隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回は変装回でお送りします。


30.写真家と大道芸人

 

 

 

 今日は快晴だ。秋晴れの空に気持ちの良い風が吹いている。

 その空を見上げながら、船乗りの男は、今日は良い感じだなと考える。

 この港町から水の国や渦の国に出す船を出しているのだ。

 正直な話、海は危険が一杯だ。

 嵐や津波といった自然災害だけでなく、時には忍び崩れの海賊が出てくる場合もあるし、なにより四年ほど前までは忍界大戦があって、その余波はこんな小さな港町にも押し寄せていた。戦争の被害に遭うのは実際に戦う忍び達だけで無く、巻き込まれる立場の一般人も同じなのだ。

 水の国と火の国の仲は然程良くは無い。仮想敵国同士なのだ。その二カ国を繋ぐルートなど、危険と隣り合わせで当たり前である。だが、今年四十路を迎える男は生まれた時から海の男で、船乗りである自分に誇りを持っていた。

 時には危ない目にあうこともあったが、余程ヤバい案件……引き受けたらこっちの命がなさそうな場合、とかでもない限り、金を貰った以上はきちんと客を目的地まで送り届けるのが男の誇りだ。なにより男は海を愛していた。

 自分の職務に殉じこの海で死ねたら、それもまた本望なのだ。

 そんな風な事を考えながら、鼻歌交じりに船に積み荷を運んでいた時だった。

「よし、到着っス! わわ、見て下さいよ!! わー広いなあ、おっきいなあ! スケアさん、スケアさんこれが海ッスね!! 碧くてキラキラ輝いてますよー! キレイだなァ!!」

「フフ、あまりはしゃいで落ちないで下さいね、トビくん」

 それはおそらく海を見に来た観光客か、若しくは船に乗る予定の客のどちらかなのだろうが、妙ちくりんな二人組であった。

 一人は、黒いダブダブの袖を余らせたコートを着てて、顔にはオレンジ色のグルグルした模様の仮面を被っている。トビとか呼ばれた男の方だ。掠れがちな高めの声で、テンション高くピョンピョンと子供のようにはしゃぎながら、激しい身振りで海を指出して楽しそうにクルクル踊っている。

 一方のもう一人はフワフワとした茶髪に、紫色の少しピエロじみたメイクをした、口元のほくろがなんとも色気を感じさせる優男であった。スケアと呼ばれている男の方だ。スケアと呼ばれるその男は常磐色のコートに暖かそうなマフラーを首元に巻いていて、その右手には本格的なカメラを握っている。

「なんだありゃ……?」

 これまでの生涯で見たことのない種類の男達に、思わず呆気にとられる船乗りであった。

 

 さて、お気づきかも知れないが、このトビとスケアと呼ばれている男、何を隠そううちはオビトとはたけカカシの変装後の姿である。

 今回水の国との同盟締結補助任務に当たる、うちはオビトはある意味有名人である。

 とはいえ、正確には有名なのは彼の二つ名のみ、と言って良くて、彼自身の正確な情報はあまり他国には出回っていない。それは彼が知られる切っ掛けとなった九尾事件が終わってすぐに、他国のスパイが探りに来るより早くに四代目火影である波風ミナトにより、オビトは里外に出されていたからだ。

 故に他国がその二つ名……隻眼の木遁使いという名の持ち主について知っていることなど、右顔に傷がある隻眼のうちは一族の若い男である。史上二人目の木遁使い、とそれくらいのことなのである。

 具体的な容姿や正確な年齢などは知られていない。うちは一族なら黒髪だろうと予測されている程度だ。

 まあ、三年も音沙汰がなかったのだから当然と言えば当然なのだが。

 それでも、顔面に傷があることについては、目に見えるわかりやすい特徴だから知られている。そして目が片方ないことも、隻眼の、という二つ名なのだから当然認識されている。

 だから今回変装する際に一番重要なことは、顔の傷と片目がないことを如何に誤魔化すかにあったといえる。

 そしてオビトは閃いた。

 だったらいっそのこと仮面を被って顔自体隠しとけば良くね? と。

 ハイテンションな仮面の男なんて怪しすぎるし、インパクトがありすぎて、却って他の特徴が目立たなくなるだろうと考えたオビトは元気いっぱいの仮面を被った謎の男、トビになることにした。木を隠すなら森の中ってやつである。

 だが、こんな怪しい仮面を被っている男がいたら、その仮面を脱げと言ってくる奴も必ず出てくる事だろう。

 そのことも織り込み済みで、トビというキャラをオビトは設定した。

「おい、あんた」

「はい? ボクっすか?」

 オレンジ仮面の男はクルリと振り向き、あざとい仕草で自分の仮面ごしの口元のあたりに指を立てている。

 そんな若い娘っこがやりそうな仕草をする仮面男を前に、声をかけた海の男は苛立ちまぎれに額に青筋を立てながら怒鳴るような声で言う。

「なんだその仮面はふざけてんのか。怪しい奴め、仮面を取れ」

「怪しい奴って失礼っすね、プンプン! ボク、大道芸人のトビっていいます! 実は四年前の戦争のせいで……ボクの顔には酷い火傷の跡が残っちゃいまして……人様にはとてもお見せ出来ないんですよ。ボクの顔を見たら子供達が泣いちゃいますからね……ヨヨヨ、あ!」

 そういって、ポロリ。偶然仮面が剥がれ落ちそうになったという体で、オビト改めトビは仮面をずらしてあらかじめ仕込んで置いたそれを晒した。

 そう、木遁で生みだした樹脂で作ったケロイドである。それを彼は顎から口元まで、元々の傷跡をカバーするようにあらかじめ貼り付けて置いたのだ。変な所で凝り性で真面目なのもあり、一見すると本物の火傷の跡にしか見えない自信作である。

「ひっ、いやー! 見ないで下さい!! うぇえーん!」

 自分でわざとポロリと見せておきながら、トビは大げさにイヤイヤと騒いで泣き声を作りつつ、自分の顔を仮面で必死に隠して肩を震わせた。哀れに見えるように計算して、グスグスと鼻を啜るような音までつけながら蹲る、そういう演出である。

 そんなトビを見て、仮面を取れと迫った男はこそこそと周囲からの「可哀想」「酷くない?」「サイテー」などと無責任な罵倒を受けて、居心地が悪そうだ。

「う、悪かったよ」

「ぐすん、もう仮面とれって言いません?」

「言わない、言わないから!」

 自分が悪者にされたらたまったもんじゃない。そんな態度の船乗りの男に、トビは「じゃあ、許しちゃいます」と答えてすっくと立ち上がり、「皆さんを騒がせたお詫びにこの大道芸人トビが芸を一つ披露しちゃいますよー!!」と言って目の前でジャグリングを始めた。

 当然、大道芸人という設定に説得力を持たせるための演出である。

 六本のクラブを次々とクルクル空に放って回すトビに、周囲からも「おおー」と感嘆の声が上がった。サーカスや忍びの技とも縁の無い小さな港町に住んでいる人間にとっては、ただのジャグリングも物珍しい見世物だったらしい。

 最後に軽快にバク転しながら六本のクラブを両手の指で一斉につかみ取り、ジャーン! と効果音でも出そうな勢いでビシッと決めポーズをしたトビを前に拍手喝采だ。

「すっげーーー!!」

「ブラボー!」

 なんだかんだ港町の人間はノリがいいのか、気付けば円になってトビを囲みながら、笑顔の満員御礼だ。

「みんな、ありがとー!」

 そんな港町の人たちに応えるように、トビもまた大きく手を振って、ダボダボの袖口から木遁で作り出した花を次々に取り出して、周囲に蒔いた。知識がない人間が見たら手品で出しているように見える筈である。

 そして一番前でトビの芸をワクワクとみていた小さな女の子に袖口から出した……ように見せたチューリップの花束を「はい、可愛いお嬢さんへ、ボクからのプレゼントッス」と渡すと、「わあ! ありがとう大道芸人さん!!」と町の人間の好感度は鰻登りである。

 こんな怪しい風体なのに、トビはもう完全に町に溶け込んでいた。

「はー大道芸人ってすごいもんだなあ。一応聞いて置くけど、あんたの渡航目的は?」

 そう、船着き場でチケット係の男に問われて、トビはエヘヘと照れたような仕草を大げさにしながら、「水の国はあまり娯楽が発達してないって聞きますからねー、ボクの大道芸で、水の国の皆さんに笑顔をお届けする事! それがボクの目標ッス!! 沢山の人を笑わせてやりますよー」とエッヘンと胸を張りながら、元気よくトーン高めに答えた。

 それに先ほどの芸を思い出して納得したのだろう。男も笑って「頑張れよ」とトビに水の国行きの船のチケットを渡した。

「それでそっちのアンタ……兄ちゃんも大道芸人なのか?」

 そういってチケット売りの男は連れだろう茶髪の男のほうへと声をかけた。

 両目の下にひかれた紫色のペイントこそ、ピエロの化粧を思わせるが、カメラを手に持ち笑顔の穏やかな好青年はあまり大道芸人っぽくはない。

「いいえ? 僕は流れの写真家でしてね……水の国にしかない景色をカメラに収める為にここまで来たのですけど……トビくんに会いましてね。ほら、彼愉快でしょう? きっと彼についていったら未知の光景に出会えるんじゃないかと思ってついていくことにしたんです。それにほら、彼ってなんだか放って置けないじゃないですか」

 そう、和やかな微笑みを称えながら答えるスケアに、トビは「きゃー! スケアさん素敵ー抱いてー」とコミカルな動きで抱きつく。それにスケアも飼い犬を撫でるようによしよしと頭を撫でており、どう見てもネタでやっているとしか思えない仕草と光景であったので、周囲から笑いの声が上がる。

 が、当人同士二人は互いにしか聞こえないような小声で『オビトさぁ……そのキャラ演じてて恥ずかしくないの?』と呆れたような声で呟き、『ウルセェ! 人がなりきってる時に水を差すんじゃねーよこのバカカシィ!』と笑顔と仮面の裏で口汚く罵り合っているのは、まあ本人達さえわかっていればそれでいいという奴なのである。

 

 まあ、何はともあれ、水の国行きの船のチケットは無事手に入った。

 そうして船に乗り込んだ二人は個室に入り、鍵をかけると、カカシはおもむろにフワフワとした茶髪のカツラを外す。この為に、わざわざ高い金を払って小さいとはいえ、個室つきのチケットをとったようなものである。

「ふぅ」

 カツラの下から現れた髪はいつも通りの銀髪である。

 知名度的な意味では隻眼の木遁使いという二つ名が一人歩きしているオビトのほうがあったりするのだが、これでもカカシは木ノ葉隠れの里で最年少で上忍昇格を果たしたエリートであり、三年間里から離れていたオビトと違って、裏に表に数々の任務を熟してきたSランク任務を与えられるのも納得の経歴を持つ忍びだ。当然そんな彼にも二つ名がつけられており、知る者は知る存在である。

 だからこそ、左目の下の傷を誤魔化す為に紫色のペイントを両目の下にいれ、目立つ銀髪を隠すためにカツラをして、自前の右目とオビトから貰った左目という左右で異なる目の色を誤魔化すために、カラーコンタクトをつけて、出来るだけ柔和な表情を浮かべて、声色を変え別人を装った。

 設定は水の国にしかない光景をカメラに収めるためにやってきた、写真家のスケアという男である。

 だが、まあこの個室にいるのはオビト一人なので、スケアを演じなくてもいいだろう。

 そう思ってカツラを外して無愛想な表情に戻し、「オビトもその仮面外しなよ」と半分善意から声をかけるカカシであったが、とうのオビトは「えー、嫌ですよー、いくら鍵をかけているといっても誰かが来ちゃうかもしれませんし。それにしてもスケアさんなんですか、そのキャラ。先生とリンのものまねですか? 胡散臭すぎますよープクク」とトビのキャラを演じたまま、口元に手をかわいこぶった仕草で中てながら笑ってくるもんだから、イラッとしたカカシは無言でそのままチョークスリーパーを大道芸人トビに扮するオビトに仕掛けた。

「ぎゃー! ぐええ、ストップストップ!」

 ガッシリと首を絞められ固められたオビトは地声に戻って、カカシの腕をバンバン叩きながら降参を告げてくる。そんなオビトに唾飲が下がったので、たっぷり10秒ほど待ってからカカシはゆるりと腕を放した。

 すると仮面ごしにゼエハァと息を乱しながら、「ったく、少しからかっただけなのにひでぇ目にあったぜ……」と呟くオビトに対し、「なら、もう少し真面目にやりなさいよ」と辛辣に告げるカカシであった。

「それより、オレが知る水の国の情報を話すよ」

 そう、地図を広げながら、カカシは告げた。

 

 今回の任務につくにあたり、当然のことだがカカシは水の国について下調べをしてから今回の任務を拝命した。

 昨日、この任務に就くことを知ったオビトと違い、カカシは暗部として火影の護衛という形で例の上層部の会議にも出席していたし、次の任務がこれであることは父への墓参りをした翌日には知らされていたのだ。

「オビトも水影が半年程前に代替わりした件は知っているんだよな」

「ああ、師匠と共に麓に下りたときに、そう聞いたぜ」

 カカシにまたチョークスリーパーを仕掛けられてはたまらないと思ってか、トビとしての仮面を外して胸元に抱えながら、真面目な顔でオビトはコクリと頷く。仮面は外したが、樹脂を用いて作ったケロイドメイクが顔の半分を覆っている為、元の渦のような皺のような傷跡姿よりも見た目の痛々しさは増していたりするが……視界に入るそれらを敢えて気にしないようにしながら、カカシは話を続ける。

「代替わりの切っ掛けは今から約8ヶ月前のアカデミーの卒業試験に端を発している」

「……卒業試験?」

 聞いてて胸クソ悪い話ではあるが、霧隠れの里の卒業試験には三代目水影が水影に就いた時からある忌まわしい風習があった。

 そう、卒業生同士の殺し合いである。その話をオビトも思い出したのだろう、胸クソ悪そうに眉間に皺を刻む。

「そのアカデミー卒業試験で、その年の卒業生を皆殺しにした男が現れた」

「……!!」

「男の名前は桃地再不斬、霧隠れの鬼人と呼ばれる男だ。こいつは一度アカデミーを卒業していた筈なんだが……なにをしでかしたのか再びアカデミーに放り込まれたようでね、二度目の卒業試験で同期を全員殺し尽くしたんだよ」

 それを聞いたオビトは不機嫌そうにぎゅっと下唇を噛んでいた。

 無理もないとカカシは思う。オビトは仲間想いな男だ。まだ写輪眼に開眼する前からずっと常々仲間を守ると言ってきた奴だ。とてもではないが、同じ里の仲間を卒業試験と称して殺す、霧の在り方は受け入れがたいのだろう。

 そんな事を思いながらも、カカシは淡々と言葉を続ける。

「元々アカデミー卒業生には殺し合いをさせていたといっても、流石に皆殺しは前代未聞だ。元々三代目水影はあまり評判の良い男では無かったことも合いまり、批判が殺到してね。そしてそんな時に「もう三代目に任せておけない」と立った一人の男がいた。それが四代目水影様だ。彼は多くの忍びの支持を集め、三代目水影を倒し、自らが四代目に就かれた……それが半年ほど前に起こった霧隠れの政権交代の顛末だ」

 カカシが他国である霧隠れのことについて、ここまで情報を集められたのは一重に彼が暗部に属する忍びであったことが大きい。おそらく、表の忍びであればただ政権交代した、としかわからなかったことだろう。

「まあ、そんな風に三代目の敵対勢力を基盤としているのが今の四代目水影様だ。だから、今回の話……木ノ葉と同盟を組みたいという申し出が罠でなければ、オレ達を襲撃してくるのは高確率で三代目水影のシンパになるだろう。四代目水影には敵が多い。だから、四代目水影様が敵じゃなかったとしても、オビト、警戒は解くなよ」

 そう、カカシは話を結んだ。

「……なぁ、カカシ。三代目の横暴が見過ごせなくて、四代目は立ったんだよな?」

「推測では、そうだな」

「四代目水影様ってどんなやつなんだろうな……」

「さあ。そればっかりは……会ってみないとわからないな」

「……だよな」

 そう言って仮面を指で遊びながら、考え込むオビトはこれまでカカシが見てきた中で尤も大人びていた。

 何を考えているのか。興味か、それとも……。

(嗚呼、止めだ)

 カカシは頭を振って雑念を追い出す。オビトが何を考えていようが、それは任務とは関係のないことだ。

 窓から向こう岸が見える。汽笛が無る。水の国は間もなくだ。

 カツラを被り直し、声を整え、にこりとどこかの四代目火影を思わせる微笑みを乗せれば完成だ。これから暫く、合流地点の村まではカカシはカカシでは無く、写真家のスケアになる。

 オビトもまた、その顔を橙の仮面で隠して、おどけた雰囲気を身に纏えば大道芸人のトビの完成だ。

「それじゃあ行きましょうか、トビくん」

「はい、スケアさん」

 手を取り合う。わざとらしく、コミカルに。

 そうして紫メイクの写真家とオレンジ仮面の大道芸人の、奇妙でおかしな出で立ちの二人組は、水の国の土へと足を踏み出したのであった。

 

 続く




原作で再不斬がアカデミー卒業したのは9歳設定らしいんですけど、原作でカカシ先生が再不斬のアカデミー卒業時の皆殺し事件起こしたのは10年前と言ってるんすが、それが正しかったら再不斬は16歳か(誕生日の関係で)15歳の筈で、卒業年齢9歳と矛盾してたので、本作では一度卒業して忍びになっていたものの、なんらかの不祥事を起こしてもっかいアカデミーに放り込まれていました、ということにしてます。(辻褄合わせ)
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