お待たせしましたダン綱&オビリン回です。
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二月十日、午後二時半を過ぎた頃に、隻眼の木遁使いと呼ばれている青年、うちはオビトは予定通りに木ノ葉医院を退院した。
「……」
その様子を三階の窓から見送る女が一人。
金髪茶目の若い女の姿をした彼女は、今し方退院したうちはオビトの元担当医であり、この木ノ葉医院の院長を務めている加藤綱手だ。
初代火影千手柱間の孫で、百豪の術の使い手である彼女は、見た目こそ若いが……実際はオビトの父母とそう変わらぬ年齢である。
「随分と彼を気にかけているね、綱手」
「……アナタ」
そんな彼女に、車椅子に乗った長髪の爽やかな面立ちをした男が話しかける。
彼の名は加藤ダン。綱手の夫である。
「やはり、彼が初代様の細胞に適応したからかい?」
柱間細胞の可能性は莫大だ。
しかし、拒絶反応を起こせば、高確率で樹に変質し死亡するなど、危険と隣り合わせの細胞である。
柱間細胞を使った義肢や疑似臓器の被験者となった人間は数多いるが……生き残り適応したものとなると、それほどいない。
増して、木遁の才を開花させるほどに適応したものなど、うちはオビトを含めてたったの二人だけだ。
「それもあるけど……少し、アレの母親の事を思いだして……ね」
そういって懐かしさに、金髪茶目の美女は、目を細めてから呟く。
「アイツの母親は医療忍者で、私と同じ千手一族だったのよ」
「……!」
その言葉に、ダンは少し驚きに目を見開く。
うちはオビトが彼の歩く鬼神、うちはマダラの曾孫であることは彼も知っていたが、オビトの母親がどこの誰であるのかは知らなかったからだ。
まあ、無理もない。
ダンは今でこそ病院に勤務して、主任という地位を賜り、綱手の補佐を務めているが、元々は戦忍だ。
オビトの両親がその他数名と共に失踪した事件の時は、まだ現役の忍びとして働いていたし、オビトの父母と同年代でもなければ、千手一族でもない彼にとって、オビトの両親というのは接点がない存在だった。
強いて言えばオビトの父とは数回、同じ任務についたことがある程度だろうか。
その点、オビトの父とは同期で、母親のほうとは同じ一族であった綱手は違うが……どちらにせよ、わざわざ夫に話すほど、近しい存在でなかったのも確かだ。
それでも、縁があるが故に、なんの思い出もない存在ではない。
「それほど近い血縁ではなかったとはいえ、アイツの母親も千手一族の端くれだったからね。本家の頭領娘であった私と、一族の末端であったアイツの母では、それほど接点があったわけではないけど……それでも歳の近い同族というのは貴重だったから」
顔を合わせるのは年に一度の正月の集まりくらいで、それも身分の違いからそれほど親しく話す機会があったわけではない。
それでも彼女は周囲の大人が見ていないときにこっそり近寄ってきたその娘に、『お慕いしています』と、そう敬愛に満ちた瞳で言われたことを覚えている。
目は口ほどに物を言う。
キラキラと輝く瞳で、アナタを尊敬しているんだと、照れも無く真っ直ぐに告げてくる目に、くすぐったく思ったものだ。
何事にも一生懸命で、コロコロと表情がよく変わり、人の心配ばかりをする、そんな娘だった。
「……アイツは、オビトはあの
親子だから当たり前かも知れないけどね。
そう懐かしむように金髪茶目の美女は呟く。
「綱手……」
「それに……もしも私たちの子が生まれていたら、今頃はあれくらい大きくなっていたんじゃないかって……そう思うと、ついね。肩入れしているように見えるのなら、きっとそのせいよ」
綱手とダンが結婚してからもうすぐ十五年になる。
だが、二人の間に子供はいない。
出来るわけがない。
否、腹にいたことはある。
だが、その子は流れて、もう次の子を作る事は出来ない。
……綱手がダンと親しくなり、恋人になったのは第一次忍界大戦の最中のことだった。
かつて綱手には縄樹という名の年の離れた弟がいた。
火影はオレの夢だからとキラキラした瞳で語っていた弟は、下忍に上がって間もなく、任務中の事故で亡くなった。
……第一次忍界大戦が始まる二年前の出来事だった。
もし、自分にもっと力があれば弟を救うことが出来たのではないか?
そんな想いが捨てきれず、綱手は我武者羅に医療忍術の腕を鍛え、多くの医療忍術の使い手が育つように、カリキュラムも組んだ。
そして始まった第一次忍界大戦で、綱手はこんな時勢だからこそ、多くのものが生き延びれるように、
医療忍者を育てるにはコストがかかる。戦時中にそんな悠長なことはしてられないと、三代目火影猿飛ヒルゼンやそのご意見番が難色を示す中、綱手の意見に賛同してくれたのが、戦争初期に妹を亡くした加藤ダンだった。
ダンも綱手も手練れだ。
戦争が終わった後も、戦後処理に追われる里によって、ひっきりなしにお互いに別の任務が次々割り振られていって、共に過ごせる時間はそれほど長くはない。
それでも二人はお互いに想いを募らせ、交際を重ねていった。
そして二年の交際を経て、第一次忍界大戦が終わった一年後に二人は婚約する。
……結婚式は落ち着いてから。
いつしようか、どんな式にしよう。
子供が生まれたら、どんな風に育てたいか、どんな子になるだろう。
暖かくて、笑いの絶えない家庭を作りたいね。
そんな話を何度も重ねた。
そうして第一次忍界大戦から二年が経つ頃、あの日が来た。
ダンに長期の指名任務が入ったのだ。
この任務が終わったら結婚式をしよう。
そう言って口づけを交わして、綱手は出立する婚約者を笑って見送った。
綱手のお腹に新しい生命が宿ったのはこの前日のことだ。
二ヶ月後、任務中に仲間を庇ったダンは瀕死の重傷で運ばれてくる。
生殖器まわりが吹き飛び、酷い怪我で、体内の経絡も敵の術によって滅茶苦茶にされていた挙げ句、脊椎にも損傷が見られた。
生きているのが不思議なくらいの大怪我で、綱手は自分の身を顧みる事も無く懸命にダンの延命を行った。
綱手の必死の治療により、ダンは一命こそとりとめたものの代償は決して軽くはなかった。
脊椎への損傷とデタラメにされた経絡により、彼の下半身は二度と動かなくなったし、何より愛する人を失うかもしれないという精神的なショックがまずかったのだろう、綱手の腹に宿っていた子は流れた。
ダンの忍び生命も絶たれた。
もう火影に為るという夢は叶うことは無いし、そして男としても……生殖器を失った以上、愛する人との子を作る事も出来ない。
だから、ダンは目覚めた後に、懸命に看病を続ける愛する婚約者に言ったのだ。
『別れよう』
と。
まだ若く未来のある愛する女を、不具になった自分に縛りつけたくなかったからだ。
綱手は泣いた。
泣いて縋って、『嫌だ』とそう言った。
ダンは語った。
自分の正直な気持ちを。
綱手には幸せになってほしい。こんな風に碌に半身が動かなくなって、生殖機能まで失ったオレに年若い君のこの先の人生を付き合わせたくない。もうオレでは君との子供を作る事も出来ない。子供達と笑って過ごせるそんな家庭を君にあげることは出来ない。だから……。
綱手は言った。
『それでもいい! 生きて帰ってきてくれただけでいいんだ……』
ダン、生きて私の元に帰ってきてくれてありがとう。
だからそんな悲しいことは言わないで。
私はアナタ以外の人は嫌だと、そうボロボロと綱手は泣いて訴えた。
そうして半年後、車椅子姿で退院したダンと彼女は結婚をして、木ノ葉医院の院長に就任する。
綱手が25歳の時の事だ。
当初の予定と違い、参列者のいない、二人だけの結婚式だった。
「もう、なんて顔してんだい? 私はアナタと結婚したこと微塵も後悔しちゃいないよ」
そういって己を責めるような顔を一瞬見せた夫に、綱手はその心配は杞憂だと笑い飛ばす。
「確かにあの子が産まれていたら……ってのは時々思うけど、だからといって未練があるわけじゃないんだ。それに私が産んだわけじゃないが……シズネもいるしね。あの子だって私たちの子供みたいなもんだろう? 私の技術はあの子に託すよ」
綱手の一番弟子であるシズネはダンの実の姪だ。
それにふっと笑ってダンは言う。
「うちの奥さんは相変わらず……格好良いな」
「フフ……惚れ直したか?」
そう言って綱手は、愛する人にだけ見せる女の顔ではにかんだ。
* * *
夕刻、オビトはリンの行き着けだという夫婦経営の家庭料理の店へと、二人で足を運んでいた。
小さな店だが、隅々まで手入れは行き届いており、温かくて穏やかな空気が流れている。
こぢんまりとした、良い雰囲気の店である。
「ここ、季節の日替わり定食がね、オススメなの」
そういってフフッとリンは笑う。
(……可愛い)
ついぼーと見惚れそうになるが、チラリと自分の姿を見下ろして、黒髪隻眼の青年は少し後悔していた。
これはリン曰く退院祝い兼誕生祝いだ。
なんとなく、リンのことだから、カカシも呼ぶんじゃ無いかなと漠然とオビトは思っていたのだが、蓋を開けてみれば、二人っきりだったものだから内心オビトは慌てた。
「カカシは?」
そう尋ねたオビトに、不思議そうにリンは小首を傾げながら、「え? 呼んでないよ」と言われて、気付いたのだ。
(二人っきりでごはんとか……これって実質デートじゃねーか?)
……と。
そこでオビトは自分の服装を見直して、落ち込むハメになった。
なにせ、自分ときたら、上は中忍ベストの下に着るいつものインナーにコートを羽織っただけだし、下も任務の時によく履く、なんの変哲もないラフな黒いズボンだ。
デートでこれはない。
なんでリンと出かけるのに、オシャレしてこなかったんだオレ……と落ち込むもあとの祭りだ。
それにリンのほうはオビトとデートだなど微塵も考えていないらしく、極普通の態度である。
なら変に気合いをいれたほうが変に思われるだろうし、いっかという心境でオビトはリンと共に席についた。
ただ、変に緊張していたのは、ここまでだ。
リンは手慣れた調子で注文をとり、店員でもある奥さんとにこやかに話している。
オビトは今日で十八歳になる。
もうほぼ大人といっていい歳であるが、飲酒には良い顔をされない年齢だ。
だからリンはジンジャーエールを二本頼んで、それで乾杯しようとそう言った。
この店のジンジャーエールは奥さんの手作りで、中々ガツンとくる生姜の辛みを味わえるのだとか。
「それじゃオビトの快気祝いを兼ねて乾杯~」
そういってニコニコと笑うリンが可愛い。
「オビト、誕生日おめでとう」
「ありがとうな、リン」
そういって早速ジンジャーエールに口をつける。
(……! 美味い)
確かにガツンとした辛みがある。だけどその後に炭酸の爽やかさも仄かな甘みも押し寄せてきて、すぅと胸に引いていく。その感覚が新鮮で面白い。
やや平均より大きめの目をマジマジと見開いて、ジンジャーエールを見ている黒髪隻眼の青年に、茶髪茶目の少女はクスリと笑いながら、「ごはんも美味しいよ」と勧める。
今日の季節の日替わり定食は、鮎の塩焼きにワカメの味噌汁、ヒジキと大豆の煮物に、ふろふき大根だ。ラッキョウと白菜の浅漬けも白米の横に添えられている。
普通の人間にとっては一般的な量で、よく働く忍びにとってはやや物足りないくらいのその量は、昨日までのオビトであれば、食べきれないほどに多いものだ。
だが……。
その料理とみて、オビトの胃袋がくぅと小さく音を鳴らし、主張する。
ゴクリと唾を嚥下し、そろりと箸を伸ばして、思い切って口の中に入れた。
(……美味い)
作り手の真心を感じる、優しい味がした。
思わず心臓がバクバクと跳ねる。
「リン、これ……美味いな」
「でしょ? お味噌汁も美味しいンだよ。しっかり手間暇かけてお出汁取ってるみたいで、シンプルだけどそこがいいの」
そう言ってリンが勧めるから、次に味噌汁に手を伸ばす。
「ホントだ。美味ェ……アレ?」
気付いたら、オビトの右目からは涙がポロポロと流れていた。
「おっかしーな……別に何も悲しくねーのに……なんで」
黒髪隻眼の青年はそういって心底不思議そうに呟きながら、ぐいぐいと袖で次々流れてくる自身の涙を拭う。それにリンは優しい微笑みを浮かべたまま、「……うん、美味しいね」そう呟いた。
「ごはんは逃げたりしないから、ゆっくり食べようね……ね、オビト。色んな話しよう、私オビトの話聞きたいな」
それからは穏やかな時間が流れた。
オビトが話している時はリンが相槌を打ち、リンが話している時はオビトが耳を傾けながら相槌を打つ。元々長いこと食事を摂るという事を放棄してきたオビトの体は、ものを食べるという行為にあまり慣れていない。
だから会話の合間に、ほんの少しずつ箸を進める。
リンが勧めるだけあって、どれも美味しかった。
そうして何回か箸休めの会話を交わしている時に、オビトは気付いた。
「リンそれ……」
「あ? これ、気付いた?」
リンは何度か書きものをする時に手帳を出している。
その手帳に挟まれた栞は、見覚えのある花を押し花にして作られていた。
「ジャーン。去年オビトが誕生日にくれた秋桜の花で作った栞です。綺麗だったから、勿体ないなーって思って押し花にしちゃった」
可愛いでしょ?
そういって嬉しそうに笑うリンが、誰よりもキラキラしていて、オビトは思わず「……可愛いな」と返す。
「だよね? オビト、遅くなったけど、素敵な誕生日プレゼントありがとう」
正直オビトには花の善し悪しはそれほどわからない。
だから、オビトが可愛いと零した本当の相手はリンのほうなのだが、それをリンは自分が作った秋桜の栞を可愛いと言って貰えたと受け取ったらしい、彼女はフフフと満足そうに笑って楽しそうだ。
リンが幸せなら、それはオビトにとっても幸せだ。なら、別にわざわざ訂正するほどではない。
だから、楽しそうなリンにつられるようにオビトも笑った。
そうして久し振りに話していて、気付いた事がある。
リンはカカシの事について意図的に話さないようにしている。
それが、オビトにはよくわからなかった。
……リンはカカシのことが好きだ。
小さな頃からずっとリンを見続けていたオビトはそのことをよく知っていたし、悔しいけどお似合いでさえあると思っていた。
四年前の事を思い出す。
あの日、あの時、三年間里から出されると決まったとき、オビトはきっと帰ってきた頃には二人は付き合っているんだろうなと、そう思っていた。
リンは可愛いけど、同時にとても勇気がある女の子だ。
リン以上に良い女などオビトは知らない。
カカシは今はまだ恋愛に興味なんてないようだけど、それでもリンが想いを告げたらきっと受け入れるんじゃないかとそう思っていた。
だけど実際は……オビトが旅に出る前と二人の距離感は変わっていないように見える。
いや、そう見えてた。
でも、実際は違うのかも知れない。
こうして話してて思ったのは、前より少しだけ二人の距離は寧ろ……。
「……リンは、カカシに告白しないのか……?」
その言葉が出たのは、完全に無意識だった。
ポロリと口からこぼれた己の言葉に、次の瞬間オビトは、「あっ」と青ざめながら、酷く後悔した。
(……! 何やってんだオレ)
……自分は嫌だったのに。
カカシにその言葉を言われて、嫌だったのに。
寄りにもよって、リンに同じ台詞を放ってしまうなど、馬鹿なんじゃないかと自分を詰った。
しかし、オビトが後悔に浸る間もなく、軽く柔らかい声でリンは告げた。
「したよー」
その言葉に、一瞬オビトは何を言われたのかわからず、思わずマジマジと、目の前の想い人の顔を目を見開き呆けた顔で見つめる。
そんなオビトに、やはり落ち着いた柔らかい声でリンはもう一度告げた。
「したよ。告白。それも二回も」
「いつ!?」
思わずぎょっとしてオビトが声を上げるも、リンはやはり穏やかで落ち着き払ったままに答えた。
「んー……一回目は十三歳の時で、二回目はカカシの十五歳の誕生日の日に……かな」
リンはその日の事をよく覚えている。
オビトが岩に潰されたあの日、あの時……敵に周囲を囲まれる中でカカシは『オレはオビトにお前を頼まれたんだ……だからお前は死んでも守る』と、逃げろとリンに告げた。
そして彼は続けて、如何にオビトがリンのことを好きだったかを語る。
……たまらなかった。
確かにリンにとってもオビトは大切な存在で、置き去りにしたときは本当にショックだった。岩に生き埋めになっていくオビトを見るのは冗談抜きで辛かった。
でもリンの好きな人はカカシなのだ。
好きな人を、カカシを守りたいのは彼女だって一緒だ。
オビトの気持ちを言い訳に、一人だけ逃げろと言うなんてあんまりだとそう思った。
だから想いを告げようとした。
『……なら! カカシ……私の気持ちだって……』
……でもその先は言わせて貰えなかった。
「一回目は有耶無耶にされて、二回目は『ごめん、オレはリンの想いには応えられない』だって。薄々気付いてたンだけどね……どうも、カカシにとって、私はそういう対象じゃないみたい」
そういってリンは言葉を終えた。
リンがカカシに改めて告白したのは、今からもう三年も前だ。
きっと彼女にとって、それは終わった過去のことだったのだ。
だからこうして落ち着いて、オビトに話したのだ。もう終わったことだと自分に言い聞かせるように。
だけど、昔からリンを見てきたオビトにはわかる。
まだリンはカカシの事が好きだ。
でももう振り向いて貰おうなんて思っていない。
少しずつ、胸に抱えた恋心を昇華していこうとしている。
オビトには何故カカシがリンを振ったのかは理解出来ないが、でもこの話しぶりからして……多分彼女は自分がカカシに振られることは知っていたんだと思う。
知っていたけど、それでも告白した。
……それがどんなに恐ろしいことだったか。
オビトにはわかる気がする。
きっと怖かった筈だ。
わかっていても、好きな人にフラれるのは怖いものだ。
でもリンは逃げなかった。
自分の想いに真っ直ぐに向き合った。
それはなんて……。
「……格好良いな」
* * *
―――……後に五代目火影夫人となった
『本日は五代目火影夫人うちはリンさんにお越し頂きました。よろしくお願いします』
『お願いしまーす』
『ところで本日はお二人のなれ初めについてお聞きしたいと思うのですが、リンさんは五代目様とは幼馴染みとお窺いしましたけど、もしや子供の頃から……?』
期待するような記者に、リンはカラカラと笑って言った。
『アハハ、違うよォ。確かに私とオビトの付き合いは長いけど、子供の頃の私には他に好きな人がいたし、オビトもそのことは知っていたと思うよ。オビトとはもう二十年以上の付き合いになるけど、正直、そういう目で見ていなかった期間のほうがずっと長かったかな……?』
『そうなのですか!? では、五代目様を意識されるようになったのは大人になって、告白されてからとかですか?』
『んー……そのことなんだけど、今思えば……私がオビトを初めて意識したのは、告白された時じゃなくて……18歳だった、あの時かな』
そう言って懐かしそうに目を細めながら、茶髪茶目の火影夫人は言う。
『私にとってオビトは長いこと、弟みたいな……家族みたいな存在で。だからこの時の事がなかったら……多分、私、オビトに告白された時に、断ってた』
『え、断ってたかもしれないんですか?!』
そのリンの言葉に記者は思わずギョッとする。
どうやら記者には、信じられない発言だったらしい。
それに苦笑しながらに、彼女は言う。
『……だってそうでしょう? 昔の私にとって、オビトは弟みたいな存在だったもの。……どんなに大好きで大切な存在でも、家族は恋人には出来ないよ。思えば……
『……では切っ掛けがあって、見る目が変わったということですね。その切っ掛けとは?』
『オビトとごはん食べに行ったときにね、彼に聞かれたの。『告白しないのか?』って。私は答えたよ。したよって。でもフラれたんだって言ったの。そしたらオビト、なんて言ったと思う?』
微笑みながら、宝物を語るように五代目火影夫人は言う。
『『格好良い』だって。慰めるでも、気まずそうにするでもなく、本当に心の底からの称賛を込めて、私に『格好良いな』ってそう言ったの』
* * *
「……格好良いな」
「え……」
驚きに目を見開きながら、リンはその幼馴染みの言葉を聞いた。
それは想定外の言葉だったからだ。
普通、人は振られたと聞いたら多少罰を悪くするものだ。
これが女友達だと、フラれたリンに共感して、振ってきた相手に見る目がないんだよ、次に行こう。もっとイイ男はいるよ。なんてそんな慰め方をするのだろう。
女子の世界ではそんなの別に珍しく無い。
聞かれたので、カカシにフラれたことを告げたけど、でも別にリンは慰められたかったわけじゃない。
本当は同情も慰めも、必要としていないのだ。
ただ、フラれたと他人に言ったら、返ってくる反応とはそういうものだと漠然とは思っていたし、オビトも多分『辛いこと聞いてごめん』って謝ってくるんだろうな、となんとなく思っていた。
だから、こんなに心からの感嘆を込めて、『格好良い』だなんて、言われると思っていなかった。
オビトは言う。
「リンは格好良いよ」
リンが見たことが無かった大人びた男の微笑みで、オビトはそう称賛する。
「だってさ……リンは、フラれるのわかっていたんだろう? でも逃げなかった。それって本当に凄い事だと思うぞ。滅茶苦茶勇気がある。格好良いよ」
* * *
『私ね、嬉しかったンだ』
『嬉しかった、ですか?』
多分、この記者はフラれたと聞いたら、慰めてほしいと思うタイプなのだろう。
リンの言う事がイマイチ理解出来ないという顔で、困惑したように呟く。
『私は
でも、リンは理解して貰おうとは思っていない。
大切なものは、自分の胸の奥にある。
それを自分で理解しているから。
『
* * *
「……オビト」
声が震えた。
それが自分が感極まってのことだとリンは後から気付いた。
ぐっと唇を噛みしめていないと泣きそうだった。
(でも泣くのは、嫌だなあ)
「ん?」
オビトは理解していない。
今、自分が放った言葉がどれほどリンの芯を揺さぶったのか理解っていない。
でも、それでいいと思った。
それが良いと思った。
「……ありがとう」
「……? オウ」
きっと、この時リンの中で何かが変わったのだ。
話が終わったタイミングで食後のデザートが運ばれてくる。
それに今度はリンのほうが味が分からなくなって、嬉しくてフワフワで、幸せな気持ちのままに弟のように見てきた青年に声をかけた。
「美味しいね、オビト」
――――――私は
続く