隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
トビを大道芸人設定にした元ネタはSDネタだったりします。


33.都

 

 

 

 一晩世話になった一家の村を出て、大道芸人のトビと流れの写真家スケアに今日もまた扮したオビトとカカシの二人は、街道を歩きながら、互いにしか聞こえない小声で言葉を交わす。

「で、どうする?」

「どうするって……寄ってもいいのかよ?」

「そうね……」

 昔……ミナト班として一緒にチームを組んでいた時代のカカシは、堅物の掟人間だった。ルールだ掟だと口うるさく、オビトは何度だらしないだの忍びとしての自覚がないだの文句を食らったかわからないほどだ。

 だからこそ、さっきあの家のおじいさんに頼まれた「都の広場での興行」についても、無視して一直線に目的地になってる村に向かうものだとオビトは思っていた。故に仮面で隠れて見えないだろうが意外そうに目を丸くしながら、相変わらず四代目火影を模した笑顔を貼り付けている写真家の変装をしたカカシを見つめる。

「オレは、寄ってもいいんじゃないかと思っている」

「……理由は?」

 カカシが理由もなしにそんなことを言うはずがない。

 そんな信頼を裏地に問うオビトに、相変わらず見た目だけはニコニコとした好青年の写真家スケアという仮面を被ったまま、カカシは言葉を紡ぐ。

「お前、先生が言ってた事覚えてる? この任務で一番優先度が高いのは水の国の正確な情報を木ノ葉に持ち帰る事だ。都なんて情報収集するにはうってつけだろ?」

 それに、オビトが抜いた情報によると奴等のアジトも都にあるんでしょ? と更に声を潜めてカカシは紡ぐ。

「……カカシ」

「ま、それに都に寄って1日潰しても、目的の村へ行く道とそこまで外れているわけでもない。寄り道して真っ直ぐにたどり着けないのもまた、オビトらしいでショ」

 その言葉にヒクヒクと仮面の下でオビトは頬をひくつかせた。

(折角感動してたのに、なんでこいつはこう一言多いんだ……!)

 もし今オビトがトビとしてここに立ってなければ……カカシもスケアという設定ではなく、いつも通りのカカシだったなら「オマエは喧嘩売ってんのか! 買うぞゴラ」くらい言ってたかもしれない。確かにオビトは自分でも遅刻に寄り道ばかりだった自覚はあるが、わざとそうしていたわけではないので、当てこすられたように聞こえたからだ。

 だが、変装して別人を装っている今、怒鳴りつけるわけにもいかないし、このやり場のない思いどうしてくれよう……なんてオレンジの仮面の下でオビトは考えていたりするのだが、ぶっちゃけカカシに悪気はなかったりする。

 心底真っ直ぐ辿り着けないのもオビトらしいよね、と思ってるし、でも最終的にはちゃんとオビトは目的地に辿り着くんだよな。フフ、リンや先生の気持ちがオレにも漸くわかってきたみたいだよ、なんて考えてたりする。

 どうにも噛み合っていない二人であった。

 

 * * *

 

 今日も、空は曇っている。

 水の国の首都であるにも関わらず、この都は今日も陰鬱で、ここから見える風景も代わり映えしない。

 そんなことを気怠げに退屈そうに思いながら、少年はなんともなしに今日も窓から下々の風景を眺める。

 少年は白い上等の着物に身を包んだ齢七つの子供であった。

 そのあかぎれも豆もない綺麗な手に荒れ一つない肌、つやつやとした黒髪、佇まいはやんごとなき身分であることをありありと示している。

 それもそのはず、ほんの半年前まで少年の父こそがこの水の国を治める大名であった。今は年の離れた兄が大名の座についている。

 そんな彼は物心つく前から母や使用人に、耳にたこができるほど言い聞かされていた事があった。

『良いですか、兄上にはあまり近づいてはいけませんよ。あれはそなたの政敵なのです』

 せいてきってなに? と思ったが、意味が分からずとも良くない意味なのは雰囲気でわかった。母も使用人も兄を嫌っている。だけど、少年は昔から兄のことが好きだった。気が弱いけれど、優しくて自分を見ると頭を撫でてくれて、そうかそうかと話を聞いてくれる。

 なんでみんなでなかよくなれないんだろう、と何度も思った。

 水の国の大名の家では身内で争いあうのがフツウらしいけど。

 あれはセイテキだ、といわれても、実の兄弟なのだから仲良くやって何が悪いのか、少年にはちっともわからなかった。

 けれど、半年前、父が失脚? して兄が大名につくとまた、母や使用人達の言う事が百八十度変わったのだ。

『いいですか、兄上にしっかり媚びを売るのですよ』

 こびって何? と少年は思った。

 なんだか母上も使用人達も嫌な笑顔を浮かべている。嘘くさい笑みだと少年は思う。

 ただ、兄上は大名様で忙しいからと、母や使用人達に妨害されていた頃よりも会える回数が減ってしまった。

(つまんない)

 少年は大名の腹違いの弟だ。やんごとなき身分だ。

 身分が身分だからこそ、毎日のように沢山のお勉強がある。その代わり衣食住で困ったことはない。でも身分が身分だからこそ気軽に遊べるお友達もいない。退屈だった。つまらなかった。寂しかった。身分が故に無視はされない。でも身分が故に腫れ物に触るようにみんなが距離を置く。まるで自分は透明人間だ。

(何か楽しいことはないかな?)

 そうやって耳を澄ませていたからか、普段から良く下々の噂話をこっそり聞くのが数少ない娯楽だったからか、少年の耳はその話を拾った。

「おい、聞いたか。今広場に仮面を被った大道芸人がきているんだってよ」

「大道芸人? なんで仮面を?」

「なんでも四年前の戦争で顔に大火傷を負ったんだとか。子供達が怖がるから仮面を外せないんだとよ。衛兵が念のため仮面の下を改めたらしいが本当に酷い火傷跡だったらしくて、確認した奴は顔が真っ青で「もう結構です」と言ったらしいぜ」

「はー、そりゃ大変だな」

(大道芸人?)

 大道芸人とは聞いたことがある。

 確か路上で芸を売り物にする職業だったか。下賤なものたちです、近づいてはいけませんよ、と母は言っていたが、少年は大道芸など見たことがない。

 ムクムクと好奇心が湧きあがった。

(ちょっとだけ見に行こう)

 このままの格好だと流石に目立つから茶色い布地をフードのように被って、窓から屋敷を抜け出す。

 少年は普段から良く周囲を見ていた。この屋敷には見回りがいるけど、彼らのルートやどの時間にどの場所が手薄になるのかなど、理解出来るくらいには賢かった。しかし、同時に年相応に好奇心旺盛で、年齢相応に世間知らずで無鉄砲であった。

 家人が少年が屋敷にいないことに気付いて悲鳴を上げるのは、この一時間後の事である。

 

 * * *

 

 その日、都の広場には奇妙な男が一人立っていた。

 袖の長いダボダボの黒い服を着て、顔には派手なオレンジのグルグルの仮面を被っている長身の男だ。

 それが、いかにもおどけた仕草で両手を大きく振りながらクルクル踊るように広場を一周している。それに、人々はなんだなんだ、と目を引かれ近寄っていく。

「はいはーい! 都にお住まいの皆さんこんにちはー!! ボク、大道芸人のトビって言います~! 今日は都にお住まいの皆さんに笑顔をお届けにきましたー! もしボクの芸を見て良かったと思ったら是非是非拍手とおひねりをお願いします~!」

 そんな言葉をおどけた仕草と共に愛嬌たっぷりに言いながら、トビはよっと大玉の上に乗り、大玉にのって広場をゆっくり回りながら、袖口から先日木遁で作り出したクラブを取り出してジャグリングを始める。

 最初は三つ、それを四つ、五つと増やしていき、最終的には六つのクラブをクルクルと回しながら、大玉を軽快にリズム良く進ませる。

「おおー!」

「すごい!」

 それに普段から大道芸人なんてそうそう見ることのない都の人達の目は、トビに釘付けになった。

 そんな中でスケアに扮するカカシが人混みの中に消えていくのを、トビ……もといオビトの隻眼は片隅で捉えた。

 これは元々の予定である。

 オビトが注目を引いている間にカカシが人々から情報を収集し、ついでに先日破落戸から引き出した情報を元にアジトの場所を目視で確認しておく。

 だから、出来るだけ派手に多くの衆目を集めるのがオビトの仕事だ。

 ここで興行をやることについては、あの村のおじいさんに渡された紹介状もあり、広場の使用料を少し払うだけですんなり話はついた。

 なんでもここ数年……特に第二次忍界大戦が終わって以来、あまり水の国の都ではそういう娯楽を提供する催し自体が殆どなかったらしく、みんなの気晴らしになるとおじいさんの弟である広場の管理人のおじさんには喜ばれ感謝された。

 が、流石にこのご時世に顔も見せない奴を野放しにするのはちょっと……とのことで、一応確認の為、広場周辺が担当の衛兵には仮面の下を見せてくれと要請されてしまったのは、誤算と言えば誤算といえる。

 だが問題は無い。

 万が一仮面の下を見られた時に備えて、元々の傷跡をカバーするように樹脂で作ったケロイドメイク……本物の火傷の跡にしか見えない自信作だ、を顔に貼り付けていたし、顔を確認する役の衛兵には仮面の下から写輪眼で目があったさいに、催眠眼の作用によって両目があるように誤認させていた。

 オビトが扮するトビは、四年前の戦争の時に顔面に大火傷を負って仮面を身につけるようになった、流れの大道芸人というキャラクターだ。流石に、隻眼であることまで知られてその情報が出回ると、どこかで自分の二つ名である隻眼の木遁使いとイコールで結ぶ奴も出るかもしれないので、隻眼であることさえ誤魔化せばいいとオビトは思っている。

 そうして「まあ、こんな大火傷が顔に残ってるんじゃ、確かに仮面で顔を隠しても仕方ない」と思わせることに成功し、広場での興行許可を取って今に至る。

(それにしても、写輪眼を開眼してて良かったってこんなところで思うハメになるとは思ってなかったな……)

 本来、オビトはわりとドジだ。

 どれくらいドジかといわれたら、中忍試験の際に口の中に飴玉があることをうっかり忘れて火遁・業火球の術を発動失敗するくらいにはドジである。とはいえ、ちょくちょく抜けている所があるものの、身体能力自体はそれなりに高いほうだし、岩に潰されても即死しなかったくらいに頑丈でもある。五体満足だった時から、木登りや水面歩行の行を問題なく使える程度には、チャクラコントロールもそれなりだ。

 だけど、写輪眼開眼前のオビトが今やってることをやろうとしたら、多分高確率で失敗していただろうなという自覚もあった。

 トビの設定は大道芸人だが、忍びの隠里生まれの隠里育ちなオビト自身の大道芸人に対する知識は正直そこまでない。とりあえず大玉にのったり、火の輪くぐったり? ジャグリングしたり、動きだけで台詞なしの劇……パントマイム等をしたりして、報酬に投げ銭を貰う人達、というぼやっとしたイメージである。

 なので今こうして大玉に乗りながらジャグリング芸を披露しているわけだが、忍びの身体能力と落ちてくるクラブをしっかり見極める写輪眼由来の動体視力があって、はじめて大道芸人の真似が出来ている。多分、写輪眼を使わずにやろうと思ったら、クラブを受け取り損ねて大玉から足を滑らせ落ちてたんじゃないかな……とオビトは自己分析していた。

(そう考えると、本物の大道芸人ってスゲーんだな……)

 開眼してて良かった。

 扉間先生見ていて下さい、オレの写輪眼はちゃんと世の役に立ってますよ! と心の中で亡き師に語りかけるオビトであった。

 

 * * *

 

 わっと、広場から歓声があがる。

 それを広場を見下ろせる高台の柵の隙間から、やんごとなき少年は瞳をキラキラさせて眺めていた。

(わ、すごいすごいすごい!)

 眼下では黒いダボダボの服装をしたオレンジ仮面の奇妙な格好をした男が、大玉の上で逆立ちしながら足の指で器用に二本のクラブを回していた。どうやら、あの奇妙な格好をした男が噂の大道芸人らしい。

 はじめは大玉の上に乗って進みながら六つのクラブを手にジャグリングしていたのだが、広場を半周したところでクラブの数を減らして逆立ちしながら足でジャグリングを始めたのだ。

 そのあまりの妙技に少年は感動した。

 人間ってあんな器用に足の指を使えるもんなんだな。

 そうして逆立ちで大玉を進ませながら、足でジャグリングしつつ広場を一周して元の場所に戻ってきた件の大道芸人は、最後に蹴り技で高くクラブを空へと弾き飛ばし、大玉からクルリと猫のようにバク転して着地すると、空高く放ち、重力に従って戻ってきたクラブを両手をクロスした状態でバシッとつかみ取り、拾ったクラブを手に掴んだままばっと大きく腕を広げるポーズで「はい、拍手ー!!」とおどけた声で告げた。

 すると周囲に集まった人達は、聞いているこっちの耳が痛くなるくらいに一斉に大きな拍手をして、思い思いに男へと投げ銭をはじめる。

 それをオレンジ仮面の男はどこからか取り出した竹編み? らしき籠を取り出して、投げ銭を次々にそれでキャッチしはじめるものだから、「いいぞー!」「トビー」などの観衆の声が上がり、更に沢山の銭が竹編みの中に投げこまれた。

「はーい! 皆さんありがとうございましたー!! いやー、都の皆さんは優しいですねー。あまりの優しさに感動のあまりボクの涙はちょちょぎれちゃいますよー!」

 愛嬌たっぷりに元気よく体を大きく揺らしながらそんな言葉を返す仮面の男に、誰が言い出したのか「アンコール! アンコール!」なという声が響き渡り「えー、じゃあもうちょっとだけですよ? 次大道芸人トビ、パントマイムやりまーす!!」そうしてはじまった滑稽で見ているだけで笑いが出てくる寸劇を、高台から少年もまた大いに楽しみ、笑った。

(こんなにわらったのはいつぶりだろう。兄上にもみてほしいな)

 でも話すわけにはいかない。

 話したら当然、勝手に屋敷を抜け出したことまで連鎖的にバレるからだ。

 今やっていることが悪いことである自覚くらいは少年……大名の幼い異母弟にもあった。

 そうしているうちに10分くらいの短い寸劇も終わりを告げたようだ。

「それでは皆さん、ありがとうございましたー! またどこかでお会いしましょ~!」

 明るくテンションの高い掠れがちの男の声がそんな挨拶をするのに、名残惜しい気持ちがありながらも少年はそろそろ帰らなければとなけなしの理性を総動員して考える。

 流石にそろそろ自分の不在がバレそうだ。そうなれば怒られるだけではすまないだろう。

 そう思って、フード代わりに被っている茶色い布を顔をしっかり隠すように握りしめ、屋敷のほうに向かって戻ろうとする少年は、フードで視界が遮られ目の前の人影に気付かなかった。

「わっ……!?」

 大柄な男の巨体にはじき返され、少年がぺたんと尻餅をつく。

「あん? どこ見て歩いてやがるガキ」

 そんな風に転げた子供を心配する様子もなく、ぶつかった誰か……いかつい男の声が機嫌悪そうに少年に降りかかる。布の狭間から見上げた先にいたのは、眼光鋭くどう見ても堅気ではない大柄な男とその舎弟らしきひょろ長いちょび髭だった。何故かトサカのような髪型をしている。

 少年は思わず固まった。彼はやんごとなき身分である。当然彼が今まで関わった人間にこういう男達はいなかった。それでも、彼の聡明な頭は自分が不注意で男にぶつかったということを少年自身に教えてくれた。

「そ、その、そのほうすまなかった、私のぜんぽうふちゅういだった。すまぬ」

「あん? それで謝ってるつもりか? ああ!?」

「ひっ」

 男はそのまま少年の首元の布地を掴んでガッと少年を宙づりにする。少年は今までこんな暴力を振われたことがないのですっかり涙目だ。完全に泣き叫んでいないのはそれまでの教育の成果とも言える。

 が、その拍子に少年がフード代わりに被っていた布がパサリと地面に落ちて、少年の全容が日の下に顕わになる。よく手入れのされた髪や肌、上等の白い着物。それらは少年の出自をなによりも雄弁に語っていた。

 それを見て男は少年の首元から手を離す。ドサリと地面に落ちた少年はゲホゲホと涙目のまま咳き込んだ。

「兄貴こいつは……」

「ああ、そうだな」

 ニヤリと笑いながら交わされる男達の会話の意味は少年にはわからない。ただ、それでも脳内で警報が鳴り響いていた。逃げなければ、と。

 だが、少年が震える体で逃げ出す前に、男の太く大きな手が少年の手を掴んで歩き出す方が早かった。

「いたっ……! 何をッ」

「あん? 何って決まってるんだろ、慰謝料を払って貰うんだよ、てめえの身でな」

「よせ、はなせ、やめろ……! はなせ……!!」

 齢七つの子供の必死の抵抗など無きにひとしく、少年の体はズルズルと引きずられながら連れて行かれそうになる。

(助けて、だれか、だれか……! 兄上ェ!!)

 白昼堂々と誘拐されそうになっている自分に絶望しながら、そう心の中で叫んだその時だった。

「ぃだァ!?」

 スコン。

 そんな小気味良い音さえ立てながら、高速で投げ放たれた何かが少年の手を掴んでいた男の太い腕に勢いよく当たって、男は思わず少年の手を離す。

(……これは、あのものの?)

 少年はそこで地面に転がっている男の腕に当たったらしき何かに気付く。

 それは、あの広場で仮面の大道芸人がジャグリングに使っていたクラブであった。

 思わず、少年はクラブが飛んできた先へと視線を向ける。

 すると、そこには先ほど多くの人々に囲まれていたオレンジ仮面の男がいた。

「おっと、手が滑っちゃいましたーごめんなさい。でも、白昼堂々と嫌がってる子を誘拐しようとするのはちょっと……どうかな~って思いますよー」

「てめえ、何もんだ!」

 苛立ちに威嚇混じりにナイフを握りながら、どう見ても堅気ではない男が吠えると、オレンジ仮面の男は少年のほうに仮面ごしに視線をむけてから男に対して、やはりおどけたような仕草をしながら言った。

「はじめまして。大道芸人のトビです」

 

 続く

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