なんか書いてたらわいが考えていなかった部分までミナト先生が考察はじめるもんだから、『はええ……そうだったのか知らんかった流石ミナト先生あったまいーサスミナサスミナ』って気分になりました。54話です。
時は木ノ葉隠れの里が設立した時から数えて、64年目の初夏。
霧隠れの里との調印式の日から、三ヶ月と少しを過ぎた頃、四代目火影である波風ミナトの元に白髪の大男が訪ねてきていた。
「久し振りだの。ミナト」
「ええ、自来也先生もお変わりないようで」
普通なら、里長である当代火影に向かってこんな口の利き方は赦されたものではないが、しかし暗部が控えているとはいえ、人払いされた今、この室内では二人きりであるし、何より相手はミナトにとっても誰より敬愛する師だ。
それも三忍と呼ばれ、大名様の覚えもめでたく、蝦蟇仙人と謳われる偉人に等しき御仁である。
……きっと、大ガマ仙人から下されたという予言がなければ、或いは自来也先生が火影に興味を示していたなら、こうして四代目火影としてこの席に座っていたのは自来也先生だったことだろう。
ミナトはそう確信している。
そも、波風ミナトが四代目火影に選出された理由は、第二次忍界大戦で英雄と呼ばれるほどに活躍した……だけでなく、自来也の直弟子であったことも理由の一つにあるのだ。
自来也の弟子なら間違いないだろうと、師への信頼をベットに大名様はミナトの火影着任を承認した。
大名様は一見暢気でいい加減な人に見えるが、あれでいて人をよく見ている。
誰に聞かれるわけでもなく、有名どころの忍びが誰の弟子でどんな家の出身なのかなどはご自分で把握されている。
波風ミナトは、うちはや日向、奈良や猿飛のような名家の出ではない。
ポッと出の、新興忍び一族である……いや、一族と呼べるほどの規模もない、一般忍びの出自だ。
実力はある。
カリスマも、才能も、優れた容姿も。
しかし
そんなミナトが満場一致で四代目火影に就任することが出来たのは、師が自来也であったことも理由にあるのだ。自来也への信頼が、そのまま弟子であるミナト自身への担保となった。
その事を思えば、自来也先生には頭が上がらないなあとミナトは思う。
だが、表には出さない。
火影なら堂々としているべきだからだ。
「それで今日はどういう要件で?」
自来也は小説の取材という名目で、各国をフラフラとしているが、それはなんの理由も無くそうしているわけではない。
彼は若かりし頃に、大ガマ仙人から予言を受けている。
自来也の取る弟子が世界に変革をもたらす存在になるだろうと、どう導くのかで忍び世界の運命が決まるとそういう予言を。だから予言の子を探して、世界をまわっている。
とはいえ、自来也も歴とした木ノ葉隠れの里に所属する正規の忍びだ。
なんの仕事もせずそうしているわけではなく、諜報任務を兼ねて各国を回っている……いわば、ミナトにとって誰より信頼出来る目であり、耳のような存在でもあるのだ。
直接顔を合わせることこそ久しいが、書簡のやりとりという形で連絡は密にしている。
であるにも関わらず、わざわざこうして火影塔まで師が来たということは、トラブルか、若しくはそれだけ重要な案件か。とりあえず候補を脳内でざっと十通りほど並べながら、ミナトは師の言葉を待った。
「何、弟子に頼まれてな」
そういって白髪の大男は懐から封筒を一つ取り出し、パサリと火影用の机の上へと置く。
親書である旨が記載されているその封筒の裏には、
「ミナトよ、おぬしは暁についてどれほど知っている?」
その師の言葉から、この赤雲模様の絵が『暁』が使用しているシンボルマークであることを察する。
「暁……確か自来也先生のお弟子さんで……私の弟弟子や妹弟子達が立ち上げた組織であると聞いています。弱者への救済と、対話による歩み寄りを謳う組織であると……」
ミナトは火影である。
故に、自国に限らず、他国へもアンテナを張り、打てる手は打って可能な限り情報は集めている。
その中には当然、隣国である雨の国の情報もある。
対話による世界平和を目指し、弱者救済を謳う武装組織『暁』。
頭角を現したのは今から七年前、第二次忍界大戦が始まった頃。
その組織を立ち上げたのは、当時一五にも満たない幼い少年少女達であったという。
元々雨の国は火の国、土の国、風の国という大国三つに囲まれた立地に存在する小国であり、地理的な問題から大国同士の諍いでは戦場となることが多かった。
戦争において、犠牲になるのは何も直接戦っている忍び達だけではない。
犠牲になるのは、そうして戦場になる地で生活していた無辜の民のほうが余程多い。
だから、最初に暁が行っていたのはボランティア活動だ。
炊き出しや、被災者の救済。
盗賊や野党の撃退などを安価で、時には無償で請け負っていた。
はじまりはほぼ自警団のようなものだった。
そうして各地で活動を続けていくうちに賛同者は増え、組織は拡大し、そして場合によっては武力抵抗という形で、雨の国を舞台に戦う他国の忍び達をたたき出した。
『ここは我らの国だ。手出しすることは赦さない』
そう報復を畏れるでもなく、毅然と返した。
『会話の通じる相手であれば、我らはいつでも対話に応じる用意がある。
だがしかし、言葉の通じぬ理性なき獣相手に容赦はしない。
我らは弱者を守る牙となり、盾となろう。
我らは暁。
それが若き暁のリーダーが放った言葉であったという。
「今、尤も雨の国の民衆及び、雨隠れの里の忍び達に支持を受けている最大派閥は『暁』よ」
……つまり、そういうことか。
今雨の国で、暫定政府として国を動かしている暁を、公的に承認して欲しいとそういうお願いか。
では何故、今の時期で、何故木ノ葉であるのか。
木ノ葉隠れの里が霧隠れと同盟を大々的に結んだのは、およそ三ヶ月前のことだ。
また火の国及び木ノ葉隠れの里にとって、風の国砂隠れの里も同盟国となっている。
そして雨の国の立地は火の国、土の国、風の国の三国に囲まれた立地だ。
火の国が暁を認めれば、回りの小国や風の国も認めざるを得なくなるし、火と同盟を結んでいる水の国も承認する可能性が高くなるだろう。
そして五大国のうち三カ国が認めれば、正規の組織として国際的に認められたも同然だ。
堂々と他国とも交渉がしやすくなる。
とはいえ、土の国がどうでるかはわからないが……元々戦時中も中立国たらんと、他国の忍びはどこの派閥だろうが関係なくたたき出していた連中である。
土だけが相手とわかっているのなら、そのほうがやりやすいのも確かなのだろう。
ミナトはチラリとその碧眼で師を見る。
それに反応し、鷹揚に肯く。
つまり、なんの仕掛けもないから安心しろということだ。
封を切り、綺麗で丁寧な字で書かれた文章にさっと目を通していく。
書かれている内容は大凡ミナトの予想と外れてはいない。
ただ、火の国及び木ノ葉隠れの里と同盟国になりたい、というわけではなく、協定を結びたいと書かれている。
暁は対話による世界平和を目指している組織だ。
中立国としてやっていくことを望んでいるが故に、
「彼らの言い分はわかりましたが……直答は難しいでしょう」
なにせ、木ノ葉隠れの里は火の国に所属する忍び里ではあるが、火の国とは独立した機関だ。勝手に国を代表して返事を返すわけにはいかない。
だが、それに問題ないと師は返す。
木ノ葉隠れの里の承認を取った後は、火の国の大名様に謁見を申し込み、雨隠れの里……ではなく、雨の国を代表する組織として、使者を向かわせ直接大名様と話をつけるつもりであるからだそうだ。
先に木ノ葉の承認を取ったのは、火の国の大名様が木ノ葉隠れの里に向けている信頼を知っていたからだろう。
「ついては、大名様に謁見する使者の護衛に木ノ葉隠れの忍びを雇いたい、と」
悪くない手だと、ミナトも思う。
暁は平和と弱者救済を謳う組織であるが、自来也先生の弟子達が中心に立ち上げただけあり、彼らは手練れだ。おそらく使者も、自来也先生達の弟子の一人が選ばれるのだろう。
それが国を代表としてとはいえ、大名様と会うのだ。
だが、護衛に木ノ葉隠れの里の忍びを雇う、となるとそれは暁が木ノ葉を信頼して背中を任せられると思っているというアピールになるし、
「ワシは弟子達を信じてはおるが、
そう言って、ニィと木ノ葉の狂気とも謳われている白髪の大男は、その異名に相応しい凄みのある笑みを乗せながら言う。
「万が一があれば、その時はワシが
こういう姿を見る度、ミナトは嗚呼、師がこの里を裏切ることなど万が一もないのだろうとそう思う。
「……頼りにしています」
その弟子であり現火影の言葉に、ぱっと表情を剽軽な笑みに変え、難しい終わりは仕舞いだといわんばかりの調子で自来也は「そういえば、あの末の馬鹿弟子はどうした?」と訪ねる。
「オビトなら、今カカシと外に出ていますよ」
「
* * *
アレだ、あいつらが来る。
「ハァハァハァ……ここまで来れば」
逃げる男達は、息を乱し汗を拭いながら、一息つきそう零す。
「で、どこにくんだ?」
その言葉にギクリとなりながら、ばっと振り返る。
そこには、ギラギラ赤く光る右目と、額宛の布を幅広にとって左目を覆った黒髪隻眼の青年と、腕を組んで忍犬達を引き連れながら立っている銀髪に、墨色の右目と写輪眼の赤い目を持つ青年がいた。
何故、逃げきれたはずなのに、まさか。
「……解!」
やはり、幻術。
自分たちは逃げ切れたと思わされただけで、同じ場所に立っていたのだろう。
見れば、仲間達の半数以上が、幻術だとわかった今もその夢の中に捕らわれている。
だが、逃げ切れないならやるしかない。
「うらあああ~!!」
業火球が飛ぶ。それを風遁でいなし、仲間が奔る。
だが、無意味だ。
奴の異名は隻眼の木遁使い。
うちは一族らしく、火遁や幻術も得手としているが……その異名の由来となった木遁で生み出された樹が、一瞬で成長し、木槍の群れとなって視界を覆うほどの面攻撃と為す。
その対処の為に意識を割けば、次の瞬間に白雷が迸る。
まるで二人で一つの生き物のように、戦場を支配する、
「写輪眼の……双璧……」
その言葉を最後に男の意識は刈り取られた。
隻眼の木遁使いと白雷のカカシ両名に下された、忍び崩れの野党の殲滅及び捕縛任務が完了したのは、彼らが野党の敵アジトに潜入した僅か三分後の事であった。
* * *
……ザアザアと雨が降る。
それを『この国は相変わらず泣いている。痛みに耐え続けている』とそう称したのは弥彦だった。
泣き虫な自分に似ているから放っておけないんだと。
(この国を変える……か、確かに変わってきている)
相変わらず、今日も雨だけど。
そんな事を思いながら、クスリと笑って、赤雲模様の入った黒いコートを着た青年は、目深にフードを被る。
それから、馴染みの店の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい。あらまた来てくれたの? 今日は何にするんだい」
「ん……オススメ定食で」
「あいよ」
そんな気っぷの良い声を上げて、雨の国の住人には珍しいふくよかな恰幅のある女主人が、彼のついた席におしぼりと暖かいお茶を運ぶ。
この店はアットホームな雰囲気を売りにしているが一応居酒屋だ。客は大半が酒とつまみを頼むし、茶はついていない筈だ。そうマジマジと青年が女主人を見ると、彼女はお茶目にウインクをしながら「それはサービスだよ。あんた達には世話になっているからね。もう五月とはいえ、まだまだ肌寒いんだ、それ飲んであたたまんな」と笑って店の奥に引っ込んでいった。
それに、かなわないなあと苦笑しながら青年はゆっくり茶に口をつける。
別に上等の茶というわけではないけど、その気遣いこそが嬉しかった。
やがて十分ほどで注文の品が届く。
麦飯に冷や奴、お吸い物にサワラの塩焼き、茄子の漬物。
これは美味そうだ。
そう思い、頬を綻ばせ、好物でもある焼き魚に箸をつけようとしたその時だった。
「写輪眼の双璧を知っているか?」
……そんな会話が聞こえてきたのは。
青年はピクリと反応し、それからなんでもないような仕草で、自分のすぐ後ろの席で交わされる雨忍の会話に耳を傾けながら、食事を再開した。
「え? 先輩なんすか、それ」
「木ノ葉の忍びだ」
そうして青年の真後ろの席に座っている、先輩と呼ばれた忍びが語る。
「右目、隻眼の木遁使い。左目をいつも大きな布で覆っている、右の顔面に目立つ傷のあるうちはの忍びだそうだ。二つ名の通り木遁を使う他に、うちはの例に漏れず火遁や幻術も高度に使いこなすらしい」
「へー……確か何年か前に噂になってた奴ッスよね」
感心したような声をあげる、後輩らしき忍びの声は若い。
おそらくまだ十代前半といったところだろう。故にかどうにも無邪気だ。
そんな後輩が可愛いのか、お兄さんぶりたい年頃なのか、先輩と呼ばれた忍びはどこか得意気に自分の知る知識を披露していく。
「左目、白雷のカカシ。かつて三忍も霞むと言われた白い牙の忘れ形見で、四代目火影の懐刀と呼ばれている男だ。名の通り、疾風迅雷の白雷の如き一撃は、相手に認識させる前に敵を倒すと言われている。そしてその左目にはうちはの血継限界である写輪眼が宿っているって話だ。噂じゃ、奴の目に嵌まっているのは、隻眼の木遁使いの左目らしい」
「……」
「こいつらは単体でも恐ろしく強いらしいが、二人揃うと手がつけられなくなる。阿吽の呼吸でまるで二人で一つの生き物のように動くんだそうだ。二人で一対の写輪眼を分け合った存在……写輪眼の双璧。黒髪隻眼の男と銀髪の忍びの組み合わせを見たら迷わず逃げろよ」
そう先輩と言われた男は話を結んだ。
その話を受けて、んーと後輩らしき少年は少し何やら考えた後、少し困惑したような声で問いを投げかける。
「……ねえ、先輩。その隻眼の木遁使いって、隻眼っていうからには左目ないんすよね」
「ああ、そうらしいな」
「で、その白雷のなんとかって奴は左目が写輪眼で、しかもその左目は隻眼の木遁使いのものって言われているんすよね? 抜群のコンビネーションなのも、二人で一対の眼を持ってるって、そういう評判なんすよね?」
「そうだが……」
「その隻眼の木遁使いってやつ、ヤバくないですか?」
そう、引いたような声で声変わりもしていない少年は言った。
「だって、それって自分の両目は揃っていたのに、その無事な両目からわざわざ片目を他の奴にあげたってことですよね? それも血継限界が発現した目を他人に。コンビ組んでやっているって事は、白雷の奴に奪われたとかそんなんじゃなく、自主的に自分の無事な目片方あげたんですよね?」
「……」
「そいつ、メッチャヤバくないですか……?」
「……そうだな」
先輩と言われた男の声は、思いがけない怪談を聞かされてしまった、否、自分が語った情報が案外ホラー染みている事実を元にしていることに気付いてしまったかのように、消沈した声で話を終えた。
(……これ以上、聞くべき話ももうない、か)
そう判断してペロリとオススメ定食を平らげた青年はすっくと立ち上がる。
反動でパサリとフードが落ちて、特徴的な濃い赤い髪がまろびでた。
「ご馳走様でした」
「おや? もういいのかい」
「うん。今日も美味しかったありがとう、おばさん」
「今度は小南ちゃんや弥彦様も連れておいでね。またね、長門ちゃん」
「嗚呼、そうするよ」
そういって赤雲模様の黒いコートを着た青年……長門は笑った。
続く。
次回「長門」