隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回はリンちゃん回。
この話はジャンルがラブコメではないことと、リンちゃんはバトルヒロインではない関係でリンちゃんさんの出番自体はそこまで多くないですが、少ない出番ながらリンちゃんさん格好いいと思ってもらえるように頑張りますので本作ヒロインリンちゃんさんを宜しくお願いします(?)


26.担当医

 

 

 

 里に帰ってきてから四日目の朝、この日うちはオビトは木ノ葉病院に来院予約を入れていた。

 別にどこかが悪いわけではない。オビト自身の体調は至って好調だ。

 しかし、完全に馴染んだとはいえ、オビトの内蔵のいくつかは柱間細胞を元にした疑似臓器に置き換わっているし、殆ど見た目も今は本物の人体と遜色ないとはいえ、その右腕と右足もまた柱間細胞産の義肢である。

 そしてこの柱間細胞産の義肢技術の責任者は亡くなった千手扉間であったのだが、彼亡き今その責任者の地位は彼に尤も近い親族にして、木ノ葉病院院長の加藤綱手に移っている。

 そしてオビトはこの柱間細胞を使った疑似臓器及び義肢技術の被験者であり、臨床試験に協力するとサインもした身だ。

 だから、メンテナンスを兼ねて病院で検査を受けるのはほぼ彼の義務と言えた。

 特に今回は三年ぶりとのことで、恐らく今回の検査は丸一日がかりとなるだろう。いや、もしかすると数日かかる可能性もある。思えば師にして四代目火影である波風ミナトが、帰ってきたうちはオビトに長期休暇を与えたのは、その事も折り込んでなのだろう。

 

「すまないねえオビトちゃん……」

 そんな彼は現在病院に行く道すがら、ぎっくり腰で動けなくなった老婆を背負っていた。

 相変わらず脅威の困っている老人遭遇率の高さを誇るオビトであるが、今日は行き先が同じだけ運が良い方であると言える。

「いいっていいって。困った時はお互い様だろ?」

 そういってオビトはカラカラと笑う。暖かい春の日差しのような微笑みだった。

「本当にオビトちゃんは良い子だねえ。アタシがあと二十年若かったらオビトちゃんをお婿さんに貰うのに」

 そう言って、ポッと頬を赤らめて青年の背中の上でクネクネする六十台女性に、オビトは「ハハッ」と乾いた笑みを浮かべながら頬を引きつらせる。

 因みにこの老女、子供が出来たのを機に忍びを引退した元中忍くノ一で、三十年前に二人目の夫を亡くして忍者学校(アカデミー)の教師をしながら四人の子供を育てた女傑であるのだが、惚れっぽいのが玉に瑕で、若い頃から中年にさしかかる頃くらいまで、男女関係のトラブルもよく起こしたらしい。子供達も四人中三人が父親が違うのだとか。

 二十年若かったらじゃなくて四十年の間違いだろ~とか突っ込みたい所は多々あるのだが、その言葉でオビトの脳裏をよぎったのは昨日自分宛に届いたうちはの家紋が印字された封筒である。

 ……まさかの自分相手に見合いの釣書。しかも好きな娘を選べと言わんばかりに三人分。ただでさえリンの件でナイーブになっていたのに本当に勘弁して欲しい。思わずうちは伝来の火遁で釣書は焼却処分したわけだが、一族の人間にもし次にこの件を聞かれることがあれば、そもそも届いていない見ていない何も知らないということにしよう。

(そりゃばあちゃんは見合い結婚でも幸せだったらしいけどさ……)

 だけど、オビトはそんなの嫌だった。

 血継限界の一族だから血を残す義務がある? そんなの知るか。オレはリンが良いんだ。リン以外は嫌だ。リンがカカシと結婚するんだったら涙をのんで諦めるけど、そうでない限り嫌だ。リンから直接フラれてもいないのに完全に諦めるとか、出来るかァ!! と、そんな本心がグルグルと自分の内を駆け巡るのだ。

 どうせリン以外の女性は同列にしか見えないのだ、そこに彼女達の美醜や性格は関係ない。いくらどんな経歴と写真を見せられようとオビトにとっては全部一緒だ。リン以外の女性にそういう気持ちを持てないのに、見合いなんて受ける意味すらわからない。

 なら、最初から何もなかったことにすればいい。

 全部、知らぬ存ぜぬで通して、シラを切って逃げ切ってやる。

 オビトは改めて決意した。

 彼はとことんどこまでもリン一筋で頑固で一途な男だった。

 

 ともかく、病院についたあとは待合室でオビトは老女とは別れ、受診票を片手に席に座る。

 病院と言えば待たされるものと相場は決まっているが、元々予約を入れていたこともあり、オビトが名前を呼ばれたのは受診票に名前を書きこんだ十五分後のことだった。

 そのままいつもの検査室に向かうように看護師に指示され、指定の検査服に着替えた後暫く待つ。

 すると、十分も経たないうちに「うちはオビトさん、お入り下さい」と看護師に名を呼ばれ、問診のため診察室へといつもの調子で気負わず入ったオビトは、「失礼します。うぇええ!?」と、その先で見た人物を前に、そんな素っ頓狂な声を上げて驚愕することとなった。

「あ、オビトおはよう。一昨日ぶりだね、よく眠れた?」

 そう言って微笑んで白衣で迎えてくれた茶髪の天使……じゃなかった、担当医がいるべき場所に立っていたのは幼馴染みにして片恋相手ののはらリンの姿だったからだ。

「なんでリンが!? ダン先生や綱手医師(せんせい)は!?」

 はっきり言って朝から大好きな人の眩しい姿を見れて嬉しい。だが、不意打ちが決まって心臓がバクバクして煩いし、頬も真っ赤だ。オビトの脳内は大変混乱している。

 だってこれまで柱間細胞義肢のメンテナンス検査の時立ち会う医者と言えば、主治医である綱手か、その代理であるダンであったからだ。

 柱間細胞の研究は主に忍術研究所の領分で在り、これを扱える医者はそう多くいなかった。ダン先生は正確には医療忍者ではないらしいのだが、それでも初期から関わっていることもあり、処置は出来ずとも知識はあり概要もわかっているので、検査結果の纏めをしたり、オビトと実際に会話してカルテを作る分には問題がなかったので、綱手が忙しい時は代理としてオビトの相手をしていたのだ。

 オビト個人としてもかつては同じ夢を見ていた先達で、同性でもあるダン先生と過ごすほうが気安かったのも確かである。おまけに彼は聞き上手で人柄もよく爽やかなイケメンだ。

 同性であるオビトから見ても、落ち着いた物腰は大人の男としての余裕を感じさせて格好いいなと憧れるし、甘いマスクに柔らかい物腰もとても好感が持てる。

 きっと十年くらい前までは師ミナトと同じくらい女子に騒がれていたことだろう。そんな彼は奥さんである綱手姫一筋だからよそ見するようなことはしないのだろうが、そんな所も含めて尊敬出来る人だ。一途で誠実な男というのはオビトもそうでありたいと目指すところである。オビトはダン先生が好きだった。

 逆にその妻である綱手はやや苦手だ。命の恩人でもあるし、木ノ葉医療界を変えた凄い人だから尊敬しているし、感謝だってしているけれど、なんていうか言葉も態度もキツくて強烈だ。

 豪傑を絵に描いたような性格で、激情家で……大変パラフルで、見た目こそ若く見えるが自分の親くらいの年齢の異性であるし、オビトとしては彼女と相対すると背筋がピーンとなって、尻の据わりが悪くなるのだ。ようは緊張して気が休まらない。

 しかし、今までオビトが検査を受ける際にこの2人以外の医者がついたことはない。

 なのになんで今日はこの2人じゃ無くて、リンが問診室にいるんだ? ……と、まあ、ともかくそんな風に混乱するオビトを前に、リンは姿勢をすっと正して、よそ行きの表情と態度を繕ってこんな言葉を放った。

「この度より、うちはオビトくんの担当医を拝命しました、のはらリンです。これから宜しくお願いしますね」

 そう穏やかな笑みを浮かべているリンは、一端の医療忍者だった。

「……なんてね、フフ、オビト吃驚した?」

 しかし、次に悪戯そうにパチンとウインクする姿は、もうオビトがよく知るいつもの幼馴染みの女の子だった。

(リン、ウインクしてる……くっそ可愛い。しゅき)

 医療忍者としての貫禄と矜持を感じさせる慈母の如きリンの姿と、年頃の若い娘らしいお茶目さのギャップにオビトはメロメロになった。

 とはいえ、仕事は仕事、私事は私事。

 幼馴染みで元チームメイトの女の子としてリンが接してくれたのはここまでだ。

 あとは担当医として相応しい顔と態度を纏って、リンはいくつかオビトに設問し、カルテに書き込むと今日行う検査の手順などを簡潔にわかりやすく説明し、それから採血のために自ら注射器を手に取りオビトの腕をチクッとした。そのあとは手袋越しにガーゼとピンセットで唾液の摂取の方も済ます。

 まあ、このあとはいつも通りと言えばいつも通りだ。

 看護師の指示の元、次々に色んな機械を使って検査を行い、細かいデータを取る。

 それらが一旦終われば、もう一度最後に担当医と会話して終了だ。そういう流れだ。いつもなら二時間から三時間くらいで、その間検査結果が出るまで待つ合間に、扉間先生の座学講座の時間が入ったりしていたものだが、もう扉間先生はいないし、三年ぶりなのもあって、いつもより検査項目も増えている。

 病院だってずっとオビトにばかりかかりきりというわけにもいかないし、やはり今日は半日はかかると見たほうがいいようだ。

 だから次にリンに会うのは夕方頃か。

(それにしても……やっぱ大人びたよな……)

 待合室で次の検査に呼ばれるまで待ちながら、朝に会った時のリンの姿を思い浮かべて黒髪隻眼の青年はそんな事をしみじみと思う。

 医療忍者としてのリンもオビトはよく知っている筈だった。

 幼馴染みだったし、アカデミーを卒業してからもずっと同じ班で、リンが医療忍者として頑張ってきたのをずっと隣で見てきた。オビト自身、リンには助けられっぱなしだった自覚がある。

 努力家で真面目なリンは昔から優秀だった。カカシみたいに一を聞いて十を知るような天才というわけではないけれど、秀才ではある。

 神無毘橋破壊任務についたとき、岩穴の中で道具も限られているあんな劣悪な環境で、当時十三歳という若さでオビトの眼軸ごと写輪眼をカカシに移植する手術を見事にやり遂げた時点で、彼女の優秀さは自明の理である。心優しいだけじゃない。彼女は見た目よりずっと度胸が在り、肝が据わっている立派な医療忍者だ。

 リンのことを守りたいと思っていた。

 オレがリンを守る、その思いは今も変わってはいない。しかしオビトは彼女を見くびった事は無い。寧ろ敵わないと思わされる事のほうがずっと多かった、だけど……。

 今日担当医として接したリンはまた今までと違う姿だった。もう、一人前の医者だった。

 女の子のほうが成長が早いとは聞いていたけど、嗚呼、彼女はもう大人なんだなって思った。

 その、少女から大人の女性へと羽化していく姿をオビトは見ることがなかった。自分の知らない彼女がいる。それは仕方ない事だとわかっていてもやはり少しだけ寂しかった。15歳と16歳のリンを、オビトは知らない。

 

 夕方になった。予定されていた検査が全て終わり、トントンとカルテを纏めながら、最後まで担当医としての態度を守ったリンは「……本日の検査は以上になります、お疲れ様でした」と患者向けの微笑みを浮かべながらそう締めくくった。

 それにオビトもまたリンの幼馴染みとしてではなく、彼女の担当する柱間細胞義肢実験の被験者としての態度として「リン医師(せんせい)ありがとうございました」と深々と頭を下げる。

 これで、今日の検査は終了だ。リンも仕事モードみたいだし、寂しいけど、あまり馴れ馴れしくするのもよくないだろう。そう思って、そのまま病室を出ようとしたオビトであったが「オビト」と次に彼女が呼んだ声と響きが、幼馴染みとしてのそれであったので、思わず振り返る。

「あのね……ちょっといい?」

「うん、なに?」

 急に一人の医者から幼馴染みに戻るものだから、オビトはドキドキして、思わずドモりつつそう返答する。声がうわずった気がする。うわ、オレかっこ悪い、なんて思って心臓の早鐘を誤魔化そうとしたけれど、どうにも誤魔化せそうになかった。しかし……。

「……ごめんなさい」

「……え?」

 急に深く彼女が頭を下げて謝罪の言葉を出すものだから、思わぬ言葉と行動にオビトはキョトンと右目を見開いて首を傾げた。なんの謝罪かさっぱりわからなかったからだ。

 それにリンも、一体オビトがなんで謝られているのか分からず戸惑っていることを理解してのことだろう、「あのね、私オビトに言ったじゃない? オビトが次に帰ってきた時には、オビトがもう一度食事を美味しいって思えるようにするね」って。と、三年前……オビトが里を出る前に交わした会話について口にした。

「でも、まだ研究はそこまで進んで無くて、オビトの味覚を取り戻すのにはもう少し掛かりそうなの……次に帰ってきた時にはって大口叩いたのは私なのに……情けないよね。ごめんなさい」

「ッて、なんでリンが謝る必要があるんだよ。そんなの、覚えてくれただけで……そうやって努力してくれているんだって知れただけで、嬉しいよオレは」

 思わず、感情的になりながら思うままにオビトは言葉を返した。それにリンは「努力するなんて当たり前じゃない」そう口にして、そっと柱間細胞で出来たオビトの右手を取りながら「オビトがそのままなんて、私はイヤだよ」そうポツリと想いの籠もった言葉を紡いだ。

「だってオビトは私の大切なお友達なんだもの」

 その言葉に場違いだってわかっていながら、青年の胸はズキッと痛んだ。リンに大切だって思われている事は嬉しい。だけどその台詞は、やはり自分は彼女にとって恋愛対象ではないのだと思い知らされるような言葉だったからだ。

「……」

「今回から私がオビトの担当医を任せられることになったのも、医学方面から柱間細胞の研究をしていた私に綱手様が配慮してくださったからなの。オビトの担当医になることが研究のためのデータ集めに一番の近道だから、綱手様が『やってみろ』ってそう言ってくれたんだよ」

 優しい人だよね、そう言ってリンは笑った。

「それでね、オビトにお願いがあるんだ」

 リンのお願いだったらなんだって聞いてやる、そう衝動的に言いそうになって、ぐっとオビトは堪えた。

 多分、わざわざリンがそう前置きするってことは、あまりオビトが好ましくないと思っている事を頼もうとしているから、という可能性が高いからだ。

「今は、秋道一族の人たちの体質に注目して、彼らの体質を参考に柱間細胞の過剰な働きを抑制還元出来ないかと研究を進めているんだけど、やっぱり彼らの秘術にも関わることだし、なんの見返りもなく匿名で協力を仰ぐのは難しいんだよね……」

 そういってリンはオビトに今のところ自分はどういう研究を行っているのか、簡潔に纏めたレポートを手渡した。手渡された紙自体は10枚ほどだったけれど、ここまで纏めるのにもかなりの数の試行錯誤をしてきたことは容易に察することが出来た。きっと、沢山勉強して、色んな人に協力して貰って、血の滲むような努力をしてきたのだろう。

「オビト、オビトが自分の体質についてあまり知られたくないって思ってるのは、わかってるよ。でも、協力してほしいの」

 真っ直ぐで真剣な茶色い瞳がオビトの黒い眼を射貫く。

 そこには強い意志が込められていた。

「オビトのデータを提示させて欲しい。勿論、教える相手は慎重に選ぶし、守秘義務だってちゃんと課すよ。個人情報の流出なんて万が一にもならないよう、努力する。それに……これはオビトだけの問題じゃないの」

 そう声量が多いわけでもないのにしっかりと聞き取れる声で話す彼女は、彼女なりの正義と大義に輝いていた。

「扉間様が取り組んでいた柱間細胞を使った義肢研究……それが進んでもっと安全な技術になった時には、きっと今より多くの人が命を救われることになる。だけどそうやって施術を受けた人たちの中には、もしかしたら今のオビトと同じ症状で苦しむ人も出てくるかもしれない。ううん、きっと出る。その時に治療法が確立されているか、いないかでは未来への希望が全然違ってくる」

 だから、お願いオビトと少女は言う。

「研究を進めるために、オビトのデータを公表させて欲しい。これは未来のみんなの為でもあるの」

 そう力強い瞳で語る少女を見て、オビトは嗚呼やっぱりリンは凄いな、と思った。

 オビトが自分が碌に食えない体であることを伏せているのは、ただたんにそれで周囲に気遣われるのが嫌だったからだ。気を遣わせたくなかった。だけど、自分と彼女、どちらのほうが我が儘か。大局を見ていたのは彼女のほうだ。食事を碌に取れないという異常事態を自分一人の問題だからと軽視して、結局オビトは独りよがりなだけの子供だった、そうまざまざと思い知らされていた。

 けれど、ここまで完敗だと却って清々しいものだ。

 嗚呼、そうだ、よくしっていた。

 オビトにとってのはらリンは世界で一番大切で可愛い可憐な女の子だけど、同時に彼女は誰よりも格好いいんだ。キラキラと、オビトに見えないものを見て、強い意志で自分の信じた道をひた走るとっても格好いい女の子だった。

 そんなリンを誰より尊敬する。

 なら、うちはオビトが出す答えも一つだけだ。

「そんなの当たり前だろ」

 オレに出来ることならなんでも協力するぜ、そうニカッと黒髪隻眼の青年は笑う。

「!! オビトありがとう」

 それに茶髪の少女もまた花のように笑った。

 大好きなのはらリンの微笑みだ。

 この笑顔を守る為ならば、オビトだってまたどこまでも強くなれるのだ。

 

 続く




次回サブタイトル「Sランク任務」!
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