今回の話はナルト視点の番外編で、ナルト3歳11ヶ月、オビト18歳の9月末くらいの時間軸の話になります。
……波風ナルトが物心ついた時には、波風家は父親一人息子一人の二人きりの家族だった。
「おはよう、ナルト」
そう言って爽やかに微笑む父は愛おしそうに自分を見ている。
多分とても愛されていることは、幼いながらも漠然と理解していたように思う。
いや、幼いからか。
父の愛情を疑ったことはない。
そして父といれる時間はとても貴重だ。
だからナルトは太陽のように二パリと笑って父ミナトに言うのだ。
「おはよう、とうちゃん!」
たとえ一日に父と会える時間が一時間に満たないほどしかないにしても、それでもナルトは父の事が好きだった。
波風家の朝ご飯はレタスにミニトマトそれに少し焦げた目玉焼きとトーストと決まっている。
父ミナトはとても器用で、忍びとしてはうんと優秀な人であるらしいのだが、どうやらそれは料理には反映されていないらしい。
ナルトと……息子と食卓を毎日共に出来るのは朝食くらいだから、せめて朝飯くらいは自分が作ってやりたい。
そんな思いで作られた朝食は目玉焼きは焼きすぎでかたいし、レタスはちぎっただけでトマトも載せただけという代物であったが、大好きな父と一緒の食卓だけあって、ナルトはそんな朝ご飯でもラーメンの次に好きだった。
「それで、それで~……オレってばさ、でさ、でさ」
と昨日あったことをご飯を食べながらナルトが父に報告すると、ニコニコしながら父が聞いてくれる。
時には「お弁当がついてるよ」と顔を手ぬぐいでぬぐわれることもある。
「わっぷ……へへ、ありがとーとうちゃん」
そうやってお礼を言うと「ん! お礼をいえて偉いね、ナルト」そういって頭を優しく撫でてくれる父との時間がナルトは好きだった。
だけど、楽しい時間というのはあっという間に終わってしまう。
「おはようございます、火影様、坊ちゃん」
「ああ、おはよう」
そういってやってきたのは父が雇っている波風家のお手伝いさんだ。
波風家に雇われているのは元くノ一のうみのコハリという中年女性と、二十代後半くらいの油女一族のくノ一……下の名前はナルトは知らない、の二人であったが、今日は油女のおばちゃん……幼児から見ると二十代女性は立派なおばちゃんである、が担当らしい。
コハリおばちゃんが良かったなあと内心ナルトはガッカリした。
別に油女のおばちゃんが嫌いなわけではない。彼女はプロフェッショナルだし、放任主義だ。家の仕事はきっちりしているし、ナルトに見張り用の蟲を一匹つけておいて、あとは危険行為はしない限りは好きにさせてくれる。
だけど、いつだって鉄面皮だし、サングラスで目元が隠れてて何考えているかわからないし、ナルトとは一定の距離を置いていて仲良くなる気がそもそも見えない……子供というのは案外そういうのには敏感なものだ。ナルトは彼女が自分と接するのは、あくまでも仕事としてでしかない事を無意識に理解していた。だからこそ、苦手だ。
対してうみのコハリは違う。
絵本を読んで、ナルトが悪戯をしたら叱って、時には優しく頭を撫でてくれる。彼女がそうすることも仕事のうちなのかも知れないが、そこには親愛があった。
だからナルトはコハリが好きだった。でもどちらにせよ、この時間は少し嫌いだ。お手伝いさんが家に来たということはつまり、父が家を出る時間が来たって事だからだ。
「じゃあ、ナルト。父さん、行ってくるから」
「……」
昔……といっても、幼児にとっての昔なので数ヶ月前までのことだが、父にこう言われる度にナルトはギャン泣きしたものだ。「とうちゃん、いっちゃヤダ!」とかぐずって聞かないナルトに父は「ナルト、父さんは火影様なんだ、行かないわけにはいかないんだよ、わかってくれるね?」と困った顔で言われ、コハリおばちゃんには「ナルト坊ちゃん、良い子だから、お父様をお見送りしてあげましょう?」と窘められたものだ。
決まり文句は「火影だから」だ。
父は「火影だから」行かないといけなくて、ナルトは「火影の息子だから」我慢しなくちゃいけない。
それを幼いナルトの心は理不尽だと感じていた。
(オレのとうちゃんなのに)
だけど、何度泣いても駄目で、どんなにぐずっても父は火影塔に行ってしまう。そう学習した。
だからナルトは、にぱっと笑いながら言うのだ。
「いってらっしゃい……! とうちゃん! おしごといっぱい、いっぱいがんばってだってばよ……!」
すると父は嬉しそうに笑うのだ。
「! ああ、ナルト、父さん行ってくるよ」
ミナトの顔には息子がわかってくれた、そんな喜びが満ちていた。息子の為にも里人のためにも火影として頑張るのだ、そんな決意を今日も彼は胸に抱きしめている。
ナルトは父が好きだった。
だから笑うのだ。行かないでと泣いて縋っても聞いてくれないことを知っているから。だから、好きな人に嫌われたくなくて笑うのだ。自分の言葉で父が喜んでくれることを理屈としては理解していなかったけれど、彼は本能と直感で理解していた。
父はナルトの額にキスを落して、「行ってくる。今日も良い子で過ごすんだよ」そう言って次の瞬間、まるで元からいなかったように消えた。
「……」
父からのキスは嬉しい。
でも寂しい。
ナルトは先ほどまでの笑顔が嘘のようにきゅっと唇を引き結んで、泣きそうな自分をぐっと耐えた。
わんわんと泣いた所で油女のおばちゃんは自分を慰めてくれるわけじゃないし、父に知られたら嫌だからだ。
だから自分を誤魔化すようにお気に入りのフワフワ尻尾の狐のぬいぐるみを抱きしめて、ぼすりとソファにうつぶせになる。
その間、せわしなくお手伝いさんが洗い物をして、洗濯機を回す音が響く。
父は火影で、火影というのが一体なんなのか幼いナルトには上手く理解出来ているとはいえない。
ただ、すごい人であるということしかナルトにはわからない。
そして彼は忙しい。
だから、息子のために朝食だけは作るけれど、家のことをする時間などはないらしい。だから幼い息子の護衛と子守を兼ねてお手伝いさんを雇っているのだ。
でもお手伝いさんはあくまでもお手伝いさんであって、ナルトの家族ではない。
そもそも彼女達には彼女達の家庭があり、子供もいるらしい。
彼女達にとってナルトが一番になることは有り得ない。
「……」
大人はすぐ子供は何もわからないと思いがちだが、子供は子供なりに色々考えてはいる。
だけどこの小さな体と脳みそはその思う感情の適切な変換の仕方を教えてはくれない。思うところはあっても、それをなんと表現するのかはわからない。だから、泣いて叫ぶのだ。思いを、感情をぶちまけるように。だけど、それが必ずしもいつも通じるわけではない。
人は学習する。
それは子供も同じである。
(とうちゃんがホカゲじゃなかったらオレともっといてくれたのかな……)
そもそも火影って何だよ。
幼いナルトにはわからない。あの歴代火影の顔岩に父の顔も並んでいるのは誇らしいような気もする。ただ、寂しい。ナルトがそんなことを考えている間も油女のおばちゃんは部屋に掃除機をかけ、洗濯物を干しにいく。そんな生活音をBGMに、幼いナルトの意識は夢の中へと旅立っていった。
* * *
あ、またこの夢だ、と幼いナルトの意識はぼんやり思った。
気持ちいい水の中でユラユラと微睡んでいたのに、どこかから引きずり出され、それが酷く苦しくて赤ん坊の自分が泣いている。
知らない寂しいところに置き去りにされて、おぎゃあおぎゃあと泣いている。
すると、そこに一人の少年がやってくるのだ。
黒い髪の少年だ。顔は逆光になってわからない。いや、覚えていないだけなのかもしれない。
ナルトにも似た髪質の、ツンツンとした髪型の少年は左目に黒い布を結んでいる。
そんな少年が、寂しい苦しいと、おぎゃあおぎゃあと泣く己の体を抱き上げるのだ。
暖かく、その少年からは優しい森の香りがした。
そして澄んだボーイソプラノが言葉を紡ぐ。
『なぁ九尾、この子を頼むな』
* * *
「…………オビ……」
「坊ちゃん、お目覚めですか?」
とさり。
気付いたらナルトは何かを掴もうと右手を伸ばした姿勢で、今まで寝ていたソファから落ちていた。
「???」
何かの夢を見ていた気がするのだが、イマイチ思い出せなくてはて? と首を傾げる。
だが幼児故に深く考えることもなく、ふぁあと欠伸をしてぐっと体を伸ばす。
時計を見たら今は朝の十時であることがわかった。
「奥様のところに行きますか?」
油女のおばちゃんが言う奥様っていうのは、ナルトの母親のことらしい。
それにナルトは「うん」と肯いてから元気よく飛び起きた。
波風家はナルトが物心ついた時には既に父一人、息子一人の二人っきりの家族であった。
だけど、大抵の家庭には父親だけでなく、母親という存在もいるものらしい。
そしてナルトにも「母ちゃん」はいるらしい。
実感はないけれど、そういうものだとこの金髪碧眼の幼児はわかってはいた。
もうすっかり通い慣れた病院までの道程を、小さな手足をちょこちょこ動かしながら歩く。
コハリのおばちゃんなら病院まで大変だろうとナルトの体を抱え上げるけれど、油女のおばちゃんは違う。元気が有り余っているのだから歩かせればいいとそう思っているのか、後ろから見守るだけだ。
そうして病院に入り、奥の母親が眠っている特別室に辿り着く。
「母ちゃん」
そう、名を呼び、自分の母親だと教えられた赤髪のその人に近づく。
今日もまた彼女はいつもと変わらず、昏々と眠りこんでいた。
殆ど毎日のように会いに来てはいるけど、いつ見ても綺麗な人だと思う。
夕日のような赤くて長い髪がシーツに映えて、肌も白くて透き通るようで、まるで童話に出てきた眠り姫のようだ。
ポスリ、とナルトは彼女が寝ているベットのシーツに頬を擦り付けるようにして、間近でその母親であるらしい人をマジマジと観察する。このまるでお人形のように綺麗で現実離れした人がナルトの「母ちゃん」であるらしい。この人がお前の母親なんだよとそう教えられたから知っているだけで、芯から理解しているわけではない。
だって、この人が起きて動いている姿をナルトは見たことがない。
どんな声で話して、どんな風に笑うのかも、ナルトは知らない。
きっと家に飾られた写真で見ていなければ、瞳の色さえ知らなかっただろう。
母ちゃんと呼んではいるけれど、その実感はない。
だからナルトにとって母ちゃんは、そういうものなだけで、彼の家族は父だけなのだ。
「……そろそろ帰りましょうか、坊ちゃん」
「うん」
家までの道程を行きと同じようにポテポテとナルトは歩く。
(まただ)
視線を感じてそちらに向けばよく知らない大人がナルトを見ていた。
これはナルト自身は知らない話であるが、彼の中には九尾の狐が封印されている。そういう風に尾獣が封印されている人間の事を人柱力という。
木ノ葉隠れの里で最初に尾獣が封印されし人柱力になったのは、初代火影である千手柱間の妻ミトそのひとであった。その事から、彼女の身を守る為にも基本的に人柱力の情報は公開されることはなかった。
そして木ノ葉隠れの里で人柱力という存在があることそのものを知る事が出来る者自体、上忍以上と限定されていた。だから中忍以下の何も知らない里人がナルトを見て何かを思う事は無い。何故ならそういう存在があるという事自体知らないからだ。
だが、裏を返せば上忍以上は違う。彼らは人柱力という存在を知っている。
そして約四年前に起きた九尾事件。事件が終息したタイミングからして、誰が人柱力になったのか……公表はされておらずとも持っている情報を元に彼らは理解してしまったのだ。
あの時生まれた赤子……四代目火影の息子が九尾の人柱力であることを。
四年前の九尾事件、数々の英雄の活躍により被害は最小限に抑えられたけど、それでも死者が出なかったわけではない。死者は出た。十四名の死者。事件の規模の割には少ないといえるかもしれないが、その死者を身内に抱えるものから見たら、数の問題ではないのもまた事実だろう。
ナルトは幼い。もうすぐ四歳になるが、まだ三歳の幼児なのだ。
だから、思うところがあってもそれを上手く言語化する能力は無い。
子供は大人が思うよりもずっと敏感だ。時々一部の大人から向けられている悪意の眼差しをナルトはとっくに感じ取っていた。
胸がムカムカして嫌な感じだ。
でも、それだけだ。彼らは表立って何も言わない。それはナルトが四代目火影の息子だからだ。四代目火影の名でナルトは守られていた。だけど、そんなこと幼子にとっては関係ない、知ったことじゃない。
なんで自分がこんな眼で見られないといけないのか、その形容詞を知らなかったけれど、ナルトの心は理不尽だと叫んでいた。
家に帰り、油女のおばちゃんが作ったオムライスを頬張る。
なんの変哲もないケチャップライスに卵をかぶせたオーソドックスな代物だ。それを食べ終わると一時間のお昼寝タイムになる。
コハリのおばちゃんが担当の時は午前中が自由時間で、夕方から母の元への見舞いだけど、油女のおばちゃんが担当の日は逆に午前中が母への見舞いで、午後からが自由時間だ。
だから昼の二時を過ぎた頃にすっくと起きて、ナルトは「こうえん、いってくるってばよ!」と元気にお気に入りのサンダルを履いて飛び出した。
これがコハリのおばちゃんならついてくるのだが、油女のおばちゃんは違う。
子供は好きに遊ばせるべきだと思っているのか、見張り用の蟲を一匹ナルトの肩につけたらあとは好きにさせている。彼女はわりととことん放任主義だった。
公園についたが、今日は残念ながらあまり人がいないようだ。
いることはいるが女の子たちばかりなので、流石に混ざる気になれずナルトは少し肩を落し、ブランコに座る。
そのままギコギコとブランコを緩く漕ぎながらぼんやりと空を見上げる。
今日は快晴だ。
こんなに気持ちいい日なのに、先ほど浴びた視線を思い出してナルトの心はどうにも晴れない。
そんな風に足をぶらつかせながら考えている時だった。
「よぉナルト」
明るくハスキーな低音が剽軽な口調でナルトの名を呼ぶ。
それが誰なのかわかって、ナルトはぱぁと顔を明るくしながら彼の名を呼んだ。
「オビト……!」
「だから、なんでオレの事は呼び捨てなんだ、お前は。オビト兄ちゃんって呼べ、オビト兄ちゃんって」
そういって呆れたような顔をしながら、ナルトに視線を合わせるように行儀悪くしゃがんだ黒髪隻眼の青年の名前はうちはオビト。父の元部下で直弟子というものだったらしいが、幼いナルトに難しい事はわからない。
ナルトにとってはたまに会って、遊んでくれる兄貴分みたいな存在だ。
尤も、オビトを兄と呼ぶのもなんか違う気がするので、きょとんとしながら「オビトはオビトだってばよ……?」と返すのもお約束であったのだが。
オビトはそんなナルトに少しだけ呆れたように半目になるが、やがてくしゃりと犬の子の頭を撫でるようにナルトの金髪をかき回して、隣のブランコに腰をおろし、なんでもない口調でナルトに問う。
「それで? なんで黄昏れてたんだよ」
「んー……」
なんで、と聞かれてナルトは俯く。
彼はまだ幼く、語彙もあんまりない。思っている言葉を上手く口に出来るほど早熟な子供でもない。
ふと見上げたときにナルトの目に飛び込んできたのは、代々の火影の顔が彫られた火影岩だ。そのうち一番左に彫られた一番新しい顔岩は自分の父の顔を模していた。
「なーオビトォ……オビトはホカゲになりたいってホントォ?」
「オウ」
ギコギコとブランコをこぎながらナルトが言う。
それに気負う事も無くオビトは肯定する。
「……なんで、ホカゲになりてーのォ?」
「なんでってお前……」
そこまで答えてからオビトは気付いた。
ナルトは泣きそうな目をしていた。
いつかのリンの言葉がオビトの脳裏をよぎる。
『物心つく前からお母さんはずっと眠っていて、お父さんは火影だから、出来るだけ気にかけていてもどうしてもナルトくんの側にはそんなにはいれなくて……寂しい子なんだよ』
オビトにとって火影は憧れであり目標だ。
だが、もしかしてナルトにとって火影とは、自分から大好きな父を取り上げるそんな存在なのかもしれないとオビトは察した。思えば、同期であった三代目火影の息子アスマにもそういう傾向はあった。
フゥとオビトは吐息を一つ零す。
それからニッと、明るい顔で微笑みながら高い高いの要領でナルトの小さな体を持ち上げる。
「わっ」
吃驚して目をパチクリさせるナルトを前に、カラカラと笑いながらオビトが言う。
「……そういやナルト。お前、あと二週間で誕生日だったな」
ナルトの誕生日は十月十日だ。次の誕生日でナルトは四歳になる。
「良し、ナルト。少し早いが誕生日プレゼントだ……! オビトお兄さんが本を買ってやろう」
「え……?」
その言葉があまりに予想外だったのかナルトはパチパチと瞬きを繰り返す。
「オレ、ほんなんて……」
正直ナルトは本なんて碌に興味がない。
コハリおばちゃんに絵本を読んで貰う事は在るけれど、そもそもまだまだ幼いのもあってナルトは字自体殆ど読めない。ぶっちゃけ如何にも勉強出来そうなカカシ兄ちゃんならともかく、自分と同じタイプに見えたオビトが本を買ってやろうなんて言い出す事自体予想外だった。
「いーから、いーから行くぞ」
そういってオビトはナルトを肩車して本屋へと向かった。
* * *
有言実行というわけか。
最初から何を買うのかは決まっていたらしい。ナルトは特に待たされることもなく、オビトは流れるような早さである本を選び、包んでもらい、そのままナルトを抱いたまま彼の自宅まで戻ってきた。
ナルトとしては本に興味があるわけでもないが、それでもオビトから贈られた自分宛の誕生日プレゼントである。
綺麗にラッピングされたリボンと包装紙を開けて、中から出てきたのはどこか見覚えがあるような顔をした凜々しい若武者と、針鼠みたいな髪型をした赤鬼が背中合わせにポーズを決めている表紙の絵本だった。
「なぁなぁオビト、これなんてかいてんの?」
「『真眼のイズナ』だ」
オビトは自信満々の顔で誇らしげにフンスと鼻息を荒くしながらそう告げる。
「しんがんの、イズナ……?」
「二代目火影様の活躍を書いた話だ。火の国の子供でこれを知らないのはモグリみてーなもんなんだぞ」
そういってオビトはナルトの為に買ったその絵本……絵本というより挿絵多めの冒険譚である、真眼のイズナ第一巻の朗読を、ナルトを膝に乗せたまま開始した。
……十分後。
そこには朗読が始まる前とは打って変わって、キラキラと碧い目を輝かせながらオビトの話す物語に耳を傾ける子供がいた。
「……彼は言いました。『この眼は全ての真実を見抜く。この真眼のイズナの目に見破れぬ悪など無し』そういうとイズナは悪の科学者を全て兄マダラと共になぎ払い、そうして村には平和が戻ったのでした。めでたしめでたし」
「わあああ! カッケー!! すっげーカッケーてばよォ!!」
そういって金髪碧眼の幼児は興奮のままに手足をバタバタさせて騒ぎ、はしゃぐ。
そこにはもう、火影という単語を前に泣きそうな顔をしていた幼子の姿はない。それに隻眼の青年は安堵する。
(先生が……火影が誤解されるのはやっぱ嫌だしな)
オビトがこれで親子仲もこじれないだろうと安心しているなどつゆ知らず、ナルトはキラキラと興奮も冷めぬとばかりに期待一杯にオビトに問う。
「なぁなぁ、オビト! とうちゃんも、とうちゃんもこーいうことしてんのォ!?」
「ああ、そうだぞ。ミナト先生は、オマエの父ちゃんは皆の火影様だからな! ミナト先生は凄くて世界一格好いい忍びなんだ」
「とうちゃん、スゲーーー!!」
そういってナルトはオビトの首に抱きつき、興奮のあまりオビトの背中をバンバン叩く。
(ホカゲって、ホカゲってすげー! カックイー!!)
今までは火影ってなんなのかわからなかった。
父があまりナルトといてくれないのも、それをナルトが我慢しなきゃいけないのも全部火影のせいだって思ってた。だけど、火影ってこんなに凄くてかっこいいものなんだ、とナルトは目から鱗が落ちる想いだった。
なら、仕方ない。
オレはホカゲの、とうちゃんのむすこだからな、ちゃんといいこにがまんできるんだってばよ、とフンスと鼻穴を粗くしながらナルトは思った。
「オレも、オレもホカゲになる!」
「はあ? 先生の次に火影になるのはオレだし。残念だったなナルト」
「ちがーう! オビトじゃなくてオレがなるんだってばよ! なるのー!」
この日、波風ナルトには夢が生まれたのだ。
アカデミーに入学後、自分の将来の夢を語るときナルトはこう語った。
『オレはしょーらい、父ちゃんやオビトをこす、すっげーかっこいい火影になる!』
ナルトとオビト・了
次回、閑話・ナルトとコンコン