第二部スタートになります。
20.帰郷
「ふぁあ……」
その日、犬塚家の先代当主の年の離れた弟である警務部隊に所属している中年男は、相棒のうちはの警務部隊所属の男と共に阿吽の門の門番をやっていた。
普段は見回り組として里内の治安を見て回る事が多いのだが、たまにこうして当番が回ってくるのだ。
木ノ葉隠れの里に所属する忍びはここから里の外へと任務に赴き、依頼を持ち込む依頼人達や一般的な里の民もここを通って内外を行き来する。そういう意味では重要な場所だ。
だが、第二次忍界大戦が終結して早四年、九尾事件と名付けられた九尾の顕現から三年、あれから火影様がよほど上手く立ち回ったのか特に事件らしい事件も起こらず、あれほどの事件が起きながら里が揺らぐ事態にもならなかった。元々楽天的で順応力の高い犬塚の男は既に平和になれ始めており、暢気な欠伸を零していた。
それに長年の相棒たるうちはの忍びも「だらしないぞ」と嗜めはするものの、「わりぃわりぃ」とヘラヘラと犬塚の男が笑うと、全く言っても切りが無いと諦めの境地でため息を零した。
そんな十月の終わりの早朝のことだった。
「よぉ、犬塚のおっちゃん、久し振り」
「ああ、はいはい、ひさしぶ……………………え?」
反射的に言葉を返して、それから声をかけた相手を見返して犬塚の男は目を見開いて、パクパクと口を開閉させる。あんぐりと、開かれた目と口は信じられないと言わんばかりだったが、そんな反応を引き出したつい今現在里の外から門に辿り着いたその青年は、不思議そうに唯一残された右目を瞬かせて「どうしたんだよ」と男にとって聞き覚えのない声で呟く。
しかし、その口調、表情にその右顔面に走る渦のような皺のような傷跡には見覚えがありすぎて、犬塚の男は絶叫するような声で自分の中で出された答えたる名を叫んだ。
「お、お、お前、オビトかァ……!?」
「おう、ただいま」
そう言って、黒髪隻眼の青年……うちはオビトはにっと明るい表情で笑った。
さて、うちはオビトが木ノ葉隠れの里に帰郷するのは実に三年ぶりとなるのだが……何故男がここまで驚いたのかに話を戻す。
まず、第一に犬塚の男にとってうちはオビトという子供は小さな頃からよく知っている存在だった。
うちはオビトは黒髪容姿端麗でクールでエリートな者が多いとされているうちは一族出身にも関わらず、鈍くさく強がりな泣き虫で、困っている人がいたら見過ごせないお人好しだった。
確かによく見るとうちは一族の例に漏れず、オビトもパッチリした二重まぶたにコシの強い黒髪をしたそれなりに整った顔立ちをしていたのだが、うちは一族に珍しいくらい明るい性格でコロコロと表情が変わるものだから、まんま、普通のどこにでもいるような男の子にしか見えなかった。
とくにその活発な性格が反映されてか、ピンピンとよく跳ねる黒い髪は小さな頃から短く切り揃えられ、お気に入りのオレンジのゴーグルを装着した姿は明るいやんちゃ坊主といった風情で、そんなところが大人の目からしたら子供らしくて可愛いらしい、そんな子供だった。
とはいえ、オビトも忍びであるので、四年前の戦いの際に半身を負傷し、右顔面には大きな傷跡が残り、左目も失ったのに伴い、あのオレンジのゴーグルの代わりに額宛の布を眼帯のようにつけるようになったので、昔ほどやんちゃ坊主という印象もなくなったのだが……それでもオビトは変わらずお人好しで、困っている年寄りがいたらすかさず手を貸すし、明るい声にコロコロと表情が変わるので、ちょっと見た目が変わったくらいではそんなに犬塚の男にとっても印象は変わらなかった。
だが、三年ぶりに帰郷したオビトを見て、はじめ男はその黒髪の青年がオビトだと気付かなかったのだ。
何故って?
その姿が男の中のうちはオビト像と一致していなかったからだ。
まあ、一番わかりやすい変化としては髪と背が伸びている。
男はオビトがアカデミーに入学する前の幼児の頃からよく知っていたわけだが、それからオビトが里を出た三年前までずっと、髪を短く切りそろえた姿しか見たことが無かった。
が、この目の前にいる青年はうちは一族に多いツンツンとした量の多い漆黒の髪を、前髪は鼻にかかるほど、横髪は肩につくほど、後ろ髪は頭上に一纏めにしており、おそらく下ろしたら肩甲骨に届きそうなくらいに伸びている。それだけで今までとかなり印象が異なっている。
あと、身長も里を出る前は確かに犬塚の男より少し目線が下だったはずなのに、今は僅かに見上げるほど高くなっている。おそらく今のオビトの背丈は180はあるのではないだろうか?
それでも大男……的な印象を受けないのは、オビトの顔面の作りが傷を差し引いても童顔であることから圧迫感を感じないのと、成長期も終わりかけとはいえ相手は17歳の未成年だから体が出来上がっていないからだろう。
それと、旅に出ている間に声変わりを終えていたのか、旅に出る前は澄んだボーイソプラノが特徴だったのに、低く掠れた男らしい声になっている。
……そうして総合的に今のオビトを見れば、凄くうちはらしいうちはだ。
今までオビトを美少年と思ったことなど一度もなかったのだが、こうやって髪を伸ばして昔よりも表情が落ち着くと、表情によってはハッとするほど耽美系のなんというか……凄くうちは一族らしい物憂げ系美男子に見えた。
ので、思わず動揺してしまったのだが……こうやって笑う顔は幼少期の面影がしっかりとあるので、犬塚家の先代当主の弟は思わずほっとした。まあ、そりゃそうである。髪が短かろうと長かろうとオビトはオビトなのだから。
そうして余裕を取り戻して気付いたのだが、パートナーである警務部隊所属のうちはの男の様子がおかしい。
まるで幽霊を見たような顔をして呆然としているので「おい?」と犬塚の男が名を呼ぶと、警務部隊所属のうちはの男は信じられないといった風情で「…………マ、マダラ様……?」と小さく零す。
「は?」
マダラ様って確か初代様と里作ったあのマダラ様? うちはの赤鬼の? と疑問が駆け抜ける犬塚の男であったが、ふと子供の頃の記憶を思い出す。確か、あれは初代様の結婚披露宴の時のか。当時の木ノ葉隠れの里の主要陣みんなで写った写真を幼い頃祖父に見せられたことがあった。
その中には、当時のうちは一族族長で火影補佐官筆頭だったうちはマダラも当然写っており、なるほどそう思えば今のオビトの容姿は若かりし頃のうちはマダラに……瓜二つというほどは似ていないが、よく似ていた。
だが、言われたほうは心外なのだろう、オビトは「なんで今あのジジイの名出したんだよ……」と渋い顔で唇をとがらせながら呟き、里に入ろうとする。それに待ったをかけて、犬塚の男のパートナーであるうちはの男が言う。
「待てオビト。お前帰郷したんならきちんと族長の元へ報告に行け」
「え? フガクさんのとこに? ……それってそんな必要か?」
「必要に決まっているだろう! 不義理を通すな。お前もうちは一族なら、もっと一族の自覚を持て」
「うへえ……」
そういって黒髪隻眼の青年はゲンナリとした顔を作る、それを犬塚の男は珍しいと目を丸くしながら見つめる。
なにせ、今まで自分ばっかりがオビトに構うのであって、相棒たるこの男が同じ一族とはいえここまでうちはオビトになにかしら声をかけているところを見たことがなかったからだ。
いつもクールな相方だと思っていたが、もしかしたらこの男も動揺しているのかもしれない。
(それにしても、こうも立派に育つと流石に坊主扱いはもう出来ねェか?)
それを少しだけ寂しいような嬉しいような誇らしいような気持ちで思いながら、落ち着きを取り戻した犬塚の男は本日三年ぶりに里に帰郷した黒髪の青年に、声をかけた。
「オビト、立派になったな。お前さんが元気そうで良かったよ、おかえり」
「! へへ、ありがとな。犬塚のおっちゃん」
そういってオビトは、幼少期から変わらぬ太陽のように明るい表情で嬉しそうに笑った。
* * *
「四代目様、うちはオビト中忍ただいま帰りました!」
里に戻ってきたオビトは、早速火影塔に向かい、四代目火影にして元担当上忍師の波風ミナトにそう元気よく報告をした。
それに、ミナトは相変わらず爽やかな微笑みを浮かべながらニコニコと「ん! おかえり、オビト」と清涼のような声で労う。
まあ火影といえばこの里の長であるため、当然やることは山ほどあるのだが、師でもある自来也からオビトが今日帰還する報告を元々受けていたので、ミナトはあらかじめ今日の仕事はある程度片付けているので、三年ぶりの部下の話にじっくりと耳を傾ける余裕くらいはある。
「それで自来也先生との旅はどうだったんだい?」
そう声をかけると、オビトは「ええと……」と唯一晒している右目の視線をうろうろさせながら、「色々凄かったです……」となんだか色んな感情をない交ぜにしたような、なんとも言えない表情と声で呟いた。
そうして彼が思い出すのは旅に出て最初の一年目の記憶だ。
はじめにオビトと自来也が向かったのは湯の国であった。
はっきり言って、オビトはそれまで自来也という人物に抱いていたのは漠然としたイメージだけだ。
自分の上忍師であったミナト先生の師で、木ノ葉の三忍の一人で、三代目の弟子で、ガマ仙人と呼ばれているなんか凄い人らしい、というあやふやなイメージだ。
それでもミナト先生が尊敬しているんだから気難しくても立派な人なんだろう……そうオビトが抱いていたイメージが崩れるのにかかった時間は僅か三日であった。
そう、自来也はのぞきが趣味の痴漢犯罪野郎だったのだ!
スケベなのはまだいい。
男なんて大なり小なりそういうところがある。オビトだって、リンの写真にちゅーしようとしてカカシに見られたという黒歴史を抱えている身だ。好きな子にそういう感情を抱えていないほうが逆に不健全だろう。
(だけど、だけど女湯を覗くのはやっちゃいけねーだろォ!?)
オビトとて、大人のお姉さんのお店にお金を払ってサービスを受ける……なら理解を示したのだが、不特定の女性の裸を覗き見るなんてそんなの犯罪じゃねーか! と非常に根っこは真面目かつ好きな子一筋のドのつく一途少年オビトは憤慨した。
ので、師匠となった自来也のその犯罪行為を止めようとしたのだが……その結果、さてどうなったかと言われたら見事に師匠に罪を押しつけられたのである!
誓って言うが、リン命でリン一筋なオビトは断じて覗きなんてしていない。大体そこにリンがいないのに覗いてなんになるのだ……間違えた! リンはオレが守るからどっちみち見たいか見たくないかで言われたら見たいけど、覗きなんて卑劣な真似オレはしねえ! オレは、ただ師匠の性犯罪を止めたかっただけだ!!
そんなオビトの心の叫びはどこにも届くこともなく、被害者である哀れなる子羊は「あんたが覗いていたのね!」「最低」「このエロガキ!!」とこわーいお姉さん達に囲まれ、よって集って責められつるし上げられること数十回。年上のお姉さん達がトラウマになりそうなくらい酷い目にあった。
リンの存在がなければ女性不信になっていたかもしれない。ありがとうリン。サンキューリン。リンはいつだってオレを助けてくれる。そんな風に口から魂を飛ばすオビトに、覗きの罪を押しつけた師匠は飄々とした顔をしながら「お前さん、本当に学習せんのー」と暢気に酒を呷っていたことに殺意が湧いたのはいうまでもない。
まあ、それでも忍術とか体術とか修行をきっちり見てくれたことには感謝はしている。
でも、やっぱり覗きをしたのは師であって自分じゃないのに、なんで毎回自分がやったことにされてつるし上げられなきゃならんのだ! そんな風に思っていたオビトに転機が訪れたのは、なんだかんだで自来也と旅を初めて半年くらい経った頃だったろうか。
旅に出る前は邪魔にならないよう定期的に髪を短く切りそろえていたオビトであったが、旅に出てからはそんな気力もなく、髪を切るのも面倒になって放置した結果、半年もした頃にはオビトの髪は大分伸びていた。まあ、師匠も長髪だからいっかと思うオビトに「みっともないのぉ」と自来也は自分の髪紐を気まぐれに与えて、「あ、ありがとう」とオビトも素直に礼を言い髪を纏めた。
そこからだった。
何故か知らないが、オビトが師匠ののぞき被害にあった女性陣につるし上げられなくなったのは。
今までのように、師匠が「あいつじゃ、あいつ」とオビトに罪を押しつけようとしても「はあ? そんなわけないでしょう」「さいてー」「大丈夫? 坊や」と何故か女性陣の反応が180度回転した。それに、オビトは内心(女って怖ェ)と戦々恐々していたが、若干年上の女性がトラウマになっていたのもあって「ありがとうございます」と少しビビりがちに礼を言うと、何故か囲んでいた女性陣がキャアキャアと「かわいー!」だの「おねえさんが守ってあげるからねー!」だの、黄色い声に変わったのがまた意味が分からなさすぎて怖かったのはここだけの話である。
因みにオビト自身は何故評価が反転したのか理解していないが、この頃のオビトは既に身長も175を超えてすらっとした長身になっており、第二次成長期と共にやってきた声変わりによってハスキーでどこか気怠げな声に、だらしなかった印象の髪を纏めたことにより清潔感が出たことの相乗効果により、「顔の傷が気になるけど、中々将来有望そうな美少年」「ツバつけときたい」「こんな美少年が覗きなんてするわけがない」みたいな評価にお姉さんたちの中で為されていた事実を知らないのは、もしかすると本人にとっても良いことだったのかもしれない。
逆にこの辺りから覗きがバレた自来也は女性陣に責められ追い回されていたので、オビトの中の良心は少し可哀想だなとチクッとしたが、いやいやそもそもオレがつるし上げられたのだって師匠のせいだし、自業自得だなと思い直し、見守ることにした。
何故か、湯の国のお姉さん達は前半はおっかなく、後半は不自然なくらい優しかったが、時々手つきが妙で怖かったのはここだけの話だ。
まあ、そんな感じで最初の一年はある意味怖い目にあったり、ちょっと年上女性がトラウマになりそうになったりしたオビトであったが、それでもトータルで見ると自来也との旅は悪くなかった。
普通の里の忍びだったら行けるかわからない場所にも連れて行ってもらえたし、なによりも良かったのは妙木山での修行の日々だ。
オビトの右半身を形成している柱間細胞産の義手はそもそも自然エネルギーと相性が良いらしく、居心地が良かったし、そこに住んでいる仙人蝦蟇や蛙たちもみんな良い奴だった。
中には親友と呼んでいいくらい仲が良くなった蝦蟇もいる。彼とは口寄せ契約だってきちんと結んだし、今度カカシにあったら自慢してやろうとカカシのパックンたちを思い浮かべながら思うオビトであった。
「ん……その様子だと良い経験になったみたいだね、安心したよ」
そう慈父のように微笑みながら語りかける金髪碧眼の里長に、オビトはなんだか照れくさくなって少し耳と頬を赤らめながら「はい」と素直に返して、それから簡単に旅の間にあった出来事などを話して聞かす。
それを一児の父にして里長たる波風ミナトはニコニコと楽しそうに聞いていた。
そうして話が一段落したところで、四代目火影たる男は言う。
「さて、オビト。戦争が終結してから四年、九尾事件が終わってからは三年。あれから里の状態も大分落ち着きを取り戻して、今の里は昔ほど人材不足というわけでもない」
その言葉に流石ミナト先生だなとオビトは感心する想いで聞く。
「君も長旅で疲れただろう? 久し振りの帰郷なんだ、会いたい人も多いんじゃないかい?」
「えっと、つまり?」
「ん! 一週間は非番にしておくからその間ゆっくりしておいで。その代わり、来週からはバンバン働いて貰うから、期待しているよ、オビト!」
「はい!」
お茶目にウインクしながら語られる師の言葉に、オビトは満面の笑みで返した。
「あ、それとオビト」
そろそろ話は終わりだろうかと思ったタイミングで、少しだけミナトはばつの悪そうな顔をして、オビトにしてみれば意外な言葉を告げた。
「三年越しのフガクからの伝言だけど、『たとえうちは地区外で暮らそうと、お前もうちはの子だ。たまには集会に顔を出しなさい』だって」
心配しているみたいだからちゃんと一族にも顔を出すんだよ?
そう話を結んだ師に、少し苦い笑いになりながらオビトは「……はい」と返事をして塔を後にした。
* * *
うちは一族は周期としては大体月に一度、南賀ノ神社で集会を開く習わしとなっていた。
血継限界……血によって受け継がれる特殊能力を持つ一族がそうやって集まり、話しあうことは別に珍しいものじゃない。木ノ葉隠れの里の一員になれど、その前に自分たちはうちはだ、そうやって自分の血に誇りをもっているものはうちは一族では珍しいものではなく、普通だ。
だから、一人前の忍びと認められた一族は基本的に余程の理由がない限り、会合に参加するのが常であった。
……一名を覗けばだが。
うちはオビト。
先々代族長であったうちはマダラの外孫の息子であり、母親に千手の娘を持つ一族の青年。
長いこと落ちこぼれといわれてきた存在ではあれど、うちは一族であればこれが出来れば一人前とされる火遁豪火球の術もきっちり習得しているし、写輪眼も開眼しているオビトには当然参加資格はあるのだが、彼が今までこの会合に参加したことは片手の指で足りるほどしかなかった。
だが、本日オビトは三年ぶりに木ノ葉隠れに帰還し、今夜の会合にも参加すると聞いて場にはざわめきが満ちる。
「おい、聞いたか? オビトが帰ってきたって」
「全く、やっと出席とは……一族の自覚が出てきたのか」
「けっ今更なにしに来るんだよ」
「まあまあ……オビトちゃんも忙しかったのよ」
「なんで、年寄り連中は昔からあいつに甘いんだ!」
などなどの声が飛び交う中、族長であるうちはフガクはムッツリと黙り込んで上座に座っていた。
「……父上、オビトさんといえばあの隻眼の木遁使いですよね? ……どんな方なんですか?」
そんな父親に、ストレートの黒髪を赤い髪紐で一つに結わえた幼い年齢ながら大人びた少年が尋ねると、その近くに座っている兄貴分たるくせ毛の少年がからかうように「なんだ、イタチが興味を示すなんて珍しいな」と言うと、凛とした瞳が印象的な幼い少年は「からかうな、シスイ。……隻眼の木遁使いうちはオビトといえば次期火影候補にも名を連ねている人だろう。どんな人か、オレが興味を持つのはおかしいか?」というと、くせ毛に団子鼻が特徴の少年シスイは、「そういやお前、見たことはあってもちゃんと会ったことはないんだっけな」と呟いた。
オビトがうちはの会合に参加したことがあるのは片手の指で数えるほどな上に、三年間彼は里にはいなかった。だからその不在の三年の間に忍者アカデミーを卒業し忍びとなったイタチにとっては、気になるが接点のない存在なのも確かである。
「……シスイ」
「まあ、それはオレも同じようなものだ。あの人はうちは居住区には住んでいないから……オレが知っているのは、どうにも年寄りの手伝いが趣味のお人好しらしいってくらいだ」
ま、実際に接したらどんな人かわかるだろう、とシスイは言葉を結んだ。
そこでピクリ、と瞼を動かし、イタチは父親の横で正座のまますっと姿勢を正した。
(流石だな、イタチ)
真っ先に気付いた。そう感心しながらシスイもまた姿勢を正して噂の渦中の人が入ってくるのを見た。
それはすらりと伸びた長身に、長い髪の青年だった。
うちは一族に多いツンツンとした量が多い黒髪を前髪は鼻にかかるくらい、横髪は肩口ぐらいまで伸ばして後ろ髪は後頭部で纏めている。上は丈が長めの藍色のうちはの正装で下は黒い長ズボンで、腰のベルトに差し色でオレンジを入れている。右手には黒い手袋をしており、右の顔面は整ってはいたが、渦のような皺のような傷があり、そして髪で隠された左目には眼球がない。そんな非常にアシンメトリーな姿が印象的な青年だった。
その姿を見て、文句を言おうとしていた者はぽかんと口を開く。
声にならない声で呟いた言葉は「マダラ様」だった。
しかし、そんな周囲の反応が理解出来なかったのか、黙って物静かに立っていると物憂げな雰囲気ある系イケメンに見えなくもなかったオビトであったが、「え? なんでみんな黙ってるんだ?」と子供っぽい表情で眉を顰めると途端にそんな雰囲気が消えてしまって、急に親しみやすそうな感じに早変わりするから不思議なものである。
「オビトちゃん、おかえりなさい」
「おお、ばあちゃんたちただいま!」
そういってにっかりとオビトは笑った。
それからはまあ、淡々と会合は進んで、戌の刻も終わる頃にはお開きとなった。
義理は果たしたし、さっさと帰って休もう。
そう目論むオビトを前に、「待ちなさい」そう声をかけたのは族長であるフガクである。
流石に族長に呼び止められて無視するわけにはいかない。そう思って「なんですか?」と問うとフガクはむっつりと黙り込む。
「…………」
(……いや、なんか言えよ)
オビトは無性にリンが恋しくなった。
そうしているうちにフガクは、考え事が終わったのか、「……よく帰ってきた」そう口にして、それからポンとオビトの頭をすれ違い様に一撫でしてから「これからも励むように」そう言い放って去って行った。
「……は?」
そこでオビトが思い出したのは師が言っていた言葉だ。
四代目火影波風ミナトは言った。
フガクが心配しているみたいだった、と。
正直、あまり真に受けていなかったのだが、昔から世話になっている犬塚のおっちゃんのパートナーに言われたのと、ミナト先生にも言われたから今夜は義理で顔を出したのだが、この反応どうやらうちはフガクが自分を心配していたというのは本当のことだったようだ。
「はは……」
(なんでうちの一族はこう……面倒くさい奴ばっかなんだ……?)
自分を棚上げして、頭を抱えながらそんな事を思うオビトであった。
続く