オビトファン登場回です(?)
彼らの元にその情報が入ったのは11月の半ばを過ぎた頃であった。
『火影様が霧隠れと同盟を組もうとしている』
その布石として十二月に火の国と水の国の大名が会談をしようとしているのだと、そう匿名でリークがあったのだ。誰が書いたものか未だに不明だが、十五年ほど前に主流だった暗号でそう記された紙片が集会所に紛れ込んでいた。
まさかと思い昔の伝手を使い情報の裏付けに回ると、大名回りの動きから水の国の大名と会談をすることは事実であると判明し、場は騒然とした。
「
四代目火影の波風ミナトはまだ二十代の若造である。当然耄碌するような歳ではない。それはわかっていてもこの集団で中心と呼ぶべき中年を過ぎた、左手の親指と人差し指のない古書店を営む男は苛立ちと共にそんな言葉を吐き出す。
「あの裏切りの霧隠れを信じるなんて、有り得ない話ですよ」
それに同意するように片耳の欠けた義足の狐目の男が肯く。
現火影と霧隠れの里についての不満を次々に仲間内でぶちまけている彼らは、先の戦争で霧隠れとの戦線で負傷し、後遺症が残ったことから現役を引退した元忍び達であった。
まあ、後遺症が残ったと言っても、忍びとして長く生きれば五体満足のままの人間のほうがレアなくらいなのだが……それでも彼らが引退を選んだのはもう若くなくて、現役時代のように動けないからという理由もある。現にこの集まりにいるメンバーは若くても三十代後半……中には孫のいるような年齢の者もおり、その平均年齢は四十代半ばほどであった。
第一次忍界大戦が始まったのは今から約二十年近く前のことだ。
当時十代から二十代であった彼らは当然忍びとしては全盛期であり、当たり前の事として第一次忍界大戦も第二次忍界大戦も当事者として参戦した。
忘れられるはずもない。
第一次忍界大戦をはじめたのが一体誰だったのかを。
そう……霧隠れと砂隠れの里だ。
この二つの里が岩隠れを
幸いにも、かの真眼のイズナ……二代目様により計略は見破られ事なきを得たが、そのニュースを聞いたときに胸に抱いた憤りは今も彼らの中では強く根付いている。
そして忌々しき水影と土影は木ノ葉が誇る歩く鬼神うちはマダラによって討ち取られ、その数ヶ月後に第一次忍界大戦は終結した。二代目風影はまんまと終戦まで逃げ果せたが……その時の胸のすくような思いも忘れたことはない。
だが、奴等が懲りることはなかった。
あろうことか、奴等はマダラ様が亡くなるなり、その半年後他の五大国とも手を結んで木ノ葉隠れの里と火の国に対して宣戦布告をしてきたのだ。
第一次忍界大戦で暴れたマダラ様をやり玉に、火の国は……木ノ葉隠れは危険だなどとほざいて。
……巫山戯た話だ、元々は土を巻き込んで風と水が始めたくせに。
第二次忍界大戦が始まった半年後、とある万年下忍と呼ばれた男の死闘により、霧隠れは木ノ葉隠れ相手の戦線から手を引き雲隠れへとターゲットを変えて大戦は泥沼へ突き進むが、そもそもその第二次忍界大戦がはじまってからの最初の半年で、霧隠れとやりあった末に負傷し引退した彼らにしてみれば知ったことではない。
砂隠れが三代目風影を失い、木ノ葉隠れの里に降る形で同盟を結んだことだって、あまりよくは思ってなかったのだ。ただ、当時の木ノ葉が置かれていた状況や国際情勢を鑑みれば、風相手に申し出を突っぱねてあれ以上ヤリ合うよりも、頭を垂れてきた相手を受け入れて、岩隠れや雲隠れにその分戦力を向けるべきであった、というその辺りの事情は理解出来る。
だから、どの口がほざいているとは思ったが、四面楚歌の大戦中であったこと、歴代最強と謳われた三代目風影が砂から消えた事を考慮して、気の食わないのは同じながらもなんとか砂との同盟のほうは飲み込むことが出来たのだ。
だが、水が……あの血霧の里が、木ノ葉相手に今更同盟を対等の立場で申し込んでくるなど、虫がいい話ではないか。図々しいにも程がある。
半年ほど前に政権は交代され、今はかの悪名高き三代目水影の治世でないと言うが、そんなもの知ったことではない。相手はあの裏切りの霧隠れなのだ。盟約を結んでいた相手を背後から騙し討ちにしたあの血霧の里だ。裏切りの霧隠れの名を知らぬ者はいない。奴等はどこまでいっても敵だ。
今は大戦中でもない。
四代目火影となった波風ミナトの時代になってから、かの若き俊英は上手く立ち回っているのか、九尾事件という大事件を間に挟みながらも、それでも他国につけ込まれる隙を生じさせることもなく、安定した治世を実現している。それを見て、安心して我らが四代目火影様に、と仲間内で集まり乾杯したのはつい先日のことだ。
それが霧隠れからの同盟の申し込みを受け入れようとするなど……火影様は頭が狂ったのではないか?
(そりゃ霧隠れからしたら、木ノ葉隠れと同盟を結ぶことはメリットが山ほどあるだろうよ……)
だが、それを木ノ葉が受け入れるメリットが一体どこにあるというのだ……?
ボランティアがしたいなら、勝手にすればいい。だが、里を巻き込むな。それは長のすべきことではない。
木ノ葉隠れの長には、火影には里人全てに対する責任がその双肩に掛かっているのだ。
(霧隠れなどの手を取るなど、利敵行為ではないか……!)
そう四代目火影波風ミナトへの不満も顕わに思っているリーダー格の男の前で、誰かが叫んだ。
「火影様をお諫めするのだ……!」
その言葉を皮切りにして、他の者達も口々に叫び出す。
「そうだ、トップが間違っているならそれを止めるのも我ら古参の仕事ではないか!」
「血霧に報いを!」
「会談などぶち壊してしまえ!」
口に出して叫ぶ内に段々と彼らの中に歪んだ正義感からきた熱気と仄暗い復讐心、集団心理からきた感情の共鳴が伝播していく。既に彼らは自分達がやろうとしていることが間違っているとは認識していない。
彼らにとって間違っているのは、霧隠れなどを信じてその手を取ろうとしている火影様と、火の国の大名様なのだ。
「大名様を保護し、水の国に報いを与えてやるのだ!!」
否、大名様は水の国に騙されているだけだ。
これは聖戦だ。
血霧などを信じる火影様の眼を覚まさせてやるのだ!
我らの命に替えて、霧隠れなど信用ならないと抗議し、大名様を確保する。そのためならこの命なくなることも惜しくはない。
会談がぶち壊されれば、霧との同盟の話も流れるはずだ。
どうせ六年前に失う筈の命だった。我らの命で里の未来が繋がるのなら本望だ。
そう、狂信者のように考える彼らは気付けなかった。
それが忍界の裏で千年以上も暗躍していた誰かの誘導の結果であり、本当の意味では自分たちの考えではなかったことに、彼らは気付かなかった。
―――斯くて、道化は踊る。
* * *
「……! 全員伏せろ!!」
眼帯をした三十代ほどの霧の忍び、青が叫ぶ。
それを聞いた瞬間、オビトは考えるよりも先に動いていた。
土埃が舞う中で、轟音を立てながら壁が破られる。最中、黒髪隻眼の青年は水の国の大名たる青年を腕に抱えて後方へと待避する。
今夜のオビトの仕事は大名の護衛だ。だから、それは守らなければと思っての行動で、とくに何かを考えてのことではなかった。
煙が掃け、ある程度視界が戻った中、見えたのは三十人ほどの木ノ葉の額宛をつけた中年の忍び達の姿だった。
見れば彼らは片腕がなかったり、片足が義足だったり、ザッと見える限り、なんらかの欠損を抱えている者ばかりだった。だがそれより、急に襲撃してきた相手が木ノ葉の額宛をつけていることにこそ、オビトは驚き唾を飲み込む。
驚いたのは、まさかの自里の忍びに堂々と襲撃されたミナトも同じようで、一瞬だけ弟子同様驚いたように目を見開くが、流石は先の大戦での英雄というべきか、すぐに毅然とした声で切り替え「総員、賊の殲滅若しくは捕縛! 大名様をお守りせよ!!」と本人も即座に三人を無効化した。
「無粋な客には退場していただきますわ……!」
ミナトの声と同時に、彼の近くにいた茶髪青目の美女は口からマグマのようなものを……おそらく彼女の持つ血継限界なのだろう、を駆使して即座に二人の襲撃者を溶かしてのけた。口元に包帯をした少年……再不斬もまた音も立てずに忍び寄り即座に三人を始末する。
ここまで奴等が現れてから僅か二秒。
オビトもまた、水の国の大名を胸の中に抱えたまま即座に印を組み、チャクラ吸収の性質を持つ木龍の術を発動し、男達の半数以上を一気に拘束した。
チラリと横目で見れば、火の国の大名様は四代目護衛小隊の三人が円陣を組む形で守っているし、カカシもまた雷遁で複数人を無効化して手際よく縛り上げており、鬼鮫や他の霧隠れの忍びも残りをさほど手間をかけることもなく始末している。
この襲撃が始まってからまだ一分も経っていないというのに、犯人達への無効化若しくは殲滅は既にほぼ終わっていると言えた。
「ん……さて、なんでこんなことをしでかしたのか聞かせてもらえるかな?」
口元は笑っているのに、目は笑っていない。
見ている方がゾッとするような冷ややかな眼差しで、四代目火影波風ミナトは襲撃犯の中心人物だったろう左手の親指と人差し指の欠けた男に問う。師のその疑問はオビトにしてみても同じだ。
たとえこの自分の木龍に掴まっている男が手練れだったとしても、親指と人差し指がないのでは印が組めない……忍術は使えないのだろう。そもそもここには四代目火影に四代目水影、その護衛小隊と里でも抜きん出た才覚の持ち主達が揃っている。それをいくら有象無象を揃えたところで、勝てる相手ではないことくらいわかりきっていることではないか。
自殺願望があるとしか思えない。
火影の顔に泥を塗るだけなのに、何を考えてこんなことをしでかしたのか、オビトには全くわからなかった。
「君たちは確か、先の戦争の後、後遺症があるからと引退手続きをした人達だよね。その額宛をして、この場に現れたその意味がわからないとは言わせないよ」
口調は穏やかなのにゾッとするほど冷え冷えとした声に鋭い眼光の波風ミナトは、美人が怒ると怖いという諺を思わせるほどに、見た目は眉目も整った優男だからこその恐ろしさがあった。
だが、問われた男は金髪碧眼の四代目火影のことなど眼中にないと言うかのように、ただただオビトをひたと見つめている。まるで信じられないモノを見た、と言わんばかりに。
(……?)
オビトにはわからない。
多分、この男とは別に知り合いではない筈だ。後ろのほうに捕まえた奴の中にはオビトの知った顔もいるが、里中のジジババとは仲が良くても、これくらいの中年のオジサンくらいの年齢の相手とは逆に相性が悪いのか、そこまで親しくしている相手は多くはない。
だからこの男ともとくに関わりはなかった筈だ。
「何故……」
喉を震わせながら左の親指と人差し指のない男が言う。
「何故……アナタがこんなところにいるのです、隻眼の木遁使い様……!」
「……は?」
一体何を言い出すのか、意味が分からなくてオビトはポカンとした。
オビトの認識の通り、実のところ男とオビトに関係性はほぼない。
ないのだが……男にとっては隻眼の木遁使いというのは、特別な存在だった。
男達は先の戦争で霧隠れとの負傷で後遺症が残り、忍びを引退した者達の集まりだった。それもあり、他国……特に霧隠れの忍びに対する嫌悪感には相当なものがある。
だからこそ、初代火影千手柱間の親友にして、憎き霧隠れの二代目水影を単身討ち取ったうちはマダラは彼らにとっては英雄だった。
そして忘れもしない三年前の九尾事件。
初代様しか発現することがなかったと言われる木遁を駆使して、九尾から逃げ遅れた老人や女子供を救出し続けた少年がいた。
先述した通り、彼ら霧との戦線で負傷し退団した者の中には孫がいるような年齢のものもいるし、彼らは全員体のどこかに不自由を抱えている。その為、今回集まった総勢三十名の同胞のうち、三分の一が三年前の九尾事件の際にオビトの木遁分身に救われた身の上だった。
そうして誕生した木ノ葉の英雄……隻眼の木遁使いの正体について、当然リーダー格の男は、誰なのか仲間に問うた。
仲間は答えた。
うちはオビトだと。
いつも年寄りを手助けしてくれる、優しい子なんだ、と。ワシらも何度も助けられたよ、と。
そうしてリーダー格の男は、うちはオビトについて調べ、驚いた。
なんとオビトはかの歩く鬼神うちはマダラの曾孫であったのだ。
それを男は運命だと思った。
初代様と同じ木遁を操り、二代目様と同じ
男は隻眼の木遁使いの
だが、それを表明する機会はなかった。何故なら、隻眼の木遁使いは、他国にその名を知られるなり狙われないようにと四代目火影波風ミナトの配慮で里外に出されていたからだ。
そして今目の前にその隻眼の木遁使いがいる……敵として。
「この男は!」
そう言いながらリーダー格の男はミナトを睨んだ。
「火影を継いだ身でありながら、血霧などと手を結ぼうとしているのですよ!! 最初の大戦で引き金を引いたのが誰かも忘れて……! そんなもの、利敵行為ではないか……!!」
その男の言い分を聞いても尚、ミナトの表情は微塵も揺らがなかった。
……そういう反発を抱く者が出ることなど、想定内の事だったからだ。
「目を覚まされよ、裏切りの霧隠れと木ノ葉の同盟など有り得はしない!!」
「……言いたい事はそれで全部かい?」
オビトは木龍を通して男からチャクラを抜き続けている。
男は今酷いチャクラ枯渇で目眩や脱力感に苛まされている筈なのだ。なのに、そんなことないかのように男は「斯くなる上は……」そういって気力を振り絞り、拘束された腕を無理に動かしてバンドから大量の起爆札を取り出した。
「!!」
「我らの命でもってお諫め申し上げる……!!」
男の選んだ手段は自爆によって周辺毎自分を吹き飛ばすことであった。
だが、男が目的を達することはない。
何故なら、ここには忍界最速の男が……木ノ葉の黄色い閃光波風ミナトがいるからだ。
男が自爆を選んだと同時にミナトはマーキングのついた手裏剣を、宿が襲撃を受けた際に空いた穴から空へと放ち、そこに男の体に巻き付いた木龍ごと飛んで、即座に自分だけ元の位置に戻った。
飛雷神の術は自分のつけたマーキングを目印に時空間を飛び回る時空間忍術である。
そしてここには、ミナトの施したマーキングクナイを持つ者が複数いる。戻るのは簡単なことだ。
そうして結局の所、男は何も成せぬままに空中で爆発し、後には何も残らなかった。
そんな男の末路にミナトの心に複雑な思いがよぎる。
霧隠れとの同盟など信用出来たものではない。頭がおかしいのではないか。裏切り者め。そう考えるものがいることは既に想定済みだったし、彼らは霧隠れとの戦線で負傷し引退した元忍び達の集まりだった。霧隠れとの同盟に難色を示すのは、致し方ないものがある。
しかし、それをテロという手段で訴えることを選んだ時点で、火影として排除対象となった。
同じ里の仲間として、その長として自分の未熟が嫌になる。
だが、ここには霧隠れの忍びや四代目水影もいる。弱みを見せるべきではない。
だからこそ、敢えてなんでもないような顔や態度口調をとって、ミナトは自分の護衛小隊に厳重に守られている火の国の大名へと問いかける。
「大名様、ご無事ですか」
「うむ」
そう抑揚に肯く大名様は、これだけの事があったにも相変わらず、相変わらずの眠そうな目でいつもと変わらぬ態度であった。なんとも大物である。
ガタン。
「水影様、何故止めるのですか!?」
「青、落ち着け」
その声にミナトは背後を振り向く。見れば、右目に眼帯をした霧の忍び……青というらしい、が、武器を振り上げた状態で背後から四代目水影に止められ、千鳥を右手に纏ったカカシとにらみ合っていた。背後には水の国の大名を腕に抱えたオビトがおり、オビトを攻撃しようとした青とカカシが一触即発となったところを、水影が止めに入ったようであった。
「この男は、あの者に名指しされていた! コイツもあいつらの仲間だろう!!」
情報を漏洩していたのはこの男だ、と青は叫んだ。
続く
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