地の文とは言え、やっとカカシセンセの思考にツッコミを入れられたぞ!
原作のカカシ先生のオビトへの親友宣言は冷静に考えるとヤベーと思います。
はたけカカシ少年が感動に包まれてるその頃、一方でうちはオビト少年の内心には困惑が広がっていた。
……正直、状況が掴めない。
体中あちこち痛いし、喉はヒリヒリするし、唯一自由な左手も力が入らないし……自由とは言ってもなんか点滴の管に繋がれているし、いつもクールでスカしていた筈の年下の相棒がいつになく素直で、なんか泣いてるし。
オビトの最後の記憶は、岩に潰されそうになって「カカシの奴と折角仲良くなれたのになあ、リンには告白出来なかったなぁ、もっとみんなと一緒にいたかったなぁ」と思っていたところで途切れている。
その後、なんか夢を見ていた気がするが起きたら忘れた。まあ、夢なんてそんなものだ。
とりあえず消毒薬の匂いがするし、ここは木ノ葉病院の病室っぽいから、自分は一命を取り留めて病院に放り込まれたらしいことだけは理解した。
「げほ……」
カラカラに乾いた喉で無理矢理喋ったからだろう、思わず咳き込み、「わり……カカ、シ……み、ず」と呟くと、甲斐甲斐しくも銀髪のチームメイトは水差しの水をそっとオビトの口元に傾けて、飲ませてくれた。
「ん……く」
しかし、長いこと喉をつかっていなかったからだろう、少量の水を嚥下するだけで中々の一苦労だった。頬の筋肉も引きつるし、裂けた右下の唇もヒリヒリする。
「オビト、もっと水、いる?」
「いや、いい……ありがとな、カカシ、助かった、ぜ」
水分をとったことにより、先ほどよりマシになった……が、まだまだ掠れてゴワゴワした違和感だらけの声で、オビトはなんとか礼の言葉を返す。
改めて見てみると、こちらの方が倒れそうなくらいにカカシの顔色が悪い。シュンと眉毛も垂れており、随分と心労をかけたみたいだ。
それにオビトは『こいつも可愛いところあるじゃん』と考えた。
なにせ、オビトの主観ではカカシとはずっと水と油で反発し合っていたけど、お互いを認めて漸く仲良くなれた矢先に死に別れた……実際は死んでなかったけど、という認識なのだ。
カカシの奴はずっと気にくわなかったけど、それはいつも自分をバカにするからだし、リンがカカシのこと好きなのが悔しいからだし、ツンツンといつだって生意気で冷血で、口を開けば刺々しい口調で人の神経を逆なでしてくるし……でも本当は誰より凄い奴だと思っていたし、強くて頭も良くて格好いいと、こんな風になれたらと、憧れてもいた。
誰がなんといおうと、はたけカカシは立派な上忍だ。
仲良くなれるなら本当は仲良くなりたかったのだ、ずっと。
カカシは凄い奴だ。悔しいけど、リンを任せられる相手はカカシ以外にいない。
だから仲良くなれて、こんな風に心配もしてくれるのがくすぐったくて嬉しかった。
(……これからは、友達って呼んでもいいよな?)
そんな風に照れくさそうに考えるオビトは想像もしてなかった。
まさかカカシの中で自分が友を通り超して、オレの英雄、とまで神格化されているなんて。
知っていたらドン引きことしただろう。
カカシはオビトは凄い、仲間を見捨てようとした自分はクズ! オビトが自分を救ってくれた! オビトが目をくれた! オビトオビト! みたいな思考になっているが、オビトからしてみれば先に自分を命がけで庇って、左目を犠牲にしたのはカカシのほうである。
そしてカカシにこれまで劣等感を抱いていたオビトであるが、だからこそカカシとは対等でありたいと願っていた。
だからあの時、岩に押しつぶされてもう駄目だと思った際に、カカシに自分の左目を託したことについて後悔は全くない。隻眼になった事だって、先にカカシの左目を奪ったのは自分だからお互い様である。
オビトは足手纏いじゃない、カカシの対等な相棒になりたかった。
隣に立って、背中を預けて戦える、そんな関係になりたいとそう思っていた。
崇拝されるなんて誰も望んでいない。
だが実際に、既にカカシの中ではオビトは英雄(確定)である。オビトと仲が良かった時期なんて、彼が岩に潰される前の極短い時期しか存在しないのに、このままオビトの不在が続けば「オレの親友」にまで思い出は美化されていたかもしれないくらいの極太のフィルターを所持しているのだ、この男は。重い、重すぎる。
流石別世界ではうちは一族でもないのに写輪眼を使いこなしていただけのことはある重さだ。
だから、カカシの想いに気付いていないのは、オビトにとっても幸いと言えた。合掌。
「なぁ……カカシ、リン、と……先生、は?」
まだ潤っているとはいえない、ざらざらした声でそうオビトが尋ねるとカカシは「リンは今
終戦は見えてきたとはいえ、それはまだ水面下で話が進んでいるというだけで第二次忍界大戦は今だ終結していない。波風ミナトは英雄だ。黄色い閃光の異名をもつ彼はこの大戦で最も活躍した忍びであり、次期四代目火影の最有力候補となっている。そしてそんな戦力を遊ばせておけるほど、この里に余裕はない。
オビトの帰還が知らされたのは今から六日前。
それから一日の休養を挟んだあと、リンは戦場後方へ医療忍者として臨時で派遣され、カカシは里近郊の雑用のような任務を日々割り当てられた。
カカシも上忍に昇進したにもかかわらず、遠方に向かうような任務を割り当てられなかったのは、オビトが帰ってきたからこその配慮でもあったのだろう。守られているのだ、おそらくは子供として。
それが三代目の配慮なのか、自分たちの上忍師によるものなのかはカカシにもわからなかったが。
そんな風に感慨に浸るカカシの前で、黒髪の少年は首を傾げる。
それに、そういえばオビトは起きたばかりで何も知らないんだったと思い出し、カカシは告げた。
「神無毘境破壊任務から、もう十一日経ってる。安心してよ、任務は成功だ、オレもリンも無事、敵の増援は先生が倒してくれた」
暗に無事じゃないのはオマエだけ、と告げるが、気付いた様子もなくオビトは「……そっか」と心底安堵したようにほっと息をついた。
その直後、複数の足音が聞こえ、ガラリと扉を開けると共に明朗な女性の声が響いた。
「なんだ、死にかけていたわりに随分と元気そうじゃないか」
ベットから碌に身動きの出来ないまま、写輪眼状態の赤い右目で視線だけ扉の方に目をやれば、金髪茶目の美女と、そしてその後方にオビトがこの世で一番大好きな少女の姿を認め、オビトの目がぱぁぁと輝く。
「リン……!」
真ん中分けで肩口で揃えた茶色い髪、両頬についた紫のペイント、やや釣り目気味なのにきつい印象を抱かせない大きな眼に丸い頬、少女らしさを感じる丸みを帯びた華奢な体躯。
オビトにとっては、そんな幼馴染みの少女こそが世界で一番輝いており、リンに比べればどんな美女も色あせてしまう。
故に、リンの姿を目にした途端、既に金髪茶目の美女のことは意識から飛んでしまった。
(今日もリンは可愛い、やべ……嬉しい、オレ、生きてて良かった……!)
「オビト、良かった」
(ほっとしたように、眦に涙を溜めているリンも世界一可愛い)
うちはオビト少年の脳内に花が吹き荒れていた。
忍びとして有り得ないレベルの感情駄々盛れっぷりである。それを見て、ため息をつく女が一人。そこで漸くオビトは再び見覚えのない若い女へと視線を向ける。
メリハリのある身体に尋常で無くでかいおっぱいが特徴的な、威圧感のある気の強そうな美女である。年齢は20歳前後くらいに見える。先ほど、カカシはリンが医者を呼びに行ったと言っていたから多分医者なのだろうが、そのわりに若くね? それとも助手? と色々考えるが、元々考え事は得意なほうではない。
なら尋ねてみるかと思うが、なんか威圧感があって怖いなという気持ちと、リンともっと話したいという願望から、黒髪の少年は幼馴染みの少女に質問をこっそりと飛ばす。
「なぁ、リン。このねえちゃん、だれ?」
オビトとしてはこっそり尋ねたつもりだったのだが、目の前で行われている会話である。
当然話題の当人にも聞こえているわけで、彼女は備え付けの椅子にどかっと豪快に座り込み、そして告げた。
「私は加藤綱手。この木ノ葉病院の院長であり、アンタの主治医であり、命の恩人さ。オマエが瀕死の状態で古い防空壕に倒れていたのを発見し、連れ帰ったのも私さ」
「……!」
そもそもオビトは目が覚めて間も無い。だから何故自分が助かったのかも知らなかったのだが、その端的な説明で漸く段々と事態を飲み込めてきた。
だからこそ碌に動けない身ながら、心からの感謝の意を込めて「ねえちゃん、が助けてくれたのか……ありがとう……」とそうお礼を言った。
「案外、素直じゃないか」
すると感心したように気の強そうな美女……綱手は言う。
「……は? ……たすけ、てくれた相手に、礼をいうの、なんて、当然だろ」
そう心底不思議そうに返すオビトの態度に、綱手は益々笑みを深める一方で、ハラハラとしている少女と、呆れたようにこめかみを押さえる銀髪の少年が一人。
リンは困ったように笑いながら、オビトの勘違いを正すように言った。
「オビト、オビトあのね、綱手様はあの初代様のお孫さんで、伝説の三忍の一人のあの綱手姫だよ?」
「……え!?」
それに吃驚して大きな声を出し、傷に響いてうめく。
伝説の三忍の名前も、初代火影千手柱間の孫である綱手姫の存在も、流石に落ちこぼれと言われていたオビトだって知っている。
確か医療忍術の第一人者で、蛞蝓姫という通称もある木ノ葉隠れが誇る偉人の一人だ。リンも憧れていると前に聞いたことがある。オビトがリンの話を忘れるわけがない。
だが彼女は確か自分たちの父母くらいの年齢なんじゃなかっただろうか?
もう一度まじまじと見てみる。
やっぱりどう見ても若い女にしか見えない。
「その……えっと、オレ……綱手様はオレの親くらいの年齢だって聞いてて、だから、その……」
だから同名の別人だと勘違いしてました、とはいえず、しどろもどろになる少年にサラリと綱手は言う。
「ああ、確かにお前の父は私と同期だったな」
「えっと……ごめん、なさい……すみません、でしたァ」
にやにやと笑いながら見てくる金髪美女の威圧に耐えられず、オビトは思わず謝った。
「いや、良い。かまわない。それより、本題に入ろうじゃ無いか、うちはオビト」
そこでスッと、カカシが挙手し「質問よろしいでしょうか、綱手様」といつも通りの態度で淡々と言った。
「なんだ、はたけカカシ上忍」
「その話は、オレ達も聞いて良いものなのでしょうか?」
当然と言えば当然の質問である。それに綱手は腕を組み、「オマエ達はうちはオビトとは同じ班の仲間だったな」と確認しそれからキッパリした声で告げた。
「二度も説明するのは面倒だ、良いここにいろ。その代わり口は挟むなよ」
そう前置きしてから、ガラリと雰囲気を変え、彼女は言った。
「うちはオビト、オマエのその体ではもう忍びとしてやっていくことはほぼ無理だろう。主治医として、忍びを引退することをオススメする」
「……!」
「なっ!?」
その言葉にぎょっと目を見開くが、目の前の女の顔は真剣で戯言を言っているようには見えない。
だからこそ、受け入れられないと、オビトは碌に開かない喉を無理矢理開いてでも、言葉を発する。
「……イヤイヤイヤ! やっとこの眼を手に入れたんだぞ……!? 今ならカカシとのコンビネーションもうまくいける自信があるし、これでもっと仲間を守れる筈なんだ……! なのに……」
「オマエの右腕と右足は壊死していた」
その言葉にはっとしてオビトは自身の右半身を見る。そこには包帯があるだけで、あるべき筈の腕も足もない。
「現実を見ろ。手と足だけじゃない、損傷しているのは内臓もだった。発見者が私だったからこそ死なないように処置が出来た、それだけだ。今のオマエは食事すら自力では出来まい。たとえ義手義足をつけて死ぬ気でリハビリを重ねたとしても、生身の手足とはいかん。まして内臓に疾患があるのなら尚更だ」
そして心からの憐憫を込めて、「悪い事は言わない。忍びを引退することだ。私は医師として、無駄に命を捨てるような行為を容認できない」そう告げた。
それらはたとえ命を拾い、目覚めたところでお前は忍びとしては死に体だという宣言だった。
うちはオビトの頑張りを誰よりも身近で見続けてきた少女は、きゅっと辛そうに眉根を寄せる。
カカシはこうなると思っていたという顔で視線を落とす。
そして宣言された当人であるオビトは……。
「イヤだ……!」
そうかぶりを降って主治医からの提案を否定した。
「オレは忍びを続ける……! 石にかじりついてでも、忍びに復帰する……!」
そう動かない筈の身体で上半身を薄ら浮かせて、睨むように宣言した。
「何故そこまでして忍びにこだわる?」
それにフムと頷いて、綱手は問う。
その質問にきっぱりと、オビトは答えた。
「オレはいずれ火影になる男だからだ……!!」
泣き虫忍者と言われてただけあり、別にオビトは元々強い男ではない。とろいし、臆病だし、逃げ癖がある。だがあの時、カカシが自分を庇って左目を失ったときに思ったのだ。
自分はいつも口先ばかりの落ちこぼれで、みんなに助けられてばっかりだったけれど、仲間を大切にしない奴はクズだと、その言葉だけは口先だけにしたくないと、仲間を守れる強い男になりたい……いや、なるんだと、そう思ったのだ。
その為なら、どんな辛いリハビリだって乗り越えてみせる。目の一つがなんだ、手の一つがなんだ、足が一つないくらいどうした。そんなことで幼い頃からの夢を、憧れを捨てる方がよっぽど有り得なかった。
そんな口より雄弁に語るオビトの瞳にふっと小さな笑みを口元にこぼして、蛞蝓姫と呼ばれる美女は「……似てるな」と呟いた。
「……え?」
「良い、分かった。引退する気がないというならその方向で診療を続けよう。それに……の目処がないわけじゃないしな」
「……?」
そんな言葉を告げて、綱手は椅子から腰を浮かせた。
「まあ、病み上がりにそれだけ啖呵を切る気力があるんだ、ご家族との面会許可は私の方から出しておこう。明日には申請が下りるはずだ」
だから今日はもうゆっくり休め、そう声をかけて木ノ葉医療界の英傑は退出していった。
所々不可解な宣言はあったが、ばあちゃんにまた会えるってことだろうか。
そういえば、ばあちゃんには心配かけたよな、やべ次会った時泣かれたらどうしよ参ったなあ等と暢気なことを考えながら眠ったオビトの疑問が解決したのは、この次の日のことである。
「お邪魔する」
前日と同じくカカシが見舞いにオビトの病室を訪ねたその同時刻、そんな低く落ち着いた声と共に見覚えのない白髪赤目の大男がやってきたのは。
「え? 誰?」
「……! 貴方様は、まさか」
がっしりした体躯に白い肌、三白眼に両頬と顎に走る赤い線に研究者然とした白衣を着た男を見て、カカシは男の名を呼んだ。
「千手、扉間様」
続く