隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
今回で第一部少年編は完となります。


19.旅立ち

 

 

 

 その日は少年の旅立ちを祝福するような快晴だった。

 

「相変わらずのアホ面だの」

 それが木ノ葉隠れの里が誇る三忍の一人、自来也の第一声である。

 うちはオビトにとって、人生三人目の師となる蝦蟇仙人……自来也との顔合わせは慰霊式典が行われる予定の二時間前……早朝7時が指定されていた。

 が、まあそこは遅刻の常習犯のオビトである。

 早朝というのは老人がよく活動している時間でもあるので、今日も今日とて困っている老人に出くわした結果、約束の時間を20分ほど過ぎてオビトは火影塔の面談室に辿り着いた。

「……ギリ、か?」

 ぜぇはぁと息を整えて、そう少年が呟くと立ち会ってくれることになっている師の影分身は「うーん、アウトだねェ……」と苦笑しながら零す。

「ミナトよ、本当にこやつにワシが面倒を見る価値などあるのか? 中忍のくせに時間も守れんとはどうかと思うぞ」

 そう白髪の大男は呆れたと言わんばかりの顔と声でオビトを見下ろし、言う。

「うぐ」

 これが数年前なら……若しくはカカシが相手ならしょうがねぇだろ、途中でぎっくり腰のじいちゃんに助けを求められたんだ、無視出来るかァ! と返していたかもしれないが、今日顔合わせする予定だったこの人はこれから自分の面倒を見てくれる予定の人である。それに、理由はどうあれ、オビトが遅刻し迷惑をかけたのは紛れもない事実だ。

 それに年上は敬うべきだ。

「遅刻して、すみませんでしたー!」

 なのでガバリと勢いよく頭を下げて誠心誠意謝った。

 それに師波風ミナトの影分身は「ん! ちゃんと遅刻を謝れるようになって……偉いよオビト」となんだか父親じみた態度でほろり、と泣いてもいないのに涙を拭うような仕草をしている。

 そんな弟子と孫弟子のやりとりに、自来也はしシラッとした目を向けているが、片方は頭を下げっぱなしで見てもいないし、片方は見ている上で敢えてスルーしている。

(早まったかのぅ……)

 自来也がオビトの面倒を見るように現火影である弟子のミナトに依頼されたのは、数日前のことである。

 うちはオビト。

 かの高名な歩く鬼神うちはマダラの曾孫でありながら、長いことうちはの落ちこぼれと言われていた少年。泣き虫で遅刻癖が酷くて飴玉を口に含んだまま火遁を使おうとして不発になるなど、そそっかしくてドジと……まああまり学校や下忍時代の評判は芳しくない一方で、年寄りの手助けが趣味で普段からボランティアとも呼べる作業に取り組んでいる彼は、雑用が主となるDランク依頼達成率と達成スピードには目を見張るものがある。

 とはいえDランクは所詮は雑用。

 木ノ葉隠れに住んでいるジジババ全てが顔見知りと豪語し、里に住む年寄り全員の顔を覚えている彼は凄いのかもしれないが、忍びとして評価するにはなんともまあ微妙な所である。

 しかし、そんな彼だが神無毘橋破壊任務でその半身を犠牲にして仲間を守り抜き、第二次忍界大戦の終結に大いに貢献しているし、おまけにあの致死率の高さで一度は実験中止となった柱間細胞を使った義肢疑似臓器の被験者で、見事に適応し今はうちはの火遁だけでなく、初代様由来の木遁までつかえるようになったし、うちはの代名詞たる写輪眼も開眼している希有な存在でもある。

 それにうちはオビトは何が琴線に触れたのかはしらないが生前の千手扉間にも気に入られていて、その庇護下におかれていた際に色々個人授業を受けていたらしいので、なにかしら光るものを持っているのだろうが……。

(ただのアホガキにしか見えんの……)

 と自来也は思った。

 因みに顔合わせとはいうが別に今日が初対面ではない。

 なにせ相手は一番出来が良かった弟子波風ミナトの直弟子なので、数年前に一度だけ顔を合わせたことはある。が、その時もあまり印象には残らなかった。自来也の印象に残ったのはかの白い牙の息子であるはたけカカシのほうであり、オビトやリンに対する印象は対して残っていない。せいぜいアホ面と素直そうなくノ一といったくらいのものだ。

 はたけカカシは刺々しい空気にクソがつくほど真面目で口うるさい可愛げのない子供であったが、その忍びとしての才覚は父親譲りの本物で、かつ精神的には不安定な所もある危うっかしいガキだった。生前のはたけサクモには世話になったこともあり、これがあの白い牙の息子かと、感心と心配を同時に覚えたものだ。

 まあ、とはいえ自来也は誰より出来た弟子だったミナトの事は、そのネーミングセンス以外は信頼している。

 そのミナトが何も言わないということは今のカカシには問題がないのだろうし、わざわざ自来也にこの少年を預けるというというのは、政治的な事情を除いても、このガキになんらかのものを見出しているのだろう。

 弟子に対する期待か、それともそれほどの人物になるという直感か。

 それに自来也には大ガマ仙人から下された予言がある。

 自分の弟子が世界に変革をもたらす存在になるだろうと、どう導くのかで忍び世界の運命が決まるとそういう予言だ。

 だから彼は予言の子を探して世界を放浪している。

 まあ里の忍びとして仕事もせずとはいかないから、諜報任務などをこなしながらだが……他の忍びより多くの弟子をとっているのもその予言が頭にあるからだ。

(まあ、流石に予言の子はこいつではないだろうがの)

 ジロジロと上から下までうちはオビトという少年を見下ろしながら自来也は思う。

 右の顔面に皺のような渦のような傷が大きく広がっているとはいえ、傷を差し引いてもぱっちりした二重まぶたの大きな黒い瞳をした実年齢よりやや幼く見える顔立ちに、ひょろひょろと身長ばっかり伸びている成長途中のまだまだ未熟さを感じさせる体つきをした黒髪隻眼の少年。

 声変わりすらきていない澄んだボーイソプラノが余計に、背だけ高い子供という印象を助長している。少なくともこれからこの子供の面倒を三年は見るかと思えば先が思いやられる。

(だが、ミナトにああまで頼まれれば断るわけにもいくまい)

 これまでに予言の子ではないか、と思った弟子は過去に二人だ。

 一人は雨隠れで今も他の弟子二人と頑張っていると聞いた。もう一人は四代目火影となった波風ミナトだ。

 自来也はミナトに大きく期待していた。その目を信用していた。だから、気が進まないながらに今回の話も引き受けたのだ。

「式典が終わった一時間後に出立する。良いか、今度はくれぐれも遅れるなよ」

 遅れたら置いていくからな、そんな言葉を残して自来也は扉を後にした。

 

 * * *

 

 三代目火影と四代目火影の挨拶を受けて式典は粛々と行われた。

 まず、九尾の顕現という未曾有の災害を最小の被害で押しとどめられた事と皆の奮闘を称え、それから木ノ葉の英霊として慰霊碑に名を刻まれることとなる十四人の名前と功績を読み上げ、黙祷を捧げる。

 そんな中で一番驚きの声が上がったのは当然のように、その死者の中に連ねられた初代火影の実弟扉間の名前だ。

 若い世代だと既に隠居していた為教科書でちらっと読んだことがある程度のものは、寧ろまだ生きていたんだ? という反応であったが、実際に彼と触れ合うこともあったことのある世代の忍びは心を痛め、アカデミー生……特に彼に守られその死を看取った子供達は悲痛な声をあげて泣きじゃくった。

 千手扉間は三代目火影猿飛ヒルゼンの師でもある。

 否、三代目に限らず、かの世代の忍びは殆どが扉間の生徒だったとも言える。

 初代忍者アカデミー校長にして、初代木ノ葉隠れ忍術研究所所長であった彼は間違いなくこの里の誇りであり偉人だ。その意思も、彼が形にした上忍師を加えた四人一組(フォーマンセル)システムも、今も受け継がれている。

 火の意思は脈々と続いていく。だから、師を誇りに思えどその死を嘆くものではない。三代目火影だった猿飛ヒルゼンはそう思う。

 だが、もう師の「サル」と呼ぶあの声が聞けないことは寂しくはあった。だけど、そんな感慨を表に出すことはない。それが大人になるということなのかもしれない。

 そうして献花が始まる。

 喪服をきた、老人が、青年が、子供が一人一輪の花を慰霊碑へと捧げていく。

 その場には当然、黒髪隻眼の少年、オビトもいた。

 うちはの伝統的な黒の礼服を纏って、白いダリアを一輪手にもっている。

 いつもは騒がしいオビトがこうやって神妙な表情で物静かに佇んでいると、ガラリと印象が変わる。

 平素の三枚目的な雰囲気とその落ち着きのなさから、うちは一族らしくないうちは一族と言われる事の多いオビトであるのだが、顔面に大きな傷があって尚、くっきりとした二重まぶたに通った鼻筋の整った造形は、こうして見るとうちは一族の強い血を感じさせる。

 そんなオビトの周囲で「ほら、あの子があの……」「隻眼の木遁使い……」「うちのばあちゃんが助けられたって……」などという声がヒソヒソと聞こえてくるが、そんな声を雑音として右から左に流して、オビトはゆっくりと石碑に刻まれた「千手扉間」の文字を眺める。

 確かに、昨日師であるミナトに扉間様は亡くなられたと、そう教えられていた。

 だけど、こうして石碑に刻まれたただの文字になったのを見て、漸くオビトは彼が死んだのだと実感を持てたのだ。

 鋭い三白眼で、厳めしい顔をしていた師であったが、案外笑い上戸で、オビトに優しく温かい感情を沢山くれたそんな人だった。

 さよならの代わりに一輪の花を、ありがとうの代わりに木遁で花を作って、そうして生まれた真っ白なダリアをオビトは墓とも言えぬ石碑に捧げた。

 そこに、彼の人が眠っているわけではない。

 これはただの名を刻んだ石だ。だけど、きっと彼は見守っていてくれるとそう信じて頭を下げる。

 いつか、リンが教えてくれたのだ。

 白いダリアの花言葉は「感謝」であり、「豊かな愛情」だと。

 オビトは基本的に花に興味などないから、花言葉とかもそれほどよくは知らないけれど、扉間先生に課された課題として花を木遁で作って、それをお世話になった人やリンに贈っていたから。そうして贈った花の中にたまたま白いダリアがあったのだ。それを見て、リンが「感謝を伝えたい時に贈る花なんだよォ」とそう笑った。リンが言った言葉だったから覚えていただけだ。

 だから白いダリアを選んだ。

 自分が扉間先生に贈るなら、伝えたい言葉はどれかと言われたら、それが一番相応しいとそう思ったから。

 一年前、亡くなった祖母は言った。

 神様はいると。みんなの心の中にいて、いつだって見守ってくれていると。

 オビトは祖母ほど信心深くなくて、神様がいるだなんて言われても信じ切れないけど、それでも魂というものがあることは知っている。

 だから、黄泉路に旅立つ彼らの道行きが、少しでも安らかでありますように、そう指を組み、跪いて深く祈り願った。

 

 * * *

 

「これでよし」

 献花を終えてすぐ、自宅となるアパートの自室に戻ってきたオビトは荷物の整理を済ませていた。

 今日、里を出ると少なくとも次に帰ってくるのは三年後になる。

 とはいえ、里を出るのはミナト曰くこちらの都合だからとのことで、その間オビトの住むこのアパートの家賃は里のほうから払い、二週間に一度下忍達へのDランク任務として清掃などもしてくれるとのことで、至れり尽くせりといえる。清掃をしてくれるのは、人が住まなくなった家は劣化が早いからだ。

 ……まあ、人が部屋に入るから見られたくないものは事前に隠しておくように、という意味も込めて教えてくれたのだろう。オビトも年頃だし。

 とはいえ、今のところオビトが人に見られたくないものなんてそれこそ、ばあちゃんが残してくれたうちはの秘伝関係の巻物くらいなのだが。

 お年頃なのでオビトもそういう(・・・・)ものに興味がないわけではないのだが、リンへの裏切りのような気がして所持していないのだ。ある意味これも思春期故の潔癖さとも言える。あとリン以外の女性にそういう感情が湧きそうな気もしなかった。

 なので師が心配した意味で見られて困るものは特にはない。

 まあ、でも忍者なんていつ長期任務に遣わされるかわからない身空なので、そもそもそれほど持っていくものに迷うことはない。昨晩丁寧に磨いたクナイや手裏剣を手裏剣ホルスターにしまって、あとは小さめの背負い鞄に必要なものを最低限に納めたらそれで終わる。

 

「……」

 うちはオビトは今日、里を出る。

 そのことをオビトはリンには伝えなかったし、出立する前に会おうとも思わなかった。

 会ったら決意が鈍りそうだったから。

 里から離れたくないと、リンの側にいたいと駄々を捏ねる自分が己の中にいる。リンの顔を見たら余計そうだろう。

 だけど、もう一つ、会いたくなかった理由がある。

 なのに……。

「オビト……!!」

「……リン」

 玄関を開けるとそこには最愛の女性、のはらリンがいた。

 真ん中わけで肩口で綺麗に切りそろえられた茶色い髪、心配そうな釣り目がちの大きな眼、両頬にある紫のペイント、少女らしい華奢な体躯。

 今もリンはオビトにとっては世界で一番素敵で可愛い女の子だけど、きっと三年後にはもっと綺麗になっていることだろう。そして、幼さを残した少女から大人の女性へ羽化する彼女の側にオビトはいない。

 

 ……ミナト先生……四代目火影は言った。

 三年ほどほとぼりが冷めるまで自来也様に修行を見て貰いなさいと。

 だから、オビトは覚悟を決めた。

 大人にとっての三年は短いのかも知れないが、十代の少年少女にとっての三年は長いのだ。

 だから、もしかしたら自分が木ノ葉隠れの里に帰ってきた時には、リンはカカシと付き合っているかもしれないなと。彼女は見た目よりずっと勇気があるから。いずれきっとカカシに想いを告げる。なら、カカシもそれを受け入れるんじゃないかと。

 そうして二人がもし恋人になっていたら、その時は、どんなに内心苦しくて辛くても笑って二人を祝福するんだと、オビトは決めていた。

 オビトはリンが好きだ。本当は告白だってちゃんとしたいし、付き合って欲しいし、将来は結婚してずっと一緒にいたいくらい大好きだ。

 だけど、オビトはリンの気持ちが誰にあるのかをずっと前から知っている。

 だって、ずっと見てきたんだ。

 小さな頃からずっとリンだけを見つめていた。

 リンにとって自分は弟みたいな存在で、リンが好きな人がカカシであることなんて誰に言われなくても知っていた。

 悔しいけど、カカシは凄い奴だし、余計な一言が多いだけで良い奴だ。

 それに昨晩、カカシは自分を認めてくれた。本当はずっと前から認めてくれていたのかもしれないけど、言葉に出してそう肯定してくれたのは昨日が初めてだ、その時に確かにオビトはああなんか報われたなってそう思ったのだ。

 もうカカシを敵視しようとは思わない。

 だから、良いのだ。

 オビトはリンが好きだ、大好きだ。リンの存在こそがオビトにとっての光明で、だからオビトの気持ちよりも、彼女の気持ちのほうがずっとずっと大事だ。リンには幸せになって欲しい。そしてきっとカカシなら彼女を幸せにしてやれる。カカシにならリンを託せる。

 それに、カカシにも幸せになってほしい。

 カカシだって彼女の想いは知っている筈だ。今はあいつはまだ色恋に興味がないのかもしれないけど、それでもリンに好かれて悪い気はしないだろう。なら、そのうちあいつもリンの想いに応える日が来るのかも知れない。

 きっとリンならカカシを幸せにしてくれるし、カカシもリンを幸せにしてくれるだろう。

 それでいいんだ。

 嗚呼、そうだ。悔しくて妬ましくて認めたくなかっただけで、うちはオビトにとってはたけカカシは大事な仲間で、大切な友で、一対の眼を分け合った相棒だ。

 オビトは二人の事が大好きだ。

 だから、良いのだ。

 そう自分に言い聞かせていた。

 それでも、同時に自覚していた。

 自分は、そんなに強い人間じゃない。

 強がってばかりの臆病で、真っ直ぐ歩くことが苦手な下手くそで、すぐに逃げることを考えてしまう、本当の自分はそんな人間だと理解している。

 だから、リンの顔を見たら決意が鈍りそうで、怖くて……だから会いたくなんてなかったのに……それでも止まらない恋心はリンに会えて嬉しいと歓喜の声を上げている。 

 リンのことが好きで、好きで好きでたまらないからこそ辛かった。

 彼女に会ったら、離れがたく感じてしまうから会いたくなかった。

「……リン、なんで」

「カカシから聞いたよ。もう、話してくれないなんて酷いよ」

 そういって、困り眉を怒ったように上げて少しの悲しみを混ぜて自分を見る想い人に、彼女を悲しませたという罪悪感が胸をついてオビトは「ごめん……」と素直に謝った。

「私、そんなに頼りにならない?」

「そんなことない!!」

 オビトは必死な声を上げる。

「リンにはいつだって沢山助けられている。頼りにならないなんて思ったこと一度もない!」

「オビト……」

「でも、リンに言わなかったのはオレの個人的な事情で……その、ごめん……」

 オビトは自己嫌悪に陥った。

(オレ、本当にかっこ悪ィ……)

 自分のことばっかり考えて、突然幼馴染みが里から出されると知らされたリンの気持ちを考えてなかった。

 そんなオビトの手をとって、リンは真っ直ぐオビトの目を見ながら、今日旅立つオビトに渡そうと用意していたそれを渡す。

「これ、個人用特別医療用パック。昔カカシに贈った奴とおそろいになるけど……使いやすいように私が改良したやつ。オビトはすぐ無茶するから……すぐ治ると言ってもあんまり無理しないでね」

「うん、ありがとう……リン」

 そう泣きそうな顔で自分を見ている幼馴染みの少年を見ながらリンが考えるのは、三ヶ月ほど前に知った事実だ。

 あの日、師の結婚祝いの場でリンはカカシの言葉から、オビトが碌に食事を取れない体になった事を知った。

 それからリンは今まで以上に注意深くオビトを見るようになったのだ。

 また、それ以来オビトは度々カカシと食卓を共にするようになったそうで、その度カカシからリンにオビトの状態についてレポートという形で知らされていた。

 その結果わかったのは、柱間細胞と馴染めば馴染むほど、それに比例してオビトは食事をとれなくなるという事実だ。オビトがそんな状態になって以来、リンのほうでも何か出来ることはないかと調べてて、20年以上前に行われたという柱間細胞の適合実験についてのレポートを読んだ時はゾッとしたものだ。

 適応出来なかった人間は樹に変化して死ぬなど……オビトの手足についているのは、そんな危険な細胞なのだ。

 食事は人間の基本である。

 三大欲求の一つが食欲であり、生命維持に必要な行為と同時にコミュニケーションツールでもあり、娯楽だ。

 オビトは確かにあの半死半生状態から生き延び、一度は忍びとして再起不能と言われていた身ながら今では木遁なんて希有な力まで手に入れ、また歩いたり走ったり出来るようになった。

 だけど、その代わりに食の楽しみを取り上げられたオビトは……。

 リンが大好物の苺を口にした時に得るあの多幸感……あれを失ったということだ。食は本来楽しいもののはずなのに、今のオビトはもう美味しいとか不味いとかもわからない。

(それって植物みたいじゃない?)

 そんなのは、よくない。

 だって、オビトは人間だ。

 柱間細胞に適応したオビトは右腕から樹を生やすことも出来るのだという。

(本当に、オビトは適応しているの?)

 あのレポートで見たみたいに、樹に変わっていつか死んじゃうんじゃ無いのかと、食事がとれないのもその前触れなんじゃないかと思えてリンは怖かった。

 食事を、美味しいとか不味いとかすらわからなくなってしまったオビトが悲しかった。

 リンは多くの人を救いたくて医療忍者になった。

 救うのは体だけじゃない、心も救えるそんな医療忍者になりたかった。

 それがリンの夢だ。

 だから、オビトの今陥っている現状を知ってから、決意したことがある。

 その決意を告げる為に、リンはここにきた。

「あのね、オビト。私ね、もっといっぱいいっぱい勉強する。勉強して、研究してもっと凄い医療忍者になる」

「うん……リンならなれるさ。リンはすっごいすっごいくノ一だからな!」

「だから、オビト……次に帰ってきた時には、オビトがもう一度食事を美味しいって思えるようにするね」

 思ってもみなかった事を言われて、隻眼の少年は固まった。

「普通に食事して、美味しいなって幸せだなってオビトにも思って欲しい。一人だけ、そんな植物みたいに何もわからないなんて嫌だよ。寂しいよ。だから、私が研究して、オビトの味覚を取り戻すよ」

 そしたらまたみんなでどこか食べに行こう?

 そう言ってリンは笑った。

「……うん」

 

 阿吽の門の前で約束の時間を3分ほど過ぎた頃に、自来也の待ち人たる少年は飛雷神の術で現われた。

「遅いぞ、小僧……! って……」

 そう怒鳴りつけつつも、振り向いた先の少年の顔を見て困惑する。

「なーに泣いとるんだ……」

 オビトは唯一露出している右目からボタボタと涙を流しながら、泣きはらしたのか目の下を腫れぼったく真っ赤に染めていた。

「……泣いてない、これはちょっと目から汗が出てきただけだ……」

「あ、そう……」

 自来也は毒気を抜かれていた。

 過去に弟子なら何人もとっていたが、泣いている子供の対処法なんてわかるわけがない。

 ガリガリと頭をかきながら、気まずげにはするものの泣いてる子供には辛辣には当たれないあたりが自来也の人の良さであった。

「まあ経緯はどうであれ、今日からお前はワシの正式な弟子だ。泣く暇もないほどビシバシ鍛えてやるから覚悟しておけよ」

「……はい、自来也師匠」

 

 今日は旅立ちに相応しい、雲一つのない快晴だ。

 オビトの人生二人目の師も、あるべき場所へと旅立てたのだろうか。

 名を刻まれただけの石は何も語らない。

 ただ、今も里を見下ろすように鎮座する歴代火影達の顔岩を一瞥して、黒髪隻眼の少年……隻眼の木遁使いオビトは、小さく手を振った。

「……行ってきます」

 そうして少年は故郷に別れを告げた。

 いつかの再会を約束して。

 

 

 

 隻眼の木遁使い第一部少年編・完

 

 第二部同盟編に続く




 偽次回予告!


 カカシ:カカリンなんて解釈違いです! オビリンこそ至高! オレは二人の結婚式で司会をやるんだ!!
 オビト:リンと結婚したいくらい好きだけどリンには(カカシにも)幸せになってほしいから、オレは……オレは、カカリンを推す!

 そんなモダモダ大湿原を量産するまるでダメな男達の前に、突如ギャグ時空からスーパーダーリンリンちゃんさんが舞い降りる!

 スパダリン:こうなったら私がカカシとオビト両方娶るしかない! 二人とも幸せにしてやんよ!

 次回、それいけスパダリンちゃん様第一話「ファーストキスはイチゴの味」お楽しみに(嘘八百)!

 スパダリン:フフ……オビト、昨日は可愛かったね♡
 オビト:ひゃ、ひゃい///
 カカシ:んー……何か違う気がするけど、オビトが幸せそうだからいっか……。

少年編でのアナタの一押しキャラクターは?

  • うちはオビト
  • はたけカカシ
  • のはらリン
  • 波風ミナト
  • 波風クシナ
  • 加藤綱手
  • 加藤ダン
  • 千手扉間
  • オビトの祖母ちゃん
  • 猿飛ヒルゼン
  • うちはフガク
  • 猿飛アスマ
  • 夕日紅
  • 大蛇丸
  • 自来也
  • 黒ゼツ
  • 鬼面のうちは
  • アカデミーの子供達
  • 犬塚のおっちゃん
  • その他
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