隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
鬼って中国では幽霊の事らしいですぞ。そんなこんなで16話です。


16.マダラの眼

 

 

 

 ……嗚呼、まるで酷い悪夢だ。

 そうだ、これは夢。

 現実なわけがない。

 無駄に痛む体も、悲鳴を上げ続ける心も、オレと同化した彼女も、オレに埋め込まれた友の心臓も。

 有り得ない、有り得てはならない。

 オレだけが生きているなんて有り得ない。

 だからこれは悪夢。

 その証拠にほら、オレの意思でオレの体は動かない。

 まるで操り人形(マリオネット)のようじゃないか。

 ……いいさ。

 どうせ夢なんだから、どうでもいい。

 痛い。

 削られた腹から血がダバダバ出ていた筈なのに、ほら、もう血は止まっている。

 懐かしい匂いがする。

 気のせいだと誰かが囁く。

 ここは大事な場所だと、やめてと友や妻の声が響く。

 勘違いだと、お前に大切なものはないのだと黒いミミズがのたまう。

 嗚呼、痛い、居たい、遺体。

 オレは死体。

 白衣を着た何かが、誰かが叫んでいる。

 何を言っているのかノイズだらけでわからない。

 それを草を刈るように、鎖鎌で切り裂いて、血の海の中を駆ける、駆ける。

 辿り着いた先で左目が瞬く。

 目は熱く、霞む。

 ぽたりぽたりと、赤い花。

 ……何も問題は無い。

 はて? 

 問題とはそもそも何だったのか。

 わからない。知らない。覚えていない。

 考える必要もない。

 

「あ……ぁああ……」

 

 何もわからない筈だったのに、求めた先のそれだけは何か解った。

 禍々しくておぞましい鮮やかな赤。

 懐かしくて苦々しい……傲岸なその眼差しが大っ嫌いで……不遜な物言いが憎たらしくて、それでも認めて欲しくて、無視出来なかったそれに、悲しいのか嬉しいのかもさえもわからなかった。

 

 

 

 16.マダラの眼

 

 

 その日、木ノ葉の三忍の一人にして、木ノ葉忍術研究所の主任を務める大蛇丸の元にその報告がやってきたのは九尾事件が収束した三時間後……初代所長である千手扉間の死が忍術研究所に伝えられた一時間後の事であった。

 曰く、九尾事件のどさくさに紛れて賊が扉間の研究室に侵入したと。

 それがわかったのは侵入口と思われる研究所一階の窓から扉間の研究室までの道中で、職員三人が鋭利な刃物で首を切り裂かれて死体となって転がっていたからだ。

「なんですって……!?」

 いつもの白衣ではなく、戦装束を着た大蛇丸が厳しい表情で報告をした部下を睨み付ける。

「扉間様の研究室には超一級の結界が張ってあった筈よね、それはどうなったのよ」

「それが……結界にはなんの反応もなく……」

 その報告に苛立たしげに、大蛇丸は自身の長い黒髪を掻き上げた。

(こんな時にダンゾウは何をしているのよ……!)

 千手扉間が作り上げた火の国最大の忍術研究機関木ノ葉忍術研究所の二代目所長を務めているのは、かつての扉間の教え子の一人であった志村ダンゾウである。

 志村ダンゾウ。

 三代目火影猿飛ヒルゼンの盟友であり、ヒルゼンが火影に就任する前の当時は良く二人でツーマンセルで任務を熟すこともあったという幼馴染みの男。

 本人自身も風の性質変化を使いこなす凄腕の忍びであり、同時に冷酷ながらも数々の研究で成果を上げている先達であるが……大蛇丸からしてみれば、面白くない存在である。

 一番気にくわない点は、彼が未だに二代目所長の座を誰に譲ることもなく座り続けている点だ。

 初代所長であった千手扉間。

 初代火影の弟であった彼は木ノ葉忍術研究所に忍者アカデミーの設立、数多くの禁術を含めた術の開発に、政治面でも兄柱間や、二代目火影であったうちはイズナの補助など様々な功績と実績を残している、創設期から陰に日向に木ノ葉隠れの里を支え続けてきた偉人だ。

 中には同じ研究者である大蛇丸の目からみても、それはどうなの……? と言いたくなるような表にはとても出せないような弩級に外道な研究も含まれていたりするし、実の兄の細胞だろうが平気で研究材料にするという論理感を疑わざるを得ないような側面ももっていたりするが、それらは無神論と合理性を追求しすぎた結果であり、彼自身は研究者にしては珍しいくらいにわりと真っ当で人格者な一面も持ち合わせている。

 敵には欠片も容赦が無く手段を選ばないが、生きている身内に対しては情に厚く父性的な男なのだ。……まあ死んだら例え身内相手でも研究素材扱いなのだが。

 そんな男は二代目火影であったうちはイズナが引退するのに伴って、研究所所長の座とアカデミー校長の座を自分の教え子達に譲っている。それからは、あくまでも一研究員という立場を崩すこと無く、三代目政権に干渉することもなく淡々と里の為に尽くしてきた。それが千手扉間という男だった。

 そして三代目火影である猿飛ヒルゼンは大蛇丸にとってかつての上忍師であり、尤も敬愛している相手だ。

 教授(プロフェッサー)と呼ばれ、木ノ葉に現存する数多の術を解き明かした師の直弟子であることを誰よりも誇りに思っている。

 先ほどの九尾事件の際も、四代目ミナトが駆けつけ九尾ごと飛雷神で飛ぶまでの間、師である三代目火影猿飛ヒルゼンとかつて師と三人一組(スリーマンセル)を組んでいたうたたねコハル、水戸門ホムラを主力として九尾の狐と戦っていた。その現場に大蛇丸もまた駆けつけ、共に九尾と戦ったのだ。

 久方ぶりの師と共闘出来た事に不謹慎であろうが、大蛇丸の心は歓喜を覚えた。

 しかし、その現場に忍術研究所所長である志村ダンゾウはいない。

 彼は、かつて歩き巫女と呼ばれたくノ一薬師ノノウの経営する孤児院に今出向いているので、そもそも里にいないからだ。

 それは前々からの予定であり、偶然とも言えるのだがそんな所も含めて大蛇丸はダンゾウが気にくわない。

 何故なら、先代所長である扉間は二代目火影が表舞台を去ると共に彼もまた引退を表明し、以来一研究員というスタンスを崩す事は無かった。だというのに大蛇丸が誰より敬愛する師三代目火影猿飛ヒルゼンが引退を表明したというのに、ダンゾウは自身の地位をそのままとしたのだ。それが師への侮辱に思えて大蛇丸は気にくわないのだ。師が表舞台を去るのならお前も去れよという話である。

 幸いにも、この状況は使える。

 ダンゾウが里にいない今この研究所で一番地位が高いのは主任を務める大蛇丸だ。

 しかし、彼自身には九尾と直接相対し交戦していたという確かな動かぬ功績がある。

 そしてこの忍術研究所で一番偉いのはダンゾウで、その不在時に侵入者を許したとなれば、その責任を追求するのも然程難しい話ではない。

(この機会に引退して貰いましょうかねェ)

 内心蛇が舌なめずりするような気持ちを押し込めて、人望ある次期所長候補に相応しい態度で大蛇丸は部下に問う。

「それで? 侵入してそれで終わりじゃないでしょう? 何を盗まれたの……?」

 大蛇丸は千手扉間という男をよく知っている。

 確かに人格者の一面も存在しているが、研究者としてみれば彼が取り扱うものは大概碌でもないのも確かだ。多分、何を取られていたとしてもダンゾウの責任を追及し、追い落とすには容易い重要なものしか彼の研究室には置いていない事だろう。

 それでも尚、大蛇丸は部下に言われた言葉に耳を疑った。

「そ、それが……柱間様の細胞を培養した物の一部と……歩く鬼神……うちはマダラ様の眼です」

「……なんですって……?」

 千手扉間が柱間細胞を研究していることは同じ研究員の中で広く知られている、それでも彼がマダラの眼を手中に収めていた事はあまり知られていない。

 当然だ。

 マダラは敵ではなく同じ木ノ葉の忍びで……しかも彼には遺体の引取先である実の娘が亡くなった当時まだ生きていた。それに写輪眼はうちは固有の血継限界であり、彼らの誇りである。普通に考えてうちは一族が渡す筈がない。しかし、それを扉間が所持しており、密かに研究を重ねてきた事を大蛇丸は不思議には思わなかった。寧ろ、扉間という男をよく知る者ほど、やりかねないと思うだろう。

 そしてその眼を持っていたということは……。

「二代目様……真眼のイズナの眼は……?」

「それが、そちらには手つかずのようでして……犯人は初代様の培養細胞と、マダラ様の眼だけ持って逃走したようなのです……」

 嗚呼、やはり扉間は弟の眼のほうも確保していたか。

 そう思いながらも、今聞いた情報を元に大蛇丸の優秀な頭脳が高速で回転する。

 二代目と扉間は生前親しくしていたようであるが……対象が亡くなったのであれば、荼毘に伏す前に万華鏡写輪眼に至ったその眼を確保するくらい扉間はやってのけるだろう。その研究が未来の里の為になると信じている、そういう男なのだから、もしかすれば同じく扉間のことを理解しているイズナ自身も、そうなる未来を予測した上で黙認していたのかもしれない。

 その兄であるマダラもどうだろう。

 扉間とマダラはあまり仲が良く無かったと聞く。それでもマダラとイズナの兄弟は御伽噺に一セットにされるほど仲の良い兄弟であったのだから、弟の意思を尊重しかつての盟友たる扉間に眼が渡る事も黙認したのかも知れない。そんな男は自分の死後己の眼ももっていかれることくらい予想がついただろう。だが今際の際に「イズナや柱間のいねェ世界に興味はねぇ」と言い残して亡くなった彼の鬼神であれば、死後の自分の目の扱いなどそれこそどうでもいいと思っていたそんな可能性がある。

 かくしてうちは兄弟の、万華鏡写輪眼は扉間の研究室にひっそりと納められた。

 だが、そのことを知っている者は殆どいなかった筈だ。

 現にこの忍術研究所主任である大蛇丸でさえ知らなかった。その可能性を全く考えてなかったといえば嘘になるというだけで。この目の前で報告をしている部下だって、扉間が亡くなり、賊が彼の研究室に侵入した事が判明しなければ……そして、盗まれた物がなんなのか資料を基に確認するまでは、扉間がまさかかの有名なうちは兄弟の遺体から眼を盗み保管していたなど想像もしていなかった筈だ。

 ……扉間が御伽噺に語られるうちは兄弟の眼を保管しているなど、そう誰も知らなかったはずなのに。

 しかし、犯人は脇目も振らずまっすぐに扉間の研究室に向かったのだという。

 そして同時刻に、九尾の襲来で誰も助けに来ることが出来ない状況下で、結界に閉じ込められアカデミーで敵の襲撃を受けて、犯人こそ撃退するも、人質代わりだったのだろう子供達を守り抜いて絶命したという扉間。

 偶然にしては出来過ぎている、つまりこれは偶然ではなく作為だ。

(九尾事件は陽動で、こちらが本命だったと見た方が良さそうね……)

 あれほどの大事件を起こした犯人の目的は柱間細胞と、マダラの眼の奪取とは……。

 初代様の細胞はわかる。適応しなかった時の致死率というリスクがあったとしても、適応出来たときのメリットは半端でなく、研究素材としてこれほど魅力的なものはそうはない。

 しかし、解せないのはもう一つ持ちだしたものが何故マダラの眼だったのかという点である。

 確かに初代火影と渡り合ったといううちはマダラは優秀だったのだろう。

 万華鏡写輪眼開眼者という時点で、他のうちはとも比べられない価値がある。

 だが、それならイズナだって同じでは無いか。

 初代火影のあとを継ぎ二代目火影になったうちはイズナには人望やカリスマがあった。絵本でこそヒロイックに書かれているが、生前何度か接したことのある大蛇丸の眼から見た彼は、落ち着いた仙人のような物腰の男であった。強いのかも知れないが、自分の強さを無駄に誇示するような振る舞いもせず、底を見せない……ある意味忍びらしい男でもあった。

 仲の良い兄弟だったからこそ、マダラとイズナが争う姿を見た者はついぞおらず、どちらが格上かはわからないが、イズナは兄を差し置き火影に選ばれている時点で実力面でも不足なしという見解をされていた筈だ。

 そして兄と同じく万華鏡写輪眼をイズナもまた開眼している。

 ……となれば、どちらか片方しか選べないのなら、あくまでもうちはの族長で初代火影の補佐止まりだった兄よりも、二代目火影に就き数々の功績を残した弟の眼を狙う方が自然では無いか。

 しかし、実際問題として犯人はイズナの眼になど目もくれず、柱間細胞と二代目の兄であるマダラの眼のみを持って逃走した。

 そこには意味があるはずだ。

 イズナではなく、マダラの眼ではないといけない意味が。

 とはいえ、あまりにも情報が不足しているので、現時点では大蛇丸に分かる点は九尾事件はおそらく陽動で、犯人ははじめから柱間細胞とマダラの眼を目的としており、だからこそ持ち主である千手扉間が邪魔だった為暗殺に及んだという部分のみだ。

 どちらにせよ初代様の細胞とマダラの眼を使って犯人が何をするつもりかはわからないが、碌でもない事だけは確かだろう。

「何、ぼさっとしているの、早く四代目に報告に行きなさい」

 長い髪を靡かせて、優雅に足を組み大蛇丸はカリスマたっぷりにそう部下に命じた。

「敵の狙いはマダラ様の眼だったと」

 

 * * *

 

 九尾事件は十月十日夜のうちに四半刻足らずで終息を迎えた。

 犠牲となった死者は総勢十四名、負傷者は百三十七名。

 あれほどの騒動のわりに被害が少なく済んだのは、色々な要因があった。

 まず一つに、襲撃者が結界内に侵入した際に使った武器が千本であったこと。

 千本は医療忍者を中心に使われることが多い殺傷力の低い武器だ。犯人にそのつもりがあったかは依然不明であるが、邪魔されないようにか千本は猿飛ビワコや護衛の暗部達の仮死状態のツボへと正確に打ち込まれていたため、彼らは後に息を吹き返した。

 二つ目に、迅速な九尾への対応。

 九尾が里に顕現すると同時に、ミナトが実行犯と交戦する際、里で九尾の相手をしていたのは三代目火影猿飛ヒルゼンとかつての班員だったうたたねコハル、水戸門ホムラ……そして三忍の名で知られた大蛇丸という里でも弩級の実力の持ち主であった。その的確な指示もあり、九尾と交戦するのは年長の上忍クラス以上に限られていたが、無駄死にする数が減らせたのは四人の活躍が大きい。

 三つ目に、避難の徹底。

 これは主にうちはオビトと警務部隊の功績といえる。警務部隊自身力なき民を守るために奔走していたのもあるが、それ以上に目を見張るべきだったのはオビトの功績だ。彼は自力で避難することが難しい人間や、警務部隊の眼が届かない場所も正確に把握していた。それを六体の木遁分身を使い、うちはの火遁より守ることに向いた木遁忍術を駆使して、瓦礫の下敷きになった年寄りや女子供も迅速に救出していった。

 木遁はこれまでの歴史上、初代火影であった千手柱間しか発現したことのない希少な属性だ。それを使いこなし、「生きてて良かった」と「もう大丈夫だ」と笑いながら手を差し伸べる少年に、年寄り達が何を重ねたのかは言うまでもない。

 誰が呼び出したかその少年……うちはオビトの二つ名「隻眼の木遁使い」は一晩で里中に広がり、救われた者はオビトを英雄と呼んだ。

 そして四つ目の要因であるが……病払いの蛞蝓姫、三忍の一人加藤綱手がこの里にいたことだ。

 どんな重傷を負おうと生きてさえいれば、綱手はその命を繋いで見せた。

 もし綱手がこの里にいなければ、別の世界線で命を落としたうみのイッカクを含む多くの忍び達の命もまたこの場になかったことだろう。

 かくて、九尾が顕現したにしては少ない被害で事件は終息した。

 されど、その亡くなった十四人の死者のうち一人が彼の偉大なる初代火影の実弟だった千手扉間であったことは……政治的な配慮を見て、今はまだ伏せられていた。

 

 うちはオビトが四代目火影の執務室に呼び出されたのは、九尾事件が終息したその翌日の事だ。

「四代目様、うちはオビト呼び出しに応じ、参上しました!」

 そうゼエゼエと息を乱しながら少し遅れて到着した愛弟子は、今日もどこかで誰かを助けてきたらしい。

 そんな少年にいつもなら苦笑するところだが、あくまでも波風ミナトは彼の師ではなくこの里の四代目火影として、真面目な顔をして「ん! よく来てくれたね」と答えた。

 金髪碧眼の爽やかな優男然とした若き火影には、昨日の疲れなど見えず、あったとしても完璧に隠し通しているのだろうことが窺えて、益々黒髪隻眼の少年は師への畏敬の念を深めた。

 だが、何を言われるのかわからなくてオビトの胸がドキドキと嫌に鼓動を煩くする。

 クシナさんがどうなったのかも気になるが、自分が赤子に施した封印も問題が生じていないか不安で仕方がない。師が大丈夫だと言ったなら大丈夫なのだが、それでも心配なものは心配なんだ。

「警務部隊のほうから話は聞いたよ」

「……はい?」

 ちょっとオビトが心配していたほうとは別の方面からの話を降られて、隻眼の少年はマヌケ面で呆ける。

 そんな少年を見ながら、ミナトは厳しい表情を浮かべる。

「オビト、命令違反はいけないことだ、それはわかるね……?」

「……はい」

 それに犬塚の先代当主の弟に、若い忍びには避難命令が出ている、と言われた時のことを思い出してオビトは肯いた。

「昨日は助かったけど……君の勝手な行動で逆の結果になることも十分考えられたんだ。ルール違反には罰が下される、それはわかるね?」

「……わかっています」

 お前は上からの命令を無視する気かと叱責されたとき、『例えルールや掟を破ることになろうと……!! オレは仲間を……木ノ葉の皆を守る!! それがオレの忍道だ……!!』そう啖呵を切って飛び出したのはオビトだ。彼だってわかっている。犬塚の男はオビトの身を案じていたことくらい。それでも、自分の言った言葉を口先だけにしたくなかったのはオビト自身の我が儘だ。ならば、その結果罰を食らうというのならそれも甘んじて受けるべきであり、それが責任というものだ。

「ん! よろしい。ではうちはオビト中忍、罰として木遁を使った里への無償での復興作業労働への参加を命じる」

 あ、期間は一週間ね。

 そう、厳しかった顔を見慣れた笑顔に変えて、波風ミナトは爽やかに言う。

 オビトは一瞬言われた意味が分からず呆けて、それから目の前の火影傘を被った師を凝視した。

「え……? えー!!? 木遁、使っていいんですかァ!?」

「まあ、今更だよね」

 オビトは木遁を自衛出来る力がつくまで人前で使うことを扉間に禁じられていた。しかし、昨日は里の危機ということで大々的に隠しもせずに使ってしまっている。

(まさか、カカシより先にオビトに二つ名がつくなんて思ってもいなかったな)

 なんて苦笑しながらミナトは思う。隻眼の木遁使い。中々格好いい名前じゃないか。

「もう、君が木遁を使えることは里中が知っているよ」

「それは……う、はい」

 そう、ここまで来ればもう隠す事は出来ない。

「だからその力を使って復興を手伝うんだ。それが君への罰だよ」

 だが、それはオビトにとって全く罰になっていない罰だ。何故なら、オビトは普段から年寄りの荷物を持ったり、迷子を届けたりと言ったボランティア活動に本人にはその認識がないまま従事している。誰かの為に働く事が苦にならない男なのだ。そんなオビトにとっては一週間の無償労働……それが里の為になることとなればそれは罰になっていない。

 要は、この罰はパフォーマンス、見せかけのものだ。

「ミナト先生ェ……」

「ここでは四代目だよ」

「四代目、ありがとうございます……!!」

 感動にジーンと涙の膜を張りながら、勢いよくガバリと頭を下げて感謝しながら出て行った部下を見送り、にこやかな笑顔から一転、無表情に切り替えてミナトは思う。

 さて、どのタイミングであの子に……扉間様の死を伝えるか、と。他にも問題は山積みだ。

 木ノ葉忍術研究所から伝えられた彼の研究室への襲撃と奪われたもの。

(犯人の狙いはマダラ様の眼だった、か)

「……フガクを呼ぶか」

 その青い眼はどこにいるかも知れぬ敵を睨むように、山向こうを見据えていた。

 

 続く




次回政治回「推測」!
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