隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
お待たせしました……お布団の魔力に負けた不甲斐ない我を許し給へ37話です。


37.侮蔑

 

 

 

「場所を移そう」

 幼い少年に見えるその男……やぐらの言葉を皮切りに、四代目水影やぐらと案内人である干柿鬼鮫、木ノ葉隠れの里からの使者であるはたけカカシとうちはオビトの四名は洞窟を出て、裏口から霧隠れの里内にある水影塔来客室へと異動した。

 人払いをしていたのか、道中他の者に出会うことはなく、そんなところでオビトは自里である木ノ葉隠れの里との差異を感じてしまう。暗部による監視はまずついているのだろうが、それにしてもなんというか重苦しくて辛気くさいのだ。里全体の雰囲気が。

 まあ、それも仕方ないのかも知れない。

 この里はつい半年前まで別名を血霧の里と、そう呼ばれていた場所だ。どこまで本当か知らないが嫌な話は沢山聞いた。

 とはいえ、だからといって木ノ葉隠れの里が潔白かと聞かれたらそれは違うのだが……オビトはその事を亡き師を通してよく知っている。現役時代の千手扉間がどういう忍びであったのか、その話を教えてくれた千手邸管理人の老夫婦は若干後ろめたそうにしながら語ってくれたが、それはまさに外道そのものな戦法であった。

 それに忍びとしての現役時代の話をおいておいたとしても、千手扉間が敵味方問わず死ねば人を素材として見るマッドサイエンティスト的な一面も持っていることも弟子であったオビトは知っていた。

 だが、扉間がただの論理感のない外道かと言われたらそれもまた違うのだ。

 そういう面もあったけれど、子供達の未来を慈しむ人格者でもあったのだ、あの人は。合理性に特化した外道にも思える戦法も、その数々の人体実験も、里やそこに残された人達の未来を思っての所業であった。

 だが、他国からしたらたまったものじゃないのも確かだろう。

 一体忍界大戦中彼が何をやっていたのか、それを察すればいくら慕っている師とはいえオビトにも擁護の言葉は見つからない。

 だから……何も外道な実験は霧隠れの専売特許ではないのだ。

 どの里も忍び里である以上は薄暗い部分は必ずある。そう、木ノ葉隠れもそれは例外じゃない。それでもオビトは木ノ葉隠れの里が好きだった。だから、火影になりたい。いや、なるのだとそう決めている。

 木ノ葉が好きで、そこに住んでいる人々を守りたいから。

 そういう意味ではこれは良い機会なのかもしれない。

 他里に堂々と入る機会などそうはない。扉間先生も敵を知ることが大事だとそう言っていた。

 これから同盟を組み、それが成立すれば霧隠れは敵ではなくなるけれど、味方だって知る事が大事だろう。知らない相手とは理解し合えない。知るからこそ、どうすれば争い合わずにすむのかその先が探れる。

 幼少期はただ、自分が火影となって自分の顔岩を里に刻んで他国に睨みを効かせればいいとそう単純に思っていた。

 だが、歳月を重ねていく内にそれだけでは駄目な事をオビトは知った。

 世界は単純に出来ていない。他国にも他国の考えがあり、人によっても許容出来る範囲は違う。他者がわかり合い、理解し合うことは子供が考えるよりずっと難しい。それでも、考えを止めてはいけない。努力を怠ってもいけない。それが火影を目指すということだと、オビトは初代火影の弟であった扉間先生や現火影であり上忍師でもあった波風ミナトなどを通して知った。

(この任務にミナト先生がオレを選んだのは期待してくれているからだ……)

 なら、その想いに応えたい。

 そんな風に改めて胸の中で決意を固めるオビトの前で、カカシが「こちら、火影様より預かった親書になります」そういってスッと頭を下げて親書を小柄な水影へと渡す。

「確かに受け取った」

 そう口にすると、さっと封を開け四代目水影であるやぐらは親書の中身にざっと目を通していく。時間としては数秒ほど。特に問題はなかったのかそのまま親書を懐にしまい、やぐらは彼の体格からしたら大きすぎるといっていいサイズの椅子へとそのまま腰掛けた。

「それにしても、まさか四代目火影の懐刀と名高い『白雷のカカシ』と、噂の『隻眼の木遁使い』を派遣してくれるとは、火影殿も随分と思い切ったものだ」

 見た目は小さな子供にしか見えない四代目水影であるが、そうやって微笑む姿は酷く大人びていた。

「さて、使者殿から見て水の国は如何だったかな?」

 その言葉にチラリとカカシはオビトのほうへと一瞬だけ視線を向ける。

 それから「失礼ながら、思った以上に水の国は治安が悪いようだ」と内面を伺わせぬ表情で語った。

「ほう?」

 そこからカカシは自分たちが人身売買を目的としたマフィア配下の忍び崩れに襲われたこと。都に巣くっているマフィアの規模などについて恩着せがましく、口八丁でもって語る。

 言い方の問題なのだろう。調べたのはただたんに後味悪くて見過ごせなかったからだが、それをさも木ノ葉から霧隠れに恩を着せるために、友好の手土産だぞと言わんばかりの銀髪の少年のやり口に、やっぱりカカシは凄いなと改めて黒髪隻眼の青年は感心する。

 ちゃんと自里の利益に繋がるように話を持って行っている。水影様と対等に話し合っている。

 やはりカカシは頭が良いのだ。こういうところが真似出来ない。だが、出来ないからといってそれを努力しない理由にしてはいけない。元々オビトは臆病で逃げ癖があった。だが、あの日写輪眼を開眼した日に口先だけの人間だった自分と決別したいとそう強く願ったのだ。

 その願いに呼応するかのように、オビトの写輪眼は花開いた。

 だから、頭を使うことは苦手だからって、それを理由に逃げたくない。

 故に集中して二人のやりとりに耳を澄ませる。学べることは学べるときに学ぶべきだ。

 今は無理でもいつか、自分も出来るように。

「……」

 そんなオビトを鬼鮫がジッと見ていた。

 

 話し合いはそこまで長引くこともなく、10分もせずに終わった。

 最終的に水影様は「それでは使者殿、今日はゆっくり休んでくれ。あとで食事も運ばせよう」と言って案内人の鬼鮫に二人を客室まで案内するように言付けると颯爽と去る。

 やはり水影ともなると忙しいのだろう。

「ハー……水影様、まだ子供なのにしっかりしてて凄ェな」

 四代目水影であるやぐらは見た目8歳から10歳くらいの子供にしか見えないのだが、落ち着いた物腰でカカシと話しあってた姿を思い起しながら、感心したようにそんな言葉を思わず呟くオビトに、鬼鮫は軽く首を傾げながら爆弾を投下した。

「……水影様は私より年上ですよ?」

「エ……? えぇー!? ……マジでェ!?」

「確か奥方と……お子様もいると聞いたことがありますねえ……」

 今回立ち上がった理由も、将来子供に自分たちと同じ想いをさせたくなかったからだそうですよ。と鬼鮫は続けた。

 衝撃の事実だった。

 どこからどうみても小さな子供にしか見えないのに、実は成人済みで妻子持ちとはこれ如何に。

 そんな風に驚くオビトをカカシは(実年齢とかけ離れた容姿なら扉間様や綱手姫で見慣れているでショーに何一々驚いてるのよこのバカオビト)なんて呆れ混じりに眺めていたりするが、オビトにしてみればいくら若作りだからって、成人している男の見た目がまんま子供だったら驚くに決まってんだろって言いたいところである。

 少なくとも扉間先生は若作りではあっても子供の容姿をしていたわけじゃないし。

「なぁ、鬼鮫はいくつなんだ?」

 ふと、水影様は私より年上宣言から目の前の青い肌をした男の年齢が気になり、黒髪隻眼の青年が問いかける。

 すると鬼鮫は気負うこともなく、「私の年齢ですか……? 19歳ですよ」それがどうかしましたか、と言わんばかりにさらりと返す。それにオビトは「えっ」と先ほど当代水影の年齢に驚いていたのとはまた別の種類の驚きをよく変わる表情に乗せて「お前、オレと二つしか違わなかったんだな。しっかりしているからてっきりもう少し年上かと思ったぜ」と屈託なく笑って返した。

「……」

 正直、鬼鮫からしてみれば自分に今まで笑いかけてきた人間自体あまりいなかったので、自分に向けられると思ってなかった種類の笑みに思わず戸惑う。

 そんな鬼鮫の戸惑いに気付いていないのかオビトは「確か霧隠れに滞在中の世話係も鬼鮫なんだろ。これから暫く改めて宜しくな」と鬼鮫の肩をポンと叩いた。

「あ……はい。こちらこそよろしくお願いしますよ」

 そう答えるも、なんだがむずがゆい気持ちになる鬼鮫であった。

 

 * * *

 

(全く……調子が狂いますね)

 コツコツと霧隠れ里の郊外を歩きながら、先ほど自分に向けられた二つ年下……らしい黒髪隻眼の青年の屈託の無い笑みを思い起しつつ、愚痴るように鬼鮫はそんな事を考える。

 干柿鬼鮫はつい半年前まで仲間殺しを専属任務とする忍びであった。

 人間離れした容貌に、霧の忍びでありながら霧の忍びを殺し続ける矛盾……鬼鮫は自分がイロモノである自覚があった。とてもではないが、好意を向けられる対象ではない。まして、相手が他里の忍びなら尚更だ。

「……」

 噂の隻眼の木遁使い……いや、うちはオビトの事は不快では無い。多分、好感を抱いてはいる。

 まあそれでも同盟の話が決裂して殺せと命令が下されたなら、殺す事に躊躇はないだろうが……それでも、人の心にスルリと入り込む……ああいう輩を人懐っこいというんだろうか、とそんな事を考えていた。

 ふとよく知ったチャクラが近づく。

「鬼鮫」

 そう己を呼ぶ声を前に、意識して口元を笑みらしき形に整えてゆっくりと鮫のような容貌の青年は振り返った。

「これはこれは……河豚鬼様」

 大柄でふくよかな体躯に、頭上で一部を纏めた長い髪。ギザギザの歯に丸い頬。思っていた通り、そこに立っていたのはつい先日まで鬼鮫の直属の上司であった男である。

 西瓜山河豚鬼(すいかざんふぐき)

 霧隠れの里が誇る忍刀七人衆の一人であり、生きた刀……大刀・鮫肌の現在の持ち主である。

「息災のようだな」

 ニヤリとあまりよくない種類の笑みを浮かべて河豚鬼が言う。

 それに努めて鬼鮫は感情を出さないようにしながら、「ええ、河豚鬼様もおかわりなく」と返した。

 河豚鬼はフンと鼻で笑うと、「あの小僧も相変わらずのようだな」と侮蔑に満ちた口調でごちた。

「……」

 鬼鮫は知っている、河豚鬼が言うあの小僧とは四代目水影を継いだ橘やぐらのことだ。このかつての直属の上司は、幼い子供のような姿をした三尾の人柱力にして現水影を蔑んでいるのだ。

 自分で支持した癖に、いざやぐらが水影になった途端これとは……と呆れる気持ちもあるが、それは鬼鮫が口を挟む問題ではないことだ。

 何故河豚鬼がやぐらを支持したのかといわれたら、話は今から五年ほど前の第二次忍界大戦へと巻き戻る。

 その日、河豚鬼は他の忍刀七人衆と共に木ノ葉隠れの中忍なりたてのガキ共を追い詰めていた。

 普通に考えたら負けない相手だった。

 霧隠れが誇る精鋭忍刀七人衆が全員揃っていて、相手はまだ10代前半のガキ共ばかりだ。どう考えても負けるはずの無い楽な仕事……の筈だった。その男が現れるまでは。

 けったいな男だった。

 全身緑タイツに首元にはスカーフを巻いていて、ヒゲも眉も主張が煩く、七三分けの濃い髪、濃い顔。よく似た顔と格好をした少年が「下忍の父さん」と呼んでいたので、いい年して中忍にすら上がれないなど、才能のなさを露呈している。そんな男が一人加わったところで死人が一人増えるだけだ。

 バカめ。

 そう驕った心がズタズタにされるのにそう時間はかからなかった。

 その男は自分の生命力全てをかけて、赤い蒸気を噴き上げながら、息子とその仲間を守る為に忍刀七人衆を相手に一人で立ち向かってきた。

 それはまるで悪夢のような記憶。

 忍刀七人衆に精鋭でないものはいない。

 なのに、あの男一人に全てが削られていく。まるで暴風。

 河豚鬼が持つ刀鮫肌はチャクラを吸収する性質がある。鮫肌があれば忍術など無意味に等しい。だが、その男が使っていたのはただの……体術であったのだ。忍術と見紛うほどに精錬され研ぎ澄まされた暴風の如き体術の嵐。なすすべも無くやられていく仲間達を前に河豚鬼は逃げた。情報を持ち帰るためだと言い訳して。

 木ノ葉隠れの下忍一人に忍刀七人衆は半壊した。そんな報告をする河豚鬼を前に、当時水影であった三代目は侮蔑の目を隠すことはなかった。

 それからは下に見る扱いだ。たかが下忍一人に負けた忍刀七人衆だと河豚鬼は影で指を刺され笑われて、誰にも期待されなくなった。任務もろくなものをまわされなくなった。

 酷い屈辱だった。

 三代目水影に従順に仕えているフリをしながら、虎視眈々といつか奴をその座から引きずり落としてやると誓った。だから半年前のクーデターの時に、やぐらに手を貸したのだ。

 自ら矢面に立たなかったのは保身を考えてのことだった。

 奴が失敗したら普通に切り捨てて、自分が手を貸した証拠は隠滅するつもりだった。

 まあ実際はクーデターは成功し、三代目水影は消え、そのクーデター首謀者であったやぐらがそのまま四代目水影の座についたわけであるが、ここまでこの件が上手くいったのは河豚鬼にしては意外でもあった。

 そのまま霧隠れは四代目水影政権時代へと突入した。

 河豚鬼も最初は嬉しかった。

 自分を下に見て碌な扱いをしなかった三代目水影への復讐心が満たされ、ザマァと昏い愉悦に浸り、勝利の美酒に酔った。だがそれも最初の1ヶ月ほどだ。

 次第に思うようになった、何故忍刀七人衆の一人である自分がこんな小僧に頭を下げねばならんのだ、と。

 大体自分が手を貸してやったというのに、何故幹部としての椅子すら用意しないのか。恩知らずにもほどがあるのではないか、たかが人柱力の小僧が。

 おまけに木ノ葉と同盟を組むとか世迷い言まで言い出すようになった、実に不快である。

 そんな時につい数週間前まで直属の部下であった鬼鮫が、木ノ葉隠れからの使者の案内人と世話役に任命されたと聞いて河豚鬼は思ったのだ。

 これは使える……と。

「木ノ葉隠れの使者殿の世話役はお前だそうだな、鬼鮫」

「ええ……」

 河豚鬼はニヤニヤと、見ているほうが不快になるような笑みを浮かべながらそんな言葉をかつての直属の部下へと放つ。それに鬼鮫は、感情を隠した笑みを口元に浮かべてそう言葉少なに肯定する。

「それはいい。せいぜい仲の良いフリをしておけよ。たっぷりと油断させるためにもな」

「……」

 自分の言いたい事は鬼鮫にはわかっているだろう。

 そう判断して手前勝手な満足を覚え去って行く忍刀七人衆の男は気付いていなかった。

 かつての直属の部下が己に向けている視線が、自分が四代目水影に向けているのと大差ない侮蔑に満ちた視線であったことに。

 道化の男は気付かなかった。

 

 続く

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