隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
お待たせしました久し振りのヒロイン登場回です。
霧隠れとの同盟編はそろそろ折り返し時点になります。


40.出発

 

 

 

「お願いします、チョウザ先生! 未来の木ノ葉の為なんです……!!」

 オビトが水の国の大名と歓談している一方その頃、木ノ葉隠れの里にて彼の思い人にて元班員の少女のはらリンは、木ノ葉隠れの里内において古参でもあるとある名家の家に今日もまた足を運び、深く頭を下げていた。

 対面しているのはふくよかな丸い体躯に丸い顔、長い赤髪をしたリンもよく知るマイト・ガイ少年の担当上忍師でもある男……秋道チョウザ。

 奈良家、山中家と並び、猪鹿蝶の連携で知られる家の現当主である。

 何故リンがこうして暇を見つけては秋道家に通い、頭を下げているのか、元を正せば彼女が三年前にうちはオビトと交わした約束に端を発している。

 三年前、元担当上忍師にして現里長である波風ミナトとクシナの結婚記念のホームパーティーにて、リンはオビトが碌に食べものを食べることの出来ない体に変わっていた事をカカシに指摘され、初めて知った。

 オビトの体の三分の一は、初代火影であった千手柱間の細胞を利用して作られた疑似臓器や義肢に置き換わっており、右半身の大半が作りものなのであるが、何も知らないものが見ればそうは見えない。片目がないのは明らかであるが、それ以外は一見すると五体満足に見える。それもこれも柱間細胞産の義肢の優秀さ故だ。

 唯一木遁忍術を使えたとされる戦国最強を謳われた男、千手柱間。

 その細胞は持ち主が死して尚瑞々しく生きており、かつての柱間は印を結ぶことすらなく一瞬で肉体を再生させたという。オビトはその細胞との親和性が高いらしく、被験者としての契約を結んでいた。

 何も知らなかったリンはそのことを素直に喜んだ。

 何せ一時のオビトは半死半生で死んでないことが不思議なくらいの満身創痍だったのだ。片目片足片腕がないだけではなく、大事な臓器もいくつか潰れていたし、特に消化器官へのダメージは深刻なものがあった。

 なのに普通に歩いて動いて、任務にもついて、忍びとして再び火影を目指す道を歩めるようになったのだ。

 オビトの夢は火影だ。その夢を諦めずに済むなんて、昔から彼の夢を応援してきた一人の幼馴染みとして、友達として本当に嬉しかった。

 だけど……まあ、どんな話にも裏はあるものである。

 オビトは普通の人のように食事を楽しめる体ではなくなってしまっていた。それを、周囲に心配させたくないからと隠していた。

 命があるだけ有り難いと思え、と考える人もいるかもしれないけれど、それでも食は人間の三大欲求の一つである。人が人らしく生きるためには、それは無視していいものではないとリンは一人の医療忍者としてそう思うのだ。

 そうしてオビトの体質を知ってすぐ、オビトが受けた手術がどんなものだったのか、柱間細胞がどういう性質を持つものなのか調べて驚き、恐怖した。

 20年以上前に行われた柱間細胞への移植実験は失敗、参加者は全て死亡で終わっている。それも人が生きたまま樹に変わったり、血を吐いて死んだり、中には初代様の顔が体に浮いてきたものもいたという。

 生き残れば木遁と莫大なチャクラを得る可能性が高いとは言え、柱間細胞は驚異的な致死率を誇っている。人が生きたまま樹になるなどあまりにも異常だ。リンにはとてもじゃないが初代様の細胞は人間のそれとは思えなかった。

 あまりの壮絶な結果に柱間細胞の移植実験は当然中止され、柱間細胞は代換臓器や義肢として医療方面で使えないかと研究は振り出しに戻る。そうして命の危機や忍び生命が怪しいものなどを対象に、事前に接種しといた細胞との親和性を図りながら、適応する確率の高い者だけを選んで、柱間細胞研究責任者であった千手扉間が被験者契約を結ぶようになった。それがオビトが被験者となった経緯だ。

 リンは……その研究の一部、医療方面に限ってのみ、千手扉間の死後彼の研究を受け継ぐことになった。

 それはオビトが旅立つ前にリンが彼と約束をしていたから、でもある。

 次に帰ってきた時には、きっとオビトの味覚を取り戻すよ、とそう約束をした。

 その為に柱間細胞の研究をしていた。それを知っていた綱手様に言われたのだ。

『大叔父様の研究を、お前が引き継がないか』

 と。

 迷ったけれど、結局リンは肯いた。

 柱間細胞に関してはわからないことだらけだ。ハッキリ言って研究を引き継いだ三年前の時点のリンはあまり柱間細胞に良い印象を抱いていたわけではない。どちらかというと危険視していた。

 調査結果を信じるのなら、柱間細胞への適応率が高いとみられて移植手術を受けた者の中にだって、実際は術後に拒絶反応をおこして死亡したものだっていたのだ。それも半数以上が死んでいた。オビトが死ななかったのだって運が良かっただけとしか思えなかった。

 まして、木遁の才を開花させるほどに柱間細胞に適応したものなど、三桁近い被験者のうちオビトを含めたったの二人しかいないのである。

 だが、虎穴に入らずんば虎児を得ずともいう。

 個人で研究を進めるにも限界がある。しかし、正式に彼の研究を引き継ぐことが出来れば、もっと色々な情報を知ることが出来る。そうすればおそらくは柱間細胞の副作用で食の楽しみを奪われたオビトに、食の楽しみ(人間らしさ)を取り戻させるヒントが見つかるかも知れない。そうリンは考えた。

 そうして正式に研究を受け継ぎ、柱間細胞について深いところまで調べ知っていくうちにリンは気付いたのだ。

 何故、あれほど犠牲者を出したのに、それでも尚その細胞の持ち主の実弟だった扉間様が研究を続けていたのかを。

 柱間細胞は適合率は低いし、持ち主に変異を促す危険な細胞であることは確かだ。

 だが、その危険を理解していても尚、これは多くの人を救う可能性を秘めた細胞なのである。

 柱間細胞は自然エネルギーに近いもので出来ている。

 仮説ではあるがひょっとして、柱間細胞への適応率というのは潜在的な自然エネルギーへの親和性の高さを示すのでは無いかとリンは考えた。要は仙人になれる素質の高さだ。少しだけミナト先生に聞いたが、仙術とは身体エネルギーと精神エネルギー、そして自然エネルギーを均等に練って初めて行使出来る術なのだという。

 そしてその仙人になる修行で失敗したものは石に変わり死ぬのだという……何かに似ていないだろうか?

 リンはその話を聞いて、柱間細胞への拒絶反応を起こした人が樹に変わって死んだ、という話を思い出した。石か樹かという違いはあるが、もしこれが柱間細胞への拒絶反応の正体だとしたら……ミナト先生がオビトを自来也様に預けるという判断をしたことに、納得しかない。

 オビトの三人目の師となった男であり、ミナト先生の師でもあった男……自来也。彼の通称はガマ仙人と言い、仙術を行使出来る数少ない男の一人である。そしておそらくリンの仮説が正しいとするなら、彼ら仙人化を持つ忍びに次に近い位置にいるのは、体の三分の一が初代様の細胞に置き換わっているオビトなのである。

 オビトは今まで一度も柱間細胞を暴走させたことはないが、もし仙術修行をすることによって柱間細胞が暴走する確率を限りなく低くするとするなら……そこまで見越してオビトを自来也様に預けたとしたら、師の慧眼には恐れ入るものがある。

 柱間細胞は自然エネルギーにもっとも近い細胞であり、人よりも植物に近い性質を持っている。

 おそらく、オビトが柱間細胞の適応が進むと共に、食事を碌に食べれなくなった理由もそこにある。

 消化器官を柱間細胞で作られた疑似臓器で代換した結果、彼の栄養吸収へのプロテスは植物に近しいものになった。多分オビトは光合成に近しいもので栄養を常に得ているのだ。故に、食事という形で栄養をとると、過剰摂取状態になって体調を崩している。

 だったら、その飽和を緩和すればいいのではないかとリンは考えた。

 そこで目をつけたのが秋道一族である。彼らの使う秘術忍術は大量のエネルギーを使うらしく、普段から良く食べエネルギーを蓄えている彼らだが、本気で戦った後の彼らは別人のように痩せている。そこにリンは可能性を見た。

 過剰に溜めたエネルギーを別のものに変換する。その技術を取り込めば、今オビトに起きている事象を緩和することが出来るのではないか、とそう考えた。

 当然、他人の秘伝を聞くのは殺されても文句は言えないほどのマナー違反だ。わかっている。

 だが、リンには他の手など思い浮かばなかったのだ。

 だから、恥も外聞も無く、リンはあの日帰ってきたオビトに許可を取って以来、暇を作っては秋道家に通って頼み込んでいる。

 これはオビトの為ではあるが、オビトの為だけの問題ではないのだ。未来の木ノ葉の為でもあるのだ。

 リンは医療忍者だ。

 何故医療忍者になったのか、目指したのかと言われたら、多くの人を救いたいと思って志したからだ。

 ハッキリ言って柱間細胞そのままの利用では、危なすぎて医療研究するにしても論外だ。

 しかし、それが自然エネルギーに近しいものであるとわかった今別の見方をすることも出来る。

 ガマ仙人と呼ばれる自来也様のように、人でありながら仙人化の術を得た者というのは実際にいる。初代火影である柱間様もそうだったという。

 そんな風に仙人化と相性がいいものの培養細胞などをクッションとしておいたら? そしたら初代様の細胞を使った義肢技術で多くの者を……忍びの道を諦めるしかなかった人達を救うことが出来るのではないかと、そうリンは気付いてしまった。

 だから、これはオビトだけの為ではないのだ。

 この技術の研究が進んだときに救われるだろう、未来の多くの忍び達の為のものだ。

 体が助かればいいわけではない。心も、大事なのだ。人間だから。

 食は生きていく楽しみだ。それを奪われるなんてあってはならない。だから、可能性を模索する事を諦めてはいけない、それはリンが医療忍者だからだ。そんな使命感を胸にリンは頭を下げている。

「リンちゃん、立ちなさい」

 その言葉に顔をゆっくりと上げる。

 すると現秋道家の当主たるふくよかな男は困ったように笑いながら「君には負けたよ」と呟く。

「……! では」

「ああ、協力しよう。その代わり医療行為以外にこの知識を使わないと約束してくれ」

「勿論です……!」

 そういって、感極まったリンは目尻に涙を薄ら浮かべ、ぐいと拭き取る。幼馴染みの泣き虫が少し移ってしまったのかもしれない。

(待っててね、オビト)

 漸く許可を取り付けた。でもここが終わりじゃない。寧ろ、医療忍者としてのリンの出発(スタート)はここからだ。

(私が必ず、アナタの味覚を取り戻すよ)

 そうしてきっと顔を上げる。そこには強い意志を秘めた凛とした一人の女が立っていた。

 

 * * *

 

「今日はそこもとにはほんに世話になった。感謝する」

 水の国の大名たる青年は朗らかな笑みを浮かべながら、同年代らしきオレンジ仮面の青年に手をすっと差し出す。それに応え、手袋越しに大名の手を握りながら、大道芸人のトビと名乗った男が軽やかな声で言う。

「いえいえ、ボクはなんにもしてませんよー。もし、本当にお祭りをするんなら、楽しみにしてますね-」

 そんな言葉を後頭部をかきながら、おどけて高めの掠れた声で言う男に、じっくりと彼の奇っ怪な姿を眺めながら大名は思う。

(ほんに不思議な男の子(おのこ)だ)

 若くして大名となった彼は先代大名の第一子として生まれた。

 元々の性格はやや病弱で気弱。雪のように白い肌で冬が来れば毎年のように寝込む彼を前に、跡継ぎとして相応しくないのではないかと嘲笑してくるものも多かった。

 彼は父にも母にも抱かれたことはない。

 それは上流階級としては別段珍しいことではない。高貴な身分に生まれた子供を世話するのは使用人や乳母の役目であるからだ。

 陰気な国だった。

 水の国が擁する忍び里といえば霧隠れであるが、彼が物心ついた時には既に里と国の関係は上手くいっているとは言えず、たまに会う父も霧隠れなど信用出来たものではないと何度も呟いていた。父は霧隠れに怯えていたようにも見える。

 まあ、でも忍び里と上手くいっていないことを除いてもこの水の国の大名家は元から問題だらけだ。

 親類同士の骨肉の争いで兄弟は全てライバルで、忍びを雇っての暗殺すら横行している。酷いものだ。

 ただでさえ雪深く寒い国であるというのに、一致団結どころか小さなパイの分け合いで上は争いばかりで、民草も哀れだと思った。

 何も希望が見えない、そんな国で、第二次忍界大戦のうねりとその影響も容赦なく水の国と民にのしかかる。増税に苦しむ声に、餓えと、子捨て。人攫いと忍び崩れのマフィアが横行し、水影の血霧の噂も都に届く。そんな中で、次期大名と言われながら何も出来ない自分の無力に打ちひしがれてきた。

 やがて忍界大戦は終戦したが、それでもこの国は何も変わらない。

 この先も何も変わらないかと思われたその矢先に、霧隠れでクーデターが勃発し、先代水影は没し、四代目水影が立つ。それに伴い、巻き沿いになる形で霧隠れへの不信を隠さない父が失脚し、僅か十八で大名を受け継ぐことになった。

 ……おそらく、自分が大名に選ばれ父が失脚させられた理由は、そのほうがお飾りの大名として都合が良かったからなのだろうと、彼は察している。その事がわかる程度の頭は持ち合わせていた。

 しかし、たとえどんな理由であれ、今の大名は己だ。この水の国に住む全ての民を守ることが出来るのは己なのだ。たとえ名ばかりといえど、大名であるならば、何か出来ることがあるのではないかと思った。

 陰鬱で昏く閉ざされた水の国を、なんとか変えることが出来たら……そう願えども具体的にはどうすればいいのか彼には全くわからなかった。

 だから二週間後の火の国の大名との会談も酷く気が重かった。

 相手は父と同じくらいの年齢の大名だ。自分のような何もなせていない青二才ではない。

 火の国は五大国の中でもほぼ中心に存在しており、大国の中で尤も肥沃な大地を有している。

 それに三年に一度行われる武練祭の勇壮さ神楽の荘厳さは有名だ。子供の頃、その祭りについて知ったときに実際に見てみたいと憧れた事も思い出す。観光資源も豊富で暖かな国。羨ましいくらいだ。

 だから、そんな愚痴をもう会うこともないだろう大道芸人の青年に零したのだ。

 何か解決策を得られると思ってのことではない。というのに……。

『ないのなら作っちゃえばいいんじゃないですか? 祭り』

 そうなんでもないように言われて、目から鱗が落ちた想いだった。

 確かにそうだ。言われて初めて気付いたが確かにないのなら自分で作ればいいのだ。

『水の国には雪があるじゃないっすか。だから雪まつりとかどうっすか?』

 そんな発想もなかった。

 だって水の国において、雪なんてものは障害でしかない。それを見世物にしようなんて発想、自分ではとても出せなかった。雪で彫像を作り、提灯で灯し、屋台を出して、人を呼ぶ。

 確かにそれが叶えば、水の国の現状を打破出来る一手となる。そして自分にある大名という地位は手を伸ばせばそれを叶えることが夢では無い地位だ。

 答えのピースが嵌まった気分だ。やるべきことが前に開けた。だから心からの感謝を込めて、ありがとう、と謝意を示した。

 そうしてふっとその姿を眺めながら大名は言う。

「不思議だな。そのほうとはまた会えるような気がするのだ」

 だからまた会おう。そう告げて一瞬だけ軽い抱擁(ハグ)をした。流石に大名にそんなことをされるとは思っていなかったのだろう。仮面をしててもわかるくらいに吃驚して固まっている。

 大名にとってもハグなんて、この前弟にやって以来他人にやるのは初めてだ。

「ハハッ」

 離れていると体臭などほぼ感じなかったのだが、密着すると一瞬だけフワリと爽やかな森の木々のような香りが仄かに香った。それを春のような匂いだな、とそう思った。幸先が良い。

(もしかするとこの御仁は、森の精か何かが化けているのかもしれないな)

 なんてそんな幻想(ファンタジー)染みたことを冗談混じりに思う。

 そうして退出する仮面の男をにこやかに見送り、顔を引き締める。

(この国を変える)

 ……ここからが、自分の大名としての本当の出発(スタート)だ。

 

 * * *

 

 大道芸人トビとして大名に会った日から十日近い日々が過ぎた。

 その間オビトがどうしていたのかと言われたら相変わらずだ。

 部屋でカカシと軽い組み手をしたりアカデミー生の子供達の遊びに付き合ったり、雪だるまを作ったり雪合戦をしたり。時々水影と打ち合わせをするカカシの護衛として傍につくこともあった。

 あのアカデミー生の子供(ハク)とも随分と仲が良くなった。

 どうも霧隠れには火の国にあるような『真眼のイズナ』や『マダラとイズナ』みたいな類いの読み本はないらしく、流石に木ノ葉隠れの忍びであることを伏せている今そのままは使えないので、マダラとイズナの冒険の一部を名前を変えて簡単にオビトが人形劇という形で披露すると、それはもう大受けで大好評だった。

 今まではジジババとばかりいて、あまり子供と接することは多くなかったんだが、子供って可愛いもんだなーとオビトは思った。

 そうこうしているうちに師走が近づくことの11月29日。

「それじゃあ、出発しようか」

 幼い少年のような姿をした当代水影様のその言葉を皮切りに、オビトとカカシは霧隠れの四代目水影一行と共に湯の国に向かって出発した。

 朝から深々と雪が降りしきる日の事だった。

 

 続く

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