今作のミナト班メンバーの現在はこんな感じ。
波風ミナト:やり手の火影様。
はたけカカシ:上忍兼暗部の部隊長。
のはらリン:医療特別上忍。
うちはオビト:二つ名が一人歩き中の中忍。師匠三人の顔触れがヤバい人。
お世話になった人に挨拶に行ったり、自己鍛錬として黙々と修行をしたり、帰ってきた時任務でいなかった同期に会ったりなど等していたら、一週間の非番は瞬く間に過ぎ去っていった。
もう11月になる、あと二週間もすればリンの誕生日だ。
のはらリンは18歳になる。
成人まではあと二年だが、もう立派な大人の女性だ。そんな彼女に何を贈ろう?
うちはオビトにとってのはらリンは光明であり、この世で一番大好きで大切な人ではあるが、自分たちの関係は幼馴染みで元チームメイトな友人であって、とても仲が良いと自負はしているがそれ以上でもそれ以下でもない。
何故ならオビトはずっと幼い頃からリンのことを異性としても惚れていたけれど、リンが恋愛対象としてそういう目を向けていたのは、同じくもう一人のミナト班チームメイトだったはたけカカシだからだ。
リンにとって多分、自分はほっとけない弟みたいな存在なんだろうな、というのはオビト自身も感じていた所だ。彼女が視線で追っていたのはカカシだったけれど、これまで蔑ろにされたと感じた事は無い。ちゃんと自分を見てくれていた、それがどれだけ嬉しかった事か。
そう……リンはオビトを大切にしてくれている。大事に思って見守ってくれている。時には「ダメだよ、オビト」と叱られることもあるけど、その根底にあるのは心配と愛情だ。それは嬉しい。けれど、それが恋愛感情には由来しない友愛感情一色であるところには、男としては悲しかったりと複雑な気持ちもあるのだ……が、人の気持ちばかりはどうにもならないので仕方ない。オビトがリン以外の女性にそういう気持ちを抱けないのと同じと言われたらぐうの音も出ないのだから。
とにかく、オビトにとって大事な愛しい人で、幼馴染みでもあるリンを祝わないという手はないのだが、あまり重いものを贈るのは恋人でもない以上、良くは無いだろう、という分別はある。
なので、オビトは昨日本屋で購入した植物の図鑑を元に、薬に使える希少植物の種と花束を木遁で生みだして、贈ることに決めた。
贈る花は……薔薇だとまんま告白だと思われそうだから却下し、
丁度秋の花だし、色んな色があるし、可憐で素朴は花はリンによく似合うだろう。
そんな算段を脳内でつけて、顔を洗って歯を磨いたオビトは、部屋の清掃をこなした後火影塔へと向かう為、アパートのドアを開く。すると目の前には銀髪の少年、はたけカカシが「よっ」と片手を上げて立っていた。
「おはよう、オビト」
「お、なんだカカシ珍しいな。お前も今から火影塔か? おはよ」
「お前を待ってたんだよ」
「オレを?」
オビトは思わず首を傾げた。
随分と背も伸び声変わりもして大人っぽくなったのに、そういう仕草や表情をすると子供っぽい。そんな黒髪隻眼の青年に苦笑して、友人であり相棒で在り、またオビトにとっては恋敵であるともいえる銀髪の少年は言った。
「四代目様に言われてね、今日の任務はオレとお前、一緒に呼ばれている」
「! それって……!」
それにカカシは楽しげに目を細めて答えとした。
意味は是、だ。
オビトにとって再びカカシとチームを組むことは念願だった。
カカシと
一瞬にやけそうになるのを、下唇の傷になっているあたりを噛みしめることで誤魔化す。
ずっと願っていた事が叶ったのだから嬉しい。だけど、自分がそうやって喜んでいるのをカカシに知られたくないというのは、オビトの男としてのチンケなプライドであり、年上としての意地であり、照れ隠しだった。まあ、当のカカシには筒抜けなのだが。
「ま、どうせ一緒の任務だし同じアパートなんだ。別々に向かうより、一緒に向かったほうがいいでしょ。お前一人だとまた寄り道して遅刻してそうだしな」
「って、てめーはなんでそう一言余計なんだよ! 嫌味を言わないと死ぬ病気かなんかなのかお前は!!」
なのでまあ、こんな軽口を叩くのも、実のところカカシ流の気遣いであったりはする。
* * *
「やぁ、オビト。よく休めたかい?」
火影塔最上階にある火影室にて、第二次忍界大戦の英雄でもある四代目火影波風ミナトはにっこりと爽やかな、それでいて食えない印象もある微笑みを称えながらそんな言葉をオビトに放った。
波風ミナト……年齢は27歳。金髪碧眼の甘いマスクをした優男といった、人に舐められそうな容姿とは裏腹に、やり手の切れ者として知られているこの里の長だ。オビトの元上忍師でもある。
戦場に立つと本人も一騎当千の強者ではあるのだが、実際九尾事件収束後三年間殆ど問題らしき問題を起こさず、他国に付けいられることなく泰平を保った手腕は、彼は政治的な感覚もまた長けていることを示している。
そんな師を誇らしそうに嬉しげに見ながら、オビトは敬礼し、「はっ、四代目様のご配慮に感謝します」と昔の彼を知っていると感慨深くなるくらいきちんとした口調で、そのくせ声音は昔の直弟子だった時代を思わせる甘え混じりの響きでそんな言葉を元気に放った。
それに、隣に立つカカシは少しだけ痛そうに米神をカリカリとかくも、ミナトとしてはそんなやりとりも楽しんでいるのか、若き里長はニコニコと微笑まし気だった。
「ん! 体調は万全なんだね、それはよかった」
だが、公私の区別はきっちりつけるタイプである。
そこで、すっとミナトは雰囲気や表情をガラリと入れ替えて、この里の長としての顔に切り替え、両手を組んで厳かに告げる。
「さて、オビト。今回の任務について、どこまで聞いている?」
そう尋ねられたオビトは、チラリと隣に立っている少年のほうに視線を向けてから、正面のミナトに視線を戻し、軽く左右に頭を振る。
「……何も。ただ、カカシと一緒とだけ」
「ん! そうだね……今回の任務は君とカカシ君に
それからざっと地図を広げて、ミナトはトントンと一カ所を指さしながら「最初の目的地はここ」と告げた。
「水の国……?」
それは、木ノ葉隠れの里がある火の国ではない。霧隠れの里を擁する水の国の山間を指し示していた。
「オビト、君は水影様についてどれだけを知っている?」
オビトは三年間自来也と共に各地を回っていたが、最後の一年半は殆ど妙木山で暮らしており、たまに情報を仕入れるために麓に下りる、といった感じであった。
それでも情報収集を得手とする自来也と共にいたので、全くなんの情報もなかったわけでもない。
「……何も。半年ほど前に新しい水影様に代替わりされた、とだけ」
「そう」
それだけ分かっていたら上々だ。そう言わんばかりにニッコリと笑って師は言う。
「その新しい水影様から連絡があってね、木ノ葉と手を取り合いたいそうだ。和平を望んでいるそうだよ。無論、それが本当なら喜ばしいことだけど……それが本心かどうかはわからなくてね。それに忍び里は独立機関でもあるけれど、国に属する存在だ。勝手にこちらの都合で同盟を進めていいわけでもない。そこで、先に火の国の大名と水の国の大名が話し合うことが決まったんだ」
うちの国の大名様は乗り気だそうだよ。
そう言ってミナトは笑う。
「会談の日は一ヶ月後の12月1日。ここ、湯の国にある大名様御用達の高級宿を貸し切って行われる。護衛にはオレと護衛小隊がついていくことになっている。向こうも条件は同じだ。けれど、その前に詳細を詰めたいし、水の国についても知って欲しいとの事で人員を寄越すように要請をされた」
ミナトは、指を二本と、三本立て淡々と語る。
「……とはいえ、水影様は代替わりしたばかりで、敵も多い。あまり大人数だと反対派に動きを悟られる恐れがある。だから、人員は二人、ないし三人。手練れを寄越してくれとの仰せだ」
そこですっとカカシが手を上げる。
それに、どうぞとミナトは許可を出し、天才忍者と名高い銀髪の少年は淡々とした声で告げる。
「畏れながら、それは罠ではないですか? 先方の申し出はあまりに突飛過ぎて胡散臭い。そうやって木ノ葉の忍びをおびき寄せ、こちらの秘術と情報を奪うつもりではないかと」
「ん、そうだね、オレもその可能性は十分に考えたよ。だけど、誰かが信じ、行動しなければ、里同士の啀み合いもまた終わらない。もし、本当に四代目水影様が心底和平を望んでいるのなら、オレも火影としてそれに応えたいとそう思っているんだよ」
そのミナトの言葉で黒髪隻眼の青年の脳裏をよぎったのは、いつかの扉間先生の言葉だった。
『兄者は、子供を、仲間を守れる居場所が欲しくて木ノ葉隠れの里を創った。子供が殺し合わなくて済む集落を……誰しもが己が一族のことしか考えぬ中で、本当の同盟、協定は出来ないかと考えた』
思えば火の意思とはそういうものだ。
初代火影千手柱間が望んだ本当の同盟。それは平和への思想。
そして目の前にいるこの人は四代目火影だ。
なら、平和を求めて手を伸ばされたのなら、罠の可能性があるにしても手を取るように努力するのは火影として当然のことだったのだろう。
「つまり、オレ達の任務ってのは……」
「ん……反対派に見つからないよう水の国にある指定の村まで変装して潜入、向こうの使者と合流後に水影様へこの親書を渡した後、同盟が本格的に成立するまで二人には暫く水の国に滞在して、木ノ葉の代表として臨機応変に働いて貰うことになる。……とはいえ、反対派の襲撃も考えられるし、同盟の話自体が罠の可能性がある。そこで、万が一罠であった場合は脱出し、正確な情報を里まで持ち帰る事こそが君たちに求められている一番の役割だ」
潜入、調査、同盟設立の補助、同盟反対派の襲撃回避、などこの任務に求められている役割はあまりに多い。だから君たちを選んだのだと、四代目火影波風ミナトは言う。
「状況判断に優れているカカシなら最善の手を打てると信じている。君なら大丈夫だ。今までの実績もあるしね。それに、オビト。君も。万が一敵に囲まれたとしても、君ならカカシ一人を連れて脱出するなんてわけないね? そうだろう?」
勿論、師が言っているのは彼から習った飛雷神の術のことだろう。
瞬身の術と違い、飛雷神の術は時空間忍術だ。飛ぶ先の座標を記したマーキング先へと自分を口寄せして現れる術であり、必要なチャクラさえあれば距離は関係なくなる。そしてオビトは元々精神エネルギーに優れるうちは一族出身な上に、半身が柱間細胞を使った疑似臓器義肢に置き換わっている影響もあって、一般的な忍びに比べると膨大なチャクラを保有している。余程のことがない限りチャクラ切れになる恐れはまずない。
これは戦闘任務ではない。
だから、敵に囲まれたならオビトの飛雷神で敵陣から脱出して、そのまま木ノ葉に帰ってこいと師は言っているのだ。
「いいかい? これは
水の国への潜入し、四代目水影の下で霧隠れと木ノ葉隠れの同盟締結を補助せよ。
「検討を祈っている」
そう、若き火影は話を締めくくった。
* * *
「よし」
あれからすぐ火影塔を去ったオビトは、アパートの自室で荷物の整理をしていた。
今回の任務は最短でも一ヶ月……もし水影様からの話が罠ではなく本当のことで、同盟締結にそのまま動き出すのなら下手すると半年はかかるかもしれない長期任務だ。
そのため旅の用意や兵糧丸など旅に必要なものを買い足す時間などを見て、出発は二時間後に阿吽の門に集合、ということになっていた。
(……最低でも、1ヶ月か)
任務自体には不満がない。
寧ろ、こんな大仕事を任せてもらえたんだ、誇らしいし嬉しいくらいだ。
だけど、帰ってきた時には既にリンの誕生日は過ぎているだろう。
「……まあ、ぐだぐだ考えてても仕方ないか」
まあ、しょうがない。忍びなんて職業についてたら、そんなことは茶飯事だ。だけど、一度本格的に死にかけたのもあり、後悔する前に行動すべきだというのもわかっている。
出発まであと一時間。まだ時間はある。
だから、オビトはリンの生家である薬屋まで出向き、店番をしていたリンの母に声をかけた。
「おばちゃん!」
「あら? あらあらオビト君随分と大きくなったわね。久し振り。生憎リンは病院勤務で今日はいないのよ」
「知ってる。これリンに渡しといて。少し早いけど、オレからの誕生日プレゼント」
そう言ってオビトは今朝リンに渡そうと思っていた、秋桜の花束とラッピングした希少植物の種をリンの母親に預けた。
それを見たリンの母親は目をパチクリして「自分で渡さないの?」と問う。
それに苦笑しながらオビトも言葉を反す。
「オレ、これから任務で里を出るからさ……頼むよ、おばちゃん」
「忙しいのね」
そういってリンの母親は苦笑して「いいわ、気をつけて行ってらっしゃい」と、最愛の彼女とよく似た笑顔を浮かべて手を振った。
それにオビトもまたニッと笑って「オウ! ありがとな、おばちゃん」と手を振りかえしてからまたアパートの自室に戻る。
(これでいい……)
直接渡せなかったのは残念だが、スッキリした。
一度死にかけて思ったが、後で「やっぱり渡しておけばよかった」って後悔しても遅いのだ。それに、任務中には余計な雑念を持ち込みたくない。ましてこれから自分が挑むのはオビトにとって未知の領域……Sランク任務なのだから尚更だ。
リンに誕生祝いのプレゼントは贈った。だからもう、頭を任務のため切り替える。
カチリとスイッチが入ったようにオビトの表情が硬質なものに変わる。
別に二重人格というわけではないのだが、任務につくのなら冷静で冷徹な自分が必要だ。だからこれは一種の儀式であった。
必要なものは全て身につけた。
クナイや手裏剣は昔のように手裏剣ホルスターに仕舞うのでは無く、手袋の下に巻いたバンドから武器口寄せで取り寄せられるようにしている。それでも鎖付きのクナイなどは数点腰のポーチに仕舞っている為、全ての武器を口寄せで済ましているというわけでもない。
それでもこれだけ軽量化が叶ったのも、まあオビトが時空間忍術に対する適性が高いおかげだろう。
しかし水の国といえばオビトも行ったことないので、必要なものが他にもあるのかもしれないが、まあどうにかなるだろう。その辺りオビトは楽天的だった。或いはなんとか出来る自信があるとも言える。
とりあえず老人達に貰った菓子類は食べきれないから、孤児院に寄付という形で頼みこみ、預け、諸々をしているうちに時間になったのでオビトはそのまま飛雷神で阿吽の門の前まで飛んだ。
すると、そこで仁王立ちしたカカシが待っていた。
「ん? なんだよ、カカシ。今日は遅刻してねェぞ」
怒られる謂われはないとばかりにそう反すオビトに、銀髪の少年は呆れたように「お前ね……前々から言ってるけど、任務前にチャクラを無駄遣いするの辞めろと何回言ったら理解するわけ?」とジト目で言い、それにオビトは堂々と「だから、オレにとっては大した消耗でもないってこっちも何回も言ってるだろ。お前こそいつ理解するんだよ」と返し、カカシは一瞬米神をひくつかせるも、はあ~と大きなため息をついて余分な感情ごと吐き出して、「やめよう。任務前に縁起が悪い」といって肩を竦めた。
……多分連想したのはあの神無毘橋破壊任務のことだろうと、オビトもすぐに察しがついた。
はたけカカシが上忍に昇格して最初の任務であり、オビトが右半身を欠損したあの任務を受けたときも、いつものことのようにカカシとオビトは啀み合っていた。
……少し罰が悪くなるが、もう二人ともあの時のように感情のままに振る舞うほど幼くはない。
だからオビトは、「行こうぜ、隊長さんよ」とカカシに笑った。
「ああ、行こう」
……Sランク任務ミッション
続く
次回から水の国編スタート