隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
そういえばこのシリーズ、当初の想定ではカカシ先生はもうちょい出番少なかった筈なんですが、どんどん増えていくのはどういうことだってばよ。


05.若木と老木

 

 

 

 それは小さく幼い忍びだった。

 忍びの平均寿命を大きく越えて、八十年近く生きてきた千手扉間から見たうちはオビトという忍びは、まだ声変わりすらしていないほんの子供だ。おまけに右腕右足もなければ、左目もない。満身創痍の半死人。

 中忍と認められてはいるが、今は戦時中故試験自体どうしようもなく、甘くなる。人手が足りないからだ。

 きっと今が泰平の世であれば、おそらくいずれは中忍に昇進するにしてもあと二、三年はかかったのではないかと思えるほど未熟だし、資料を見てもそこまで優秀な忍びではない……うちは一族内では落ちこぼれと言われていたらしいが、それでも比較対象が優秀なものが多いうちはだから下位なだけで、遅刻癖を除けばそこまで悪いわけでもない、能力的には凡庸な忍びだ。だが……。

(この目はどうだ?)

 その眼に宿る光は、想いは、嗚呼まるで幼い頃の柱間兄者のようではないか。

「ブッ、ハハッ」

 そう思えば溜まらず笑いが扉間の口からまろびでる。

「クク、ハハハハッ」

 笑いのツボに入ったらしく、暫く老年にさしかかった見た目だけ若い研究者の男はゲラゲラと腹を抱えて笑う。それにジトリと少年達二人の「何やってんだこいつ」という視線が突き刺さるが、子犬にじゃれられるようなもの。扉間は意にも介さなかった。

「貴様は、マダラの子孫と聞いていたが……クク、奴よりも兄者やアヤツ(・・・)のほうが似ておるな」

「え?」

 そう告げて白髪赤目の大男は、厳つげな面差しからは想像も出来ぬくらいに優しげに微笑んだ。

「兄者は、子供を、仲間を守れる居場所が欲しくて木ノ葉隠れの里を創った。子供が殺し合わなくて済む集落を……誰しもが己が一族のことしか考えぬ中で、本当の同盟、協定は出来ないかと考えた」

「!」

 それはその時代を生きた者の口から語られる木ノ葉創世記の話。

 初代火影千手柱間が亡くなったのは、今から約二十三年前の出来事だ。

 同時代を生きていないオビトは千手柱間のことをよくは知らない。木ノ葉隠れの里を創った偉人で、伝説の木遁忍術を操り忍びの神と呼ばれた戦国最強の忍び。伝えられていることから知っているのはそれだけだ。二代目火影のあの人のようにその行跡が絵本になっているわけでもないから、余計知らなかった。

 里を創った想いを。

 何故不倶戴天の敵だった筈のうちは一族と手を取り合い、里を興したのかを。

「幼い頃の柱間兄者は当時、敵の頭領の子であった幼き日のマダラと誼を通じていた。ワシにとってマダラはとてもではないが信用出来る相手ではなく、何故兄者があれほどマダラに拘ったのか理解に苦しむものがあったが、そんなワシでも信頼しても良いと思えたうちはの男がいた」

「それって……」

 脳裏に浮かぶのは木ノ葉隠れの里を象徴する火影岩だ。

 期待するように、オビトがゴクリと唾を飲み込む。

「そう、後に二代目火影を就任したあの男よ」

 うちはオビトにとっては曾祖父の弟だった人、二代目火影うちはイズナ。

「闇を見ても、闇に堕ちず……闇の中にあって尚、人を信頼することを知っている眼をしていた。心から平和を希求し、耐え忍び、理想を少しでも現実に近づけようと模索し、努力することを惜しまず、地に足をつけて進み続けることを知っている、そういう男だった」

 その語りを受けてオビトが思い出すのは、今から八年ほど前の幼い頃だ。

 あの人と初めてあった時の記憶。

 そこにいたのは静謐な佇まいの、年老いて尚凛とした故老。澄んで凪いだ眼差しは、森羅万象何もかも受け止め、包み込むような色をしていた。まるで、夜空に浮かぶ満月のような人だった。

 

 朗々とした声で語っていた扉間だったが、そこまで語ってから頭を一度横に振り、そして先ほどよりほんの少しだけ硬質な声で続ける。

「ワシはあまりうちは一族を信用しておらぬ。それは奴等が闇に魅入られやすいからだ」

「……エ? それって、どういうことだよ? 扉間のおっ……じいちゃん」

 オビトはえ……なんで急にディスられたの? と疑問がいっぱいの顔で、まん丸に眼を見開き尋ねる。

 すると白髪赤目の見た目だけ若い老人は「扉間先生で良い」と返して、言葉を続ける。

「おぬしは写輪眼の開眼条件を知っておるか?」

「写輪眼の開眼条件って……」

 そんなものがあるなんてそもそもオビトは知らない。

 そりゃうちは一族だからって全員が開眼するとは限らない、目覚めるのは一部のうちはだけな事くらいは知っているが、どうして開眼するのかなんて考えた事も無かった。

 ただいつかオレもうちは一族なんだから開眼するだろうと思って、眼を大事にしてきた。ずっとつけていたお気に入りのオレンジ色したゴーグルだってそうだ。いつか、その時が来たときの為ってそんな漠然とした考えで付け続けてきた。

 オビトはチラリと助けを求めるようにすぐ隣の銀髪の少年に視線を飛ばす。その目は雄弁にカカシィ助けてくれーお前なんでも知ってるだろ~と言っていた。カカシはカカシで一族でもないオレが知るわけないでショ。オレに聞かないでよという想いをのせて視線で返す。

 ほんの数週間前までのそりのあわなさが嘘のように、阿吽の呼吸で二人は通じ合っていた。

 そんな少年達を微笑ましく思いつつも、扉間は説明を続ける。

「うちはの者が大きな愛の喪失や自分自身の失意にもがき苦しむ時……脳内に特殊なチャクラが吹き出し、視神経に反応して眼に変化が現れる。それが“心を写す瞳”……写輪眼と言われるものだ」

「あ……」

 そう言われればオビトには心当たりはあった。

 何故ならオビトが写輪眼に目覚めたのはカカシが己を庇い、左目を失った直後だったからだ。

 いつも口先ばかりで助けられてばかりの自分に失望し、それでも仲間を守ると語ったその言葉だけは口先だけにしたくないと、そう強く願った矢先に写輪眼は花開いた。

 そう考えれば、写輪眼は確かにオビトの心の動きと連動していた。

「写輪眼は心の力と同調し、個人を急速に強くさせる……心の憎しみの力と共に……うちはには繊細な者が多く、強い情に目覚めた者は闇にとらわれ悪に堕ちやすい……ワシはそれを何度も見てきた」

 つまり……憎しみと恨み、失望。そういったマイナスの感情こそが写輪眼を育てるとそう千手扉間は語る。

 その言葉を聞いてオビトは考え込む。

 オビトはそこまで頭が良いわけではない。頭の出来はどう逆立ちしたってカカシには勝てないだろうとそう自負している。だがそれは考えることをやめる理由にはならない。だからこそ、しっかりと先ほど扉間が語ったうちはについての話を自分の中で咀嚼する。

 そして、考えを纏めて頭を上げた。

「なぁさっき写輪眼は心を写す瞳って言ったよな」

「……そうだな」

 白衣をきた男は是と肯定する。

「ならさ、別に闇だの憎しみだのイヤーな方に考えなくてもいいんじゃねーの?」

 そして自分の思った答えを語る。

「確かにオレも、言われてみれば開眼した時は弱くて何も出来ない自分へのそういう感情が先にあったけどさ、でもそれだけじゃない。一番強く願ったのは仲間を守りたいって気持ちだ。だからこの眼を得たんだってそう思うんだ。こいつが本当に自分の心を写す瞳で、心と同調して強くなっていくっていうんなら……誰かを守りたいって気持ちでも強くなれるって事なんじゃねーのか?」

 そうしてオビトはその黒い眼を写輪眼の赤に変えて、笑って言った。

「少なくともオレは、この眼は仲間を守るためにあるんだって、そう信じてる」

 それは眩しいほどの太陽のような微笑みだった。

 いつか見たような笑みだった。

 子供が次々と大人になることもなく死んでいく戦乱の世で、それでも尚人を信じることを止めなかった男がいた。やがて忍びの神と呼ばれるようになるその男は、どうしようもないほどに真っ直ぐな清々しいバカで、呆れることも多かったが、それでも自分にないその真っ直ぐさが好ましく、扉間に憧憬を抱かせた。この人を支えたいと思ったのだ。

 兄弟に産まれたから、ではない。兄が千手柱間その人だったからだ。柱間だから支えたかったのだ。

 扉間自身は現実主義者であり、かつゴリゴリの合理主義者であったが……だが彼は真っ直ぐに自分の信ずる道を貫く、そういうバカが好きだった。そういう人間がこの忍びの世には必要だと知っていた。

「……そうだな」

 うちはオビトに左目はない。

 正確には彼の左目は本人の希望でこの隣に立っている銀髪の少年、はたけカカシに譲渡されたからだ。

 うちはほど愛情に深い一族はいない。それは扉間も知っている事実であったが、それでもうちはでもない相手に自分の開眼した眼を譲って微塵も後悔していない、そんなバカは他に見たことがない。

 そして半死人のようになった現状にも関わらず、うちはオビトが絶望しているような気配も微塵もない。現状に対し、驚くほど前向きだ。

 それに扉間は、闇を見つめて尚闇に堕ちなかった、闇の極致たる眼を持っていた男を知っている。

「おぬしならば大丈夫だろう」

 それでも警告をしてしまうのは老婆心か、期待の裏返しか。

「良いか、小僧……闇を必要以上に恐れるな、目を逸らすな。闇は隣人と心得、己が闇も飼い慣らし受け入れよ。それが出来るのであれば……或いはおぬしの言うとおりいつか貴様が火影になるやもしれんな」

 正直扉間の言葉はオビトには少し難しい。

 だが、そこに込められている想いはわかる。気難しい老人の付き合いだって、里中のジジババと知り合いのうちはオビトにとってはお茶の子再々だ。

 わかりにくいが、ようは心配してくれているし、火影になることを激励されているのだ。

「オゥ!! 心配してくれてありがとうな!!」

 だから輝かんばかりの笑顔で素直にお礼を言う。

 ……うちはオビトという子供はジジババ特攻タラシだった。

 

「さて、本題に戻すが……兄者の細胞を使った義肢の制作には暫し時間が掛かるが、疑似臓器については早急に用意を済ませる。被験者の同意書にサインがなされ次第、来週には手術にかかれよう。資料は後で纏め届ける。他に質問は?」

「ない」

 正確にはあったところで、門外漢のオビトには何を質問していいのかわからないの間違いだが、既にこの時点でオビトは千手扉間というこの老人らしからぬ外見をした老爺を大分信頼している。

 カカシも病院の先生も口を挟まないし、なら大丈夫なんだろうとそうオビトは思った。

 そうして扉間は最後、チラリと銀髪の少年に視線を向けてからオビトに「良い友を持ったな」そう告げてから去って行った。

 思わず、カカシと二人顔を見合わせ、先ほどのことを思いだし二人して耳を赤くしてぷいと逆側に顔を背ける。

 もう互いの事を友だと認識しているカカシとオビトであったが、改めて他者から指摘されると照れくさかった。

「いやぁ、オビトくんは凄いね」

 そこまで口を挟まず見守ってきた車椅子の男……加藤ダンが感心したような声で言う。

「扉間様にあそこまで物怖じせずものを言える子なんてそういないよ。それに、「火影はオレの夢だから」とか、親近感持っちゃうな」

「え、ってことはひょっとしてダン医師(せんせい)も……?」

「そう、オレも昔は火影になるのが夢だったの」

 そこでオビトの視線がダンの車椅子と足に向かう。

 その視線の先がわかったからだろう、長髪の優男は苦笑しながら語る。

「昔の任務で……ね、一命は取り留めたけど、経絡が滅茶苦茶になり、オレの下半身は二度と動かなくなった。残念ながら君と違ってオレは初代様の細胞との親和性もほぼないらしくてね……施術を希望したら扉間様に「無駄死にさせる気は無い」とにべもなく断られたよ」

「あ……その、オレ」

 まずいことを聞いたと思ったのだろう、しどろもどろになるオビトを見て「君は優しいね」と微笑み、ダンは言う。

「昔の話だよ。何、今は大切な人を支え、支えられて生きている。君が悲しむことじゃないよ……今は最愛の奥さんを置いていかなくて済んで良かったと、そう思ってる」

 そう話を結んだ。

 しんみりした空気が漂う病室、そこに早足で駆け寄る足音が一つ。

「失礼します、ダン主任」

 そういってガラリと戸が開けられ、現われた看護師が何事かを車椅子の男へと報告する。

 すると柔和な顔をしていたダンは、眉間に皺を寄せ、「何……そうか」そう答えると、真剣な表情を浮かべて「オビトくん」とこの病室の主の名を呼んだ。

「この部屋にもう一人患者を入れるよ。いいね?」

「あ……はい」

 何故この部屋なのか、病室が他に空いてなかったのか、と色々な疑問が渦巻くオビトの疑問がイヤな形で解決したのはこの三十分後の事だった。

 

 * * *

 

 コツコツと白い病院の廊下を白髪赤目の白衣を纏った男が歩く。

 先ほどうちはオビトの病室から退出した千手扉間だ。

 このまま裏口から病院を出て、そのまま今の己の居場所である木ノ葉忍術研究所の自分の研究室に戻るつもりだった。入院患者や来院患者が使う廊下ではないため、人気は少ない。

 そんな中で耳馴染んだ声が一つ。

「師よ。うちはオビトはどうでしたか?」

「……サルか」

 そこに立っていたのはこんなところにいるはずがない人物、三代目火影猿飛ヒルゼンだった。

 ……正確にはその影分身であったが。

 元々彼は扉間の生徒の一人であったが、しかし今の彼はこの里の顔たる火影である。政治的な勘ぐりを避ける為に、火影を就任して以来、あまりヒルゼンは己の師である扉間と接触することはなかった。

「面白い小僧よ。兄者と同じ眼をしておったわ」

 そうして目を細めて語る姿は、アカデミー校長を彼が務めていた在りし日を思い起させた。

 千手扉間という男には色々な側面がある。

 敵の捕虜を二人捕まえて一人を殺し、もう一人を生贄に穢土転生で蘇らせ、情報を抜いた後互乗起爆札を仕込んで敵の本拠地に帰し、人間爆弾にして使い捨てるという味方すらもドン引きするような戦法を「効率的だから」と平気で使用し、実の兄の細胞を「有用だから」と研究材料にする。

 それらの行為だけ見たら、血も涙もない外道の冷酷漢としか想定できないだろう。

 だが実際問題として師扉間はそういう男ではない。非道に見える行為も、それが後世のためだと、未来や里のためになると信じ、亡くなった初代火影千手柱間を誰より敬愛していた。

 そして子供達を慈しみ、その未来を創ってやりたいと願っていた。その為なら非道な手段をとることになっても躊躇はしない。

 バリバリの合理主義に偏った手段ばかり使う現実主義者でありながら、根っこには人を信じる心がある。そんな冷徹さと慈愛を併せ持った希有な人、それが千手扉間という師であった。

「今は若木に過ぎぬ彼奴もやがては大樹と為り、里を支えるだろうよ」

 そう師が言うのなら、きっとそうなるのだろう。

 そんな風にヒルゼンは扉間の見る目を信頼していた。

「楽しみよな、サルよ」

「左様ですな」

 木ノ葉隠れの里に若木達が育ち、また新たな火の意思を継ぎ、時代は移ろっていく。

 ならば老木はいずれ朽ち去るときがくるだろう。

 ヒルゼンの脳裏に一人の男の姿がよぎる。金髪碧眼の……先ほど話題に出ていたうちはの少年の上忍師にあたる瑞々しい若木の姿を。

 この戦争が終われば、その男が新しい火影となりまた里を支えていく、それはもう殆ど決まった未来だった。

 今日より明日、明日より明後日の未来(さき)に、光があると信じて耐え忍び進み続ける者。

 それを忍者と呼ぶ。

 

 * * *

 

「オビト……!」

 はたけカカシが帰ったのと入れ替わるように、うちはオビトがこの世で尤も大好きな少女が彼の病室に現われる。

 のはらリン。幼馴染みでもある心優しい医療忍者の女の子だ。

 だがいつもは優しい微笑みをのせている筈の顔には溢れんばかりの悲しみが浮かんでおり、動揺しながらもオビトは声をかける。

「……り、リンどうしたんだよ?」

 オロオロとしている黒髪の少年の左手をリンは両手で包み込み、「オビト、気をしっかり持ってね」そう辛そうな声で告げる。

「それはどういう……」

 オビトの疑問にリンが答える前に、オビトの病室の少年の左隣に看護師によって新たなベッドが設置される。

 そして複数の看護師に支えられるようにして、今にも崩れ落ちそうな老婆が一人現われた。

「ばあちゃ……ッ」

「……オビト、ちゃん……?」

 オビトは絶句した。

 その枯れ枝のような老人は確かにオビトの実の祖母だった。十三年間家族として共に暮らしてきたのだ、間違いはない。間違いはない筈なのだ、だがオビトはあまりそうと信じたくなかった。

「嗚呼……本当にオビトちゃんなのね……嘘じゃないのね、生きていたのね……神様……」

「ばあ、ちゃん……」

 オビトの祖母はまだ還暦にもなっていなかった筈だ。

 もっと顔も手もふくよかで、優しく笑う姿が好きだった。最後に顔を合わせたのはたった二週間前だ。なのに……。

 顔を合わせなかった二週間で祖母は、十年も二十年も経ったかのように老け込み、髪は抜け、ゲッソリと目は落ち窪み、木樵に切り落とされるのを待つ老木のような有様になっていた。

 

 続く

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