隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
おまたせしました。多分最初で最後のクラマさん主役回です。
時系列的にはナルト2歳数ヶ月くらいの時の話。


閑話・ナルトとコンコン

 

 

 

 ―――……それは随分と遠い遠い昔の記憶。

 

『守鶴・又旅・磯撫・孫悟空・穆王・犀犬・重明・牛鬼・九喇嘛。離れていてもお前達はいつも一緒だ。いずれ一つとなる時が来よう……』

 そう静かに語りかける六道仙人(じじい)の声を、彼はよく覚えている。

 いつかお前達を理解する者が現れると……世迷い言を告げるその声を。

 

 ……本来、彼しかいない筈のこの空間に甲高い幼子の泣き声が響く。

「コンコン~……コンコン~……」

 ヒックヒックと泣きじゃくりながら、うずまきの家紋を水玉模様に見立てたパジャマと、そろいのナイトキャップをかぶった、物心ついているかも怪しい金髪碧眼の男童が彼の檻があるほうへと近づいてくる。

『ち……またか』

 そういって、彼……人間ではない。

 人間達が九尾の狐と呼び畏れている最強の尾獣……名を九喇嘛(クラマ)という、は苛立たしげに片目を開けた。

 折角良い気分で寝ていたのに台無しにされた気分だ。

 そんな事を思いながら、今日も無駄と思いつつ彼は威嚇するようにグルグルと喉を鳴らしながら、露悪的に告げる。

『おい、ガキそれ以上近づくんじゃねェ、食っちまうぞ』

 齢二つだか三つだかのこの子供こそが、九尾の狐……つまり九喇嘛を捕らえている檻であった。

 このガキは人柱力と呼ばれている存在だ。

 尾獣を体内に封印されている人間のことを人柱力という。

 つまり、ここがどこかといわれたら……この子供の精神世界の中に存在する結界の中なのだ。

 九喇嘛達尾獣とはさて一体なんたるやといえば、意思を持つ巨大なチャクラの固まりであり、自然現象であり、また忍び達の開祖たる存在……六道仙人であったハゴロモによって十尾を分割されて生まれた精神生命体である。

 動物の姿を模しているものの、根本的にはあれらとは別の存在だ。

 その証拠に、九尾の狐と言われている九喇嘛の容姿は確かに動物に例えるなら狐に似てはいるが……尾が多くてデカいだけでなく、狐と呼ぶにはあまりにも耳が長くて禍々しく、狐そのものとは言い難い容姿をしている。

(人間なんて嫌いだ……)

 九喇嘛は特に嫌っているが、それは別に何も九喇嘛だけの意見でもないだろう。

 尾獣は巨大な力の固まりである。

 だからこそこれまでも、きっとこれからも人間は……愚かな忍び達は尾獣達(じぶんたち)を利用し、兵器として扱っておきながら、野放しにするには危険すぎると、身勝手な理屈で押さえつけてきたのだ。

 そんな人間達の一体どこに、好きになれる要素があるというのだ?

 確かに六道仙人のじじいのことは好きだった、それも一つの事実である。

 だが、あのじじいが最期に言ったことだけはとてもではないが信じられない。いつかわかり合える日が来るなどと、耄碌していたんじゃないかと九喇嘛は今でもそう思っている。

 それくらい人間に失望していたし、嫌悪していた。

 あいつらは身勝手だ。

 こちらにも意思があることを知ろうとしない。

 口先だけの言葉で懐柔しようとしてきやがる。

(……このガキもきっとそうだ)

 波風ナルト。

 四代目火影波風ミナトと、先代の人柱力にして九喇嘛の陰のチャクラを再封印されたあの女……うずまきクシナの間に生まれた一人息子。

 今は何も知らず自分にちょこちょこと歩み寄ってくるこの子供も、いつかは自分を……九喇嘛を利用しようとするのだろう。

「コンコン~……」

 よちよちと歩きながら、子供はまるで親に甘えるような声を出しながら、檻の隙間から九喇嘛に近づいてくる。

『だあああ~、だから、ワシはコンコンなんて名前じゃねェ!! 懐くなガキ!』

 いくら幼いとはいえ、コイツ本当にオツム大丈夫か? と苛々しながら九喇嘛は考える。

 多分このガキは混同しているのだ。

 このガキがお気に入りで、起きている時によく抱いているぬいぐるみは、今から四十年だか五十年だか前に販売された、九喇嘛がモチーフになって生まれた九尾たんぬいぐるみシリーズの最新作である。

 あれは何年前のことだったか……人間と違う時間感覚で生きている上に、人なんかの中に封印されている九喇嘛には正確な年代などわかりやしないが、とりあえず五十年近く前の出来事である。

 ある日、九喇嘛はある男に遭遇したのだ。

 正確にはあの男は九喇嘛の寝床に検討をつけていたのか、いきなり押しかけてきた。

『おい、九尾』

 傲岸不遜を絵に描いたような男であった。

 風に靡く針鼠のような黒くフサフサと量が多くてツンツンしている長い髪に、闇の中ギラギラ光る写輪眼の赤。うちはの伝統的な装束に赤い鎧を着込み、大団扇を背中に背負ったうちはの赤鬼……歩く鬼神と呼ばれていたあの男。

 うちはマダラ。

『お前、オレに協力して柱間と戦え。断るのならば、それでも構わんぞ。瞳力で支配して連れて行くだけだからな。自分の意思で来るか、それともオレに無理矢理従うのが良いか、結果は同じだ。構わん……選べ』

 ……嫌な思い出だ。

 あの時思いっきり抗わなかった事を、今でも彼は後悔している。

 あの日、あの時彼が九喇嘛に言った言葉、うちはマダラは本気であったということは彼にはわかっている。当初の予定では武練祭だとかいう祭りで初代火影千手柱間と戦いさえすれば、九喇嘛は開放されるはずだったのだ。

 マダラの実力とチャクラ量は、尾獣最強と呼び声高い九喇嘛でも無視出来ないほどに高かった。

 だから、無理矢理瞳力で操られるくらいなら自分の意思で戦った方がまだマシだと、どうせ短時間のことだからと妥協したのが全ての間違いであった。

 マダラも化け物であったが、柱間はそれを超える化け物であった。あれで人間とか本当におかしいんじゃないか。

 たとえマダラのサポートありとはいえ、こんな化け物と戦えとか無茶言うんじゃねえ! と後悔してももう遅かった。逃げ場はなく、逃げようとしたらマダラは自分を完全に傀儡にするだろう。前にも後ろにも逃げ場なんてありゃしねえ。だからただただ必死に自分より馬鹿でかい木龍を相手に戦った。

 そんな九喇嘛があまりに哀れであったからだろうか……仕舞いには「九尾たん、がんばれー」なんて声援の声がそこらに満ちていた。

 人間のガキ共に怖がられるどころか応援されるとか、九喇嘛の長い尾獣人生初とも言える奇妙な出来事であった。

 ただ、そこで終わっていたら……もしかしたら彼の人間不信は少しだけマシになっていたのかもしれない。

 結局九喇嘛は、武練祭の最中に柱間の木龍によってチャクラを吸収されすぎて、気絶してしまったのだ。

 そうして気付いた時にはもう遅かった。

 彼は人間……柱間の妻であった女ミトの腹の中に封印されていたのだ。

 ……騙された、と思った。

 柱間と一戦戦えば開放される筈だったのに、野放しにするのは危険なので……なんて理由で人の中に封じ込められたのだ。ワシはなにもしてないのに! 寧ろマダラに脅され連れてこられて、あんな化け物と戦う無茶ぶりさせられた挙げ句に、その結末が気絶している間に人間の中に封印ってどういうことなんだ! と九喇嘛は怒った。

 プライドの高さから認める気はないが、端的に言えば彼の心は滅茶苦茶傷ついたのである。

 だというのに生来の脳天気さか、鈍さ故か自分の器になった女……ミトは『まあまあ、見て下さい九尾。アナタを模したグッズがこんなに出ていますよ。人気者ですね』なんて言いながら、九尾たんまんじゅうや、九尾たんぬいぐるみ、須佐能乎纏った九尾人形などなど、かっこよさの欠片もないネーミングセンスの九尾グッズを、ニコニコと見せてくるのにまた殺意が湧いたものである。その年は火の国中で九尾の狐ブームが起こったらしいが、九喇嘛にしてみればだからどうしたって話である。

(ワシから自由を奪っておいて、何が九尾たんブームだ!)

 人間なんて嫌いだ!!

 という彼の人間不信は益々深刻化していくばかりであった。

 とはいえ、一過性のブームなどいずれは終わるのが当然だし、人間は忘れる生き物だ。

 数年もする頃には九尾たんグッズブームも収まり、九尾の狐グッズで残ったのは九尾たんぬいぐるみシリーズくらいのものとなった。それも、数多くのぬいぐるみの中の一つとして細々と続いているだけで、オレンジ色の体色をしたそのぬいぐるみが尾獣である九尾の狐をイメージしたキャラクターグッズであることは、もう知っている者のほうが少数派だろう。

 多分あの男……この子供の父親である波風ミナトは数少ない知っている側の一人であろうが、何を考えているのか、この男は息子の一歳の誕生日の日に九尾たんぬいぐるみシリーズ最新作を息子に買い与えた。

 それ以来そのオレンジ色で耳長狐のぬいぐるみを「コンコン」と名付け、すっかりお気に入りとして寝るときにもぎゅっと握っている。 

 だから、このガキは混同しているのだ。

 夜に泣いてここに降りてきて九喇嘛をコンコンと呼ぶのも、そのぬいぐるみのモデルだけあって体色が同じだからなのだろう。

「コンコン~!」

 檻は尾獣を封印するためのものだ。

 故に人間なら簡単に入り込めそうなくらい檻の隙間は空いている。

 なのに近づこうとしても何故か入れない……入れないのは封印のプロテクトによる防衛本能だ。だが幼すぎてナルトというこの子供にはその事が理解出来ないらしい。

 大好きなコンコンのところに行こうとしているのに、行けない。

 それだけ理解してナルトはぴぃぴぃ泣き出した。

 大きな声を上げてワンワンと泣く子供に、頭が痛そうに九尾の狐と呼ばれている彼は頭を抑える。

『…………』

 ……実のところ何故この子供が、夜眠りにつく度にこんな所に来るのか、九喇嘛は知っていた。

 寂しいからだ。

 父は火影で、九尾事件の後片付けや根回しに忙殺されていて、夜は基本帰って来れない。戦争を起こさせない為あの男は必死だ。マルチタスクであれもこれも同時にこなして、帰ってきた頃には既に息子は夢の中。

 この親子がマトモに親子として過ごせる時間はたまの半休を除けば、せいぜい朝の四半刻から半刻ほどだ。

 雇っている家政婦にしろ、夜の八時にはお暇するわけだから、もし途中で起きてしまえば誰もいない一人っきりの家の中で、一人過ごさねばならない。

 それは物心ついていない子供にとってどれだけ心細いことか。

 ナルトに封じられている九喇嘛には、この子供が抱えている不安や恐怖がよく伝わってくる。

(だから、どうした。ワシには関係ないことだ……)

 そう関係ない事だ。が……。

『なぁ九尾、この子を頼むな』

 穏やかな眼差しと共に、澄んだボーイソプラノで、そう数年前に言われた言葉が脳内でリフレインする。

『ちっ』

 九喇嘛は人間なんて嫌いだ。

 奴等は嘘つきだし、酷く身勝手で醜い。

 ここ五十年ほどの九喇嘛に起こった理不尽だってそうだ。あの時、この子供を頼むなんて言ってきた片目の小僧と同じ血をひいたその先祖がそもそもの不幸の元凶であるし、その台詞を言った小僧こそがこんなガキの中に九喇嘛を封じた張本人なのだ。

 よって、その頼みを聞く義理はない。

 義理はないが……九喇嘛としては不本意で悔しいことに、あの眼差しと声の温度に……ハゴロモのじじいを重ねてしまったのだ。

 彼の元で過ごした短い日々が、九喇嘛の長い尾獣生で尤も幸せな時期だった。

 親のような六道のじじいが消えて……悲しいと泣いていた小さくて無力な子供だった、そんな幼少期が九喇嘛にもあったのだと、それを、思い出してしまった。

「うぇええ……コンコン~……」

 ヒックヒックと幼子が泣いている。

 ぐしゃぐしゃに顔を歪めて、鼻水と涙をたらして、波風ナルトという子供がぴぃぴぃと泣いている。

『……ったく』

 そういってめんどくさそうに寝そべったまま、九喇嘛は自分の尻尾の一つをナルトの前でユラユラと揺らした。

 金髪碧眼の幼子はそれを見て目をパチクリし、次に何が楽しいのかキャッキャと笑う。

 九喇嘛が檻の隙間からほんの少しだけ尾をたらすと、ナルトはとてとてと近寄って、ぽすんと幸せそうに彼の尻尾にくるまった。

「……コンコン、あったかーね……へへ……しゅき……」

 むにゃむにゃとそんな寝言をほざいて、波風ナルトはすやすやと眠りに落ちた。

 それにともない彼の体がすぅと薄くなっていく。

 ここはナルトの中にある精神世界だ。きっと現実の彼が目覚めようとしているのだろう。

『おい、ガキ。ワシはてめーのコンコンじゃねえからな、もう寂しいからって来るんじゃねェぞ』

 

 そう呟く九喇嘛は気付いていなかった。

 そんな台詞を口にしている時点で、随分この幼子にもほだされているという事実に、彼は気付いていなかった。

 

 

 

 ナルトとコンコン・了




 隻眼の木遁使い第三章「オビト青年編」予告台詞集



「オビト、君の事も家族だと思っているよ」
「……かっこいいな」
『私はカカシに恋をしていた過去を後悔していない』
「写輪眼の双璧を知っているか?」
「もう知っていると思うけどオレは君の兄弟子の長門。君のことは……オビトって呼んでいいかな……?」
「オビトさんは火影を目指しているんだろう? もしその夢が叶って火影になったなら、その時アンタを支える基盤になるのは一族だ。あまり蔑ろにするべきじゃない」
「姫巫女……様?」
「クシナ……!」
「オビト、今年の武練祭、君が神楽を舞うんだ」

 次回第三章一話「50.お泊まり」お楽しみに。
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