隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
お待たせしました。第二部最終回になります。
因みにパーティーで着ているオビトとカカシ両名の衣装はニジゲンノモリで過去のカカシ先生誕生祭の時に二人が着ていた衣装をモチーフにしています。


49.調印式

 

 

 

 調印式を翌日に控えた2月6日、巳の刻。

 渦の国で行われる調印式後のパーティーに着ていく為の衣装を受け取りに、オビトとカカシの両名は霧隠れの里内にある呉服屋へと足を運んでいた。

 実際に試着して、違和感などあれば最後の調整をするのだ。

 オビトは藤納戸色に黄の差し色をいれた狩衣。カカシは若菜色の羽織に麹色の着物を用意されていたのでそれに着替える。一応、オビトはばあちゃんに仕込まれていたので自分でも着物の着付けは出来るのだが、今は店の人がやってくれるというので、それに甘えてみた。

 因みにオビトに左目はないため、眼帯もパーティー当日は衣装に合わせて、狩衣と同じ生地を使った藤納戸色の布にする予定である。

「あらあら、二人とも男前だこと」

 そういって四十代くらいだろう店主のおばちゃんが、早速着替えた二人を前にニコニコと笑う。

 因みに彼女は忍びではなく、一般人だそうだ。水の国は一般人も血継限界を嫌う傾向にあるから、あまり血継限界の一族である事は吹聴しないほうが良いと事前に言われてたため、オビトもそう名乗っていないからか、特にこちらに対する嫌悪感などは見えない。

 ……とはいっても、一般人である時点で忍びの家系に対してそこまで詳しいわけでもないし……特に外国の血継限界の一族についてなら尚更、であるのでうちは一族の家紋の刺繍を依頼したところで、その家紋を持つ者がイコール血継限界の一族であると判断するほどの知識はそもそもないから、安心して任せていいともやぐらには言われていたのだが。

 まあ、そんな現水影様のアドバイスは正しかったらしい。おばちゃんは自分の今目の前にいる客の内片方が血継限界の一族の人間であることなど知る由もなく、二人は今極普通の対応をされていた。

「えへへ、そう?」

 おばちゃんからの称賛にデレデレとだらしない顔をしながらオビトが後頭部をかくと、おばちゃんはニコニコしながらこう語る。

「そもそも、紫系統の衣装を着こなせる人自体あんまりいないのよ。人によっては衣装に負けてしまうわ。でもアナタにはよく似合っているわね。フフ、やはり私の見立てに間違いはなかったわ」

 きっと意中の人も振り向くこと間違い無しね。そう言っておばちゃんは楽しそうに笑う。

「お、オウ」

 思った以上の褒め殺しに思わず、オビトは羞恥に耳と頬を赤く染める。

 昔から色んな人に称賛を受けて、女子から黄色い声を上げられてきたカカシと違って、オビトはそこまで容姿を褒められ慣れてはいないのだ。

「そっちのアナタも、色白で髪も白いから……やっぱり落ち着いた淡い緑がよく似合うわね。格好いいわ」

「お褒め頂きありがとうございます」

 カカシはさらっとそう返す。

 オビトからしたら気取りすぎだろってくらい、優等生な回答だった。

 相変わらず可愛げのないやつ……と思いながら隣に立つ相棒を半目でチラリと見るオビトであったが、隣に立つ銀髪の少年を見て「おや」とある事に気付き、半目だった黒い眼を大きく見開くと、マジマジと友を見つめる。

 

「……何?」

 オビトからの食い入るような感心しているような視線が鬱陶しくなったのか、若しくは見られすぎて気恥ずかしくなったのか、カカシはほんのり見る人が見たら分かる程度に目尻を赤らめると険のある声音で問う。

 それに黒髪隻眼の青年は気の抜けた声でこんな返答を返した。

「いや、カカシ、お前……背伸びたなって」

 人間、毎日会っている相手の変化は気付きにくいものだ。

 たまの再会なのであればすぐに気付いたのだろうが……この三ヶ月間、オビトはカカシとずっと一緒に行動し続けてきた。だからこうしてマジマジと見てはじめて気付いたのだ。

 カカシの背丈は随分と伸びていた。

 確か、去年の秋にオビトが木ノ葉隠れの里に帰還した時は、オビトのほうがカカシよりも5㎝から7㎝ほど背が高かったわけだが、その差は大分縮まり、オビトとカカシの身長差は今はもう一寸にも満たない。もう少し伸びれば、目線も殆ど変わらなくなるだろう。

 心なしか骨格も以前よりしっかりしてきたし、体に厚みも出だしたような気もする。

 元々精神面では大人びていた奴ではあったが……肉体面も随分と成長したのもあり、そろそろ少年というより、青年と呼んで差し支えない頃だろう。

「オレも成長期ですから?」

 にっと唯一露出している墨色の右眼を細めて、黒い口布越しにクツクツと楽しそうに笑いながらカカシは言う。

「まっ! そのうちお前の背も追い抜くかもよ? 覚悟しとけば? 右目(オビト)

「ぬかせ、左目(カカシ)

 そんな軽口を叩き合いながらコツンと互いの拳を合わせて、二人は笑った。

 

 * * *

 

 ザァザァザァザァと、今日も雨隠れの里は雨が降っていた。

「ねえ、弥彦、長門これ見て」

 紫色の髪をお団子に結い上げた美女が雑誌を片手に、幼馴染みにして恋人の橙色の髪をした快活そうな青年……弥彦と、気弱そうで片目を隠すような髪型をした赤髪のもう一人の幼馴染みである青年……長門へと声をかける。

「お、これってひょっとして自来也先生が言ってた奴か?」

 その雑誌の片隅にある、小さな記事に添えられている写真には銀髪の青年と黒髪の青年が映っていた。銀髪のほうはそこそこ有名人なので三人も前から知っていた。あの白い牙の息子だとかいう四代目火影の懐刀……白雷のカカシだ。

 その写真に映っているもう一人の青年は知らない顔だ。右の顔面に皺のような渦のような傷がいくつもついた黒髪隻眼の青年が、にっとどことなく弥彦をも思わせるような明るい表情で笑っている。

 初めて見る顔だが、この特徴からして間違いなく、以前自来也先生が言っていた自分たちの弟弟子だという青年だろう。

「弥彦に似てるって話だったけど、顔は全然似てないね」

 マジマジと写真を見ながらポツリと呟く赤い髪の幼馴染みに、ぷはっと弥彦は吹き出して「そりゃそうだろ」と快活に笑う。

「でもまあ、よく頑張っているみたいだぜ、オレ達の弟弟子は」

 それは木ノ葉隠れの里からの霧隠れへ親善大使として赴いた二人に対しての、水の国での活躍の数々に対するインタビュー記事であった。

 

 * * *

 

 2月7日午前10時。

 多くの人が見守る中厳かに調印式が始まった。

 水影として公式衣装を着たやぐらと、火影としての公式衣装を身に纏った波風ミナトの二人が揃い、読み上げ人の言葉に従い、同意し、ジャーナリストや要人関係者など、大勢が見守る中署名する。

 行事としてはそれだけといえばそれだけの行事だ。

 とはいえこれを大々的に行う事によって、正式に同盟は結ばれたと見なされる事を思えばおざなりにしていいものではない。

 見届け人は水の国の大名様と、火の国の大名様、そしてこの場を用意した渦潮隠れの里の当代里長が務める。

 オビトとカカシの立場は木ノ葉隠れの里から霧隠れに派遣された親善大使だ。当然関係者として、その様子を屹立して見守っていた。

「―――以上で調印式は終了となる。霧隠れの里と木ノ葉隠れの里の末永い友好とならんことを」

 そんな渦潮隠れの里長の言葉で調印式は締めくくられた。

 

 光が反射する。カメラからの光が一見幼い少年に見える四代目水影と、爽やかな優男然とした四代目火影に次々と休む間もなくシャワーのように降りかかる。

「火影様、ファンの方に一言お願いします」

「水影様、成人しているとは本当でしょうか?」

 そんな報道陣の勢いに思わずマジマジと見入っているオビトに、カカシはペちりと彼の頭をはたいて、「オビト、ぼうとしないの。行くよ」と声をかける。

「いや、ほらミナトせん……四代目様、大変そうじゃん。助けなくていいのかよ」

「問題ない。どうせ……ほら」

 そのカカシの声の直後に、不知火ゲンマ、たたみイワシ、並足ライドウの四代目火影護衛小隊の三人が「はいはい、そこまで。火影様には次の予定が入っていますのでお引き取り願います」と慣れた調子であしらっていた。

「な?」

 その相棒の言葉に納得してこくんと頷くオビトであった。

 それから用意された部屋に移動すると、昨日受け取った衣装に着替え、いつでも出られるように荷物を小さく纏めると、お互いに身嗜みにおかしなところがないかチェックしてパーティー開幕予定時間の十五分前に部屋を後にする。

 公的には、オビトはカカシと共にこの部屋に泊まって翌朝の船で火の国に戻るという事になっていたが、オビトには飛雷神の術がある。これがあれば距離などあってないようなものだ。なので、オビトはパーティーが終わり次第荷物を取ると部屋を引き払い、そのままカカシと火の国木ノ葉隠れの里まで戻るつもり満々だった。

 おそらく師であるミナトもそれは一緒だろう。火影の護衛小隊の三人も、彼らはミナトやオビトと違って単独では飛雷神の術を使用することは出来ないが、三人で力を合わせれば飛雷陣の術を発動出来る。長々と外国で警備に力をいれるよりも、さっさと終わり次第里に帰ったほうが却って手間は省けるというものだろう。

 とにかく、今日の夜にはオビトはカカシと共に木ノ葉隠れの里に帰還する。

 オビトが船などまだるっこしいと飛雷神で帰る気満々だった事は師だけあってミナトもよくわかっていたようだ。彼には昨晩ホテルで顔を合わせた際に、「ん……オレも明日は火影塔での仕事は休みだから、報告は明後日頼むよ」と苦笑と共に伝えられていた。

 まあ、それはともかくとしてパーティーである。

 開催時間は十七時から二十時までの三時間。

 男はともかくとして女はこの手の準備には相応に時間がかかるものと相場が決まっている。なので、調印式から大分時間を空けてこの時間に開始と決まっていた。

 はっきり言ってオビトはこの手のパーティーに参加したこと等無い。

 名門うちは一族とはいっても、オビトは曾祖父こそ有名人であるが、一族内の扱いとしては末端のようなものだったし、せいぜい一族で行われる正月の宴に一度参加したくらいか。それ以外の経験などてんでない。そう思うと緊張してきた。そんな風に緊張で堅くなるオビトとは裏腹に、カカシはいつも通りの涼しそうな顔である。

「何百面相してんの。行くよ」

「わかってるって……!」

 じとりと思わずオビトは相棒を見る。

(こいつ……慣れてそうだな)

 思えばカカシは四代目の懐刀と呼ばれているのだ。そう考えると火影様への護衛も兼ねて場慣れしててもおかしくはない……おかしくはないのだが、なんか釈然としない気分のオビトであった。

「はたけカカシ様とうちはオビト様ですね、こちらへどうぞ」

 パーティー会場入り口で招待状を見せると、そんな風ににこやかにホテルマンに会場内へと案内される。

「わっ……」

 煌びやかな会場内の光景に思わず、オビトの右目がせわしなく周囲の様子を映す。そこにはテレビ内でしか見たことの無いような光景が広がっていた。キラキラと美しく宝石のように輝いているデザートに、上品に見る者を楽しませるように飾り付けられている食べるのが勿体ないような軽食の数々。酒や飲み物が入ったグラスもいくつも用意されており、あちこちにオビトでも知っているような有名人がそこかしこで談笑している。

 その中には木ノ葉の三忍のうち二人の姿もある。

 一人はオビトもよく知っている木ノ葉医院の院長でかつてのオビトの主治医だった、病払いの蛞蝓姫こと加藤綱手だ。彼女は赤ワインを片手にいつもの和装ではなく、深いスリットの入った深緑のドレスに身を包んで渦潮隠れの里長相手に談笑している。

 確か彼女は初代火影千手柱間の孫であり、柱間の妻は当時の渦潮隠れの里長の娘であったと聞いたことがある。当然、当代の渦潮隠れの里長とも親戚なのだろう。それがいとこかはとこか叔父姪かまでは知らないが。

 きっとこのパーティーに呼ばれたのもそれが原因だろう。

 彼女には夫がいるが、流石に車椅子の夫は連れてきていないようだ。

 もう一人はオビトが名前と顔だけ知っている相手だ。

 不健康なまでに白い肌に長い黒髪の中性的な男だ。彼こそが木ノ葉の三忍の一人である大蛇丸だ。確か九尾事件の時も大活躍したという彼は、オビトが里を出た翌年に木ノ葉忍術研究所三代目所長に就任したらしい。

 当時、師であった自来也が珍しくも嬉しそうに眼を細めて、大蛇丸が所長に就任したという記事を見ていた事を覚えている。確か、九尾事件後間もなく里を出されるときにミナト先生に聞いた話では、大蛇丸はヤマトの後見人でもあるはずだ。

(ヤマト、元気かな)

 と、かつて千手扉間の下で共に木遁を学んだ少年を思い起こし懐かしむオビトであったが、しかし流石に面識のない相手に「ヤマト元気にしてる?」なんて聞きに行くほど図々しくはなれない。それに大蛇丸自身人気者らしく、次々やってくる客人の相手に忙しくしているようだ。声をかけるのはやめておいたほうがいいだろう。

 それにしても本当に、要人が集められたパーティーのようだ。

 木ノ葉隠れの里からの出席者には他には四代目火影波風ミナトの頭脳と呼ばれている奈良シカクもいれば、名門日向一族の当主日向ヒアシの姿も見える。うちは一族からは姿が見えないのは、同一族であるオビトが出席者にいるからだろう。

「あっ」

 そんなことを考えていると、左に眼帯をしているオビトとは逆に、右目に眼帯をしている顔見知りの霧忍に出くわし、互いにバッチリ視線があってしまい、オビトは思わず足を止める。

 青だ。共に湯の国での会談の大名様への護衛任務に派遣されていたのもあり、彼も招待客の一人として招かれていたのだろう。

 青の青灰色をした左目とオビトの黒い右目がバッチリ合う。眼光鋭く射貫いてくる眼に、視線を逸らしたら負けな気がしてオビトもしっかりと見返す。視線は逸らさないままにコツコツと青がオビトとカカシの元へと歩み寄る。その眉間には縦皺が刻まれ、唇を大きく引き締めて、友好的とは言えない態度と雰囲気で歩み寄り、何を言われるのかとオビトが緊張に少しだけ背を硬くする中、青はフンと吐き捨てるような声でこう言った。

「……私は謝らんからな。客観的に見て一番怪しいのは貴様だった」

 その言葉に、なんだそんな事かとオビトは肩の力を抜いて、なんでもないあっけらかんとした声で返す。

「なんだそんなことか。良いって気にしてない。オレがオッちゃんの立場でも、あの状況ならオレが一番怪しいって思うだろうし、疑う気持ちもわかるからさ」

「オッ!? 貴様、年上に向かってなんだその口の利き方は! 全くこれだから最近の若者は礼儀がなっとらんのだ……!」

 と、ポコポコと青は憤慨する。

(最近の若者は……とかその言い回しがまずオッサンそのものなんだけどな……)

 偏屈なじじいとかもそのフレーズよく使うんだよなあ……と思うオビトであったが、これ以上怒らせるのも本意では無いので、「まあまあ、悪かったって」と苦笑しながら手をヒラヒラとさせる。

「ま、これから霧隠れとは同盟国なんだ。また組む機会あるかもしれないし、その時はよろしくな、青さんよ」

 そうニッカリと里のジジババを落してきた笑顔を浮かべてオビトが言うと、「ふん。次からは疑われるような行動をしないことだな」と言いながら青は去って行った。

「なんだったんだろうな……?」

「……なんだったんだろうね」

 とオビトの問いに適当に返すカカシであったが、実のところ彼は青がオビトに謝罪するつもりで声をかけたことはなんとなく気付いていた。でもまあ結局言えなかったみたいだし、教えなくてもいいかのノリで受け流していた。ある意味酷い男である。

「よ、二人とも楽しんでるか」 

「お、ゲンマ」

 次にそういってオビト達に話しかけてきたのは、茶髪茶目に口元の千本がトレードマークみたいな男、不知火ゲンマだ。現火影護衛小隊の一人であり、秋道チョウザ班としてエビスともどもガイのチームメイトでもあった男である。

 彼もこのパーティーの正式な招待客の一人らしく、いつもの中忍ベストではなく洒落たスーツに身を包んでいる。確かもう20歳になるんだったか……涼やかな顔立ちをしているのもあり、オビトより数歳年上の彼は衣装も相俟って大人の男の色気が漂っている、中々のハンサムである。

「すっげーオシャレだ……」

 思わず感心したような声でオビトが漏らすと、ゲンマは「お前もな」とニシシと笑う。

「なんだよ、この飾り紐。そうかそうか、とうとうオビトもオシャレに目覚める年頃か」

 そういってゲンマは、オビトの狩衣と揃いの布で作られた布眼帯にあしらわれている飾り紐に手を伸ばす。蘇芳色と藍色の紐で細かく編まれており、ゲンマのいう通り中々にオシャレな一品である。

「いやー、ハハ……」

 そのゲンマの反応に思わずオビトが視線を斜め下に落す。この衣装もそうだが、この眼帯に飾り紐をつけたセンスやデザインもオビトが選んだわけではなく、呉服屋のおばちゃんに丸投げした結果だからだ。

 それをオビトの反応から察したらしい。ゲンマは仕方ねェなと言わんばかりの態度でため息を一つつくと、「ま、今はいいけど。自分でも選べるようになっとけよ。惚れた女を振り向かせたいなら尚更な」と、ほぼ目線が替わらないオビトの肩をポンと叩いてから、二人に背を向けた。

「惚……ッ!?」

「じゃあな。オビト。カカシさんも、滅多にない機会なんだ楽しんどけよ」

 思わず顔を真っ赤にするオビトに眼もくれず、カラカラと笑ってゲンマは去って行った。

 

 暫くそんな感じで何人か知り合いと話したり、カカシが手早く食事を取ったりしているうちにパーティーが始まってから一刻が過ぎた。その間オビトは食事を取ったフリをして、飲み物だけ摂取して誤魔化していたのだが、参加者が多いだけはあるらしい。オビトが会場の食事を実際は口にしていないことに気付く者は最初から隣にいたカカシくらいのものだろう。それもまたある意味いつもの通りのことだ。

 コースではない立食パーティーだからこそ、食事を取らないことに気付かれないことはオビトにとってもとても有り難いことだ。

 でも慣れていない場で気疲れするのもまた事実である。カカシは大して疲れていないのだが、華やかな容姿とは裏腹にこういう場をそれほど好まないのもあって、休憩しようとするオビトに否やはなく、二人揃ってバルコニーに出て風に当たる。

 オビトはボーイから受け取ったレモン水を一口口にすると、ふぅと吐息をついてぼやく。

「凄いのはわかるけどさァ……あんなにもどこもかしこもキラキラしてると、眼がチカチカしちまうぜ……」

 そんなオビトを呆れた眼で見ながらカカシが言う。

「誰かさんは将来火影になりたいんでしょ。それならもっと慣れとくべきじゃない?」

「それはそう……なんだけど! だけどさぁ……」

 あーこれはオレに甘えてるやつね、とカカシは淡々と相棒の心境を読み取って、「ま、息抜きするのも悪い事じゃないでしょ! ここにはオレしかいないし……いいんじゃない?」と返し、なんとなしに空を見上げる。

 冬の空は空気が澄んでいて、星がよく見える。

「おや、オビトさん。カカシさんも、ここにいましたか」

「鬼鮫」

 霧隠れ滞在中、世話役という名の監視要員であった霧の忍び、干柿鬼鮫がいつもの忍服ではない黒の紋付き袴の装いに身を包んでバルコニーへとひょっこり姿を現す。身長二メートル近くの人外染みた容貌も手伝い、中々の大迫力である。

「世話になりましたからね。最後に挨拶を、と思いまして」

 どうしてここに? というオビトの視線の訴えに答えるように相変わらずの丁寧な口調で鬼鮫はそう返答する。

 それに相変わらず律儀な奴だなあとオビトは感心しながら、「世話になったのはこっちの台詞だ。色々と有り難うな」と笑って返した。

 そのまま、ジロジロと鬼鮫はオビトの姿を上から下まで一通り眺めると、こっちもこっちで感心したような声で言う。

「それにしてもよくお似合いですね。流石は音に聞こえたうちは一族ってところでしょうか? アナタ、モテるでしょう?」

 思ってもいないことを言われて、オビトはポカンとマヌケにも口を開いた。

「え……いやいや、まさか」

 確かにじいちゃんばあちゃん達にはモテている自覚はある。が、オビトの記憶にある限り同年代にモテたことはない。何故って? 昔のオビトの評判が落ちこぼれだった上に、大体女子の人気はこの隣にいる銀髪の男が持っていったからだ。オビトの記憶にある限り、同年代の女子がキャアキャア騒ぐ相手は常にカカシに対してであった。

 だが、まあそれは面白くはないだけで別に良いのだ。オビトにとってこの世で一番振り向いて欲しい女の子とはのはらリンであり、リン以外の女子にモテた所でオビトにとってはなんの意味もないからだ。

 ……ただ、悲しいことにリンが惚れていた相手もカカシだったので、結局オビトにとってカカシは憧れている部分もあるけれど、それ以上にいけ好かねえ奴だったのだが。

 あ、駄目だ。これ以上この話題を続けるとリンに男として見られていないことまで連鎖して思い出して、悲しい気分になるからやめよう。そう思いオビトはなんてことのない風を装って「オレよりお前のほうがモテるんじゃないか?」と鬼鮫に返す。

 因みにこの言葉自体は本心だ。

 鬼鮫とは、三ヶ月ほどの付き合いであったが、この男はよく気が利いてマメで良い奴だ。ちょっと人間離れした容姿にギザ歯で鮫みたいな顔をしているが、性格が良いので見方によればそんなところも愛嬌になるだろう。

 器用で面倒見がいいし、誰に対しても丁寧な物言いだ。オレが女なら絶対カカシより鬼鮫を選ぶ、と確信するくらいにはイイ男である。

 が、鬼鮫の耳にはオビトの言は世迷い言に聞こえたらしい。

 全然オビトの言う言葉を信じられないと言わんばかりの声で「まさか。私みたいなイロモノがモテるわけないでしょう」と呆れるように返した。その時だった。

「あ、干柿さん、こんなところにいたんですね。あっちに美味しいエビグラタンとカニつみれがあったんですよ。いっしょに食べに行きませんか?」

 そういって茶色いストレートの髪を結い上げた、碧いドレス姿の優しげな女性が嬉しそうに鬼鮫に話しかける。

「美瑠さん……」

 どことなく困ったような声で鬼鮫がそのくノ一の名を呼ぶ。

 鬼鮫が振り返った事により、どうにも彼の影で見えてなかったカカシとオビト両名の姿に美瑠は気付いたようだ。彼女は先ほどのどこかはしゃいでたような姿を抑えて、少しだけ気恥ずかしそうにしながら、「はたけさんとうちはさん。お久しぶりです」とぺこりと頭を下げた。

「よっ」

「ども」

 彼女とは水の都での捕物以来の再会であったが……どうにも今回の調印式でも彼女は大分尽力していたらしく、彼女もまた今回のパーティーに呼ばれていたようだ。

「ひょっとして、私、歓談のお邪魔してしまいましたか?」

 とカカシオビトと鬼鮫の三人をチラリと交互に見て遠慮がちにいうものだから、カカシは「うんにゃ、大丈夫よ」と返す。すると彼女はほっとした顔を浮かべて、「良かったらお二人も行きませんか? すごく美味しいんですよ」と声をかけてくるものだから、オビトは「悪ィけど、オレもう腹いっぱいなんだ」と返し、カカシも「二人で行ってきたら?」とフォローするように続ける。

「そうですか? ではお二人とも、これまでありがとうございました。また会う機会がありましたらよろしくお願いしますね」

 そうぺこりと頭を下げてから、彼女は嬉しそうに鬼鮫の腕をひいて会場のほうへ戻っていった。鬼鮫も戸惑ってはいるものの、美瑠にそうやって引っ張られている事に悪い気はしていないようだ。

(……やっぱオレより、鬼鮫のほうがモテるような……)

 一見美女と野獣的な凸凹感がある二人であるが……うーん、お似合いだ。鬼鮫は良い奴だし、上手くいって欲しい。一ヶ月前にも同じことを思ったが、そんな無責任なエールを二人の背中に送るオビトであった。

 

 ……暫くカカシと二人でなんとはなしに夜空を見上げる。

 綺麗な夜空だ。

 この三ヶ月色々あった。長かった気もするし、短かったような気もする。

 だが敢えて言葉にして語るような事でもないのだ、この感傷は。パーティー会場から聞こえてくる騒がしい音に煌びやかな光に優雅な音楽。そんなものもたまには悪くないけど、冷たい冬の風に当たりながら綺麗な星空を相棒とただ見上げ、静かに過ごすのもまた上等だろう。

 曲が替わる。

 ゆったりとどこかもの寂しさを聞く者に与える曲は、この任務(パーティー)の終わりを明確に告げている。

 それに無性に彼女(リン)に会いたいと、オビトは思った。

 

「じゃあ帰ろうか、木ノ葉隠れの里へ」

「オウ」

 

 

 

 隻眼の木遁使い第二部同盟編・完

 

 第三部青年編へ続く




因みに第二部冒頭と最終回のオビトとカカシの身長差はこんな感じです。
オビト180.0㎝→181.2㎝。
カカシ174,3㎝→178.6㎝。
最終的には公式設定通りオビトは182㎝、カカシ先生は181㎝になるヨ。

次回「閑話・ナルトとオビト」次々回「閑話・ナルトとコンコン」を挟んだら第三部スタートするのでよろしくお願いします。

同盟編でのアナタの一押しのキャラクターは?

  • うちはオビト
  • はたけカカシ
  • のはらリン
  • 波風ミナト
  • 波風ナルト
  • うちはイタチ
  • マイト・ガイ
  • 自来也
  • 雨隠れ三人組
  • ガマ次郎三郎
  • 大名様の弟
  • 水の国の大名様
  • 干柿鬼鮫
  • やぐら
  • 照美メイ
  • 不知火ゲンマ
  • 壮年の男(鬼面のうちは)
  • その他
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