隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回は久し振りにあいつらの登場です。


36.ようこそ霧隠れの里へ

 

 

 

 そこは暗い暗い地下洞窟であった。

 元は誰かの狂った研究施設だった場所だ。滝隠れの里出身のその誰かは、五十年近く前に持ち逃げされた滝隠れの禁術を再現して、更に発展させようとそう目論んでいたらしい。

 そんなイカれた狂研究者(マッドサイエンティスト)ともいうべき、この研究所の本来の持ち主が研究対象に殺されたのは今から十七年前の事だ。

 その今は誰のものでもない研究施設を、黒ゼツと言われる……千年程前から忍界の裏で暗躍し続けていた大筒木カグヤの末の息子が、自分の拠点として使っている。

 そして、一つのビーカーを見ながら、忌々しそうに黒ゼツは舌打ちをする。

「マダ輪廻眼二ハナラナイ……カ」

 それは幾何学的な模様の入った赤い一対の目玉であった。

 そのビーカーに浮いているのは三年前、人柱力の出産にかこつけて九尾事件を起こした際に手駒に持ち出させた歩く鬼神……うちはマダラの目玉と培養された柱間細胞であった。

 何故、こんなものを持ち出したのかといえば、当然わけはある。

 うちはマダラと千手柱間……木ノ葉隠れの里を興した創設者であるこの二人は、先代のインドラ・アシュラ兄弟の転生者であった。

 そしてインドラ・アシュラの兄弟は忌々しいことに母……大筒木カグヤを月に封印した六道仙人・大筒木ハゴロモの息子達であり、この二人のチャクラは今も彼らの子孫へと転生を続け、その度に争っていた。

 否、正確では無い。

 黒ゼツが争うように仕向けてきた。

 自分の悲願を果たすために。

 黒ゼツは母カグヤの封印を解き、彼女を復活させたい。その為に大幻術・無限月読を実行する者を欲している。

 そして無限月読を実行するために必要な輪廻眼……これは陰のチャクラ(インドラ)陽のチャクラ(アシュラ)を一つにする必要があった。だから、奪い合うように仕向けていたのだ。

 そしてこの兄弟の争いを千年見てきた黒ゼツであるが、うちはマダラと千手柱間以上の能力を持つ転生者は見たことが無かった。柱間など先祖帰りなのか、奴の持つ木遁忍術はこの世にチャクラの実を生みだした神樹に近い性質を持っていた。

 こいつらなら、輪廻眼に届くのでは無いかと、黒ゼツは期待した。

 マダラを闇に堕として柱間の一部を取り込ませ、輪廻眼に至らせる、そのつもりだったのに……黒ゼツの思惑は全てあの男、二代目火影にしてマダラの弟であったうちはイズナに阻まれてしまった。

 その事は今でも腹立たしく思っている。

 しかし、黒ゼツは千年暗躍を続けてきた身だ。好機を待つことにはなれている。

 故に、次善の策として、マダラの眼と柱間の細胞をもってこさせたのだ。

 あの兄弟自体は次の転生に入ったようであるが、マダラの眼にも柱間の細胞にもゼツが必要としているインドラとアシュラのチャクラは髄まで染みこんでいる。

 理論上はこの二つを掛け合わせれば輪廻眼が生まれるはずなのだ。

 だが……三年経った今もマダラの目が輪廻眼に進化する兆しは見られない。

 何かが、足りないのだ。

 ひょっとして必要なのはこの二つを持った上での宿主の生命の危機か?

 ならば、埋め込むべきか。

「……」

 脳裏に浮かぶのは今黒ゼツが傀儡として使っているマダラの代用品の姿だ。

 心が弱くとっくに正気を失った軟弱者だが、流れる血と身体スペックだけは一級品だ。

 その血筋を考えれば馴染む可能性は……ある。

「ククッ」

 そんな黒ゼツのもとに白いゼツが地面を通って現れ、「おーい、あのさ~聞いた? なんでも霧と木ノ葉が同盟結ぶ為に今度大名達が会談するんだって~」なんて暢気にも聞こえる声で言った。

「……何?」

 

 * * *

 

「はい、それではしっかり私に掴まってて下さいよ」

「お、オウ!」

 そんな言葉と共に、目隠しをさせられた状態でカカシと共に鬼鮫の後ろに乗せられたオビトは、そんな事考えてるとバレたら相棒に睨まれそうだと思いつつも、童心に還って楽しんでいた。

(なんだこれ、楽しい……!)

 両目はしっかりと目隠しで封じられているが、それでも分かることは色々ある。

 水の匂いがする。潮の匂いである事からして、この川は元々海に繋がっていたのだろう。その川の上で、鬼鮫が呼び出した口寄せ獣の上に今オビトはいた。

 触れた時の触感や形状からしておそらくは鮫か、鯱。

 でっかい鮫だか鯱に乗って川を上っているのだ。もう霧隠れでは冬といっていい季節なため、水しぶきも風も冷たいのが難点だが、巨大な鮫に乗って川の上を行くのはまるでアトラクションのようで楽しい。

 なんて思っていたら、当然のようにオビトのすぐ後ろに乗っている相棒にはオビトが楽しんでいることがバレてしまったらしい。

 カカシはぎゅっとオビトの左手の甲を抓る。

 言いたい事は「オマエ、ホントにわかってるの?」である。

(ああ、もうわかってるっての!)

 そんな風に思いながら、オビトは鬼鮫と会った後から今までについてを回想する。

 

 * * *

 

「改めまして……私、木ノ葉隠れの使者の方々の案内人を任されました、干柿鬼鮫と申します。隻眼の木遁使いさん、白雷のカカシさん、以後お見知りおきを」

 そう言って青い肌に鮫のような容姿をした男が笑う。

 干柿鬼鮫の名をオビトは知らない。

 だが、暗部であるカカシは知っていたらしい。

「霧隠れの怪人……」

「おや、よく御存知で」

 そう返す言葉にはそれ以上の含みはなかったが、カカシは眉間の皺をより深めるだけだった。カカシが鬼鮫を見る目は信用ならないと雄弁に語っている。

 それを見て、オビトは二人の間に割って入り、「あー鬼鮫だな、オレの名はうちはオビトだ。隻眼の木遁使いさんじゃなくて、オビトって呼んでくれ。よろしくな」といって生身の左手を差しだした。

 オビトは気付いていたのだ。

 カカシが今鬼鮫に敵意を向けているのは、鬼鮫が先ほど自分を攻撃してきたことが一番の理由だってことに。多分、恐らくカカシはそうやって試しをされた相手が己自身であればここまで気にしていない。もう少し冷静に判断していた筈だ。

 オビトとしては先ほど鬼鮫に刀を向けられたことに思うところは無い。

 元々木ノ葉と霧は仲がいいわけではないし、向こうが求めている人材も手練れであると四代目火影波風ミナトはそう言っていたから、まあそりゃ試すよなって気持ちもあったからだ。

 そして今回与えられた任務でオビトに与えられた役割はカカシ隊長のサポートだ。

 霧とは同盟を結ぼうとしているわけだし、正規の霧隠れからの使者に敵対するのは得策とはいえない。出来るだけ、友好的に収められたらそれが一番だ。なら、フォローするのがオレの役割だろ、とオビトは思った。

 そんな好意的ともいえる態度をとるオビトに、鬼鮫は少しだけ目を丸くして「……変わった人ですねェ……私に握手を求めてきた人はアナタが初めてですよ」なんて言葉を呟きながら手を握り返した。

 人外染みた容姿に似合わず、思ったより優しい手つきだった。

「さて、移動しましょうか」

 そういって鬼鮫の先導で元々の予定地である村の方角に進む。

(そういや、なんでここが合流予定地だったんだ?)

 オビトが見る限り、そこは何の変哲もない寂れた寒村である。

 特に忍び里にも見えないし、遠目に見える村人達もやや痩せているくらいで、普通に暮らしている普通の人々に見える。

 そんなことを思う間に村の奥に奥にと進み、木々に隠されるような位置にあった渓流の前でピタリと鬼鮫は足を止め、オビトとカカシの木ノ葉隠れの里から来た二人に振り返る。

「さて……ここから私がお二人を霧隠れの里へとお連れしますが、その前にこちらをつけていただきますよ」

 そういって鬼鮫が取り出したのは、一見何の変哲もない黒い目隠しだった。

「生憎同盟が正式に決まるまで、信用ならないと思っているのはこちらも同じでして。里の位置や潜入ルートなどを持ち帰られても困ります。了承出来ないのであれば残念ながら今回の任務は諦めて貰うしかありませんねェ」

 二人が霧隠れに来れないとなれば、その案内人である鬼鮫も任務は失敗という形になって困るだろうにおくびも見せず、ニヤリと笑いながら霧隠れの怪人と呼ばれている男は言う。

 それにオビトは躊躇せず渡された目隠しをぎゅっと結び、「うぉっ!?」と吃驚した少しマヌケな声を上げた。

「これ、視神経に繋がるチャクラの分断作用があるのか……!」

 写輪眼を発動しても、目に集まったチャクラは分散されるため、視界は真っ暗なままだ。

 この目隠しをしている限り、写輪眼も意味が無い。

 それがわかりオビトが驚き混じりに呟くと鬼鮫は「木ノ葉隠れの里には白眼や写輪眼などの目に関する血継限界の一族がいることは有名ですからねェ……当然対策はさせていただいてますよ」と返す。

 まあ、尤もである。

 チャクラの動きを写輪眼以上に詳細にわかる白眼であれば、普通の目隠しなど無きに等しい。

 今回の任務に白眼の持ち主は来なかったが、指定任務ではない以上、白眼の持ち主が来ていた可能性もあったのだ。

「とはいえ、アナタ方はあくまでも客人であって捕虜でも囚人でもありませんから、封じるのは視覚だけですよ。それも里についたらちゃんと外しますのでご安心を」

 それとも何も見えないのは怖いですか? そうからかうように飄々とした声で紡がれる鬼鮫の声に、カカシも眉間の皺はそのまま「成程」と返して、自身もまた用意された目隠しで目を覆った。

 完全な暗闇が広がる。

 だが、そもそも忍びとは一般人よりよほど五感に優れているものだ。特にカカシは嗅覚に長けているし、音や足から伝わる振動があれば、たとえ見えていなくとも普通に歩くだけならば支障はない。

「それで、ここから船で霧隠れに?」

 とりあえず任務中であるので、自分の不機嫌を無感情の仮面で隠しながらそうカカシが問うと、「いえ、私の口寄せで向かいます」と鬼鮫は返し、そうして冒頭に至る。

 

「ふ、クク」

「ん?」

 鮫だか鯱だか視界を封じられているオビトには判別出来ないが、ともかく鬼鮫が呼び出した口寄せ獣に乗って川上を進むこと五分、急に楽しげな笑い声を漏らす案内人の男に、オビトが不思議そうな声を漏らすと、鬼鮫は楽しげな声でこんな言葉を漏らす。

「いやなに、どうも楽しんでいただいているようで。私の口寄せの上でこんな楽しげに出来る方は初めて見ましたよ」

「……」

 どうも、オビトが楽しんでいたことにはカカシだけでなく、オビトの前方に座ってたこの男にもばれていたらしい。思わず羞恥でオビトの頬が耳までカァーと赤くなる。もうあと数ヶ月で十八歳になるというのに子供みたいにはしゃいでたことがバレて恥ずかしい。

 そんな自分の気持ちを誤魔化し紛れに「……悪いか?」とオビトが拗ねたような声で漏らすと、「いえ、悪くないと思いますよ」そんな言葉をクツクツと笑いながら鬼鮫は続けた。

「オビトさんは思ったより愉快な方ですね」

 あまり褒められている気がしないオビトであった。

 そうこうしているうちに匂いと音が変わる。

 目隠しをしている為視界が真っ暗なのは変わらないが、音が反響してよく響くので今どこに入っていっているのか判断は難しくない。

(地下洞窟……か?)

 ひんやりとした冷気は先ほどまで外で当たっていたそれとまた違う種類の冷たさだ。

 あの川は洞窟の中へと続いていたらしい。

 匂いや音から判断するに、途中何度か分岐もあったようだが迷い無く鬼鮫の呼び出した口寄せ獣は三人を乗せたまま進む。

 ことここに至って、オビトもまた何故あの村が合流地点で、この男を迎えに選んだのか理解した。

 たとえ小舟でも、船でここまで来るのは容易ではないだろう。

 あとこの口寄せ獣のスピードに対して洞窟に入ってからの距離が長い。

 おそらくは、道順を覚えさせないためのフェイクも入っている。

 目隠しをさせて視界情報を断っているとはいえ念には念だ。

 遠回りのルートで霧隠れまで向かっている、だから時間がかかっている。恐らくあの村を発ってから二時間が経った筈だ。

(もしも、こんな所で視界を封じられたまま、待ち伏せされてたらひとたまりもねーんだろうな……)

 と思えば、カカシが楽しんでいる場合かと暢気なオビトに苛立っていた気持ちもわかる。

 でもその上でオビトは思う。

 問題はない……と。

 一応万が一に備えて昨日の野営地点に、時空間忍術のマーキングを施した手裏剣を埋めておいたのだ。

 この目隠しが封じているのはあくまでも視覚と目に集まるチャクラだけ。

 いざとなれば、すぐ後ろにいるカカシの腕を掴んで飛雷神で飛べば脱出は容易だ。自分の素顔を見て「隻眼の木遁使いさん」と鬼鮫が呼んだ辺り、自分が木遁使いであることはバレているかもしれないが、そもそもオビトの二つ名は名前だけが一人歩きしていて詳細が他国に知られているわけでもない。

 なら……その隻眼の木遁使いが、四代目火影と同じく時空間忍術の使い手であることまでは知られていないだろう。

 四代目火影波風ミナトは言った。

『反対派の襲撃も考えられるし、同盟の話自体が罠の可能性がある。そこで、万が一罠であった場合は脱出し、正確な情報を里まで持ち帰る事こそが君たちに求められている一番の役割だ』

 なら、オビトの一番の使命はカカシを連れて無事に木ノ葉に帰ることだ。敵を殺したり、倒すことではない。

 であれば、今のままでも任務遂行に問題はない。

 道中何度かマーキングは残している。五回も飛べば、無事木ノ葉まで帰れることだろう。

 そんなことを考えているうちに速度が弱まる。

「つきましたよ」

 そう声をかけられて、視力を封じているのに気を使ってか、先に口寄せ獣から降りた鬼鮫がオビトとカカシに手を差し出す。それに「ありがとうな」と礼の言葉を返してオビトは掴まり、地面に降り立ち、すぐ後ろにカカシの気配も降り立つと、「もう外して良いんだよな?」と確認の言葉を飛ばす。

「はい、もう大丈夫ですよ」

 その言葉に結び目をシュルリとほどくと、視界が戻ってきた。

 どうやらここもまた地下洞窟の中のようだった。薄暗いが、松明がいくつかかけられており、整備はされているようだ。川を使って出入りするための緊急通路か、裏口か。まあ大して変わらないか。

 すると、カツンカツンと洞窟に反響するように足音が一つ響いた。

 おそらくは敵では無いと聞かせるためのわざとなのだろう。

 やがて頭上から「鬼鮫」という声が振ってきた。

(……ん?)

 その声を聞いて、オビトが少し首を傾げていると、鬼鮫は洞窟の奥から降りてきたその人物に向けて頭を下げ「これは水影様」と呼んだことでその誰かこそが四代目水影だと判明し、黒髪隻眼の青年は思わず驚きに口をパカンと開ける。

 なにせ四代目水影は三代目政権の圧政に抗うために立ち上がり、三代目を打倒して四代目水影についた男とそう聞いていた。目の前に現れたのは、そのイメージとあまりにも相反する人物像だったからだ。

 カカシは鬼鮫がその人物を水影と呼んだ時点でこちらも恭しそうに傅いている。そしてアホみたいに口を開いて突っ立っているオビトを「何やってんのバカオビト」と言わんばかりに小突いてきたので、慌ててオビトもまた傅く。

 そんな二人を見て四代目水影を継いだ彼は「良い。楽にしてくれ。木ノ葉隠れの里の使者殿だな。四代目水影のやぐらだ」そういってにっと穏やかに笑った。

 オビトがその顔と声を聞いて驚いた理由。それは……。

「ようこそ霧隠れの里へ。水影として霧隠れの里を代表して歓迎する」

 穏やかに微笑む枯草色の髪と紫の瞳をした小柄な体躯の忍び……四代目水影やぐら。

 ……その姿はどうみても、アカデミーを卒業しているかどうかも怪しいような幼い子供のそれであった。

 

 続く

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