オビトの両親については、原作でわかっているのはオビトの部屋に飾られている写真でわかる容姿くらいなので、オビトの家族設定は捏造モリモリこの小説独自設定でお送りします。
死んだと思っていたうちはオビトの生存を、自分たちの上忍師である波風ミナトに知らされた翌日、両頬に紫のペイントをした若き医療忍者の少女のはらリンは、同じ班員であり自身の思い人でもある一つ年下の少年はたけカカシと共に早速、木ノ葉病院を訪れた。
「ああ、はい。うちはオビトさんの班員の方々ですね」
集中治療室に放り込まれたと聞いたこともあり、オビトに面会出来るかどうかは半分賭けだったのだが、名前を告げると意外にもあっさりと許可は降りた。
「面会時間は10分までとなります。それと……最後に見た時の状況と状態がどうだったのか聞き取り調査にご協力お願いします」
そんな言葉を淡々と吐きながら、看護師はうちはオビトの病室までの道程を案内する。
「あのゥ、オビトにはお祖母様が一人いるのですけどォ、お祖母様は面会には……?」
道すがら、リンが遠慮がちに彼女にそう訪ねると、「状況が状況ですので、忍びでもない関係者の方の面会はお断りしています」とそっけなく看護師は答えた。
「……そうですか」
(つまり、オビトの祖母はまだオビトが生きていることも知らされていないってことか)
そうカカシは看護師の言葉を読み取った。
「それでは、こちらの病室です」
「!」
「……オビト……!」
それは想像をしていた姿ではあったが、だがこうして現実に姿を見ると想像よりも割増しに惨い姿だった。
本来、右腕と右足があった場所には何もなく、かつて快活だった顔は空洞の左目は包帯で覆われ、右も目以外は包帯で覆われ血が滲んでいる。こうしてみると残された右目が潰されなかったのは奇跡に近いだろう。
あれだけ岩が降ってくる中を生き埋めになったのだから当然ではあるが、大岩に潰された右半身だけではなく、左半身にもあちこち傷を作っており、無傷な場所のほうが稀だ。
自力で栄養補給も排泄も出来ないからだろう、その身体にはカレーテルや点滴などの管が繋がれており、見ているだけで痛々しい。
あれほど煩いくらいに元気だけが取り柄みたいな奴だったのに、血を失った肌は青白く、まるで作り物の人形のようだった。
そして全体像の印象を述べるなら、巨大な芋虫みたいだ。
それでも、胸元は浅く上下し、微かな呼吸音が聞こえる。
それが、この目の前の少年うちはオビトが生きているなによりの証明だった。
けれど、なにを声をかければいいのかわからない。彼の意識はないのだから、無理に話しかける必要はないことはわかっている、それでも自分をあの時庇ってこうなった一つ年上の少年に、なんと声をかけるべきなのか、カカシには分からなかった。
「……オビト」
そんな風に足下が竦んで動けなくなった銀髪の少年の前で、医療忍者でもある茶髪の少女は、すっと姿勢を正して白いベットの上で眠るオビトの左側に立ち、場違いな明るい声で彼に話しかける。
「もう……! 遅いよォ、オビト」
いつも通りの笑顔を浮かべて、でもこうして離れて立っているカカシの目にはよくわかる。
リンは震えていた。
「オビトの遅刻はいつものことだけど、私だってたまには怒るよォ……もう、本当に、オビトったら……」
そうしてがくりと膝をおって、ぎゅっとオビトの無事な左腕を両手で包みながら「生きててくれて……良かったァ」そうポロポロと大粒の涙をこぼしながら泣いた。
「リン……」
そんな少女を見て、漸く縫い付けられたかのように固まっていたカカシの足も動き出す。
寝台で眠る少年同様左目を布で覆った銀髪の少年は、ゆっくりと寝台に近づき、そっと左手で労るように少女の肩を撫で、右手をオビトの左手を包み込んでいるリンの両手の上に更に重ねた。
そして万感の想いを込めて、絞るような声で告げた。
「オレからも……オビト、生きていてくれて……ありがとう。お前が、生きていてくれて良かった……!」
眠る少年の腕は冷たい。カカシとリン二人掛かりの手でも温めきれないくらいに。
それでも弱々しくも鼓動は脈打っている。生きている、生きようとしてくれている。
そんなことがとても、とても……少女にとっても少年にとっても嬉しかった。
結局は面会時間いっぱい、ただ二人でオビトの手を握って側にいるだけで終わった。
それから改めて、別室で当時オビトが置かれた状況や、医療忍者であるリンからの当時のオビトの見立てを語り、二人は病院を後にすることになった。
そんな中、ポツリと心配げにリンが言葉を零す。
「オビトのおばあちゃん、大丈夫かな……?」
「……オビトの家族は?」
腐っても班員だったのだ、オビトが祖母と二人暮らしだったことくらいはカカシとて一応知っている。なんなら家に行ったこともある。窓からオビトの姿が見えて近づいたら、リンの写真にキスをしようとしていたのだ。その時は何をやってるんだ、このバカとか思った記憶もある。
だが、別に詳しく知ろうと思ったことはこれまでなかった。
その点、幼馴染みのリンは違うだろう。カカシの知らないオビトの一面や私生活や家族についても知っているだろう。そして今のカカシはそれを知りたいと思っていた。
「オビトのご両親は、オビトが赤ん坊の頃に任務中に失踪されたみたいなの」
「……失踪?」
失踪とはまた、不穏な話だ。
「私もそこまで詳しくないけど……なんでも血痕だけが残っていたんだって。だから任務中に殉職したんだろうということになっているらしいの……死体は見つかってないんだって」
あれはまだリンがアカデミー生の頃だ。
オビトの家に遊びに行ったリンに、オビトの祖母はお茶とうちは煎餅で持て成しながら、『だからいつか帰ってくるかもしれないと希望を捨てきれずにいるの、バカよねえ』そんな風に苦笑して語った。
すぐに帰ってくるといって、自分たちの大切な赤ん坊を親に託して、任務に出かけそのまま帰ってこなかった。
それは忍びの夫婦として珍しいことではない。
それでも死体が見つからなかったからこそ未練だと老婆は言った。
将来は医療忍者を目指すと言ったリンに、『うちのお嫁さんも医療忍者だったのよ』と懐かしげに語った老女。
オビトは生きていた。だけど、殉職したと思われていたし、生存が伝えられていないのなら、彼女は今も孫息子は死んだものと思っているのではないだろうか。
うちはオビトは孫一人、祖母一人の家族だった。
忍びの家族というものはそんなものだといえばそこまでだけど、兄弟を失い、夫を失い、息子夫婦を失い、そして唯一残された孫息子も失ったのならば、果たして彼女には何が残るというのだろうか?
「…………」
そんな老婆の気持ちが、カカシには少しだけわかる気がする。
父一人、子一人の家族だった。カカシにとって、物心ついた時には母親はおらず、唯一の家族は父だったから、だから自殺未遂をした父を発見したとき、どんなに血の気の引いた心地がしたことか……。
家族が粉々になった感覚。
「……早く、伝えられたらいいね」
「……うん」
カカシは伊達にエリートと呼ばれていない。
何故この後に及んで今だご家族にオビトの生存が伝えられていないのか、何故自分たちは面会を許され、当時の詳細を語らせられたのか。
……ようは、本物のうちはオビトかどうか疑われている、もしくは敵の罠が仕掛けられているのではないかと疑われているのだ、あの瀕死の少年は。
まあ、無理もない。
誰もがオビトは死んだものと思っていたし、見つかったオビトは生きているのが不思議なほどの重体で、日数を置いてから見つかった。それに今は戦時中だ、疑わしきは隔離せよ、と慎重な姿勢を上が見せるのは当然といえば当然だった。
だから、実際に同じ班だったうちはオビトをよく知る者の様子を見て、本物のうちはオビトかどうか判断しようとしたのだろう。
まあ、それも今回で確認がとれたことだろうし、あとは敵の罠がその身体に仕込まれていないか検査して、問題がなかった段階で漸くご家族に知らせる。そんな感じだろうとカカシは判断した。
それからカカシは毎日のように、任務帰りにオビトの病室によって話しかけた。
何を話せばいいのかわからなかったから、その無事な左手を握りながら淡々とただあったことを報告するように話した。
二日目も同じように、淡々とただその日あったことを話した。
……考えてみれば、オビトと仲良くなったのは、浚われたリンを救出することを決めてから……オビトが岩に押しつぶされる少し前になってから漸くの事だった。
もうオビトに対して隔意は抱いていない。寧ろ敬意すら抱いている。なのに。
「……オレは、おまえに何を話せばいいんだろうねオビト……」
ぐしゃりと迷子の子供になったような表情を浮かべて、カカシは自分の髪をかき乱す。
「早く起きなよ……オビト。お前の帰りを待っている人は沢山いるんだからさ……」
そして三日目……まだうちはオビトは目覚めない。
「ねえ、オビト、お前がそんな静かだと調子狂うよ……」
そうしてカカシがオビトの病室に通うようになって四日目の夕方だった。
「ねえ、カカシもう止めなよォう」
心配を顔一杯にのせて、医療忍者でもある班員の少女が言う。
「このままじゃ、カカシの方が倒れちゃうよ。カカシが倒れたらオビトだって嬉しくないよ……私だって……だから自分の身体をもっと労りなよ」
一向に目覚める様子のないうちはオビトを相手に話しかける毎日に、憔悴があったのはカカシにだって自覚がある。いつ目覚めるかもわからない相手に、語り続けるだけで反応が返らないと言うのは辛いものだ。
それでも通わないという選択肢はカカシには無かった。
だからこそ、ゆっくりと左右に首を振りながら彼は彼女に言う。
「リン、オビトの為じゃない、オレのためなんだ」
病室で初めて面会した時に見たオビトに、生きていてくれたという喜びと安堵を覚えたのは本当だ。だが……いつまで経っても眼を覚まさない黒髪の少年に、次第に少しずつ恐怖は蓄積されていった。
オビトは帰ってきてくれた。
けれど、果たして本当に目覚めてくれるのだろうか?
そのまま目覚めることなく、死んでしまうのではないだろうか、そんな不安を拭うことが出来ない。
だから、オビトの手を取り脈の音を聞く度に、嗚呼まだオビトは生きている、ここにいると安堵し、そして反応を返さない、何も語らない彼の姿に落胆するのだ。
辛い。
けれど、オビトが自分の知らないところで死んでしまったらと思ったら、そちらのほうが怖かった。
「もう仕方ないな……」
そんなカカシの心情を察したのだろう、リンは困ったように眉根を寄せて苦笑を浮かべて、カカシの手を取り言う。
「今日の面会は私も一緒に行くからね」
そして一日目同様、二人でオビトの病室までの廊下を歩く。
「オビト、来たよ」
努めていつも通り、オビトが大好きだった明るく柔らかな声でそう告げて、リンはお見舞いにもってきた花を新しいものに入れ替え、「今日も凄く良い天気だよォ。この花も、早くオビトにも見て欲しいな」なんて言いながら窓を開けて換気したりと、細かい気配りをしていた。
カカシはいつものように病室に備え付けの椅子に座ってオビトの左手を取る、そしてここのところずっとそうであったように、いつもの日常の報告をしようとしたその時だ、いつもと違うことが起きたことに気付いたのは。
「リン……ッ」
「何、カカシ……? ッ!」
これまでこの病室で再会した時から身動き一つせず、ずっと死んだように眠り続けていた黒髪の少年の右瞼がむずがるようにピクリピクリと動く。
カカシがとった痩せた左手も、まるで鬱陶しがるような動きで軽く払おうとするように動いた。
目を覚まそうとしているのだ。
流石は医療忍者というべきか、それを見たリンの判断は速かった。
「……! カカシ、私
「リン……!」
いや、普通にオレがついているよりリンがついていて、オレが呼びに行った方がオビトは喜ぶんじゃ、などという考えが一瞬カカシの脳裏をよぎったが、リンが行動をおこすほうが早かった。
それにカカシ自身、オビトの側から離れたくないという気持ちもあった。
だから出遅れたのだ。
けれど、嗚呼……オビトが目覚める、それがとても嬉しい。
ゆるゆると右だけになった黒い眼が開く。状況が理解出来ていないのか、ぼんやりとした瞳がよく見ようとしたのか、黒から写輪眼の赤へと鮮やかに色を変えて、銀髪のチームメイトをその目に映した。
「…………カ……カ…………シ……?」
酷い声だった。
長いこと声を出して無くて、一週間以上昏睡していたのだから当たり前だが、掠れて聞き取りにくく力がない。
だけど、間違いなくそれはうちはオビトの声だった。
「な、に……泣……ぃてん、だ……よ、バ、カカシ……」
そう言って戸惑うように、弱々しく震える左手を伸ばしてカカシの手に触れる。
……温かい。
五日前に触れたよりも、痩せ細ったそれは血の通った人間の手だった。
カカシの頬には静かに涙が伝い落ちる。
自分がこんなに涙脆い人間だなんて知らなかった。一歩間違えればしゃくり上げてしまいそうだ。だけど、口より雄弁に泣くなよと訴えかけるオビトの眼を見て、それは相応しくないと思った。
だから精一杯の悪態をつく。
「……遅いよ、バカオビト」
そうしてぎゅっと力の入らないオビトの左手を両手で握りしめる。
「オビト……」
なんだよ、と言わんばかりに包帯まみれの中数少なく露出している唇が持ち上がる。
無傷な場所を探す方が難しいくらいに見た目は酷く陰惨なのに、それはどこまでもいつも通りのうちはオビトの仕草で、そんな些細な反応や空気の一つ一つがカカシの胸を安堵に包んでいった。
「オビト……おかえり」
だから、今までオビトに向けたことのない心からの笑みを向けて、そうカカシは祝福した。
オビトは吃驚したように隻眼になった大きな眼をまん丸にする。
それから太陽のような笑顔を浮かべて言った。
「あぁ……ただい、ま」
続く
そういや前作「転生したらうちはイズナでした」で、誰にも質問されなかったので答える機会無くしてた裏設定なんですが、前作主人公が無精子症になったのは第一話の幼少期の高熱が原因で精子が死滅したからだったり。