今回の話にはオリジナル術が出てきますのでご了承下さい。
会談が行われた日から年が明け、約一ヶ月と数日が過ぎた一月の雪が良く降る日……この日水の国の都は緊張と硝煙の匂いに包まれていた。
あちこちで、轟音が鳴り響き、一般人は衛兵と一部の忍びの誘導の元、広場や大きな建物に集められ、民衆が不安になる中で捕物がはじまる。
捕物の対象となったのは、水の国に長く網を張っていた忍び崩れ達を雇っていたマフィア達。
彼らは前々から旅人などをターゲットに多くの人間を人身売買にかけるために攫い、売り払い、時にはそれの邪魔になるものを犯し、殺してきた。
それでも今まで国が動かなかったのは、奴等から美味い汁を啜っている者も多かったからだ。彼らの商品に世話になっている貴族や商人など珍しくも無い。
逮捕に踏み切るには悪事の証拠が碌に無かったのもあるが、殲滅するにも手間がかかるのと、この手の輩はいたちごっこ……たとえ排除した所で別の組織が生えてくるのが目に見えていたのもあった。
だが、奴等の悪事の証拠を得た大名は排除することを決断した。
弟を商品にされかけたからだ。
それに奴等は自国の民も食い物としていた。
若く潔癖で理想に燃えている大名にとって、到底それは許せるものではなかった。
『忍び崩れがマフィアについたは元はそちたちの失態であろう。その失態を挽回する機会とせよ』
そう題目をつけて、水の国の大名のご下命の元、忍び達と衛兵が共に動いたのだ。
マフィア達からしてみればたまったものではない。寝耳に水にもほどがある。
その襲撃で混乱がある中、目敏いものは都の下水道から脱出を目論見、走った。
ゼエゼエと粗い息がドブ臭い地下空間に響く。
アジトを脱出した際に平構成員を足きりに派手に陽動させて、脱出口は塞ぎここまできたが、しかし敵に正規の忍びがいるのであれば気休めにもならないだろう。それでも男達に止まるという選択肢はない。
生きてさえいれば再起は出来る。
(なんとしても逃げ延びてやるっ)
そう舌なめずりするように眼光鋭いマフィアのボスは闇を睨み付ける。
「兄貴ィもう駄目です!!」
それに、この下水道について尤も詳しいというだけで、他の平構成員達のように捨て駒にされず連れてこられた小男が悲鳴のような怯えた声を上げる。
「バカ野郎、泣き言言ってんじゃねェ! そんな暇があれば走れ走れ!!」
それにちょび髭にトサカを生やしたような髪型の男が小男の背をバシンと叩く。
「生きてさえいりゃなんとかなるんだよ! もうすぐ出口だろうが!!」
それに顔に古傷のある熊のような大男も怒りを滲ませながら怨嗟の声を上げる。
「オレ等から散々甘い汁を吸ってきた貴族共が舐め腐りやがって……ここから出たらツケ払わせてやるわァ!!」
「あー……悪ィがそりゃ無理ってもんだ」
そこに、知らないハスキーでやや低めの若い男のやや落ち着いた声が混ざり、男達は警戒心にバッと眼光鋭く前を睨め付けながら各々武器に手を伸ばす。
「……誰だ!?」
そこにいたのは下水道の広場をギリギリにその巨体で塞いで通せんぼしている、赤紫色の体色をした巨大蝦蟇に、腕を組んでその蝦蟇に背中を預ける形で立っている一人の忍びの姿があった。
知らない青年だった。
左顔の半分は幅広に取った額宛の布を眼帯のようにして覆っており、右の顔面は渦のような皺のような傷が無数に走っている。ツンツンとした毛質の髪は短く立っており、前開きの黒いコート、鮮やかな橙色を差し色に入れた紺色のマフラーの下から、深緑の忍びベストが僅かに覗く。
渦のような皺のような傷跡のせいでわかりにくいが……おそらくまだ20歳にもなっていないだろう。黒い革手袋をした若そうな男だ。
そしてその額に書かれている木の葉マークの額宛は、その男が霧隠れではなく、木ノ葉隠れの里に所属している忍びであることを示していた。
「なんで木ノ葉の忍びがここに!?」
「木ノ葉と手を組むって噂は本当だったのか……!?」
それに一部の男達がざわめき、下っ端として使っている忍び崩れ達を基準に、普段から忍びという存在を馬鹿にしていた男達が「はっ、いくら忍びとはいえ、ガキじゃねェか、たった一人でオレ達の前に立つとは舐めてくれやがって」「フクロにして全身バラして商品にしてやるよ!」などと好戦的にナイフを構える。
それを前に、黒髪隻眼の青年……うちはオビトは、スッとその黒い右目を写輪眼の赤に変えながら、「ジロー」と相棒の愛称を呼び、当初の予定通りに印を組んだ。
「うちは……」
「蝦蟇……」
「「幻術二重奏……!!」」
男の赤い目が輝き、ゲコゲコと蛙の鳴き声が何重にも重なって響く。
そう認識した時にはもう、男達は終わっていた。
深い幻術に捕らわれ、全ての男達がパタリと一斉に倒れる。
「フン、呆気ないのう」
「ま! オレとジローのコンビネーションにかかればこんなもんだろ……!」
そういって、暴れたり無さそうな相棒の背中を苦笑しながらオビトはポンポンと撫でる。
――――……うちは蝦蟇幻術二重奏。
それはオビトが妙木山でガマ次郎三郎と試行錯誤しながら作り上げた、視覚と聴覚両方に訴え掛ける、ガマ次郎三郎とのコンボ幻術である。
思いついた切っ掛けになったのは、師匠である自来也が唯一使える口寄せを用いた幻術である魔幻・蝦蟇臨唱の術を知って、である。
自来也は覚えている技が多彩であり、高度な時空間忍術や封印術も使いこなせる一方で幻術の扱いはからっきしであるらしい。
そのため幻術は教えることなど出来ないぞ、と前置きした上でそういう幻術があるということだけ、ふわっと教えられたのだ。実際にその術を見たり受けたことはないのだが……それは夫婦蝦蟇二匹の合唱によって嵌める強力な音幻術なのだという。オビトがガマ次郎三郎と知り合ったのはその術を知った数日後のことである。
妙木山で隠れて仙人蝦蟇見習いとして修練を積んでいたガマ次郎三郎は、どうにも自分の殻から抜け出せず伸び悩んでいた。これでいいのかと悩みながら音幻術の修練としてこっそりと唄っていたのだ。まだ若い蝦蟇だから、人前で努力するのが恥ずかしいと隠れてコソコソとやっていた。見栄っ張りで隠れた努力家。そういう所が少しオビトに似ていた。
そんなガマ次郎三郎の唄を偶然聞いて、うっかりドジって足を滑らせ落ちたところを彼に助けられたオビトは言ったのだ。
『なぁ、すげえなお前。オレと一緒に新しい術作らないか』
と。
そうしてああでもないこうでもないと、一人と一匹で二ヶ月ほど試行錯誤して生まれたのが、うちは蝦蟇幻術二重奏である。
師が口寄せによって使う唯一の幻術……魔幻・蝦蟇臨唱の術というのは二体の蝦蟇の合唱によって嵌める強力な幻術であるという。そして音というのは……震動であり、そして震動は水や鉄の方が空気よりも遠く広く伝わり、共鳴し、反響する。その性質に目をつけて、水鏡で音を反響させ、一匹で輪唱に近いものを生み出すことを思いついたのだ。
本来うちは一族は火遁に長ける一族と言われているし、実際にオビト自身初めて覚えた性質変化の術は火遁であった。しかし、後天的に得たものとはいえ、オビトは土と水に正体不明の何かが加わって発動すると言われている木遁使いでもあるのだ。つまりは、火遁ほどでなくとも、オビトは水遁や土遁もそれなりに使える。
そして音を反射させるために作った水鏡であったが、これには副次的な効果もあった。
オビトはその視界を合わせるだけで相手を幻術に誘う写輪眼の持ち主である。それを水鏡の反射とガマ次郎三郎の音幻術で惑わせることによって、視線が合ってることにすら気付かせずに複数の人間を写輪眼の幻術に同時に嵌めることが可能となった。
つまり、うちは蝦蟇幻術二重奏とは何か。水鏡の反射を利用し、ガマ次郎三郎の音幻術を増幅、オビトの写輪眼も併用することにより聴覚と視覚両方で絡め取り、複数の対象を一挙に幻術世界に落とすという、そういう術なのである。
聴覚と視覚両方に気を配らねばならないという時点で、中々に強力な術になったとオビトは自負している。
聴覚に気を取られれば視覚で、視覚に気を取られれば聴覚で幻術世界に誘われるのだ。
これから逃れるのは容易ではない。
ただ……欠点がないわけではない。
この術の使用中はガマ次郎三郎は唄うことに集中するため、他の行動が難しくなり、動けない彼を守る必要性がある事。音の反響を利用して惑わせる関係で、あまり広い空間で使うのには向いてないことなどがあげられるが、まあオビトにとってはそう大した問題でも無い。
というのも、オビトは数少ない時空間忍術の使い手だからである。
この術に向いているのは今回のような地下下水道など、ある程度密閉された空間である。
なら、そういう自分に有利な場所に
(ジローの背中はオレが守る)
だから問題ないと、オビトは思っている。
そんなことを考えながら男達を拘束していく黒髪隻眼の青年の元によく知った気配とチャクラが近づく。
「オビト、終わった?」
「オウ」
案の定、現れたのは唯一露出している墨色の右目を眠そうにしている銀髪の少年だった。人間としてのオビトの相棒であるはたけカカシだ。
「見事なものですねェ……」
そう、呆れたようにも感心したようにも聞こえる声で続いたのは、霧隠れに所属する自分たちにつけられた世話役の青年……干柿鬼鮫だ。その口調にはありありと、殺した方が早いでしょうに、という響きが伴っている。実に物騒である。
「駄目だ。出来るだけ生きたまま捕縛して裏関係をとりたいって大名様も希望してるんだろ」
「それこそ数人生かしとけば事足りる話だと思うんですけどねェ……」
物好きだと言わんばかりの口調ではあるが、テキパキと男達の捕縛をなんだかんだ手伝ってくれるあたり、やはり鬼鮫は良い奴である……とオビトは思っている。
「外も終わったのか?」
「終わったよ、ここが最後」
「流石」
ヒュウと口笛を吹きながらオビトはそんな軽口を叩く。
そして今回の捕物に至ったあの会談の日から今までの一ヶ月をオビトは回想する。
* * *
一ヶ月前にあたる昨年の十二月。
火の国と水の国の大名達による会談は
実際は襲撃を受けたため、無事ではない。だが、あくまでそういうことになり、二人の親子ほど年の離れた大名がにこやかに握手している写真と共に、そう新聞で各国に発表された。
襲撃してきた木ノ葉の元忍び達は、あくまでもただの賊として扱われることとなった。
それは仕方ない事だとオビトも思っている。
何故なら彼らは抜け忍だからだ。元忍びで引退しているとはいえ、忍者登録番号を持つ男達が里に許可も取らず勝手に里を抜け出し、大名二人に影二人が伴う宿に襲撃した罪は重い。死して尚その罪は償いきれるものではない。そのことは彼ら自身も理解している筈だ。
どちらにせよ、抜け忍になった時点で彼らの安寧の未来はなかった。
そして忍びの死体は全てが機密情報でもある。
襲撃してきた三十名、その殆どが死んだがその死体をそのまま置いておくことは出来ない。当然家族の元に返すなど論外だ。奴等は罪人であるとして家族に通達し、咎を負わせないだけ、慈悲であったといえる。
きっと彼らの家族は自分の父、あるいは祖父、兄や弟が消えた理由をこの先も知ることはないだろう。
そして……彼らの遺体は、この世から残さず消滅させる。それが決定だった。
この世には穢土転生の術というものがあるらしい。
かつてオビトの亡き師千手扉間がこの世に生みだした、生贄を媒体に使者の魂を現世に呼び戻すそういう術だ。既に禁術に指定されている為、オビトもそう詳しくは知らないのだが……この術には蘇らせたい死者の遺伝情報もいるらしい。それに万が一利用されない為にも、徹底的に消滅させる必要があるのだと四代目火影波風ミナトはオビトに囁いた。
だから、オビトが焼いた。
木遁で薪を組み、うちはの誇りとされる火遁で……かつて知っていた顔を、里でそれなりに親しくしていた相手もそうでない相手も平等に公平に、燃やし尽くした。その灰も風にさらされこの世から消えるまで。
そんなオビトを見て、師でもあり里長でもある男……ミナトは言った。
「怖いかい?」
「……先生」
辛いか、とは尋ねなかった。霧隠れや水影の眼もある。
自分よりも背の高くなった弟子の頭を軽くポンポンと叩きながら、ミナトは真剣な青い瞳で、オビトが生みだした炎を見ながら告げる。
「よく覚えておくんだよオビト……これが君の目指しているものだ」
彼らの責任も命も背負う、それが火影なのだとそう師は言う。
「重いですね……」
「そうだね、重いよ」
「……でも、オレの気持ちは変わりません」
火影になる、その夢を諦める気はないと、そう言外に告げる弟子を前に金髪碧眼の四代目火影は慈愛に満ちた眼で微笑んだ。
そうして事件は幕を閉じた。
そのあと、正式に霧隠れと木ノ葉隠れの里が同盟を結ぶことが両国に発表されたのがこの一週間後のこと。
調印式は翌年二月七日に結ばれることが決まった。
何故その日になったのかと言われたら、吉兆を占った結果、この日が尤も縁起が良いとそう結果が出たからだ。
それに、各国の大使などを招待したり、スケジュールを調整するのにも時間がかかる。まあ、ようは色んな要素が絡んだ結果この日取りになったといえる。
そしてオビトとカカシは今だ霧隠れに身を寄せている。
正式な調印式の日まで、二人は霧隠れに、霧隠れから木ノ葉隠れの使者となった照美メイと桃地再不斬はそのまま木ノ葉隠れに身を置くこと、これは当初からの予定の通りである。
ただ、名称は変わった。
これまでは木ノ葉隠れの使者殿と呼ばれていたが、正式に同盟を結ぶことが決まった今、カカシとオビトの両名は木ノ葉隠れの里からきた親善大使殿に呼び名が変わり、顔や所属を隠す必要もなくなった。
その際、アカデミーの子供達に正体を明かした日は、一部の子を除き大層驚かせることに成功したのだが……なんだかんだ子供の順応性は高いらしく、次の日にはオビトやカカシが顔出ししていることも木ノ葉の額宛をつけていることにも慣れていた。
……慣れないのは大人達のほうである。
直接文句を言ったり石を投げてくるものこそいないものの、嫌悪、猜疑、苛立ち、不安、色んな感情が道すがら伝わってくる。
それに、オビトは出来るだけ朗らかに対処するようにはしているが、そもそもこれまでの霧隠れと木ノ葉隠れの関係を思えばそれも仕方ない事だ。ちょっとずつ、時間をかけてわかり合っていくしかない。
そんな風に過ごしているある日、四代目水影やぐらに呼び出され、言われたのだ。
「捕物がある、手伝え」
と。
木ノ葉と霧隠れの共同戦線をこなすことによって、なんでも両里の同盟は盤石だと他国や他里にアピールするのが狙いだそうだ。だから派手に動いていい。否、出来るだけ派手に動け、と子供のような姿をした四代目水影である男は言う。
それに、二週間後に水の都ではじまる本命の捕物の対象であるマフィアの詳細は、元々はカカシとオビトが調べてこちらに寄越したものだ。お前達が言い出しっぺのようなものなのだから、自分達で尻を拭けと少年のような見た目の成年の男が言う。
「それに木ノ葉は
そう楽しそうにやぐらは笑った。
そうして年明け早々に都での大規模な捕物が始まった。
カカシは忍犬を使えるということで、複数の忍犬を使っての地上での追い込みに、オビトはこうして地下下水道の出口付近でカカシがここだろう、と張った場所で相棒のガマ次郎三郎と共に張っていたというわけだ。
ガマ次郎三郎とのコンボ幻術である、うちは蝦蟇幻術二重奏については既に以前カカシに報告済みである。
だからこそ、オビトを活かすならここだとカカシが判断して待ち伏せさせた。おそらく、下水道を通ってマフィアのドン達はここから街の外へ脱出するだろう。だからオビト、お前が捕まえろ、とカカシは言った。
流石は天才忍者はたけカカシというべきか。その狙いはピッタリと当てはまり、こうして幻術で意識を失った男達の中にマフィアの
* * *
「ふぅ……それにしてもここは臭くてかなわんわい。
「オウ! きてくれてありがとな!」
そういってボンと煙を上げて、元の場所に帰っていく相棒に別れを告げ、オビトは捕まえた男達の何人かを引きずっていく。
これから奴等のアジトから脳内までくまなく色んな情報を搾り取られるのだろうが、まあそこはあまり深く考えないことにしている。精神衛生上あまり知りたいとも思わない。
「あ、はたけさん……と、うちはさん、お疲れ様でした」
今回の作戦にも参加した、一人の優しげな霧の額宛をしたくノ一がそういってぺこりと挨拶をした。
「はい、お疲れさん」
「オウ、お疲れ」
そう少しダルそうな声で返事を返すカカシとニカッと笑いながら返すオビトに、ストレートの美しい長い髪をした穏やかそうなくノ一は少しだけ眼をまん丸にしながら、「すごい、全員捕まえたんですか? あ、干柿さんもご苦労様です」と声をかけ、ぺこりと頭を下げる。
「アナタも物好きですねえ……」
自分の人間離れした風貌に物怖じすることもなく、話しかけるくノ一に苦笑しながら鬼鮫は一言二言彼女と会話を続ける。なんだかくノ一のほうもカカシやオビトに話しかけた時よりも楽しそうだ。
それを見てオビトが「なぁ、カカシ、なんか……あの二人良い感じじゃないか……?」と隣の銀髪の少年にヒソヒソと話しかけると、カカシは「ヤジ馬」とポツリと返した。
そんな捕物を終えた日の午後であった。
続く
因みに最後出てきたくノ一ちゃんは原作五十四巻で鬼鮫の回想に出てきたくノ一ちゃんだったり(名前不明)
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