この話には原作にはないオリジナル万華鏡写輪眼が出てきますのでご了承下さい。
念願の火影となってはじめて迎えた十月十日。
この日は四代目火影波風ミナトにとってとても輝かしい一日になるはずだった。
これから愛しい人が我が子を出産し、自分は父親になるのだ。
師である自来也先生の小説の主人公から名前を取り、産まれた子の名前はナルトにするとそう決めている。
波風ナルト……良い響きだ。
産まれる前からそんな風にウキウキしているミナトに妻のクシナは、「貴方は親馬鹿決定ね」とそんな言葉をかけてきたが親馬鹿でも別に構わないと思う。寧ろ名誉だ。
里長である火影である以上、家族を最優先とはいかないけれど、それでも自分の出来る限りで家族を愛し、幸せな家庭を築きたいとそう思っている。
今日がまだ見ぬ我が子の誕生日だ。
ただ……特殊な立場を持っているのはミナトだけではなく、その妻のクシナも同じである。
彼女は友好国で会った渦潮隠れの里から幼少期に木ノ葉隠れの里に連れてこられた。
初代火影であった千手柱間の妻ミトの後を継ぐ人柱力候補として……そしてそのままミト様が亡くなる際に、九尾をその腹に引き継いだ。
尾獣を宿した人柱力の扱いというのは里によって方針がまちまちであるが、木ノ葉隠れの里では公表しないこととなっている。そもそも九尾が以前表に出てきたのは今から47年前のことだ。
夏の武練祭でかの二代目火影うちはイズナの兄マダラが、口寄せとして連れてきて初代様と戦った。その後、ひっそりと初代様の妻ミト様に封印されたという事実を知る者は十人もいなかったという。
その時の武練祭の戦いでは火の国中で九尾の狐ブームが起こり、様々なグッズやお土産商品が売れに売れたという記録があるが、それでも本来尾獣とそれを体内に封じられた人柱力というのは恐れられる対象だ。
そしてそれを封じられたのが初代様の妻だったこともあり、余計な軋轢や偏見を避ける為にも彼女が九尾の人柱力になったことは伏せられることとなった。
そしてこの九尾の封印は、出産するときに弱まるという記録がある。
だからこその厳重態勢。
限られた一部の暗部と出産を補助するものや結界の補助役にだけ詳細は伝えられ、こうして今三代目の奥方であるビワコ様が陣頭指揮を執っている。こういう時は男は肩身が狭くてやることがなくて、情けない限りだなあと金髪碧眼の美丈夫は苦笑する。
そうしてやがて待望の赤子が生まれた。
「ナルト……」
ありがとうと感謝の言葉を伝えて、父親になれた喜びと、母親になれた喜びで若夫婦は見つめ合う。
そこには希望があった。これからの未来に夢を馳せていた。
……そして、ことはその時起きた。
「…………え?」
そこには男が立っていた。
いつから立っていたのかはミナトやクシナにすらわからない。
結界はなんの反応もなく、まるで男ははじめからそこに佇んでいたようにいたのだ。
青い鬼の面をした男だ。
背丈と体格はそれなりに良さそうで、伸びさらしの黒髪はピンピンと跳ねている。大きめの黒いフードのついたローブを身につけていて、なんの感情も伝わってこず、なんとも不気味だ。
存在に気付くと同時に男から伝わるようになったチャクラの気配もおかしく、まるで複数が蠢いているような、色々と混ざっているような……異質なチャクラをしている。
黒いローブから覗く手先は包帯に覆われており、右手には千本が複数握られている。
そして赤子を取り上げた猿飛ビワコと護衛の暗部数人は、体に千本が突き刺さっている状態で倒れていた。
ナルトは……産まれたばかりの我が子は男の左手に捕まれていた。
男は何も語らない。
喋らないのか、それとも
ただ、男は見せつけるように産まれた赤子……ナルトにゆっくりと右手の千本を向けていて……。
「……ッ!」
瞬時にミナトは瞬身の術を使い我が子を奪取し、そのまま安全地帯までナルトを連れて飛雷神の術で飛んだ。
「やられた……!」
とんだ失態だ。
あの鬼面をつけた男が何者かもわからない。会話は通じそうにはとても見えなかったので語りかけることすらしなかったが、恐らく男は人柱力の封印が弱まるこの機会を待って襲撃に来た敵なのだろう。
だが、一体何者なのかが全くわからない。どうして結界が反応しなかったのかも、何故極秘情報である筈のクシナの出産を知っていたのかも……だが考えるのは後だ。妻が、里が危ない。
「クシナッ!」
ミナトはまた瞬時に飛雷神の術で飛んだ。
出産後弱った体のままクシナは男に外に引きずり出され、九尾の封印を壊されそうになっていた。
彼女の血族であるうずまきは千手とも遠縁である生命力と封印術に長けた一族だ。彼女はその中でも九尾を押さえ込めるチャクラを持つ事から次代の人柱力に選ばれ、故郷渦潮隠れの里から木ノ葉隠れの里へとやってきた。
そんな彼女の生命力の高さは折り紙付きだ。
「っく……!」
出産後で弱った体ながら、鬼面の男を気丈に睨み抵抗を続ける。
もしも彼女が万全であれば、こんな失態は犯していなかっただろう。
尾獣が抜かれた人柱力は死ぬ。それが世の理だ。やっと愛する人と結ばれたのに、やっと母親になれたのにこんなところで死ねない。それに、九尾を暴れさせることも四代目火影の妻としてさせやしない。
だが、今の彼女はあまりにも無力だった。
ただでさえ出産は命がけだ。というのに、人柱力である彼女は出産の最中ずっと自身の腹に封じられた出てこようとする尾獣をも押さえ込まなければならないのだ。子供を産む、ただそれだけで体力も気力もチャクラも大いに削りに削られた。
ここまで不調な状態の経験などそうはない。
それでも、男に抵抗する。
彼女にとっても、里にとっても不幸中の幸いと呼べるのは、封印術の類いを得手としていないこの男には完全体九尾をどうにか引きずり出せる力量がなかったことだ。ミナトが戻ってくる……その直前に鬼面の男は自分にこれは扱いきれぬと判断したのか、九尾の八割を引きずり出し、己の写輪眼で幻術にかけて、里へと向かわせた。
「ああああ~~~!!」
無理矢理封印を破られ、九尾が彼女の経絡をズタズタにしながら顕現する。
幸い、といっていいのか、必死の抵抗により尾一本分のチャクラだけが彼女の体内に残され、うずまきの生命力もあり即死はしていないが、危うい状態なのは一目瞭然であった。
「……クシナ!」
戻ってきた男は妻の体を抱え上げ、それから現われた九尾を見上げる。
禍々しく恐ろしい最強と謳われた伝説の尾獣の、瞳に浮かんでいる模様に驚きの声を上げる。
「あれは……写輪眼!?」
だが、普通の写輪眼ではなかった。花びらのような、手裏剣のような模様をしている。
九尾はすぐさま男のかけられた幻術のままに里へと歩を進める。
……思考はあとだ、今は時間がない。
ミナトは再び飛雷神の術で妻を我が子の元へと運んだ。
「……あなた」
「行ってくる」
そして四代目火影の白と赤のコートを羽織り、再び飛び鬼面の……恐らくうちはであろう男と対峙した。
手練れだ。
そう、波風ミナトは直感した。
ミナトは忍界最速と呼ばれ、現雷影とも何度もやりあい、他国にはそいつを見たらすぐに逃げろと恐れられている第二次忍界大戦の英雄だが、そんな並の上忍や暗部達など寄せ付けない強さを持つミナトから見ても、男には隙がない。
左に手首の錠で繋いだ鎖鎌、右に千本という一風変わったスタイルながら、どこまでも自然体で堂に入っている。
そしてミナトは火影として様々な知識をその優秀な頭脳に叩き込んでいるが、こんな男に覚えがない。
「貴方は一体何者だ……?」
写輪眼を持ちそれを使いこなしていることからして、おそらく間違いなくこの男はうちはの忍び……である筈だ。
しかし、木ノ葉隠れの里が出来て60年が経つが、その木ノ葉の歴史の中でうちはの抜け忍の話など聞いたことがない。妻の友人の夫がうちは一族の族長であることもあり、ミナトはうちは一族のことについてもそれなりには詳しい。彼らは偉大なる二代目様うちはイズナに強い誇りを持っており、木ノ葉警務部隊やアカデミー教師などを中心に様々なところで活躍している。
難点としては優秀なものが多いためか、エリートとして鼻にかけた態度のものがそこそこいるというくらいで、それも彼らのプライドを肯定して付き合えばそこまで問題になることもないし、彼らが優秀なのはただの事実である。それでもこんな男をミナトは知らない。
それに、もう一つ引っかかっていることがある。
なんだかチャクラが複数混ざっているような、異質な気配がある上に、精錬された佇まいとは裏腹に、この男からは意思をまるで感じられないのだ。
「いや、貴方が何者であろうがどうでもいい」
木ノ葉の敵ならば排除するだけだ。
その後で死体からその正体を明かせば良い。そもそも、言葉が通じそうにもない。ならば、語り合うこと自体が無駄だ。
そして、駆けた。
黄色い閃光の名にふさわしい高速移動からの一撃。それを苦も無く鬼面の男は恐ろしく精錬された動きでいなし、鎖鎌でカウンターと千本の投擲からの牽制と同時に鋭い回し蹴りを放つ。
無論、そんなものを食らう忍界最速ではないが、この攻防からも男が得手とするのは体術なのだろうと推測をつける。少しでもいい。触れることさえ出来れば、マーキングをつけることが出来るのだが勘が良いのか、ミナトの手が触れそうになれば使い捨ての千本で遮られ、不発に終わる。
先ほどから途切れることなく千本を出しているのは、腕の包帯の下に口寄せ用のバンドでも仕込んでいるのだろう。
……里に向かった九尾の相手は三代目猿飛ヒルゼンがしてくれると信じているが、それでもあまり時間をかけていられない。
隙が無ければ無理矢理作れば良いのだ。
これまでの観察の結果だが、男は手練れであるという己の予想は当たりだろう。だが、それは自身に染みついた動きで対応しているというだけで、そこに鬼面のうちはらしき男の意思は窺えない。反射だけでここまでの芸当が出来る時点で凄いといえば凄いが、それが命取りになる。何故なら、意思がないということは駆け引きが出来ないという事だからだ。
故にこうしてフェイントにひっかかる。
男の持つ鎖鎌にマーキングを刻むことに成功し、そこから避けることが出来ぬだろうタイミングを計って飛雷神で飛び、波風ミナトオリジナル忍術である螺旋丸を叩き込む。
少し手間取ったが、これで終わる……筈だった。
『
鬼面越しに男の右目から血が流れ、不自然な動きで男は体の軌道を無理に変える。
まるでどこになにが来るのか知っていたみたいな動きだった。
だが、どこになにが来るかわかっていようと、閃光の如き一撃を完全に避けることなど出来やしない。顔面真ん中に叩き込むつもりだったが少し狙いははずれ、螺旋丸で削れた仮面の下半分が割れる。
ゾクリ。
ミナトの背に悪寒が一つ。
割れて露出した男の口元は、悍ましいほどの呪印の黒がビッシリと虫のように蠢いていた。
「ア……ァアア~……!!」
嗄れた声だった。泣き疲れた子供のようにも、朽ちていく老人のようにも聞こえる声だった。
男の異常さに眉に皺を寄せるが、ミナトは躊躇なく次の瞬間胸部にも螺旋丸をもう一発打ち込もうとして、やはり狙いは逸らされた。それでも完全に避けきることが出来なかった男の脇腹からは夥しい血が流れる。
ここまで来ればもう勝負は決まっている。しかし、それでもトドメを刺すことは出来なかった。
地面に起爆札でも仕込んでいたのか、爆発が起き、煙幕がかかる。
すると、白い何者かが血を流し倒れる男を掴んで回収し、去って行った。
追いかける事を一瞬考えるが、妻の状態の事や、里に向かった九尾のことを考えればそんな時間は無い。
ミナトは再び、妻子の元に飛んだ。
「遅くなってすまない」
「……ミナト」
我が子を抱きしめる愛おしい女性を抱きしめてあげたい気持ちはある。
だが、一人の男である前に波風ミナトは火影……木ノ葉隠れの長だ。そして人柱力であるクシナの夫になることが火影に就任する前から決まっていた。
だからこそ、ミナトは妻であるクシナからうずまきの封印術の知識をいくつも受け取っている。尾獣のことについてだって、この里でミナトより詳しい男などそうはいないだろう。
故にわかった。
(まだ、間に合う)
通常人柱力はその体から尾獣を抜かれれば即死する。
クシナもいくらうずまきの膨大な生命力があったところで、完全に尾獣が引き出されていたら死は免れなかっただろう。だが、彼女の体内にはまだ九尾の尾一つ分のチャクラが残っている。
今なら、この尾一つ分のチャクラが抜けきる前に尾獣を戻せば……元より生命力に長けたうずまき一族のクシナならば、命は助かる筈だ。
それでも時間はないし、経絡がズタズタになった彼女の中に全ての九尾を戻す事は無理だ……尾獣の中でも最強と名高い九尾のチャクラ量は並ではない。その負荷に彼女の体が持たない。
故に波風ミナトは四代目火影として、クシナの夫として決断する。
「クシナ、これから九尾を君とナルトに……陰陽分割して再封印する……良いね?」
「……! そんな」
「それしかない。わかるだろう……? もう時間が無い」
そう火影として告げる夫に、イヤイヤするように赤い長い髪が美しい妻は首を振る。
「ナルトに……そんな重みを背負わせたくない……!」
彼女は九尾を抑えられるチャクラを持つからと言う理由で幼い頃にこの里に連れてこられた。最初っから人柱力になることが決められた存在だった。それでも前任者であるミト様が「先に器に愛を注いでおけば大丈夫」だと言ってくれたから、愛する人と結婚して子供を授かれたから彼女は幸せだった。
この里では人柱力がいることすら上層部以外には伏せられていたから、彼女が人柱力であるからといって偏見の目でも見られることもない。だからといって、人柱力であることが重くなかったことなんてなかった。自分の中に、自分よりも膨大なチャクラをもつ化け物が済んでいるのだ、それを暴走させれば人里一つ潰すのなんて簡単だ。そこにはプレッシャーがあった。
そんな重みを、息子に分散させて背負わせるというのだ。
理性では火影としてその判断を下したミナトに納得している。だが、本心では酷いと、母親として思ってしまうのだ。
そんな彼女を優しく撫で、夫である波風ミナトは言う。
「ナルトなら大丈夫だ。オレたちの息子だよ……ナルトを信じよう」
「…………うん」
ややあってコクリとクシナは肯いた。
そしてミナトは再び愛しい人と我が子を抱いて外に出る。
それから封印の用意が済み次第、次は里に飛び、写輪眼の幻術にかかり三代目達と戦う九尾に触れ、九尾ごと封印の用意した場へと飛雷神の術で飛んだ。
これでもう里で九尾の被害が広がることはない。
「……く」
だが、代償は決して軽くはなかった。
飛雷神の術は習得難易度が恐ろしく高いわりにはコスパはそこまで重い術ではない。だからこそこれを多用した高速戦闘でミナトは武名を馳せた。
しかし、それはあくまでも人一人が飛ぶのなら、という注釈がついてくる。
それが、九尾のような巨体毎飛ぶとなればそのコストは鰻登りに上がる。
それにより波風ミナトの残存チャクラは大幅に減った。
「私だって……まだ、戦える……!!」
クシナは、出産に続き無理矢理九尾の大半を引きずり出され、経絡をズタズタにされた後とは思えないスタミナを発揮して、うずまき伝来の捕縛術でもって九尾の巨体を捉える。
クシナから伸びた鎖は九尾に絡みつき、その四肢を縛り上げると二人はすぐさま再封印をしようとした……だが、誤算だったのは思っていた以上に疲労していたことか、九尾の底力か。
「……!! ミナト……!」
前右足を縛っていた鎖が外れ、九尾の爪が自分を再封印しようとする夫婦を貫こうと迫る。
思わず妻が叫び、妻子を庇うように四代目火影を襲名した男が前に出る。
(間に合わない)
意識だけが引き延ばされ、スローモーションのように迫る爪。
ふと、一年前の記憶が何故かミナトの脳裏によぎる。
『オレ、先生に何かあれば飛んでいくから。絶対飛んで助けにいくから……!!』
そう黒髪の弟子は言った。
そして……。
「……間に合った……!」
九尾の爪が四代目夫妻に振り下ろされることはなかった。
何故ならそこに彼はいたから。
黒い髪に眼帯代わりの額宛の布を風に揺らして、いつの間にか随分と大きく広くなっていた背中を自分たちに向けて、作り物の右腕から直接樹を生やしながら九尾の爪を受け止めている。
「―――オビト……」
隻眼の木遁使いがそこにいた。
続く
鬼面のうちはの万華鏡写輪眼
右目:
詳細:???
左目:
詳細:???
この小説オリジナル万華鏡写輪眼
目の能力の詳細はいずれ作中で書くかも知れないので伏せますが、神威とかいうどこぞのチート眼と違ってどっちかというと外れよりの万華鏡写輪眼で、普通にバリバリうちはらしい性能をしている。使い手と使い方によってはそれなりに厄介。
時空間忍術ではない。
次回14話「扉間という男」ファイ!