隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回は原作人気のあのキャラ登場回であります。


24.お前が言うのか

 

 

 

 波風クシナの見舞いに来た小一時間後、元ミナト班の三人はそろそろ病院を出ようという話になった。

 四代目夫妻の息子であるナルトは、オビトの胸元にしがみついてグッスリと眠っていたため、引き剥がそうとすると余計にギュウギュウとくっついて頭を擦り付けてくるものだから、出来るだけ負担をかけないように引き剥がす事には苦労したものだ。

 黒髪の青年と金髪の幼児。

 この2人、色合いこそ違うがツンツンとした髪質やら雰囲気やらどことなく似ているのも相俟って、まるで親ガモにくっつく小ガモのようである。

 オビトの体から剥がした途端、むずがるような顔をして嫌がる素振りを見せつつも深く眠っていたナルトは、彼の護衛兼子守として雇われたという中年くノ一の女性、うみのコハリに引き渡された。

 どうにも、自分の息子より少し年長の三人組と、自分が雇われて面倒を見ている子供のやりとりは、この中年女性には大層微笑ましく見えたらしく、終始ニコニコとしていた。

 それに少し居心地の悪い思いをしたオビトだ。

 大体オビト視点だと初対面ではないとはいえ、ナルトからしてみればオビトは今日が初対面のようなものだし、子供の頃から里中のジジババにこそよく可愛がられていたが、子供に懐かれた経験はそんなにない……顔にでかい傷跡が残ってからは見た目が怖いのか特に……なオビトにしてみれば、なんでナルトが前々から顔見知りのリンでは無く、自分のほうに来たのかもさっぱりだ。

 ただ、自分でも少し意外だったが、ナルトにそうやってひっつかれるのも懐かれるのも、戸惑いはしたがオビトは嫌じゃなかった。恩師の息子だし、赤ん坊の頃から知っている相手だったからかもしれない。

 それとも、どことなく自分に似ているからか。

「ナルトくん、可愛かったでしょ?」

 そんな幼馴染みの気持ちがわかっているからか、クスクスと笑いながら茶髪の少女が言う。

「……まぁな」

 それに、居心地悪そうに首の後ろをポリポリと掻きながら黒髪隻眼の青年も答える。

 銀髪の少年はそれを三歩後ろの距離から我関せずと言った態度で見守っている。

 まあ、わかっていた事というかその性格から想像はついたが、カカシはナルトにはほぼ興味がないらしい。ので、話に入ってくるつもりもないようであった。

 カカシはアカデミーを早期卒業して、大人や年上にばかり囲まれて育った天才少年だ。思えばオビト以上に子供と関わる機会はそうなかったはずである。

(もしかして、小さい子との接し方自体わからないのかもな)

 大体器用になんでもこなせる奴であるが、そんな所は不器用なのかもしれない、と思えば少しだけオビトは面白かった。

 そんな事を考えながら病院の廊下を歩いていると、曲がり角から黒髪ショートカットの少女シズネが白衣に身を包んで現れ、同じ医療忍者であるリンに気付くと、少しだけ困ったようにオビトとカカシをちらっと見てからリンに話しかけた。

「リンちょっといい?」

「うん、シズネ何?」

「明日のことなんだけど……」

 その事からどうやらリンは明日は病院勤務なのだなと、黒髪隻眼の青年は察する。

 チラリと、リンの目が申し訳なさそうにオビトとカカシを捉える。三年ぶりの再会で、今日は休日なのに仕事の話で抜けるのが後ろめたいのだろう。だけど、オビトは医療忍者として頑張っているリンのそういう所も好きだった。

 だから、大丈夫の意を込めてコクリと頷く。カカシは相変わらず無愛想に我関せずといった態度だ。

 そんな二人を見て、リンはほっとしたような息を一つ漏らすと「今日は本当にありがとうね、二人とも。久し振りに会えて嬉しかったよ。また今度ゆっくり話そうね」と言ってその場で別れた。

 

 リンと別れて木ノ葉病院を出た後も、なんとなしに二人で連れ立って木ノ葉隠れの里を歩く。

 そろそろ夕飯のタイムセールの時間だろう。

 どちらも何も言わなかったが、自然、足は商店街のほうを向いていた。

 そんな中でポツリ、とカカシが呟く。

「オレ、今日はサンマの塩焼きが食いたい」

「あ? そりゃオレに作れってことか?」

「別にいいでショ」

「いや、そりゃ別にいいけどよ……」

 大体カカシがこういう事を言うときは夕飯を一緒に食おうという合図だ。

 逆にオビトからカカシに声をかけるときは、今日の夜は空いてるか? 的な言い方になる。

 確かに旅立つ前は平均すると週に一度くらいの頻度で食事会を設けることにしていたが、てっきりあれはもう終わりだと思っていたので、オビトとしては拍子抜けである。

 とりあえず、昨日はうちにカカシが来たし、なら次はカカシの家か。

 と思うが、三年ぶりなので一応確認を取る。

「今日はお前んちでいいか?」

「ああ」

 そうなんでもないような声で答えるカカシであったが、そっけないような態度とは裏腹に、彼は注意深くオビトの様子を観察していた。

 これでもカカシはオビトを気遣っているのだ。

 ……本当は、サシの食事会ではなく、オビトの帰還を祝って同期を集めて焼き肉屋で無礼講なんて出来たら、そっちのほうがずっとカカシにとっても楽なのである。

 だが、昔はともかく、今のオビトは殆ど食べ物を必要としない体だから、無理に食べると体調を損ねる。そのくせ、意地っ張りだから、その不調を隠そうとする。故に同期を集めて帰還祝いにどんちゃん騒ぎなんてそもそも無理なのだ。今のオビトにとって大人数での食事会は負担とストレスにしかならない。

 そのくせ、一人での食事も寂しくて虚しいとそう思っている。本当はみんなと集まってわいわいと賑やかなのが好きな奴なのだ。こいつは筋金入りの寂しがり屋の意地っ張り屋だ。オビトがそういう奴だとカカシは知っている。

 だからこそ、ともに食事をするならカカシが適任なのだ。

 だって既にオビトは、カカシがオビトが殆ど食事を摂取出来ない体であることを知っている。だから、オビトが食卓を共にしながら、一品くらいで殆ど食わないことに何も口を挟まない事も知っている。

 そしてオビトにとってはたけカカシは、そこまで気遣う必要もない相手だ。同じくオビトの体質のことを知っていても、リンとの最大の違いはそこだ。

 オビトの体質のことをわかっているのは同じでも、リンは好きな女の子だから、どうしてもオビトは身構えてしまうのだ。常にそこには緊張が伴う。

 だからこそ今のオビトにとって、ともに食事を取るのなら一番楽な相手はカカシだ。この一つ年下の少年と食事をするときが一番気が抜けるらしい。

 それにオビトは奉仕体質だから、碌に食えない自分一人の為の食事を作るより、誰か……この場合はカカシの食事を作るついでに自分の分を用意するほうが、気が滅入らずに済むようなのだ。

(本当、世話が焼けるよね……)

 と思うが、カカシとしては悪くない気分なのも確かである。

 あまりオビト自身にその自覚はないようだが、オビトのそれはカカシに対する甘えだ。でもカカシはオビトに頼られたり甘えられるのが嫌いじゃ無かった。寧ろ嬉しかった。

 そんな心境を欠片も表に出すことなく歩く。

 サンマの塩焼きはカカシの好物だ。オビトの料理の腕はカカシよりは下だが、それでも別に下手なわけではない。並よりやや上くらいの腕だ、焦がしたりはしないだろう。少しだけ夕飯が楽しみである。

 

 そして、商店街まであともう少しという所で、通りの向こうから特徴的な緑色のタイツのようなぴっちりした服装に身を包んだ少年が、高速で逆立ちをしながらやってきた。

「おお! そこにいるのは、我が永遠のライバルカカシではないか!!」

「ガイ」

 キランと眩しい白い歯を輝かせるその濃い顔の黒髪おかっぱに、首元でヒーロー宜しく靡くスカーフ。

 一度見たら忘れられないその少年こそ、自称はたけカカシの永遠のライバル、マイト・ガイ少年だ。年齢はオビトの一つ下でカカシとは同い年だが、まだ誕生日がきていないので十六歳だ。

 が、顔が濃いし彼も成長期でグングンと背を伸ばしている為、実年齢より少し上くらいに見える。身長もオビトとカカシの間くらいだろうか。オビトはもう成長期は終わりかけていることを考えれば、この調子でいけば多分将来的には彼より高くなることだろう。

 そしてガイは、腹から発声するよく通る声で、「カカシ、勝負しろ!」とお決まりの台詞を銀髪の少年に向けてビシッと放った。 

「ゲッ」

 そんなおかっぱの少年を見て、思わず黒髪隻眼の青年は嫌そうな声を漏らす。

 オビトはあまりガイが得意ではなかった。

 なにせガイと来たら、体術こそ得手としているが、とにかく人の顔や名前を覚えない。

 なんで中忍試験で二次試験と三次試験どっちでも対峙したのに、オレの事を覚えていないんだ!! とオビトからしてみれば恨み一入である。

 木ノ葉隠れの里に住むジジババの顔を全て覚えているオビトからしてみたら、ガイのように人の顔も名前もろくすっぽ覚えられない奴は信じられなかった。なんて失礼な奴なんだ、と憤慨した。

 だけど、ガイはそのくせカカシにはなんだかんだ、オビトがカカシに辛辣に対応されていた時代も、ライバルとして認められていたっぽいのだ。

 それがまあオビトのプライドを傷付けること、傷付けること。少年の硝子ハートはズタズタだ。

 カカシとチームメイトなのはオレなのに!! と内心何度も地団駄を踏んだ過去がオビトの脳裏をよぎる。

 だっていつもカカシが馬鹿にしてくるから反発してただけで、いがみ合っていた頃から本当はカカシと仲良くしたかったし……。

 ……まあ、リンがカカシに惚れていることに嫉妬して、オビトもまたカカシ相手にツンケンしがちだった事も事実ではあるのだが。そんな自分を棚に上げてオビトはなんでガイばっかりとか思っていた、子供である。

 ……そんな昔の苦い記憶と感情を蘇らせながら、オビトはカカシより一歩足を後ろに引く。

「勝負ねえ……じゃあ、ジャンケンで」

 とかいうカカシの声が呆れるような声音なのに比較的気安そうで、ああガイには心を許しているんだなーと思うと、なんかオビトは自分がカカシの一番の親友で相棒だと思ってたけど、それは気のせいだったんじゃないかと少し落ち込んだ。なんか深く考えると泣いてしまいそうだ。

(べ、別に気にしてなんかいねーしッ)

 そう下唇の傷になっている辺りをぎゅっと噛みしめながら、ため息を一つ零す。

(どうせ、ガイの奴はオレの事なんて覚えてないよな……)

 一度ネガティブ思考になると中々抜け出せないもので、ふてくされたように考えるオビトが2人のほうに顔を向けるのと、ガイがオビトに気付くのは同時だった。

「おお、お前は……オビト、うちはオビトじゃないか!! 久し振りだな……!!」

「……エ?」

 オビトは思わず吃驚して、顔を上げた。

 眉が太くて下睫毛がビシバシ生えた、何度見ても濃い顔のおかっぱ頭の男は、今までオビトには向けたことの殆どない快活な笑みを浮かべて立っている。

「ガイ、お前……」

 オレの事覚えてたのか? って台詞は流石に失礼になるかと思って口内にしまい込んだ。カカシならオビトが何を言おうとしたのか気付いていそうだが、目の前の緑のタイツにスカーフを首元に巻いた男は気付いているのか気付いていないのか、ハッハッハと大声で笑いながらよく通る声で言う。

「聞いたぞ、オビト!! 九尾事件の際は八面六臂の活躍だったそうじゃないか! 自分が罰される事も厭わず弱者を救うために走るその男気、くぅー! オレは感動したぞ!! それも青春だァ!!!」

「あ、はぁ、どうも」

 オビトは照れた。

「お前の事もこれからはライバルとして認めようでは無いか!! さあ、勝負だ!」

「あ、オレ、これから夕飯の買い出し行くから無理」

 そう、オビトはアッサリノータイムで断った。

「なにぃー!? ならば、やはりカカシ、我が永遠のライバルよ勝負だ!!」

 そう騒ぐガイは既にオビトの事は眼中にないらしい。その切り替わりの早さに少し呆れつつも、黒髪隻眼の青年は銀髪の少年のほうに視線を向けて、「カカシ、今夜はサンマの塩焼きだからな、あんま遅れんなよ」そう言って1人さっさと商店街に向かうことにした。

 カカシはため息を一つついて、「オビト」と青年の名を呼び、放射線を描いて自室の合鍵を放り投げる。

 オビトは自分の部屋で料理を作ってカカシが帰ってきてから彼の部屋に運び込むつもりだったが、どうやらカカシは自分の部屋で作ってくれって事らしい。

 オビトはおかっぱ頭の少年に連れて行かれる銀髪の少年に手を振ってそれを承諾とした。

 それから、ブルブルと頭を振って、今夜の献立を考えながら先ほどまで感じていた感情を自分の中から追い出す。

 ……ガイに認められて嬉しいとか、頬が熱いとかはきっと全部気のせいだ。

 

 * * *

 

「ただいま」

「お、オウ、お帰り。飯出来てるぞ」

 そうして夕方過ぎ、ガイからの勝負を受けて返り討ちにしたはたけカカシ少年が自身のアパート内にある自室で見たのは、机の上に並べられた色とりどりの料理の山であった。

「……何コレ」

 真ん中に鎮座しているさんまの塩焼きは別に良い。元々自分のリクエストだったのだから。

 だが、他にもポテトサラダに茄子の味噌汁に、柚子味噌大根、小松菜のおひたしに唐揚げ、白菜の煮浸しにがんもどきにだし巻き卵のキノコの炊き込みご飯のおにぎりなどなど2人……実質はカカシ1人で食うには品数多すぎないか? ってくらい机の上に料理の数々が占領している。

 因みに例によってオビトの前に並んでいる夕飯は味噌汁一杯だけだ。

「あ? しょうがねーだろ、久し振りに買い出しに行ったら、あれもこれもって商店街のじいちゃんばあちゃん達が沢山オマケしてくれたんだよ。オレ一人で消化出来るわけねえだろ……!!」

 オビトにとってはそもそも人からの好意を受け取らないという選択肢自体が存在していないらしい。カカシはため息を一つ零してから唐揚げを見ながら言った。

「……オレ、揚げ物あんまり好きじゃないんだケド」

「ああ? 天麩羅じゃねえんだからそれくらい食えよ。大体お前の好物のラインナップじじ臭いぞ。オレより年下のくせに」

「煩いよ」

 ジト目で睨むもどこ吹く風か、オビトは「まあ、お前も成長期なんだからこれくらい食えるだろ。残ったら明日の朝食えばいいしさ」と告げる言葉に、少しだけ寂しさめいたものが見えたので、カカシはそれ以上小言を増やすのをやめることにした。

 オビトは殆ど食べ物を必要としない体ではあるが、それは別に彼自身が望んでそうなったわけではないからだ。

 まあ、ひとまずは席について、手を合わせる。

「……いただきます」

「いただきます」

 さてまずは、と何気なく茄子の味噌汁……これもカカシの好物である。を手に取り、一口啜る。

「……!!」

 するとカカシはカッと目を見開き、少しだけ信じられないような目をしてから次にサンマの塩焼きに箸を伸ばした。

 ……美味い。

 他の料理にも口を付けたが結果は同じだ。

 なんということだろう。

 オビトの料理の腕がグレードアップしていた。

 元は普通に美味い男飯程度の腕だったのだが、町の定食屋でもやっていけそうなくらいに腕が上がっている。別に劇的に美味いわけではないが、優しい味付けで食べると思わずほっとする、そんな味だ。

 そう、オビトもカカシも物心ついた時には母親がいなかったため、正確な表現ではないかもしれないが、例えるならこれはお袋の味……! 

 頬が落ちるほど美味いわけではないが、毎日でも食べたくなる味だ。

 尚、滅多に作らないが、カカシの料理の腕前はプロのレストランシェフ顔負けであったりはする。器用な男なので。

 そんなプロ級の自分の腕前を棚に上げて、ジト目でカカシが問う。

「お前、なんの修行してたの? 料理修業じゃないよね……?」

「バッ、ちげーよ、んなわけねーだろ!? バカカシ!!」

 オビトは憤慨した。

 とはいえ、彼とていつまでも子供ではない。自分の感情を一旦落ち着けて、それから自来也との旅の話を淡々とした声で始める。

「いや、ほら、オレってミナト先生が頼んだから自来也師匠に面倒見て貰うことになった身だろ? 月謝とかも払ってなかったし……だから、せめてと思ってさ……食事のついてないような宿に泊まって近くに飲みに行くとこない時とか、野宿するときはオレがおさんどんやってたの」

 オビトとしては急に自分の面倒を押しつけられた自来也に、申し訳ないなと罪悪感めいたものもあったのだ。

 酷い目にもあったけど、約束通り、修行もつけてくれたしせめて自分の出来る範囲で恩を返そうと思った結果、とにかく食事の世話から掃除洗濯など身の回りの世話を自来也に言われる前から積極的に行っていた。

 この辺は普段からやっていた木ノ葉のジジババ達の世話で慣れていたのもあって、オビトにとっては師匠の世話を焼くのはそこまで大変でもなかったのも確かである。

 我が儘な老人や偏屈な老人の相手だって慣れているのだ。実際、オビトにとっては大した手間でもなかったし、結局のところオビトは奉仕体質の人間なので、誰かの世話を焼くことに安心感を覚えていたのも確かだった。

 オビトは甲斐甲斐しかった。そして、努力の出来る人間だった。

 だから、忍びとしての修行の合間に、師匠がやれ味が濃い、薄いと文句をつけたら改善の為に努力したし、写輪眼を使って時には厨房の技術も盗み見て研究を重ねたりもした。

 カカシが気付いたのは料理の腕だけであるが、実のところ三年で向上したのは料理だけでなく家事能力全般である。多分今のオビトは家事代行サービス業に転職しても、問題なくやっていけることだろう。

 そして自来也師匠にも、旅のはじめのほうは押しつけられた面倒な荷物兼子供として見られていた気がするのだが、半年も過ぎた頃からは口五月蠅い小姑兼便利な家政夫として見られていたような気がするのだ。

 あと弟子になって一年も過ぎた辺りから、自来也師匠に「オビトよ、お前姉か妹はおらんのか?」とか定期的に聞かれるようになったのだが、多分その理由や意味は考えたくも無かった。

 何故って嫌な予感がするからだ。聞いたら後悔する予感しかしねえ。なら、自分は聞くべきでは無いのだ。

 オビトは不器用で要領が悪いだけで、別に馬鹿でも察しが悪いわけでもなかった。

 そんな風に黄昏れているオビトを見て、カカシはとりあえずそれ以上突っ込むのはやめた。

 あとは黙々と箸を進める。

「ご馳走様」

「おう、お粗末様」

 結局、八割の料理を平らげて、一服した。

 流しにおいておいて、洗い物はあとで纏めてカカシがやる予定だ。

 オビトと来たらまめなことに次に食後のお茶を用意して、カカシの前にことりと置く。勝手知ったる他人の家である。

「ドモ」

 そういって茶を啜る。

 ゆったり流れる静かな時間。この時間がカカシは嫌いじゃ無かった。

 だけど……。

 カカシはチラリとオビトの横顔を見る。カカシを庇って岩に潰された時に残った皺のような渦のような傷のある右顔。三年ぶりに見るオビトは前と変わっていない部分も多いけど、こうしてみると昔より落ち着いていて、大人びて見える。もしかすれば、オビトから見たカカシもそうなのかもしれない。

 よくも悪くも時間は流れているのだ。

 いつまでも子供ではいられない。

 だからカカシは時計の針を進めることにした。

「オビトはさ……リンに告白しないの?」

 瞬間、オビトの顔から表情が抜け落ちた。

 能面のような、カカシの知らない顔で、ポツリと声変わりを迎えて掠れる低音で囁くようにオビトが言葉を落とす。

「……お前が言うのか」

 言ってからはっとしたようにオビトは自身の手で自分の口元を抑える。

 それから動揺を誤魔化すようにヘラリと笑って、「わ、ワリィカカシちょっとトイレ、トイレ借りるわ。急に腹が痛くなってきてさー……じゃあな!」

 そういってカカシの部屋のトイレの中に駆け込んだ。

 

 バタン。

 トイレのドアを閉めて鍵をかけると、そのままオビトはズルズルと扉の前に座り込む。

 腹が痛いなんて嘘だ。

「…………何やってんだ、オレ」

(カカシにあんなこと言うつもりじゃなかったのに……)

 オビトは自己嫌悪に陥った。

 三年前のあの日、木ノ葉隠れの里を出されることが決まったあの時オビトは一つの覚悟をしていた。

 それは、自分が帰ってきたその時に……想い人であるのはらリンと、相棒のはたけカカシがもしも付き合っていたなら、どんなに辛くても笑顔で二人を祝福しよう、というそんな覚悟だ。

 オビトにとってリンは世界で一番大好きな女の子である。いくらリンがカカシのことが好きだとわかっていても、薄々カカシとリンはお似合いだって思っていても、リンが選ぶ相手が自分じゃないことが辛くないわけがない。でも思春期の三年は長いし、リンが幸せになってくれるなら、それはオビトの幸せよりも大事なことだから、そうなっても仕方ないと、応援するんだと自分に言い聞かせていたのだ。

 なのに、カカシの口からあんな言葉、聞きたくなかった。

 

(ただ……カカシとリンの奴、付き合っているようには見えなかったな……)

 別にオビトはそこまで鈍くはないつもりだ。 

 特に好きな人のことは少しでも変化があれば気付かない筈がないという自負がある。

 しかし、今日久し振りで三人であった時の二人の態度と距離感は昔と……オビトが里から旅立つ前からと何も変わっていなかった。

 それにもし付き合っていたのなら、カカシだってあんなことオビトに聞いたりはしないだろう。そこまでカカシは性格が悪くは無い筈だ。

 てっきり、リンのことだから既にカカシに告白しているものと思っていたが、していないんだろうか? とオビトは首を傾げた。

 彼の中で最高の女の子はのはらリンである。

 そんな彼はまさか、カカシがとっくにリンに告白された上で振っている事実なんて、夢にも思わないのであった。

 

 続く

 

 




おまけ
突発・神威コンビ劇場

オビト:なあ、カカシ寝ながらナルトがオレの匂いメッチャ嗅いでくるんだけど、本当にオレ臭くないよな?
カカシ:はいはい、臭くないから。どっちかというと良い匂いだから安心しなよ。
オビト:おお、そうか。それはよか……ん? はぁ!? 良い匂いってカカシ、お前……! 
カカシ:そう、例えるならば(ヒノキ)の香り……みたいな。
オビト:って、オレは入浴剤かーい!
カカシ:良い匂いだと思うヨ。

柱間はきっと菩提樹(お釈迦様が亡くなった時寝転んでいた樹)の香り。
ヤマトは杉(木材として有用な反面、真っ直ぐ生えて根が弱いため土砂災害起こしがち)か橅(杉とは逆に木材として使えない代わりに酸素生成量が通常の木の三倍で、根っこをしっかり張るから土砂災害が起きにくい。水をたっぷり蓄えている)のどっちのほうがそれっぽいか悩みますな。
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