この世界の長門は輪廻眼がないので、戦い方とか色々原作とは異なっていたりします。
55話です。
「わぁ可愛い。オビト、いつも綺麗な花、ありがとうね」
そう言って、両頬に紫のペイントの入った、茶髪茶目のオビトの想い人はフワリと笑った。
もう、リンもオビトも18歳になる。
落ち着いた微笑みは大人びていて、綺麗で、オビトはそんなリンの笑顔を一つ見る度に、益々彼女の事が好きになる。
これまでもこれからも、ずっと好きだ。
きっとリン以上に好きな女性なんて、この黒髪隻眼の青年には現れないだろう。
だけど、昨日より今日、今日より明日もっと好きになる。
オビトが贈った花は、なんの変哲もない菖蒲の花だ。
贈った理由も大した理由でもない。
もう、四年と半年ほど前になるだろうか。
扉間先生の元で木遁を習い始めた頃、課題として彼に言われたのだ。
一日一輪でもいいから木遁で花を作って、それを育てるようにと。
柱間細胞の義肢を得て以来、オビトのチャクラ量は爆発的に増えたけれど、まずは細かい制御から、基礎を固めるようにとそう指導を受けたものだ。
小さい術を極めれば、大きい術を使うときにも無駄なく効率良く力を使えるからと。
とはいえ、流石に旅の間は木遁で花を作っても旅の邪魔になるし、任務中に余計な事をするわけにもいかないしで自重していたのだが、里に戻ってきてからまたかつての習慣であるそれを再開したというわけだ。
つまりオビトにとって花を作ることはそれも修行というか、ライフワークの一環なのである。
しかし、自分で生みだして育てておいてなんだが、彼には花を愛でる趣味がなかった。
なので、こうして育てた花は、定期的にリンや世話になった人など、花を貰ったら喜んでくれる人に渡すようにしているし、リンや、木ノ葉隠れに住まうばあちゃん達が喜んでくれたなら、オビトも嬉しい。
彼女が笑ってくれたなら、それだけでオビトも幸せだ。
だけど……。
(なんか、前と距離感とか……色々違うような気がするんだよなァ……?)
リンは今日も最高に可愛いけど、何が違うのかと聞かれても、オビト自身にもイマイチよくわからないのだけれど、それでも何かが前とは違うような気がすると、オビトの中の直感と観察眼が訴えてくるのだ。
「なぁカカシィ……なんかリン、ちょっと最近変じゃないか?」
悩んだオビトは、今日は半休だという相棒兼親友の銀髪の青年……はたけカカシを捕まえて、うちは煎餅を手土産に公園のベンチでそんな相談を始めた。
因みにオビトとしては真剣にここ二~三ヶ月ほど悩んだ末に相談する事を決めて、こう切り出したのだが、カカシは何言ってんだこいつって顔で呆れるようにオビトを見ながら、「変って?」と気の抜けた声で尋ねる。
「何がって聞かれても難しいんだけどよ……なんかこう、笑顔の種類が変わったような……?」
「そう? オレには変わらないけど」
そうシレッと言ってくる一つ年下の青年に、半目になって思わず下唇を突き出すオビトであったが、そもそも相談を持ちかけたのはオレだしな、と思い直し、とりあえず思い当たる事を言葉にしてみる。
「あとオレと話している時の距離感っていうか……いつも通り優しいんだけど、無警戒に触れてくる事が減ったような…………あ」
そこまで口にしてから、オビトは気付いた。
「オレを、弟みたいに見ることをやめたのか……?」
彼女の瞳から、以前は常に感じていた、弟か何かを見るような色が随分と薄れていた。
これでもオビトは、そこまで鈍くないし、好きな女の子だからこそリンの事は昔からよく見ている。
だから、彼女が自分をまるで実の弟か何かのように、身内目線で大事にしてくれている事にも気付いていたし、やたら距離が近いのも、オビトに対して脈がないからこそであることも気付いていた。
リンがカカシに惚れていることだってそうだ。
リンは何も言わなかった。
それでも、いつも見ていたからこそわかった。
リンは自分も含め、皆に優しいけれど、カカシに向けている視線だけが違っていたのだ。
だからそれが面白くなくて、余計に少年時代のオビトはカカシに突っかかっていたわけであるのだが。
「……そう、良かったじゃない」
そういって、珍しいくらい穏やかに銀髪の少年は目尻を和らげた。微笑んだのだと思う。口元は相変わらず黒い口布で隠されている為わかりにくいけど、多分笑ったのだ。
そんなカカシの反応を見て、オビトはキュッと眉間に皺を寄せる。
とりあえず、こうして口にしたことで、自分が彼女に抱いた違和感の正体がなんだったのかは分かった。
どんな心境の変化があったのかはわからないが、リンはオビトを弟のようなものとして見るのは、やめることにしたんだと思う。
だが、それがカカシの言う「良かった」ことなのかはよくわからない。
だってあくまでも弟として見るのをやめたってだけだ。
オビトにはわかる。
まだリンはカカシが好きだ。
もう振り向いて貰う気がないだけで。
カカシにフラれたことで、それが終わった恋であると、彼女が自分の中でそう区切りをつけただけで。
(てか、なんでお前はリンを振ったんだよ)
それがオビトには解せない。
まさか、カカシがリンを振ってたなんて夢にも思ってなかったのだ。
オビトの目には二人はお似合いに見えた。
カカシがリンの想いに応えなかった理由が、オビトにはさっぱりわからない。
だけど、だからといって、カカシにその事を問い詰めるのもお門違いだとも思っている。
何故なら告白されたからと言って、その告白を受けるも断るのもそれはカカシの自由だからだ。
どんなに納得がいかなくても、二人の間の問題だし、それをリンの恋心を言い訳にして問い詰めるのは卑怯だ。自分がそれをするのは、カカシに対して堂々と正面から想いを告げたリンに対しても失礼にあたる。
オビトはそんな卑怯者にはなりたくない。
だってリンはカカシに告白をしたことも、恋をしたことも微塵も後悔していないのだから。
彼女の想いを尊重するなら、オビトが何かを言うべきでは無い。
だがまあそれはそれ、これはこれ。
モヤモヤするものはモヤモヤするのである。
「それより、そろそろ時間でショ。遅れないうちに行きなよ」
「あ、いけね」
指名任務が入っているから、オレ自ら説明するので明日午前十時に火影の執務室に来るようにと、昨日四代目火影である波風ミナト当人に言われていたのだ。
まだ時刻は朝の九時ではあるが、オビトは昔から困った老人との遭遇率がやたらと高く、困った老人を助けるのをモットーにしている彼は遅刻の常習犯である。
普通の忍びの足ならここから火影塔まで十分もかからないが、オビトの性質を考えたら、一時間前でも遅れる可能性は十分にある。
ならカカシの「そろそろ時間でショ」という指摘は正しい。
「じゃあな、カカシ。これ全部やるよ。またな」
そういってオビトは醤油味のうちは煎餅がたっぷり入った紙袋を、カカシの腕の中に押しつけ公園を出た。
そんな相棒を公園のベンチに腰掛けたまま、カカシはヒラヒラと手を振って見送った。
* * *
「……ギリギリか?」
「んー、惜しい。一分の遅刻だよ、オビト」
そういって金髪碧眼の優男……四代目火影波風ミナトは苦笑した。
それに、昔と違って息こそ乱していないものの、今日こそ間に合っただろうと思った黒髪の青年はガックリと頭を落とす。
犬も歩けば棒に当たるという格言があるが、オビトが歩けば困った老人に当たるのはもはや自然現象ではないかと思えるくらいに当たり前のことで、例によってカカシと別れた後も困った老人を発見してしまったオビトは、屋根から足を滑らせ落ちてしまったじいちゃんを、おぶって病院に運んだりといったタスクをこなした結果、やっぱり遅刻してしまったようだ。
とはいえ、昔に比べると格段に遅刻する時間は短くなっていってはいるのだが、完全無遅刻とは中々いかないようである。
「さて、昨日も言った通り、君宛の指名依頼が入っている」
「ハッ」
それにキリリと火影の顔に切り替えて、ミナトが本題に入ると同時にオビトはビシッと背筋を伸ばす。
それから差し出された指令書を受け取り、ざっと目を通す。
「大名様に謁見する予定の、雨隠れの里の使者……暁の忍びへの護衛依頼……?」
「ん、オビト、君は暁のことについてどれくらい知っているかな?」
そう相変わらず感情を読ませないタイプのニコニコ笑顔で、かつての上忍師たる男が問う。
それに、オビトは軽く左右に頭を振って、「確か、第二次忍界大戦中に頭角を現して、他国の忍びをたたき出して中立を叫んでいたとかいう集団で、実質今の雨隠れと雨の国を動かしている中心的な存在……ですよね? それ以外は何も」そう言って、なんでこの指名依頼が自分にきたのか、皆目見当もつかないオビトは、軽く下唇の傷になっている部分を噛みしめる。
この依頼書に書かれている事を読んだ印象としては、雨隠れの暫定政府だった暁が、正式に国の代表として認めてくれるように火の国の大名様へお願いしにいくからその護衛を頼む、ってことでいいのだろう。
だが、これは国家の動向に関わるものであるし、敵対戦力との交戦も視野に入ってくる、そういう任務だ。
……そうであれば、ランクでいえばAランク任務に相当するだろう。
そしてAランク任務と言えば、上忍がリーダーとして受ける、それが慣例だ。
なら、カカシが隊長で、いつものようにオビトとの
カカシは半休だと言っていた。
おそらくこの任務に呼ばれてはいない筈だ。
だが、この部屋にオビトとミナト以外の上忍の気配はない。
もし他に同行する上忍がいるのなら、遅刻したオビトよりも先にこの部屋にいる筈だろう。
「……ん、分かっているみたいだね。今回の任務、隊長はオビト、君だ」
それに、なんでオレ? とわかりやすくオビトの顔に出る。
「知っての通り、中忍を隊長として任せられる任務のランクは、Bランクまでとされるのが慣例だけど、まあ……何事も例外はあるってね」
そういってミナトはウィンクをした。
正直言って今回の話は、ミナトからしても渡りに船ではあったのだ。
火影とは、皆にその功績や人柄を認められたものがなるものだ。
ミナトとしては、出来れば次の火影はオビトになってほしいなという想いもあるのだが、それを決めるのはミナトではないし、現役の火影様である以上、誰か一人を贔屓にすることは良いことではない。
だからオビトには自力で次代の火影の座を掴んで欲しいと思っている。
が、その為には功績が必要だ。
確かにオビトは、四年前里を出る前よりも強くなった。
カカシとのコンビも「写輪眼の双璧」の名で今は知られ、その強さは他国でも噂になるほどだ。
だが、それは隊長であるカカシの功績である、と見ることも出来る。
一人でどれほどのことが出来るのか。
木遁が使えるといっても、所詮は中忍だろう?
白雷のヤツにおんぶに抱っこなんじゃないのか、と一部の口さがない者達にはそういう風に見られているのだ。
だから、カカシがいなくても大丈夫だと、隊長としても問題ないとオビトは示すべきなのだ、本当に火影を目指すのなら。
二人だと最強だけど、それでも決して隻眼の木遁使い本人も侮るべきでないと、証明すべきだ。
そういう意味では、この指名依頼は良い機会だとミナトは思っている。
「先方が君を是非にとそう望んでいる」
その師でもある里長の言葉に、訝しげにオビトはキュッと眉間の皺を寄せる。
木遁はこれまで初代火影である千手柱間しか発現したことのなかった、唯一生命を生み出せる遁術であり、オビトはその史上二人目の使い手だ。
故に研究対象として他国に狙われること。だから強くなるまで人前で木遁を使うのは、自衛の為にも秘めるようにと、そうこの細胞を手に入れてから九尾事件が起きるまで、オビトは口酸っぱく扉間先生に言われてきた。
それが……他国の忍びが自分をわざわざ指名して護衛依頼をするなど、その時点で怪しくないか? 木遁狙いではないかと疑わざるを得ない。
にも関わらずミナト先生に木遁を奪われる心配の色が見えない。
(……その、暁の忍びってやつ、先生の知り合いなのか?)
そんな疑問を抱く、黒髪隻眼の青年の心をまるで読んだかのタイミングで師は言う。
「フフ、実はね……暁の創始者の三人は、自来也先生のお弟子さんなんだよ」
「え」
「ん……つまりオビト、今回の任務の護衛相手は、オレの弟弟子で君の兄弟子ってこと」
「あー……」
それでか、と腑に落ちたようにオビトは気の抜けた声を出した。
つまり、これは相手への信用というより、同じ自来也師匠の弟子だからという師への信頼からきた警戒心の薄さだったのだろう。
「で、受けてくれるかな」
「はい、四代目様、謹んでお受けします」
そうオビトが頭を下げると、「じゃあ今回の君のパートナーだけど……テンゾウ、入ってきて」そういってパンパンとミナトは柏手を打った。
それにともない、「ハッ」と短い声を上げて、猫の仮面をつけた小柄な忍びが部屋に入ってきた。
「その声……お前、ヤマト!?」
「お久しぶりですね、オビト先輩」
そういって仮面を外した少年は、思った通り、もう一人の柱間細胞適合者であるヤマトであった。
肩につく程度の茶色い髪、黒い眼に大きめの口。
こうして会うのは四年ぶりだが、そのどれもがよく知る後輩の特徴と一致していた。
「お前、暗部に入ってたのかよ!?」
エリートじゃん。
そう驚き混じりに、オビトが言うと、ヤマトは「今はカカシ先輩の部下で今のボクはテンゾウですよ」とか言い出すので、黒髪隻眼の青年は「???」と疑問符で脳内が一杯になった。
「まあ、表の任務だし、ヤマトでもいいですよ……これからよろしくお願いしますね、オビト隊長」
そういってヤマトはすっと手をさしだしてきた。
どうやら握手しようってことのようだ。
「ああ、よろしく」
そういってオビトは久方ぶりに再会した後輩と固い握手を交わした。
それからクルリ、ニコニコと保護者のような
「それで、四代目様。これからヤマトと雨の国との国境まで護衛対象である暁の忍び……雨の国からの使者を迎えにいって、そこから都で大名様との謁見を使者が終えて、雨の国に帰国するまで護衛につけばいいんですよね?」
「ああ、そうだね」
「その、使者の名は?」
* * *
ザアザアと雨が降る。
「うへえ、噂通りだな……」
そうオビトはうんざりとしたような声を上げる。
雨の国は、その名の通り一年の殆どが雨雲が空を覆い、晴れている日は滅多にないらしい。
その証拠にか、木ノ葉隠れの里を出て、雨の国に近づくにつれポツポツと降り出した雨が本格的な土砂降りになっていった。
(こりゃあ、火遁使いは雨の国では不利かもな……)
幸いにも、というべきなのか……オビトはうちはの例に漏れず一族伝来の火遁を得意としているが、二つ名の通り木遁も使える他に、水遁や土遁もそれなりだ。
飛雷神の術もあるし、口寄せでガマ次郎三郎に来て貰えば、足場の悪い地での戦闘も問題はないだろう。
とはいえ、雨の国には護衛対象である暁の忍びを迎えに来ただけで、すぐに出る予定なのだから、無用な心配なのかもしれないが。
「……! 先輩アレ」
見れば、木々から抜けた先で、遠くて見にくいが一人の赤雲模様の入ったコートを着た青年が、大勢の岩隠れの忍びらしき男達に囲まれていた。
赤雲模様のコート……即ち、暁だ。
ならば高確率でアレが自分達の護衛対象なのだろう。
「……先に行くッ!」
そういってオビトはマーキングを施した手裏剣を放ち、そこへと飛んだ。
急げば、間に合うはずだ。
時空間から抜け出したらすぐに木遁で拘束を……そう思考したオビトであったが、ついた時にはもう終わっていた。
黄金の鎖だ。
九尾事件の時にも見た黄金の鎖が、赤い髪をした暁コートを着た男の体から伸びて全ての岩忍達を一瞬で封殺した。
「……君は」
若い男だった。
優しげな面立ちに、細身の体つきをしている、見た目の割に渋い声をした赤い髪の男が、オビトを見て少しだけ驚いたように目を見開くと、ふっと笑って静かな声で言う。
「隻眼の木遁使い、木ノ葉のうちはオビト……であってるよね? オレを迎えに来てくれたのかな」
「まあ……」
「少し待ってくれ、すぐに片付けるから」
そう言ってチャクラで出来た鎖を赤髪の青年はたぐり寄せる。
どうやらこの鎖は強力な封印術の一種のようであり、捕らえられた男達はびくとも動けないようだ。
長門は何やら手で合図を出すと、男達を術がとけた後も大丈夫なよう、改めて拘束具で縛っていく。
「……手伝う」
「いいのか? ありがとう」
さっきの合図を見て、ワラワラと雨の国の住人らしき人物が集まり、男達を引き取っていく。
中には、「大丈夫ですか?」「お怪我はありませんか?」などと声をかける人達もおり、随分と慕われているようだ。
そうして一連の作業を終えて、追いついたヤマト共々立ちすくむオビトに振り向いて、ふわり。
赤髪の男は微笑みながら、「じゃあ、自己紹介しようか」と柔らかい声で言った。
「もう知っていると思うけどオレは君の兄弟子の長門。君のことは……オビトって呼んでいいかな……?」
これが長門との出会いだった。
続く