隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
拙者歴史オタクです故、頭悪い癖に政治関係のあれこれとか考えたり書くのくっそたのしかったです。というわけで32話です。


32.霧隠れからの使者

 

 

 

 カカシとオビトの二人が水の国に足を踏み入れたその頃、木ノ葉隠れの里には霧隠れの里から同盟締結の為の使者として、一組の男女が訪れていた。

「ようこそ霧隠れからの使者殿」

 里人を代表し、白い火影マントを身につけた四代目火影、波風ミナトがにこりと爽やかな笑みを浮かべて火影塔に訪れた霧隠れの代表たるくノ一に挨拶をする。

 それに二人のうち代表を任されたのだろう女もまた、にこりと涼しげな目元を和らげて肉厚の唇からゆるりと返礼の言葉を紡ぎ出す。

「出迎え感謝致しますわ、火影様」

 すらりと伸びた長身に茶色い長い髪の若い女だった。豊かな胸部にキュッと締まったウエスト。張りのある尻を半ばドレスのような青い着物に包んだメリハリの効いた体つきの持ち主で、艶めかしさの匂い立つ絶世の美女であるが、おそらく年頃は自分の直弟子達と同じくらいだろうと、一般的には爽やかで優しげに見える笑顔の下で冷静にミナトは分析する。

 おそらくまだ10代後半の若い娘だ。だが、強い。

 緩やかなしゃべり口に余裕のある態度は、彼女の自信と強さに裏打ちされているように見える。

 まあ、当然か。

 そうでなければ、霧隠れも木ノ葉隠れの里に彼女を派遣しようとは思わなかったことだろう。

 きっと彼女は、ここで複数の人間に囲まれたとしても脱出出来る自信があるのだ。

 オビトとカカシならなんとかなるだろうと判断して、ミナトが二人を霧隠れに送ったように。

(まあ、でもこれが霧隠れとしての、四代目水影殿からの誠意なんだろうな……)

 一方的に要求するだけでなく、こうして自らも送ってきたのだから、自分は三代目水影とは違うと対外的に示す意味もあったはずだとそうミナトは考察する。

 今回元ミナト班の二人に与えたSランク任務、霧隠れの里まで出向いた上での同盟の締結補助。オビトに伏せられていたその本当の役割は、霧隠れの里に対する人質であり、木ノ葉隠れの里からの公式のスパイでもあった。この任務に中てられる人材が二人、ないし三人と人数制限があったのもその為だ。

 そしてこの霧隠れの里からやってきた使者の二人も、木ノ葉隠れの里に対する人質でありスパイだ……つまりはこれは、同盟締結が正式になされるまでの人質交換なのだ。 

 それも木ノ葉隠れと霧隠れのこれまでの歴史を考えれば当然の事である。

 

 木ノ葉隠れの里と霧隠れの里の確執……それは遡れば今から約20年近く前に始まった、第一次忍界大戦に端を発している。

 当時霧隠れの里を治めていたのは二代目水影であった、鬼灯幻月という男だった。

 彼は過去三代の水影達の中で、尤も人望を備えた、マトモかつ常識的な男であったが、だからこそ下から上げられた木ノ葉隠れの里への不満の声や、上層部での協議結果や国からの指示を無視することも出来ず、大名に命じられるがままに砂隠れと手を組み、岩隠れを巻き込んで木ノ葉隠れの里を相手に不意打ちを仕掛ける形で、第一次忍界大戦の火蓋を切った。

 戦争とは、武力を伴って行われる政治の一形態である。

 五大国に小国を巻き込んで膨れ上がった忍界初の大戦争は多くの人々を巻き込み、もはや戦争を始めた水の国や風の国にも止められないほどに戦火は拡大した。

 各里を纏める影達は自国の忍びに死ねと命を下す立場だ。

 いくら影達自身が実力者といえど、旗印が倒れたときの混乱を考えれば戦場に出るべきではない。

 しかし、幻月は部下に死ねと命じて、自分は安全な所に引っ込んでいることに納得出来る、そんな男では無かった。仲間思いの熱い男なのだ。

 たとえ始まりが国や里が求めたが故の事としても、承認したのは長である自分である。

 この戦争を始めた責任は己にあるのだ、とそう自覚している男であった。

 そしてそんな男だからこそ、その終わりもまた必然だったのだろう。

 まず、断って置くが間違いなく鬼灯幻月は霧隠れの歴史でも類を見ないほどの傑物であった。

 やや戦闘狂な面もないこともないが、陽気で快活。気さくでカラッとした性格で、しゃべり好きで面倒見が良い。そんな性格とは裏腹に彼の戦い方は非常に堅実で、水蒸気を使った幻術と水遁のエキスパートである。

 蜃気楼で惑わし、敵対者に何もさせず一方的に討ち取ることも可能な、うちは一族とはまた別方向で幻術と忍術を極めた戦巧者である彼は、まさに一騎当千の強者であった。当時の霧隠れに彼以上に優れた忍びなどどこにもいない。

 だが、それでも……戦った相手が悪すぎたと言える。

 うちはの伝説、歩く鬼神……いくら老いたとはいえ、かつて戦国時代最強の名を柱間と競ったうちはマダラを相手に取るには……彼でもまだ足りなかったのだ。

 彼は最期、霧隠れの忍び達の部隊を救う為に、彼らが逃げる時間を稼ぐため、うちはの赤鬼を相手に一人で立ち向かったのだという。

『これがオレのケジメだ!! だからいいかお前ら! オレがやられても間違っても仇討ちとか考えるなよ……!!』

 それが幻月によって逃がされた霧隠れの忍びが聞いた、最期の言葉であったという。

『砂利が、よく言ったァ!!』

 それと同時にニィイと凶悪に笑う長い白髪を振り乱す老爺の笑みと、とんでもなく怖気の走るチャクラ圧もまた忘れられないと、後に幻月の最期の言葉を里に伝えた霧隠れの忍びは答える。三日三晩夢に魘されるほど恐ろしく、マダラが戦場に現れた時には、幻月が現れるまで生きた心地がしなかったのだそうだ。

 二人の戦場の跡地には何も残らなかった。地形すら滅茶苦茶になっていた。

 偉大なる水影の死に霧隠れは消沈し、勢いを無くした。二代目水影鬼灯幻月死す、その報が出された一月後にはマダラは二代目土影であった(むぅ)も仕留めたと、そんな報が流された。

 第一次忍界大戦が収束したのはそれから間もなく……二代目土影無が亡くなった三ヶ月後の事だ。

 後に無傷で里に帰ってきたうちはの伝説は語る。

『二代目水影の話か? まあまあ楽しめたな。敵わぬとわかっていても最期まで足掻く気概や良し。敵ながら中々見所のある天晴れな砂利だったぞ』

 と、どことなく満足そうに答えたという。

 結局の所、第一次忍界大戦とはなんだったのか、と言われたらうちはの生きる伝説は歳をとっても変わらず伝説であったこと、歩く鬼神という異名に違い無し。それを世界に知らしめるほどに、うちはマダラの独壇場であり遊び場であった。

 ……だからこそ、マダラが死んだ半年後に第二次忍界大戦が勃発したのだとも言えるのだが。

 斯くして、霧隠れは尤も人望と実力を備えた旗頭を失い、そうして台頭したのが初代水影亡き後二代目水影の座を幻月に負け敗れ日陰者となっていた三代目水影……初代水影の右腕を務めていた男であった。

 秘密主義が行き過ぎていた為か、この三代目水影を務めていた男の名は知られていない。

 とにかく、この男は二代目の支持者達が幻月の死で悲しみ呆けている間に、初代水影のシンパや中立派を取り込み、「強い霧隠れの里を作る」をスローガンにかかげ水影の座につき、そこから恐怖政治による圧政を始めた。

 忍びとしての覚悟をつけさせるためだとのたまい、アカデミーの卒業試験には生徒同士の殺し合いを盛り込み、血継限界を持つ者への嫌悪感を煽る風潮を強化し、身分格差を作り、徹底的にその者の出身で対応をわけた。

 陰湿で陰惨な血霧の里のはじまりである。

 そうして三代目水影は、うちはマダラの死後間もなくはじまった第二次忍界大戦にも参戦を表明する。

 別にマダラ引いては木ノ葉隠れの里に討ち取られた鬼灯幻月の仇討ちなどではない。寧ろ、自らが三代目水影につくことが出来た事から、幻月を討ち取ったマダラには感謝しているくらいだ。

 だが、肥沃な大地と温厚な気候に恵まれた火の国は、寒冷な気候風土である水の国に住まう者から見ればとても魅力的で、美味しそうだ。

 五大国のうち四カ国で組み火の国という美味しそうなパイを切り分ける現場に、乗り遅れる選択肢を選ぶほうが有り得ないだろう。

 そう考え参戦した三代目水影が方針を変えたのは、とある木ノ葉隠れの里が擁するたかが下忍一人に、霧隠れの誉れたる忍び刀七人衆が半壊させられたのが切っ掛けであった。

 最大の脅威であった歩く鬼神うちはマダラは死んだ。もういない……。

 だが、切り分けられるだけのパイというには、未だに木ノ葉隠れの里は強かった。強すぎた。

 落とす手間とコストを考えると割に合わないと、そう考えたのだ。

 その結果、狙いを木ノ葉隠れの里と争っている雲隠れへと変更した。自分たちを味方だと思っている相手ほど付けいりやすいものはない。

『裏切りの霧隠れ』

 そんな風評を三代目水影は気にしなかった。

 この忍び世界で、他者を信じるほうが悪いのだ。

 三代目水影は驕っていた。

 彼こそが霧隠れの支配者だった。恐怖政治で下を押さえつける暴君であった。

 そんな彼が失脚し、命を落としたのは今から半年前の事だ。

 恐怖で抑えられる事にも限界がある。どれほど押さえつけても不満は残る。なにより、初代の右腕として長く生きた三代目水影は既にかなりの高齢であり、全盛期ほど強いわけでもない。

 後に四代目水影になった男は、三代目の政権下で虐げられ圧政を受けていた忍び達相手に、鬼人による血の卒業式を切っ掛けとして、『戦おう』と声を上げた。もう、血霧はいらない。自分たちの手でこの里を変えるのだ、自里の子供達を殺し合わせるような里長などいらない、奴に報いを受けさせるのだ、と。

 積もった怒りと憎しみは膨れ上がり、そうして三代目水影は死んだ。

 それでも、三代目水影が生んだ確執まで消えるわけではない。

 先の大戦で騙し討ちにした雲隠れが霧隠れを許すことはまずないだろう。気質からしても雷の国と手を結ぶのは現実的ではない。

 そして海に囲まれた島国である水の国の隣国と言えば、雷の国、霜の国、湯の国、渦の国、そして火の国だ。この中で尤も話が通じそうな、同盟を結ぶ価値のある国を選べといわれたら……火の国、木ノ葉隠れの里しか霧隠れには選択肢としてなかった。

 故にこその今回の申し入れであったのである。

 四代目水影は自国を立て直し、里の改革を推し進めたかった。その為に他国に横やりを入れられたくなかった。

 その辺りの事情は、四代目火影である波風ミナトも把握している。

 木ノ葉と同盟を組みたい、和平をとの申し出は別に善意だけで出た言葉でないこともわかっている。

 だが、それが政治という奴なのだ。

 過去に色々あった。

 確執は確かにあるだろう。それでも、その上でミナトは今回の件を前向きに捉えることにした。

 四代目水影殿は三代目より遙かに話が通じる相手だろう。隣国として仲良くやっていけるなら、それがなによりだ。ならば、過去をほじくり返す必要もない。

(とはいえ、この人選は意外だったけどね)

 そんな事をチラリと考えながら、ミナトは霧隠れの使者としてやってきたもう一人のほうに視線を向ける。

「それにしてもまさか、彼を使者に選ぶとは思っていませんでしたよ。水影殿も思い切ったことをしますね」

「あ? オレはただのこの女の護衛だ」

 それに、眼光鋭く睨むように、刺々しい口調で答えるのは口元を包帯で覆った少年であった。

 それに茶髪の肉感的な美女も困ったような苦笑を浮かべながら、「ごめんなさいね火影様、彼、礼儀がなってなくて」と答え、それから何故連れてきたのかという質問についてこんな回答をした。

「これでも彼は三代目政権を終わらせた立役者ですからね……それに彼があんな事件を起こしたのはこれまでの血の因習を終わらせる為ですわ。彼もまた三代目の被害者なのです、それをご留意下さい」

 と。

 その女の返答に「ケッ」と反吐が出るといわんばかりにそっぽを向く少年は、女の言に不愉快そうであったが、まあ噂に聞いてたほど悪そうにも見えなかったので、ミナトは成程と納得する。

 本人に会ったことこそなかったが、ミナトはこの包帯を口元に巻いた大柄な少年の既に事は知っていた。

 この少年の名は桃地再不斬……霧隠れの鬼人の名で知られる、八ヶ月ほど前に血の卒業式を作り上げた張本人である。あれほどの大事件を起こしたのだから、知らないはずがなかった。

 知らないのは、この見た目からして派手やかな美女のほうだ。

「それで、霧隠れからの使者殿……貴女のお名前をお伺いしても?」

「あら? 火影様があまりに噂通りのイイ男なものだから忘れてましたわ……私の名は」

 

 * * *

 

 一方の霧隠れの里へと派遣任務を受けたカカシとオビトであるが、彼らは自分たちを待ち伏せにしていた破落戸に対処したあと、本日の宿泊予定地である村に向かって駆けていた。

 一般人にとっては徒歩一時間の距離も忍びの足にかかれば大した距離でもないが、一応他につけられていないか気をつけながら進む。

 そうして眼下の一軒家で、先ほど連れ立っていた家族と見知らぬ五十代くらいの男性……おそらくはこれが若夫婦の親なのだろう、と共にいるスケアとトビの姿を目に入れてとりあえず、気配を隠しながら目視できる距離で二人は足を止めた。

 当然、今あの一般人夫婦と共にいるスケアとトビは本物ではなく、破落戸の元に向かう前に印を組んで出して置いたカカシの影分身とオビトの木分身である。術を解けば彼らの経験が還元されるので、彼らと離れた間に親子とどんな会話をしていたのかとかもわかるようになるが、流石に家族団らんに混ざっているらしい今はタイミングが悪い。

 本日の宿泊先として貸し出された部屋に二人の分身が下がったタイミングで、術を解除して入れ替わることに決めて影から一家の様子を眺めた。

 やがて、素であるオビト本人よりも高めに作られたトビの「それじゃあ、おやすみなさーい!」の声と激しい手振りが見えて部屋に下がるなり、二人とも術を解除して素早く宿泊予定の部屋へと入った。

 そうして還元された情報を何気ない顔で受け止める。

 やはり、あのチラリと見えた五十代の男性が若夫婦の妻の父親であったらしい。

 気難しそうでムッツリとしていて無愛想を絵に描いたような男は、右足が悪かったらしく足を引きずっていた。

 それを見てスケアは「この人を笑わせるとか無理じゃない?」と思ったようなのだが、オビト……トビは凄かった。「どうもどうも、大道芸人のトビくんでーす! おたくの娘さんに雇われて今夜一晩お世話になることになりましたーよろしくー!」なんてアホっぽい挨拶をしたかと思えば、あれよあれよといううちにおじいさんとなんだか仲良くなって、気付いたら無愛想な幼女の祖父は楽しそうに笑っていた。「そーなんですね!」「気持ちは分かります」「わあ、すごい!」の三段活用で、仮面を被った怪しい男というマイナス部分があるにも関わらず、あっという間に老爺の警戒心を解いていた。

 ニコニコ笑顔の下でスケアは『オビトがお年寄りキラーなのは聞いていたけど、お前ホント凄いね……』と内心呆れたり感心したりして成り行きを見ていたのだが、これには若奥さんも大喜びで「こんなに楽しそうなお父さん久し振りにみた!」と御馳走をいっぱい作ってたが「わー、おいしそー! でもボク、ちょっと火傷跡見られたくないので後でいただきますねーごめんなさい」と言ったり等そういう一幕もあったりもした。

 結局、トビが芸として披露したのは軽いパントマイムくらいで、あとは話術だけで老人の心を解きほぐし心開かせていたので、実はオビトの対年寄りコミュ力って凄いのでは? とそんな事を考えさせられたカカシであった。

 影分身の記憶還元終了。

 そんな風に記憶の整理をしながら、隣で寝支度を整えているオビトを見ていると、オビトはカカシの視線に気付いたのか下唇を突き出しながら「なんだよ」と聞いてきたので、「んー……なんでもないよ」と返すカカシであった。

 まあ、何はともあれ屋根のある場所でゆっくり眠れるのは有り難いことだ。

 そのまま素早く忍具の手入れだけ済ませてさっさと寝た。

 翌日、メイクを落とした顔をこの家の住人に見られないよう早朝日の出と共に目を覚ました二人は、オビトは樹脂で作ったケロイドメイクをぺたりと実際の傷跡を覆うように貼り付けてから仮面をつけ、カカシは目元の傷跡を誤魔化すように紫のペイントと化粧を施し、茶髪のカツラとカラーコンタクトを目に嵌め、再び仮面の大道芸人トビと流れの写真家スケアになりきると、昨夜のことなどなかったようになんでもない態度で一家の前に姿を現した。

「おはようございまーす! ひゃー、今日も寒いッスね! あ、おじいさんボク薪割り手伝うッスよー!」

 そういって任せてくださーい! と腕まくりするようなような仕草を見せると、オビト改めトビはおじいさんの手から薪割り用の斧を優しく奪い取り、パコンパコンと小気味よい音を立てながら木を割っていった。

「おお、トビ坊中々手慣れてるな」

「どうです? ボクってやるもんでしょー!」

「自分で言ううちはまだまだだな」

「えーそんな~! そんなことないですよ、ないですよね!?」

 なんてやりとりをしながら、ニコニコしている姿は、まるで影分身から受け取った第一印象のとっつきづらさとは対極のようだ、が。

「おはようございます。昨夜は大変お世話になりました」

「…………ああ」

 と、トビに対しては機嫌良さげにニコニコしていたその顔が、スケアに対してはムッツリとした第一印象通りのとっつきづらいそれに戻るので、どうもトビが例外だっただけのようである。

 流石木ノ葉隠れの里が生んだジジババキラー。顔を隠してもオビトが年寄りに好かれやすいのは変わらないようだ。

「あー、トビお兄ちゃんと写真家のおにいちゃん!」

 そういってとてとてと可愛らしい足音を響かせながら歩み寄ってくるのは、この老爺の孫娘だ。

「はーい、トビお兄ちゃんです! 小さなお嬢さん、おはようございまーす」

「おはよー!」

 そういって彼女を抱き上げ、クルクル回すトビ。そんなトビにキャッキャと言いながら喜ぶ幼女。

 その二人をじーとみて、五十代の右足を悪くした男はポツリ。

「いくらトビ坊でも、孫はそう簡単に嫁にやらんぞ」

「その心配、十年はまだ早いと思いまっす」

 そんなやりとりに思わず小さく吹き出すスケアであった。

 そうこうしているうちに幼女の両親も起きてきて、火傷を見られたくなくて人前で仮面を外せない……という設定になっているトビ以外の全員で朝食を囲むことになった。トビの分の朝食は後でおにぎりにして持たせてくれるそうだ。まあ、十中八九トビでは無くスケアの胃に収まることになるが、知らなければ問題ないという奴なのである。

「それでは皆さん、大変お世話になりましたー! またどこかでお会い出来たら会いましょう~!」

「トビおにいちゃん、写真家のおにいちゃんバイバーイ!」

 そんなやりとりをする二人をニコニコ見守るスケアと若夫婦であったが、そこで五十代のこの家の主が待ったをかける。

「なあ、トビ坊ちょっといいか?」

「はい、なんっすか?」

「お前さん、水の国のあちこちで芸を見せて回るんだよな?」

「そうっすね、その予定です~」

 あくまでも設定上は、であるが。さすらいの仮面の大道芸人トビは水の国に笑いを届けに火の国からやってきたのだ。そういうことになっている。

「だったら、出来ればでいいんだが、よけりゃここでも興行をしてもらえねえか。オレの弟がそこの広場で管理人をやってるんだ」

 そういって老爺は紹介状らしき紙と共に住所と地図に目印をつけた紙をトビに握らせた。

 スケアとトビは二人して顔を見合わせる。

 その紙に記された住所と印は水の国の都を示していた。

 

 続く

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