隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
お待たせしました、今回より第三部青年編スタートです。


オビト青年編
50.お泊まり


 

 

 

「……以上になります」

 調印式が行われた翌日、2月8日の午前10時頃。

 オビトとカカシ両名は火影塔にて、当代火影にして元上忍師でもある波風ミナトに、今回の同盟設立の補助任務についての詳細を口頭で報告していた。

 勿論、報告書も既に昨晩のうちに纏め済みであり、それは今ミナトの手の中にある。

 カカシが作成したのであろう報告書は、丁寧かつ簡潔に見やすい字で纏められており、この銀髪の部下の有能さが窺い知れるというものだ。

 それに比べて、オビトの報告書は……頑張って書いているのは見て取れるのだが、まだまだ拙いところも多い。

(ま、それはこれからの課題かな?)

 ニコニコとした感情の読めない笑顔の下で、金髪碧眼の美丈夫はそんなことを考える。

 左顔面に、額宛の布を幅広にとって眼帯代わりとしているこの黒髪隻眼の青年は、隣に立つカカシに比べると至らない部分も多いが、カカシが年の割に成熟過ぎているだけとも言えるし、まだ年若く経験不足なだけとも言えるのだから、これからに期待だ。

「ん、カカシ、オビト。二人ともご苦労だった」

 そうにっこりと微笑みを浮かべたまま、ミナトが労りの言葉を述べると、黒髪隻眼の青年……うちはオビトは嬉しそうに口元を綻ばせるのに対し、銀髪の青年……はたけカカシはピクリとも表情筋を動かさないという、対照的すぎる反応を見せる。

 こういうところがまだまだといえるし、この黒髪の部下の可愛い所でもある。

 すぐに感情を見せるのは忍びとしては良いことではないが、火影を本気で目指すつもりなら、それは必ずしも短所とも限らないのだ。

 皆に認められた者こそが火影になる。

 だからこそ、思いを示すことも時に長所となる。感情に振り回されたり、それで理性的な判断を下せないようでは困るが、自分たちの為に本気で笑い嘆き喜ぶ。何を考えているかわからない人間よりも、そんな人間にこそ人はついていきたいと望むものだろう。

 それを夢を叶えた先達であるからこそ、ミナトはよく知っていた。

「今回は長い任務だったからね。今は急ぎの任もないし、このあとは五日ほど非番にしてあるから……ゆっくり体を休めなさい」

 あ、カカシ君は暗部の任務のほうで話もあるから、あとで居残りね。

 そうなんでもないようにミナトが告げ足すと、カカシは至極当然という顔でサラリと受け流し、オビトはマジか、暗部も大変だなという目で相棒を見る。

 まあ、でもこの辺は仕方ないことといえば仕方ない事である。

 なにせカカシは上忍であり、暗部の部隊長もしているのだ。

 今回の任務に駆り出すにあたり、副官が役割を代行していたわけだが、本来の部隊長はカカシだ。その辺のいなかった間の情報の共有やすり合わせもあるので、実務がなくとも今日一日は潰れることは確定だ。

 オビトが今回の任務後に五日間の非番を与えられたのも、あくまでも彼の地位が今だ、ただの木ノ葉の一中忍に過ぎないからこそであり、上忍かつ、暗部で部隊長をやっているカカシとは根本的な立ち位置が違うのだ。

 おそらくオビトと違い、カカシが非番を満喫出来るのはせいぜい明日明後日の、二日間が限度だろう。

 だが、その事でカカシに否やはなかった。

 相棒と言ってくれるのは嬉しいが……自分とオビトでは、文字通り立場が違うのだ。

 ただ、それでも暗部のことは表の忍び(オビト)に詳細を話すことでもないし、話すわけにもいかない。

 オビトはカカシが暗部をやっていることは知っているが、部隊長をやっていることまでは知らないだろうし、知ったら知ったでまた先を越されたと落ち込まれそうだ。

 なんてことをカカシは考える。

 まあでも知らないからこそ、余計な心配をかけないですむという面もあるので、これはこれでいいのかもしれなかった。

「それとオビト……明後日は君の誕生日だね。少し早いけど、18歳の誕生日おめでとう」

 そう言ってミナトはにっこりと笑った。

「……!」

 その言葉に、オビトは吃驚したように唯一露出している右目を見開く。

 その目は口よりも雄弁にまさか先生がオレの誕生日を覚えてくれてたなんて、と語っていた。

 オビトは嬉しさと興奮に顔を林檎のように真っ赤にして、それから照れくさそうに鼻頭を掻くと、満面の笑みを浮かべて「は、四代目様、有り難うございます!! それでは失礼します」そう言って勢いよく頭を下げてから火影室を後にした。

 

 ……誰かが、自分の誕生日を覚えていて、祝ってくれるのっていいものだな。

 そんな事を思いながら今にもスキップしてしまいそうなテンションで、オビトはやや浮かれ気味に火影塔を出る。冬のまっただ中だというのに、今日は太陽も顔を出しているし、良い日だ。

 そして今日も、うちはオビトの日常としては当たり前でよくある光景として、ヨタヨタと重い荷物を背負っているじいちゃんに出くわして「手伝うよ」と手伝いを買って出るのも、まあいつも通りのうちはオビトの日常という奴だろう。

「おお……悪ィな、オビト」

「いいって、いいって。困った時はお互い様だろ?」

 そう言って商店街にある老人の店まで彼の荷物を運ぶ。彼が背中に背負っていたのは瓶ビールが二四瓶入っていた箱だ。

 もしこのまま放置して、目の前の老人がギックリ腰にでもなったら目覚めが悪い。

「かぁ、若い頃はこんなのチャクラコントロールでなんともなかったんだけどなァ……」

「いいって、じいちゃん足悪いんだから無理すんなよ」

 てか人雇おう? とオビトが苦笑しながらいうと、六十歳近い年齢の、足を悪くして忍びを引退した元戦忍の酒屋店主は、ガックリと頭を落した。しょうもない意地であることは自分でも理解していたようだ。

「ま、でもマジで助かったよありがとな、オビト。これ駄賃だ、飲んでけや」

 そういって店についてオビトが荷物を置いた後に、男はホットのおしるこ缶を彼によこす。

 まだ暖かい。

 実際に飲むかはともかく、その気持ちが嬉しくてオビトは「オウ、有り難うな」とニッコリ笑って返して、酒屋を出たその時であった。

 

「あーーー! オビトォ!!」

「ん?」

 甲高い幼子の声が自分の名を大声で呼ぶ。

 それに反射的に振り返ったその先に見えたのは、両頬にまるで猫のヒゲみたいな三本線のアザ? が入った金髪碧眼の幼児であった。澄んだ碧い目をまん丸に大きく開いて、ちっちゃい紅葉のような指でビシリとオビトに指さしをしている。

(えっと、確かミナト先生とクシナさんの子供の……ナルト、だったよな)

 と、幼児の両親の顔を思い浮かべながら考えているオビトに対して、齢三歳の幼児……波風ナルトはじわぁと目尻に涙を溜めたかと思えば、そのままトテテテとオビトに走り寄り、思いっきりオビトの腰の辺りに頭突きをするようにタックルして抱きつくと、次のような台詞を発しながらびぃいい~! と泣き出した。 

「オビトのバカァ!! なんで、かってにいなくなったんだってばよォ……!!」

「ええええ!?」

 オビトにしてみればさっぱり意味がわからなかった。

 なにせ、ナルトと会ったのは今日の出会いを入れて、これで正真正銘三度目である。

 一度目はナルトが生まれたての赤ん坊の時だった。あの日、九尾の狐をナルトの中に四象封印で封じたのはオビトであるが、年齢的にナルトがあの日の事を覚えている可能性はまずないだろう。

 二度目の出会いは去年の十月の事だ。

 リンに連れられて元ミナト班三人でクシナさんの病室に訪れて、そこでナルトに出会った。彼は何故か初対面……と思われている筈のオビトに抱きついてきて、匂いを嗅いできたと思ったらオビトの腕の中で眠りだしたのだ。

 なのでそのままナルトの子守を務めていた、うみのコハリという中年女性に眠るナルトを預けて三人でクシナさんの病室を後にした。

 その二回がナルトと出会った全てであるはずだ。

(それがオレが勝手にいなくなったってどういう事だよ!?)

 てか人の腰にくっついて人聞き悪い事言ってぴーぴー泣くなよ、オレが悪者に見られるだろうがー! と心の中で叫びながらオビトはもう涙目であった。しょうが無い、伊達に泣き虫忍者とか渾名つけられているわけではないのだ。元々オビトの涙腺はとても緩い。

 それでも、オビトとてそろそろ大人の仲間入りも近づいてきた年だ。根気強くナルトを慰めて、彼の頭を撫でてあやして、なんでそんな事を言い出したのか聞き出すことに成功した。

 すると、どうもナルトは前回病院で出会ったときに、ナルトの中ではどうやら勝手にオビトが迷子になってどっか行って、帰ってこなかったって事になっていた事が判明した。

「かってにどっかいったらだめだってばよ!」

 とぴいぴい泣きながら語るナルトを慰める手はそのままに、白目剥きながらオビトは内心で頭を抱えた。

(こ、子供の思考回路って訳分かんねー!!)

 いや迷子になってませんけど!?

 てか、あの時がお前にとってはオレと初対面だったろうが、お前の中でオレってなんなの? は? 意味わかんない? とオビトの中で疑問が渦巻くばかりであったが、とりあえず泣く子には勝てない。世間体的な意味で。なので、オビトは「わかった、わかった、いかない、勝手にどっかいかないから。だからもう泣くなナルト、男の子だろ」そう言ってナルトを抱き上げてポンポンと背中を叩いてあやした。

 ……霧隠れのアカデミーで毎日のように遊び役をやっただけあって、子供の扱いも大分手慣れてきた気がする。

 とはいえ、老人の相手ほど慣れていないのも確かだ。オビトは慣れぬ幼児の相手に精神的な疲れを感じた。

 よく見ると、ナルトの背後5メートル離れた位置で二十代後半くらいの、油女一族くノ一らしき女性がじっと立ってオビトとナルトの様子を見物しており、前にナルトの子守をしていた女性とは別の人だが彼女が今日のナルトの子守兼護衛なのだろうと当たりをつける。

 なので、助けを求めるようにオビトが視線を送る。すると、彼女はふいと視線を斜め下に外した。

(見捨てられた……!)

 そんな風にオビトがガーンとショックを受けている時だった。 

 

「えええ!?」

 十代半ばだろう少年の声が再び商店街に響く。

 それに今度はなんだとオビトが振り向くと、そこに立っていたのは見覚えのある同族の少年だった。

(えっと、確か……シスイだっけ。瞬身の)

 もじゃっとしたクセ毛の黒髪、パッチリした二重まぶたの釣り目。うちは一族内ではオビトほどではないがしっかり目の顎に団子鼻でありながら、その特徴のわりに爽やかで、それなりに整った顔に見えるオビトより数歳年下の少年、うちはシスイ。

 確か二代目忍者アカデミー校長だったといううちはカガミの孫で、瞬身のシスイという渾名で最近有名な秀才であった筈だ。元々がうちはの落ちこぼれという評判だったオビトとは逆に、子供の頃から何をやらせてもそつの無い男としてそれなりに有名な少年である。

 そんなうちはの手練れ誉れと名高い秀才少年は、信じられなさそうにオビトと、その腕の中に抱かれたナルトの姿を上から下までじっくり見ると、黒髪隻眼の青年にとって予想外の言葉を呟く。

「オビトさん……アンタ、いつの間に子供が……」

「……は?」

 オビトは目が点になった。

 まさかのナルトと親子と誤解されるなど、想定外である。

 そんな風にナルトを腕に抱えたままフリーズするオビトを置き去りに、シスイの濡れ衣に等しい勝手な推測が続く。

「……そっか。オビトさんが一族からの見合いの要請に応えないのも既に妻子がいたからか、成程。わかった、オレの方から一族に伝えておくから。じゃ」

「ちょっと待てやコラァ!?」

 このままでは根も葉もない噂を事実のように吹聴される。

 そんな危機感を前に、硬直から抜け出して思わずオビトは叫ぶ。

「え、なんですか?」

 それになんで待てをかけられているのかわかりません、という顔をしてシスイが振り返る。

「おいコラ待てシスイ、お前はオレの事いくつだと思ってんだよ!? なんで妻子がいることになってんだ……!? おかしーだろうがァ! ナルトはオレの子じゃねェ!」

 青筋を浮かべながらオビトがそう断言するも、シスイは、ははご冗談を、とか言い出しそうな、まるでオビトの言を信じられないといわんばかりの口調でもって次のような事を述べる。

「いや、だってその子、オビトさんと似てるじゃないですか……? ツンツンとした髪質といい、クリクリした目といい、纏っている雰囲気や表情といい、色以外ほらそっくり」

 ……ナルトの色彩自体は父親であるミナト先生にそっくりなわけだが……言われてみれば、その他のナルトの身体的特徴は自身とよく似ているかもしれない。

 だが、それでも親子と間違われるのは、オビトには納得いかない事だ。

「オマエなァ……だから、それ以前に何歳の時の子供設定なんだよゴラ!? オレはまだ17だぞ、冷静に考えて、んなわけねーだろーが!!!」

 もしナルトが自身の子だったら、十四歳の時の子ってことになるし、そもそもオビトは童貞である。

 子供を作るような行為をしたことないのに子供が出来るわけもないし、風俗も……もし利用したことがリンに知られたら軽蔑されそうだし、年上女性コワいし、そもそも未成年なので近づいたこともない。

 男として名誉とは言い難い情報なので吹聴こそしないが、好きな女の子に誓って、オビトは清い体である。

(オレはリン一筋だ……!)

 子供がいるってことは、女の人とそういう行為をしたってことだ。

 このオレがリン以外の女性に手を出すわけないだろ、じゃなかった。相手がリンだとしても無理強いする趣味なんてないし、リンが好きなのはカカシなんだからそんなことなるわけねー、でもなかった、そもそもナルトはミナト先生の子だ、オレの子じゃねェし、何が悲しくてこの年齢で未婚の父に誤解されねばならんのだ。

 シスイからかけられた疑いはオビトにとっては、とっても理不尽で不服極まりなかった。

「びぇえええ~!」

「え、あ、わ……」

 そんな二人のやりとり……というか、凶悪なオビトの形相と雰囲気に反応してか、一時は泣き止んでいたナルトが、再びオビトの腕の中で大声を上げて泣き出す。

「あーあ、泣かせた……」

(テメエ、シスイこのヤロウ)

「ナルト、悪かった。オレが悪かったから、泣くなよ、な? な?」

 オビトは青筋を立てそうになるが、ナルトを泣き止ます方が先だと思って、昔ばあちゃんにされた事を思い出しながら、トントンとリズムをつけながら背を叩き、ナルトに弱った顔で笑いかける。

「うぇええん、ひっく、ひっく、ぴいい~」

 とはいえ、相手はアカデミーにすら入学していない齢三歳の幼児である。一度泣き出すと中々泣き止まない。

 そうやってオビトが途方に暮れているうちに、元凶となった少年は「あ……用事思い出したからオレはこのへんで……オビトさん、また」といってちゃっかり去って行っていたあたり、次会ったらぶん殴るとオビトが心に決めた瞬間である。

(あ、そうだ)

 そこでふと、ポケットの中にさっき酒屋の店主に貰ったおしるこ缶があったことを思い出し、オビトはポケットからおしるこ缶を出して、ぴとりとまだほんのりぬくいそれをナルトの頬にあてた。

 すると吃驚してナルトが泣き止む。

 それを確認しながらプシュリと缶を開けて、ナルトの口元に持っていくと、金髪碧眼の幼児はんぐんぐとその中身を啜って、ぱぁああーと顔を輝かせながら「おいちぃ~!」と笑った。

 泣いた烏がもう笑う。

 ……小さい子は甘いものが好き、という俗説はどうやらナルトも例外ではなかったようだ。

「なーなー、オビトー、コレもっと! もっとちょーだいってばよー!」

「はいはい」

 そのまま、ナルトの口元で缶を傾けると、ナルトは上機嫌にくぴくぴとおしるこ缶の中身を飲んで実に幸せそうにしている。貰ったおしるこ缶は小さめのサイズだったのだが、それでも三歳児には少し多かったようだ。一缶飲みきったときには満足そうにゲップをしていた。

 そしてお腹が満ちたら次は眠くなってきたのか、オビトの服を掴んだまま彼の腕の中でうとうと眠そうにしている。幼児とは実に自由な生き物である。

 そこまで見て取った時、スススとつかず離れずナルトから五メートル離れた位置に立っていた、サングラスをかけた油女一族らしきくノ一がオビトに近寄ってきて、サングラスを指でクイっとしながら「失礼、四代目様のお弟子様のうちはオビト中忍ですね?」と声をかけてきた。

「あ、はい」

「坊ちゃまもとても懐いている様子。病院での事も報告、受けております」

 病院でのこととは、ナルトと出会った時のことだろうか、と思いながら「はぁ」とオビトは返す。

 そんなオビトの様子を気にすることもなく、油女一族のくノ一はサングラスをクイクイとしながら「オビトくん、波風邸まで一緒にきていただけますか?」と告げた。

 

 * * *

 

 ……その日、波風ミナトは浮かれていた。

 何故なら、今日は2ヶ月ぶりの半休だったからである。

 最近はずっと霧隠れとの調印式の件で立て込んでおり、式への出席や周囲との挨拶回りなどのせいで、一昨日なんて恒例の息子との朝の団欒すらなかったのだ。

 火影としてのミナトはそれは仕方ない事だ、と割り切ってはいるが、私人としてのミナトにとって息子との朝の一時は心の洗濯であり、癒やしのオアシスである。

 ミナトはナルトとの親子のふれあいに飢えていた。

 とはいえ、戦争が終わってもう大分経つし、霧隠れとの件も纏まったので、ミナトの激務もこれからはもう少し楽になるはずである。今はたまに半休がある程度だが、部下がもう少し育って体制が盤石になれば、これからは早めに帰宅し、息子と夕飯を共に出来る日も増える……筈だ。

 とはいえ、そんな先の事は置いといて今日の午後の休暇である。

 幼い可愛い盛りの息子と一緒に過ごせる日は、ミナトにとってとても貴重極まりない。

 そうやってウキウキデレデレとしまりのない顔をしていたミナトは、うっかり感知もせずにバンと勝手知ったる我が家の窓から居間へと上がり込むのであった。

「ただいまー、ナルトー、ナルくん~、父さん帰ってきたよ~! ……あ」

 そこにはかつての教え子(うちはオビト)が、可愛い我が子(ナルト)を胸に抱いて絵本を読み聞かせていた最中らしき姿があった。

 黒髪の教え子の腕の中で息子が「とうちゃん!」と嬉しそうに天使の微笑みを浮かべている。

 黒髪隻眼の青年は凄く気まずそうに、浮かれポンチで甘ったるい声を出しながら、デレデレとしまりのない顔をしていた先生(ミナト)とバッチリ目が合うと、しどろもどろに「え、とその……お邪魔、シテマス?」と呟いた。

「……オビト、見た?」

 思わず唇の横をヒクヒクと痙攣させながらミナトが問う。

「見テナイ、見テナイ。オレはなーんにも見テナイデス」

「ねぇ、なんで片言なの? ちゃんとこっち見なさい」

 そうミナトがオビトに言うと、根が素直な青年は「ごめんなさい」と謝ってくるのでついミナトは困ってしまう。

 正直うちにオビトがいることに気付いていなかったのは、半休に浮かれてチャクラ感知を怠っていたミナトの落ち度である。師としては弟子には見栄を張りたいものなので、かっこ悪い姿を見せてしまった羞恥心からつい責めるような言葉を使ってしまったが、別にオビトに怒っているわけではないのだ。

 暫し、師弟のきまずい空気が続く。

 それに気付いたのかナルトは、オビトの腕の中から抜け出して大好きな父と、今まで自分に絵本の読み聞かせをしてくれていた青年を順番にキョロキョロとみると、仁王立ちでむぅとミナトの前に立って、「とうちゃん、オビトをいじめたらめーだぞ」と告げた。

 そんな姿が、なんだか妻であるクシナを思わせて、思わずミナトは苦笑する。

「いじめてないよ」

「ほんと?」

「オレとオビトは仲良しだからね」

「お、オウ」

 そのミナトの言葉に思わずオビトは照れる。

 それを見て本当だと漸く信じたのか、ナルトは「とうちゃんとオビト、なかよし!」そういって嬉しそうにはしゃいだ。

 ……どうやらいつの間にか、オビトは息子に凄く懐かれていたらしい。

 今朝も報告の為に顔を合わせはしたが、思えばこうやって任務外でオビトとゆっくり話すのも久し振りだ。ふと病院で今は眠っている妻の姿が脳裏をよぎる。彼女はオビトのことを弟か我が子のように可愛がっていた。

 オビトは親子の団欒を邪魔してはいけないと思ったのだろう、「じゃあ、オレは……」と帰りたそうにしているのを察知し、先手を打つようにミナトが告げる。

「……ん、オビト。良かったら今日はうちに泊まって行きなさい」

「え?」

 その金髪碧眼の美丈夫の言葉に、ポカンと黒髪隻眼の青年はマヌケそうに口を開く。言われた言葉がどうやらあまりに予想外だったようだ。

 そんなオビトが正気に返るより早く、金髪碧眼の幼子がキラキラと碧い目を輝かせながらはしゃぎ、叫んだ。

「えー、オビトがきょうはうちにおとまりすんのォ!?」

 この期待と喜びに満ちた幼子の顔を前に、NOと言えるだろうか? いや、言えない。

 

 こうしてオビトはその日、急遽波風家にお泊まりすることが決まった。

 

 続く




どんどん文量が増えていく現象から誰か我を救いたまへ。
次回「51.完成」
因みにおしるこもナルトの好物デスよ。
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