隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回は墓参り回になっています。


25.墓前

 

 

 

 朝の五時半、オビトは旅の間の習慣の延長で目覚ましに起こされることなく自然と眼を覚ました。

 昨日は、あれからすぐにカカシの部屋を出て、自室に戻り風呂に入った後は忍具の手入れをして早々と寝たから、心はともかく、体は随分とスッキリしている。そう思えばやはり人間に必要なのは適切な睡眠なのだろう。

 顔を洗って歯を磨き、なんとなしに鏡に映った自分を見る。

 カカシによって旅に出る前と同じくらい短く切りそろえられたツンツンとした黒髪と、渦のような皺のような傷が無数に残っている右顔に、眼球がない為よく見るとくぼんでいる左瞼。自分の顔の善し悪しはよくわからないが、写真でのみ知る両親の姿を思えば、自分はどちらかといえば父親に似たのだろう。傷さえ気にしなければ、多分そこまで変な顔でもない筈だ。

(オレだって、うちは一族だし……)

 コンプレックスでもあり、誇りでもある自分のルーツを思い浮かべながら、そんなことを黒髪隻眼の青年は思う。

『このオレの写輪眼が開眼したらお前なんて追い越してやる』

 というのは、昔のオビトがよくカカシに言っていた台詞である。

 まあ、実際に開眼した今も追い越せているかは怪しいし、その折角開眼した眼も片方は自分を庇って左目を負傷したカカシに上忍祝いとして渡したわけだから、子供の頃自分が思い浮かべていた事とは随分と違う未来になってしまったわけだが。

 今のオビトはあまり、昔の自分が言っていたような形でうちは一族を主張することはない。

 それは、幼い頃のオビトには自分はやれるんだと示せる根拠が自分の血くらいしかなかったからだ。そう主張していないと不安だったから、自分に言い聞かせる意味もあってそう大口を叩いていた。開眼したら、とやたらと主張していたのも、もし開眼しなかったらどうしようという不安の裏返しだ。

 だが、今のオビトは違う。写輪眼だってきちんと開眼した今わざわざうちはを……自分のルーツを主張する必要は無い。それに、色んな人に色んなものを貰って、託されて今の自分はここにいるのだ。

 結局の所写輪眼もその一つというだけなのだ。

 かつて扉間先生は言った。

 写輪眼とは心を写す瞳であると。うちは一族をあまり信用していないのも闇に魅入られやすいからだと。

 それでも、彼はオビトを信用し信頼し、オビトなら大丈夫だと言ってくれた。

 なら、その信頼には応えるべきだ。

『……闇を必要以上に恐れるな、目を逸らすな。闇は隣人と心得、己が闇も飼い慣らし受け入れよ。それが出来るのであれば……或いはおぬしの言うとおりいつか貴様が火影になるやもしれんな』

 その言葉を、どんな気持ちで言ったのか正確なところはオビトにはわからない。

 でも、あの人には沢山のものを貰ってきたのだ。

 託されたのだ、火の意思を。

 なら、その期待に応えたいと、応えれる自分でありたいとオビトはそう思っている。

 

 今日は墓参りをしよう。

 ばあちゃんや扉間先生にも、旅の間のことを報告して、綺麗に掃除して、それから一昨日注文しておいたうちは襟の私服や新しい下着等を数点に、忍具などを取りに行く。

 今日やることを確認して、部屋の清掃と換気を熟し、着替えている最中にふと、昨晩銀髪の少年に言われた言葉が脳裏をよぎる。

『オビトはさ……リンに告白しないの?』

 それを頭をブンブンと左右に振って追い出す。

 だけど、一度蘇った言葉は中々消えず、ため息と共にオビトは忌々しげに額を抑える。

(本当は、オレだってちゃんと告白したかったに決まってんだろ……バカカシ)

 四年前の春の日を思い出す。

 桜が舞っていたあの日、リンに呼び出されたオビトはてっきり二人きりだと誤解して、花束を用意したのだ。今日こそ告白するぞと決めて、『ごめん、待った?』なんて駆け寄るリンに可愛いなぁなんて思っていたらカカシ以外の同期がぞろぞろ集まってきて、リンは皆に「同期メンバーでカカシ上忍就任を祝うプレゼント企画(極秘任務)」と書かれた用紙を配っていて……今回の呼び出しもそのためだったと知った。

 結局オビトは用意した花束をリンに渡すことも、告白することも出来ず、みんなの手前何も言えなかった。花束を思わず後ろに隠しながら苦笑して、その紙を受け取った。

 神無毘橋破壊任務の時リンやミナト先生が用意した上忍祝いをカカシに渡す中、オビトだけ用意せず忘れていたフリをしたのも、そのことでふてくされていたからだ。子供だったといえばそうだが、折角決意したのに、リンに告白するタイミングを逃がして、そもそもリンが自分を呼び出した理由がカカシの昇進祝いで、リンが好きな人もカカシで……なんていうかもうふざけんな、畜生! みたいな心境だったのである。

 まあ、それからも告白しなかったのは、色々自分たちの立場や関係も変わったし、オビト自身一度は死を覚悟して、色々なものをカカシに託したから……という所もでかかったりはするんだが。

 オビトにとって一番がリンなのは変わらないけれど、それでもかつて気にくわねえと思っていたカカシが自分にとってもとても大切な存在になってしまった。リンだけでなく、カカシも幸せになってほしいのだ。

 言えないのは、言わないのはリンの気持ちの向かう先を知っているからだ。

 誰よりも大切で、誰よりも大好きな人だから一等幸せになって欲しいとそう願っている。

(まあ……多分これは一度自分はこれから死ぬと、終わりを受け入れた影響もあるんだろうけどな……)

 告白したいかしたくないかといわれたら、したい。

 だけど、オビトにとってはリンの動向が一番優先される、それだけの話なのだ。

 

 * * *

 

 今日も里は平和なようだ。

 下忍達はDランク任務に精を出し、道すがら困った老人に出くわすとオビトはいつものように手を貸す。

 三年ぶりに会った老人達は「大きくなったなあ」「男前になったじゃないか」と顔を綻ばせてオビトを見て、助けてくれたお礼にと、昔のように飴玉や花林糖などの菓子をオビトに渡す。それに「ありがとな。でももう、ガキじゃないんだからさ、今度からは別にいいって」ってオビトも笑って返し、目的地についた時にはアパートを出てから優に一時間は経過していた。

 嗚呼、でもそんなところを含めてのうちはオビトの日常なのだ。

 そして彼は木遁で花を作り出す。

 生み出したのは真っ白な一輪のダリア。

 オビトは亡き師に捧げるならこの花にすると、そう決めていた。

 木遁で花を生み出すようにとオビトを指導したのは、初代火影の実弟にして第二の師である千手扉間だった。

 生来の性格もあるのだろうが、オビトは細かい制御はどちらかといえば苦手で、だから細かい制御を鍛える目的と木遁に慣れさせることの二つの目的から、一日一輪でいいから花を作るようにとそう課題を課されたのだ。

 はじめは、加減がよくわからなくてすぐ枯らしていた。チャクラを注ぎすぎたのだ。

 確かに小さな花を生み出す感覚は、無造作に右腕から大雑把に樹を生やすのとはわけが違う。細かな作業が出来るようになったら大きな術を使ったときにも応用が利くからと、無駄をなくすため、基礎をひたすら鍛えるようにとそう指導を受けて愚直に取り組んだ日々だった。

 マトモに花を作れるようになったのは、その課題を課されてから一月(ひとつき)になるかならないかくらいからか。

 はじめて、ものになった時は感動したものだ。次いで困った。

 オビトには花を愛でる習慣がないので、毎日花を作っても、それが部屋を埋めるのは困る。

 そこで、お世話になった人やリンに自分が訓練の一環として作った花を配るようにした。

 すると、「綺麗だね」と「ありがとう」と喜ばれるものだから、益々嬉しくなってオビトは扉間先生への敬意を深めながら更に綺麗な花を作れるようにと、チャクラの練り方にも工夫して課題に励んだものだ。

 まあ、大体そんな感じだったものだから、扉間は第二の師ではあったけれど、座学を除けば教えてくれるのは基礎ばかりで、思えばそんな大技とかは教えて貰ったことはない。

 だが、そうやって基礎を色々鍛えて貰ったからこそ、第三の師である自来也の元で色んな術の習得がスムーズに回ったので、そう考えると全く無駄にはなっていないのだ。

 根が努力家ではあれど不器用で要領が悪いオビトと、根が器用で要領が良かったヤマトに対しては同じ木遁忍術の使い手だとしても、違う課題と育て方をしていた扉間先生。

 ヤマトのように応用を教えてもらえなかった事に不満がなかったとはいえないが、後のことを思えば結局その指導は正しかったわけで、そう考えると、やはり扉間先生は教育者としても素晴らしく優秀な人だったのだろう。

 そんなことを思いながら、慰霊碑までの道程を歩く。

 九尾事件の犠牲者である十四名の名がそこには刻まれている。

 そのうちの一人が、木ノ葉隠れの里黎明期を支えた術開発の天才、千手扉間だ。

 刻まれているのは、名だけ。

 その正確な墓の場所もオビトは知らない。多分これから先も聞いても教えてもらえることはない。

 いや、もしかすると……生者こそ尊ぶが、死んだら物質として研究材料にしてしまう、合理主義と無神論を極めたような師は、遺言で自身の墓すら作らせなかった可能性もある。

 ならば、彼を悼み祈りを捧げられる場所はここ以外にはないのだ。

 とっくに忍びとしては引退していた師であったけれど、それでも彼の薫陶を受けたものは多い。厳めしいツラで、気難しそうに見えて案外笑い上戸で、色んな人に慕われている人だった。

 だから、三年経った今もこんなに花が多く献花されている。

 そこに、オビトは自身が生みだしたダリアを一輪加える。

 慰霊碑に添えられている小さな可愛らしい花束と、その花の側に巻かれたメッセージカードの幼さの見える文字は、当時彼に庇われたというアカデミー生のものだろうか。『扉間先生、ずっとずっと大好きだよ』と小さく書かれた言葉は、これが墓前でなければまるでラブレターと錯覚してしまいそうだ。

「…………」

 手を合わせしゃがみ、神妙に祈る。

 帰ってきましたも、ありがとうも言葉にせず、想いは生みだしたダリアに込めた。

 自分と扉間先生の間ではそれだけで十分だった。

 

 * * *

 

 かつての師に十分ほど黙祷を捧げ、軽く周辺の清掃をしてから次いで向かったのは祖母の遺骨が納められている墓地だ。

 祖母はかつてのうちはの頭領の娘でこそあったが、忍びであったことは一度もない、忍び一族出身のしかし一般人である。舞踏や琴に華道などかつては様々な芸能を一律隔たりなく教え、かつて彼女の弟子には一世を風靡し知らぬ者はおらぬとさえ謡われた舞姫もいたという。

 そんな祖母の晩年はうちは自治区を出て、里の一般的な居住区での孫との二人暮らしであった。

 オビトは祖母が一族を果たしてどう思っていたのかはよく知らない。

 誇りに思っていたのか、そうでないかもわからない。

 祖母はかつての族長の娘だ。しかし、忍びの道を選ばなかった人間だ。多分、肩身は狭かった筈である。

 だから祖母の墓は、丁度うちはの者が多く納められている区画の外れ……一般的な里人の墓のすぐ側に作られた。すぐ隣には誰の骨も納められていないオビトの両親の名も刻まれている。

 オビトにとって両親は写真でしか知らない存在だ。

 多分、写真から受ける印象を元にするなら、オビトの顔は父親似で、雰囲気や表情などは母親似なのだろうか? と思うが生憎オビトからしてみればどっちも会ったことない人たちだ。実際の所はよくわからない。

 だから実際に自分を育ててくれたばあちゃんほど両親に思い入れはない。

 それでも、彼らがいたからこうして自分はここにいるのだ。

 祖母にとっても大切な人たちだった。なら、祖母より先に彼らの墓に手を合わせたほうがきっと祖母も喜ぶだろう。そう思って木遁で生みだした白い菊を数束両親の墓に捧げる。続いて手を合わせて黙祷。それからもってきた水と手ぬぐいで墓を磨き、水をかけて綺麗にすると、祖母の墓の前に移った。

「ばあちゃん、ただいま」

 そこに祖母が本当には眠っていないとしても、見ていてくれると信じて微笑みながら自然と三年前より低くなった声で優しく帰還の挨拶を零す。

 師扉間には白いダリア、両親には白い菊を捧げたが、祖母の墓には白詰め草の花束を捧げた。

 写真で見る限り、若かりし頃の祖母は華やかでいてお淑やかな美人であったようなのだが……祖母はこの小さくて素朴で可憐な花が好きだった。

 祖母と祖父は見合い結婚であり、元々はただの顔見知りでしかなかったと聞いたが、その夫婦仲は良好であり、白詰草もなにやら祖父と想い出のある花なのだと、幼い頃のオビトに祖母は語った。

『牡丹や薔薇、百合に梅、そんな花たちもとても素敵だけど、この素朴で小さな命がいいのよ、一生懸命生きているって感じがするでしょう?』

 そう口元にえくぼを作りながら笑った祖母の顔を思い出す。

 おっとりとしているように見えた祖母だけど、多分芯は強い人だったんじゃ無いかとオビトはそう思っている。

 自分を持っている人だった。

 そんな祖母が好きだった。

(色々話したいことがあったのに、こうしてみると思いつかないもんだな……)

 そんなことを思って手を合わせながらオビトは苦笑する。

「ばあちゃん、オレさ……あれからも色んな人に助けられて、随分と強くなったんだぜ? まあ、とはいってもまだまだ足りないものだらけだけど……それでも、いつか、絶対に火影になるからさ。だから、これからも見守っていてくれよな」

 そういって念入りに祖母の墓を綺麗にしてから去ることにした。

 

「ん?」

「……あ」

 そうして墓参りにきてから一時間もしただろうか、そろそろ帰ろうと思ったタイミングでぱったりとカカシと会った。

 これから帰ろうとしているオビトに対し、カカシは逆に今来たところなのか、その手には墓前に供える為の花束が握られている。流石に昨日の今日で少し気まずい思いはしたものの、オビトは出来るだけその感情をしまい込んでなんでもないような声を作り、言った。

「それ、サクモさんにか」

「……ああ」

 はたけカカシの父はたけサクモは、第一次忍界大戦で活躍した英雄である。

 木ノ葉の白い牙として他国にも恐れられた忍びであったが、掟を破り仲間を救う為に任務を失敗した事をよりにもよって救われた当人に非難され、苦悩の末に自殺未遂を図り……その数年後体を弱らせた彼は病で儚くなった、らしい。

 全て、担当上忍師だった時代の波風ミナトに聞いた話だ。

 カカシが頑なに掟を守ろうとする規則人間になった理由。

『……オビト……少しでもいい……分かってあげてね……カカシにも悪気があるわけじゃないんだ』

 そう、師は語った。

 だから、次の日オビトはカカシに言ったのだ。『オレは“白い牙”を本当の英雄だと思っている……』と。

 それは別にお世辞というわけではない、真実オビトは例え非難されることになったとしても、掟より仲間を救うことを優先したサクモのことを格好いいと思ったからだ。

 オビトは仲間を守れる忍びになりたい。

 それを成し遂げた先達を尊敬するのは当然のことではないか。

 心底凄いと思っている。

 だからオビトは言う。

「オレも行って良いか?」

「父さんの墓に……?」

「言っただろ。オレは“白い牙”は本当の英雄って思ってるって。オレにも英雄に挨拶させろよ」

 な? そう笑って言うと、カカシは少しだけ眦を和らげて「わかった」と承諾した。 

 ……英雄の墓は人気のあまりない端のほうにひっそりと立っていた。

「……」

 カカシ自身も最近あまり来れていなかったのか、前の花は既に枯れているし、少し荒れている。

 それをどちらも何も言わず、無言でてきばきと手分けして綺麗にしていく。

 それから墓前にカカシは買ってきた花を、オビトは少し悩んだが両親に捧げたのと同じ白い菊を木遁で作り出して生けた。

 そして墓前で神妙に手を合わせ、祈りを捧げる。

 憧れの英雄の墓の前で、アナタの息子とはこれからも頑張ってやっていくから見守っていてくださいと、そう祈った。

 それからなんとはなしに、アパートまでの道程を共にカカシと歩く。

 その間、二人の間に会話はない。

 それでいいと思っていた。別に話さなくても、通じ合っている気がした。

 そうしてアパートについて部屋の前で別れるときにポツリとカカシは言った。

「オビト、今日はありがとね」

「……ん?」

「あんまり訪れる人、いないからさ。父さんもきっと喜んでいる」

「……オウ。オレも英雄に会えて光栄だったぜ、ありがとな」

「ただの墓石なのに?」

「ようは気持ちだろ?」

 そういって「なにそれ」とカカシは吹き出して、オビトも釣られるように笑ってわかれた。

 カンカンと階段を登る音が聞こえる。今日はどうやら歩きたい気分のようだ。

 さて、自分も荷物を置いて夕方になったら注文していた品を取りに出るか。

 そんな事を思っていたオビトだったが、ふと郵便ポストの中に何か入っている事に気付く。

「ん? なんだこれ」

 それは一冊の封筒だった。

 裏返してみれば、そこにはうちはの家紋が押し印されている。

(一体何……?)

 家紋があるってことはうちは一族から出された正式なものなのだろうが、オビトとしてはこんな封筒を出される理由がよくわからない。なにせ、祖母こそ先々代族長の娘であるが、オビトはこれまで一族とは距離を取って生活していたからだ。

 思い当たる節があるとしたら一昨日の会合に久し振りに参加したことくらいだが、だからといってこんなものを貰う理由がさっぱりわからない。

(ま、いいや)

 よくわからないけど、見たらわかるだろうと思ったオビトはビリビリと封筒を開封して、そして「ん?」と二度見した。

 それは見合いの釣書であった。

 3人ほど一族の娘をピックアップされて、顔写真と共に簡単な経歴と、見合い会場と時間が指定されていた。

「……火遁・業火球の術」

 ぼそっ。

(オレは何も見ていない、見ていないったら見ていないんだッ)

 オビトは釣書をなかったことにした。

 そしてそのままふて寝した。

 

 続く

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