も茶碗についだ量から3分の1くらいしか減っていない。それより細くて小さいカカシはいつも通りの早食いではあるが、ちゃんと料理をとってるし減っているのをクシナの目でも確認している。
クシナは世話焼きな姉か母のようにひょいひょいとオビトの皿に料理を盛っていく。
「ぅええ? クシナさん別にいいーて!」
「良くないってばね。ちゃんと食べないと大きくなれないわよ」
まあ、既にオビトの身長はクシナよりも大きかったりはするのだが、それはそれこれはこれ。全くこの子はしょうがないんだから、と言わんばかりの口調で世話を焼くクシナと世話を焼かれるオビトの姿は、出来の悪い弟に手を焼いている姉のようで、彼女の言動や行為が善意なのがわかっているからこそはねのけることも出来ず、オビトがタジタジなのも相俟って周囲の笑いを誘った。
「…………」
一人、笑っていないカカシだけがそっとため息を零していた。
「ごめん、オレちょっとトイレ……」
クシナが盛った皿の料理を平らげ、オビトがそう言って席を立ったのはこの十分後のことだ。
それに年長の三人は「お、大か」「きばってこいよ~」などとからかう言葉をかけ、オビトは「ちょ、ばっ、リンの前で変な事言ってんじゃねー!! 酔っ払いかよ……!」といつものように騒がしくガーと騒いで退出をしていく。
「……」
が、そのままトイレでは無く、隻眼の少年は玄関へと足を進めた。
そして、そのまま外に出て風にあたり、ズルズルとその場に腰を下ろして、「……気持ち悪」と誰に聞かせるつもりもなく小さく呟いて胸を押さえた。
その顔は青白く、薄ら汗ばんでいる。
オビトは臓器のいくつかを柱間細胞と自分の細胞で作られた疑似臓器で補っている。
そしてそのせいか、自前の臓器だった頃に比べて食事をとれなくなってしまっていた。
食べられないわけではないのだが、普通の人よりずっと少ない量で満ちてしまうようになってしまったのだ。そしてそのことを、柱間細胞を使った義肢の研究責任者である扉間以外に言ったことがなかったし、言うつもりもなかった。
人より食べられないからって別に死ぬわけでも無いし、周囲に心配や迷惑をかけたくなかったからだ。
それにキャパオーバーして食べ過ぎたからって、その時は消化不良で気持ち悪くなっても、食べられなくなった原因でもある柱間細胞自体の回復力によって、暫く経てばこの吐き気も胃が焼けるような不快感も治まるのだ。
それに今日は恩師にして憧れの現火影であるミナト先生の結婚祝いの場だ。
水を差したくない。
そんな事を考えながら内から感じる苦痛に耐えていると、「オビト、そこにいるの?」と誰よりも大好きな女の子の声が聞こえて、「リン……!?」と慌ててオビトは取り繕うようにガバッと立ち上がり、いつも通りの表情を意識して作って振り向いた。
「どうしたんだよ」
玄関を開け姿を見せたのは、思った通り幼馴染みの茶髪の少女だった。
そして彼女はオビトの姿を認めると「これ」と言って薬包紙を一つオビトに差しだした。
「即効性の消化促進剤だよ。胃薬の成分も入っててすぐに飲めるやつ」
と、そんな言葉を言った。
「……!? なんで……」
バレると思ってなかったため動揺するオビトに対し、リンはいつものように「もう」と傷を隠していた事を叱る時のように可愛らしく怒っていますって顔をして、けれどそれから仕方なさそうに眉根を下げて、オビトを真っ直ぐ見て言った。
「言ったでしょう、ちゃんと見てんだから」
「リン……」
思わず感動で涙がじわりとオビトの目の端に浮かぶと、リンは少しだけ後ろめたそうな顔をして、視線を足下に落とした。
「……なんてね」
それから数瞬言うか言うまいか悩むような顔をしてから、茶髪の少女は大分背が高くなった幼馴染みの隻眼の少年を見上げ、告げた。
「あのねオビト……本当は気付いたの、カカシなんだよ」
* * *
「リン、ちょっといい?」
カカシがそう右隣に座るリンにそう声をかけたのは、オビトがトイレに行くと言って居間から出て行ってすぐのことだった。
「カカシ? どうしたの」
「ちょっときて」
そういって、リンの手を引いて廊下に出ようとする銀髪の少年に、年長三人は「お、なんだこいつか」と小指を立ててからかってきたりしたが、カカシはそれを鉄壁の無表情で無視する。
(カカシ?)
困惑するリンにカカシは廊下に出るなり、胃薬をもっているかリンに尋ねて、持っていると返事するなり銀髪の少年は他の人に聞こえないよう声を潜めて、リンにこう言った。
「オビト、あいつ……今相当無理してる。多分外で風に当たってると思うから行ってあげて」
「カカシ……」
いつも見ていた筈なのに、オビトの変調に気づけなかった自分に、私医療忍者なのに情けないなァって気持ちやオビトが心配な気持ちもないわけではなかった。でも、そのカカシの言葉を聞いてリンが一番思ったのはもっと別のことだ。
「……なんで、私に言うの?」
言外に気づいたのはカカシなんだから、カカシが薬をもっていけばいいじゃないと尋ねると、銀髪の少年はため息を一つついて、少し寂しそうな顔で言った。
「オレが行っても、あいつは意地張って隠しちゃうでしょ。それにあいつは……お前に追いかけられたほうが嬉しい筈だ」
だから行ってあげて。
* * *
「…………妬けるなァ」
リンはカカシのことが好きだ。
そしてカカシもそのことを知っていることを知っている。
リンの想いを知っている上で、カカシはリンにオビトの事を追いかけろと言う。そのほうがオビトも喜ぶからと。
(狡いなァカカシは……)
リンが恋心を抱いている相手は
だって……ずっと見てきたから。
カカシが一度自分を見捨てようとしたことを、後ろめたく思っていることもリンは知っている。なんなら本人の口から聞いた。だけど、リンはそのことでカカシを恨んでなんていないのに。
オビトを一番に想ってのことではあるけど、それでも自分なんかよりオビトと一緒になったほうがリンも幸せになれると信じている、そんなカカシの心理状態が近くでずっと見てきたリンには嫌でも
(私の幸せは私が決める事で、カカシが決めることじゃないのに……)
だからといって、何も悪くないオビトを責めるような恥知らずにもなりたくないのだ。
オビトが大好きで心配だって点では、リンもカカシと同じなのだから。
だって、恋愛対象ではないというだけで、リンにとってもオビトは大切なのだ。
泣き虫で一生懸命な努力家で不器用で、でも凄く思いやりに溢れていて、無茶するところがあるから心配で目が離せない、なんだか弟みたいなもう一人の家族のような……そんな大切な幼馴染みだ。
大きな夢を元気いっぱいに語る姿はキラキラと輝いていて眩しい。頑張れとオビトに声をかける度に、リンもまたそんなオビトに元気をいっぱい分けて貰っている。
それでもそこにあるのは親愛や友愛であって恋情ではない。
カカシに対してときめいて、ドキドキと高鳴る心臓はオビト相手にそうなることはない。でもそれは仕方ないことだ。誰かに恋惹かれる気持ち……こればっかりは自分でどうにか出来るものでもないのだから。
だからかもしれない。
そういう意味でカカシがオビトの事を好きなわけではない事は知っているけど、それでも今カカシの中で一番特別な位置を占めているのはオビトだ。今までずっと見てきたからこそ、リンはオビトがすっかりカカシの特別になってしまった事に気付いた。
カカシの特別になったオビトを羨ましいと思っている。
一人の恋する少女としての嫉妬心だ、これは。
オビトの事も大切で大好きなのにそんな風に焼き餅を焼いている自分に、嫌な子だなァ私……と呆れる気持ちもある。想う心はいつだって自由にならない。
でもそれはあくまでリンにとってリンの中だけの問題だ。
オビトにそんな自分の醜い感情をぶつけるような、そんな真似をすることは自分のプライドにかけて許せない。
だから、リンは笑う。
困ったように眉を寄せながら笑って、オビトの手をそっと取り言う。
「オビトはいつも言ってるよね、仲間を守るって。守りたいって大事なんだって……でもね、オビトが私たちのことを守りたいって思うように、私やカカシもオビトのことを守りたいし、傷ついて欲しくないって思ってるんだよ。……ね、オビト。私やカカシが同じことしたらオビトも嫌でしょ?」
「あ、オレ……ご、ごめ……」
シュンと眉を寄せて、オビトは叱られた小さな子のような表情をして立ち尽くした。
そんな少年を見上げ、リンは仕方ないなァというように苦笑する。
そして渦のような皺のような傷が残ったオビトの右頬にそっと手を添えて……。
「なら、もう自分を蔑ろにしちゃダメだよ」
と言った。
「ね、オビト。オビトは、オビト一人じゃないよ。困った時は私も、カカシもいるんだから一人で抱え込むのはダメだよ」
「……うん」
そういってコクリと泣きそうな顔で肯く姿にオビトは変わらないなあと思って、医療忍者の少女は苦笑する。
のはらリンにとって振り向いて欲しいと願ってしまう男の子はカカシだ。胸がときめくのも、頬が熱くなるのも。
だけど、夢が叶って欲しいと一番応援してきた男の子は違う。
それは恋情ではないけれど、ときめいたりとかはないけれど。
それでものはらリンにとってもうちはオビトは大切で大好きな男の子だ。
彼の夢が叶うようずっとずっと応援している。
「ねえオビト……いつか火影になったら、かっこよく世界を救ってね」
その微笑みと言葉があまりにも眩しくて。
少年は恋をした。
……―――幼馴染みの少女に幾度目かわからない恋をした。
続く
次回サブタイトル「隻眼の木遁使い」!(※最終回ではありません)