隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
闇堕ちしていないオビトってノリツッコミしてくれるし、わかりやすくて、素直なんで主人公として動かしやすくて良いですね。


04.柱間細胞

 

 

 

 うちはオビトの病室にやってきた白髪赤目に白衣を纏ったガッシリした体格の男を見て、オビトのチームメイトにあたる一つ年下の少年は、呆然とした声でその名を呟いた。

「千手、扉間様」

「……?」

 最も、その名を聞いてもピンと来なかったオビトは、首を傾げるばかりだったが。

 呼ばれた当人は動じることもなく、至極泰然とした様子で佇んでいる。

 そこでオビトは、目の前の人物が誰か知っているらしい少年……カカシにこっそりと尋ねることにした。

「なァ、カカシィ。このおっちゃんお前の知り合いなのか?」

 その言葉に信じられない、とばかりにカカシは唯一露出している右目を大きく見開いて、小声で叱るような声を出して一息で続けた。

「バ、このバカオビト、わからないの!? あの扉間様だよ! 初代様の弟君で、木ノ葉忍術研究所の初代所長で、忍者アカデミーの創設者にして初代校長の……! 校長室に写真飾ってあったでショーが!」

「校長室なんて入ったことねェよ……!」

 まあ尤もである。

 昔から優秀なエリートで、飛び級制度を使って自分たちより三年早く忍者アカデミーを卒業し、翌年には中忍へと昇進していたカカシであるが、オビトは違う。普通に五歳で入学して十一歳の時卒業と、アカデミーに六年在学したよくいる一般的な生徒だった。

 オビトはうちは一族の落ちこぼれではあったが、遅刻癖さえ除けば、どこかの誰かみたいに派手な悪戯をしでかすような問題児ではなかったし、寧ろご老人を中心とした人助けが趣味みたいな男だった。

 つまり、校長室に呼ばれるような理由は微塵もないわけで、カカシの言う校長室に飾ってあった写真など見たこともないのだ。

 因みに余談だが、この世界の木ノ葉隠れの里において、忍者アカデミーの飛び級制度で短縮出来るのは最大三年までと決まっているため、入学時期を同じくしたオビトとカカシは二年間同級生として共にアカデミーに通っていた時代があるのだが、カカシはアカデミーにいることが出来る残り一年を、最上級生に混じって学校生活を送ったため、カカシにとっての「同期」は以外と年齢層が広かったりする。

「って、そうじゃねェ!」

 本題が段々ずれて言っていることについて気付いたオビトはツッコミを入れた。

「イヤイヤイヤ、そりゃおかしいだろカカシィ……! 初代様の弟ならもっと年取ってるはずだろ……! だけど、この人はどう見てもそんな歳じゃねェじゃねーか!」

 言いながら、目の前の見知らぬ男に視線をやる。

 引きしまった端正な顔立ちにガッシリした体格の、イケメンというより男前という表現がよく似合う白髪の男は、どう見ても三十代か良くて四十代にしか見えなかった。

「お前、昨日の綱手様を見た後でよくそんな台詞出るね……」

 それに呆れたようにカカシがそんな言葉をかけるが、カカシの言が正しいのなら相手は七十か八十くらいのヨボヨボおじいちゃんの筈である。それがこんな若いわけがない。

 そう確信するオビトの前で、無情にも男は告げた。

「ワシが初代火影千手柱間が弟、千手扉間よ」

「本人だった!」

 昨日の綱手様といい、この人といい、この老けなさどういうこと!? 千手一族って一体どうなってんの~……!? と頭の中で絶叫し、理解に苦しむオビトは、あまり得意じゃ無かった自分の曾祖父が同じことを初代火影相手に愚痴っていた過去を知らない。

 

「何、そう構えんで良い。今のワシは研究所の所長でもアカデミーの校長でもない、ただの一介の研究者よ」

 そんな二人の年若い忍びを前に、見た目は中年、実年齢は老年の男はどかりと、備え付けの椅子に昨日の彼の姪孫(てっそん)よろしく座り込んだ。

 外見はそう似て見えないのだが、そういった仕草は又姪(まためい)である綱手とそっくりであり、血の繋がりを感じさせるもので、あ、ほんとに血縁者なんだ、と漸くオビトは納得したのであった。

 そして両腕を組んでオビトから見て左斜め前に腰掛けた扉間は、この場に来た目的を口にする。

「率直に言おう、柱間細胞を使った疑似臓器と義手義足の被験者になる気はないか? うちはオビト」

「……!」

 その言葉に真っ先に反応し、殺気を放ったのは問われたオビト本人では無く、彼のチームメイトである一つ年下の少年だった。

「扉間様、どういうおつもりですか……?」

「……カカシ?」

 戦場でもないのに、ヒリヒリと焼き付くような殺気を纏いながら白衣の男を睨み付け、威嚇する様はまるで我が子を守ろうとする母猫のようだ。

 しかし、この銀髪の少年が急にそんな反応を見せる理由がわからず、うちはオビトは戸惑うように少年の名を呼ぶ。オビトは何も知らないのだ。それに、カカシはチラリと黒髪の少年に視線をよこして、それから出来るだけ感情を排した声で、淡々とカカシの知る知識を語る。

「今から二十年ほど前、初代様の細胞を使った実験があった」

 当然、二十年前となると、カカシもオビトもまだこの世に産まれてもいなかったわけだが、カカシは伊達にエリートと呼ばれていない。勤勉で真面目な彼は木ノ葉で起きた大きな事件は全て調べて記憶していた。

「木遁は初代様のみが使えたとされる特殊な血継限界で、他に発現させたもののいない比類無き力だった。嘘か本当かは知らないケド、初代様は印も結ばずに身体を再生させ、九尾をも凌ぐような巨大な木龍も作る事が出来た。その力をもって戦国一の強者と呼ばれ、「忍びの神」と称されたという……その力を残そうという試みで、初代様の細胞移植実験の被験者が募集されたんだ」

 そして実験の結果は凄惨たる末路へと辿り着く。

「実験に成功すれば初代様と同じ木遁忍術と膨大なチャクラを手に入れられるとだけあって、志願者は殺到したそうだよ。そうして集まった被験者の数は総勢三十名、その中には初代様と同じ千手一族出身者もいたらしい……だが……」

「……何が、あったんだ……?」

 語るカカシの尋常ではない様子に、ゴクリと喉を鳴らしながら黒髪の少年は尋ねる。

「柱間細胞移植実験の被験者三十名は全員一人の例外も無く、細胞に適応することはなく変死を遂げた」

「変死……!?」

「あるものは拒絶反応を起こして苦しみながら血を吐いて死んで、ある者はそのまま木に姿を変えて死んだ。原型が残れば良い方で……誰一人としてマトモな死体はなかった。そうして柱間細胞の移植実験計画は中止が発表されたんだ……そうですよね、扉間様」

 そう、ギラギラとした殺気混じりの声で皮肉るようにカカシは言い捨てた。

 今少年達の目の前にいる中年のような容姿のこの老人は、紛れもなく木ノ葉隠れの里の偉人である。

 創設期、この里を一から作り上げた者の一人で在り、初代火影の弟で在り、術開発のエキスパート。今この里で使われている忍術の半数は千手扉間が創った術とも言われている。忍者アカデミーの創設者でもあり、その功績を並べるなら快挙に暇がない。

 だが……忘れては為らない。

 この多数の死者を出した柱間細胞移植実験を主導していたのは、その細胞の持ち主だった男の実弟だったこの人なのだ。他にも他里にも卑劣と誹られるような禁術の数々を開発したのも、千手扉間その人なのである。

 子供を慈しむ教育者と、兄の細胞すら研究材料にする狂研究者(マッドサイエンティスト)、どちらの評価も千手扉間という男に与えられたものなのであり、また非道に過ぎるその戦術も聞いたことがあるカカシとしては、あのような発言をした以上、警戒しないほうが有り得ないというものだ。散々死者を出した柱間細胞を使った実験の被験者にならないか、など、カカシの耳にはオビトに死ねと言っているようにしか聞こえなかった。

「よく調べておる」

 感心したような声で扉間は言う。

 まるでカカシの殺気など意にも介していないその態度に、カカシはオビトに貰った写輪眼の左目も露出しながら、「誤魔化さないで下さい……!」と苛立ちを隠すこともなく、低くした声変わり前の声で吐き捨てるように続けた。

「扉間様、貴方はオビトをどうするつもりですか……!?」

「カカシ……」

 パチリ、パチリとカカシの右手に紫電が迸る。

 千鳥だ。

 オビトに貰った目によって完成したはたけカカシ唯一のオリジナル忍術。

 あの時、岩の下に生き埋めになったオビトはその完成形は見たことが無かったが、それでも未完成状態のそれは既に目撃している。それは否応にもカカシの本気を知らせるものだった。

「もし……もしもオビトを実験動物のようにするというのなら……オレはここで、貴方と刺し違えても……!」

「……カカシ!!」

 一喝。

 うちはオビトの身体は動かない。

 その左目はなく、右腕も右足も無く、内臓にも損傷がありその姿は包帯まみれの満身創痍で、おまけに昨日までずっと昏睡していた。だというのにどこからそんな気力が沸いてくるのか、うちはオビトは痛む身体も無視して腹から声を出し、カカシの意識を己のほうに向けた。

 それから困ったような顔で彼は言う。

「なァ、落ち着けよ。心配してくれるのは嬉しいけど……ちゃんとこの人の言い分、聞こうぜ」

 

 その時だった。外からガラガラと何かを押す音がきこえてきたのは。それと一人分の足音も。

 それから少女の声で「失礼します」という声がかかって、車椅子に乗った長髪の男と、その車椅子を押している見覚えがありすぎる黒髪の少女が病室に現われた。

「えっと、シズネ、か?」

「はい、お久しぶりですねオビトくん」

 車椅子を押している彼女に見覚えがあるのも当然で、同期ではないが同い年の医療忍者の少女だ。思い人にして幼馴染みののはらリンとは同じ医療忍者繋がり同士である関係で、オビトも親しいわけではないが面識はあった。

 見覚えがないのは、彼女が押している車椅子に乗っている長髪の男の方だ。

 車椅子の上に座っているその男は、自分たちの上忍師である波風ミナトに負けないくらい爽やかそうな優男で、年齢は三十代後半くらいに見える。

 オビトの知らない人だった。

「困りますね、立ち会いも無く勝手に話を勧めないようにと、お願いした筈でしょう、扉間様」

「む、綱手の婿か」

 それに白髪赤目の大男は、腕を組みながら涼しげな視線を車椅子の男へと送る。

 そんな妻の大叔父に当たる人の反応に苦笑して、車椅子の男は言った。

「はじめまして、オレは加藤ダン。オビトくんの主治医で院長でもある綱手の夫で、この木ノ葉病院の主任を務めている。宜しく頼むよ」

 そういってにこりと安心させるように微笑む姿もまた、カカシとオビトの担当上忍師である波風ミナトを彷彿させた。

 それと同時に加藤ダンの言い分から、扉間の柱間細胞を使った疑似臓器と義手義足の提案は病院公認で、昨日の綱手の不可解な発言はここに繋がっていることにカカシと、一拍後れてオビトは気付いた。

 ふぅと銀髪の少年は息を吐き出して、上り詰めた緊張も解く。

 オビトに言われたこともあるし、病院の公認で扉間の独断からきた提案でないのなら、ひとまずきちんと聞くべきだと思ったからだ。

 

「そちらの小僧が先ほど言うた通りよ……兄者の細胞を移植し後天的に木遁の使い手を増やすプロジェクトは一度は凍結した。木遁の使い手を増やす有用性と天秤にかけても、無闇に犠牲を増やすのはワシにとっても本意ではなかったからな」

 そう、至極泰然な静かな声で、老人には見えぬ喜寿を迎えた男が言う。

「しかし、兄者の細胞の有用性もまた疑いはない、そこでワシは方針を転換した。事故や任務中に欠損し、現役復帰することが難しい忍び等を選び、その体の一部と兄者の細胞との相性を見た上で、本人の承諾の元、兄者の細胞でもって欠損を補填する計画よ」

 そこまで語ってからひらりと資料らしき紙を取り出して、扉間はそれをオビトと、オビトを守るような立ち位置で立っているカカシへと投げてよこした。

「……! これは」

 オビトはその資料に書かれていた意味がイマイチ掴めなかったのだが、天才少年と名高いカカシは別だったらしい。信じられないとばかりに、そこに書かれたデータを眺めた。

「既に一人だけとは言え、成功者も出ておる。幼い頃に事故にあった孤児よ。そやつの兄者の細胞との適合確率は78%で放っておいても死を待つ身だった故に、手術を進めた。結果そやつは健康な体と木遁忍術を手に入れ、今はアカデミーに通っている」

 それが先ほどのカカシのオビトを実験動物にするのか、という問いへの答えでもあったのだろう。

「事前の調査で兄者の細胞との適合する確率が50%を越える者にのみ、柱間細胞を使った義肢への被験者となることをワシは勧めている。だが、事前の調査で高い適合率が予想されても、木と化したり、亡くなった者もいた。兄者の細胞を取り込んだ上で生き残ったが木遁は発現せず、チャクラ量の増加も然程見込めなかった者もいた」

 結局は博打だと扉間は話を結んだ。

 それに、カカシは険しい顔をする。確かに成功例はいる。

 その情報に微かな安堵を感じたのは確かだ、だがやはり初代様の細胞を取り込むというのは危険度の高い行為なのだ、そしてカカシは折角命を拾ったオビトにそんな危険を冒して欲しくなかった。

「なぁ……オレにその話をもってくるってことはさ、オレの適合率は何%だったんだ……?」

 静かな声だった。

 いつもは騒がしいのに、あの日、岩の下に生き埋めになってカカシに目を渡した時と同じくらいに。

「82%だな……綱が持ち帰ったおぬしの壊死した右腕と右足を使った実験の結果、おぬしの身体は兄者の細胞と適合する確率が非常に高いことがわかった」

「その初代様の細胞を使った義手や義足を使ったらどうなるんだ……? 普通の義手義足とは違うんだろ?」

「兄者の細胞が馴染むまではおそらく、普通の義肢と大して変わらんだろう。だが、もし適合し馴染めば……生身の手足との差異は無くなろうな。上手く馴染めばチャクラ量も増えて、兄者の木遁も使えるようになるだろう」

「よし、ならオレは被験者になる。やってくれ」

「オビト……!!」

 あまりにもアッサリした声で為された決断に、溜まらずカカシは叫ぶ。

 心配されているのはわかる。だが敢えてオビトはカカシを無視して、真っ直ぐに扉間に顔を向ける。

「良いのか? 高い確率で適合するにしろ……おぬしが死ぬ可能性が亡くなったわけではない。断ってくれても構わん」

「オレは火影になる男だ。ならこんなところで、グズグズとまってらんねーだろ」

 それから少しだけ照れくさそうにオビトは言う。

「火影はオレの夢だから」

 その言葉に木ノ葉病院の主任と名乗った車椅子の男は薄らと目を見開き、カカシは力が抜けたとばかりにがくりと膝をついた。呆れたような嬉しそうなような複雑な表情だ。

 そんな周囲を観察するように見回して、扉間は「……火影は夢、か」とポツリと呟き、それからいつかオビトが幼い頃に二代目様にもされたのと同じような眼差しと表情でもって、彼はオビトに尋ねた。

「おぬしにとって火影とはなんだ? 何故、なりたい?」

 何故、か。

 はじめは憧れだった。好きな女の子へのかっこつけもあった。

 でもそれだけじゃない。

 オビトの胸のうちにある火影への想い。

「……忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる……だけどオレは、仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだと思っている」

 それは前にカカシにも言った言葉だった。

 言葉にして伝えるというのは難しいものだ、それでも出来るだけこの想いを自分の言葉で伝えたかった。

 真剣に聞かれているのがわかるから、真剣な想いには真剣な想いを返したかった。

「オレは仲間を守りたい……みんなを守りたい。この里を守りたい。それはオレが仲間が、みんなが、この里が好きだからだ……火影はただの称号じゃない、この里で一番すげェ忍びだけがなれる里のトップだ」

 憧れだった。

 火影岩を見上げる度、いつか自分もと……そう夢想した。

「みんな火影様を頼っている、みんなの心の支えが火影だ。だから、オレは火影になって、より多くのみんなを、仲間をオレのこの手で守りたいんだ……!」

 それがうちはオビトの答えだった。

 

 

 続く




現在アカデミーに通ってる成功者=ヤマト隊長
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