隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
久し振りに感想沢山貰えたのでヒャッハーと書き上げました、61話です。


61.オビトとうちは

 

 

 

 木ノ葉隠れの里が出来て65年目の二月の終わり。

 オビトは、自分の住むアパートの郵便ポストに投函されていたその封筒を見つけて、ゲンナリとした顔で虫を摘まむように自分宛に送られてきたそれを摘まんだ。

「……またか」

 後ろには思った通り、うちは一族の家紋が押し印されている。

 これだけで要件がわかるというものだ。

「……いい加減じいちゃんたちも諦めてくれたらいいのに」

 中身を見ずともわかっている。

 見合いの催促状だ。

 それをオビトは慣れた調子で火遁で焼き、灰にした。

 

 夜、自分一人分の夕飯を作り、食らい、忍具の手入れをして、木遁で花を生みだし育て、風呂に入り床に就く。

 里にいるときなら珍しくも無い、いつも通りのルーティンだ。

 何も変わらない、いつも通りのうちはオビトの日常。

「…………」

 違うのは、ベットの上で中々寝付けないのは、一族から送られてきて既に灰にした封筒の存在、それだけ。

 ……三週間ほど前に、オビトよりいくらか年少の一族の少年、うちはシスイに言われた言葉を思い起す。 

『アンタが、一族と距離を置きたがっているのはわかっている。それでもアンタはうちは一族だ。アンタが本当に火影を目指しているのなら、一族から逃げるべきじゃない。向かい合うべきだ』

 

 このままじゃ駄目な事くらい、本当はオビトだってとっくにわかっている。

 ずっと逃げているだけじゃ何も変わらない。

 見なかったフリをして封筒を燃やした所で、これまでのようにまた追加で送られてくるだけだ。

(いい加減、腹をくくって話すべきか……)

 断るなら断る。

 受けるなら受けるで、はっきりと言わないからこその現状だとはわかってはいたが、それでも心が重いのは確かだ。

 オビトはあんまり、一族に親しい相手はそんなにいないけど、それでも里のジジババ達同様、同じうちは一族のジジババ達にも可愛がられてきた。

 が……オビトにとっては有り難くないことに、彼にとって迷惑でしかない封筒の送り主もまた、そのジジババ達……十中八九、一族の長老会が主犯であろうと見当がついている。

 オビトは二つ名こそ木遁使いと冠されているが、うちは一族でこれが出来たら一人前と言われている火遁の扱いだって、並以上であるし、うちはが誇る血継限界の写輪眼だって、しっかり開眼している。

 其の血を遺さない選択は、彼らの価値観的にはまず無い。

 まあ、それでいうと生涯独身の二代目火影様たるうちはイズナは、本当に例外的な存在だったのだろうが……まあそこは、オビトにはイマイチわからない政治的な配慮だのなんだのがあったのだろう……多分。

 それにオビト達の親世代では既に主流では無くなっていたとはいえ、オビト達の祖父母世代になると、見合い結婚のほうが一般的だ。

 故に、オビトへの見合いの要請も、十中八九『善かれと思って』画策されたものだろう。

 ……それが分かっているからこそ見なかったフリをして、いつか諦めてくれないかなーと希望的観測の元逃げを打っていたのだが、だがシスイの言うように、たとえこの半身が千手のものだろうと、オビトもまたうちはの人間だ。

 適切な相手と番わせ、血を遺す。

 昔からの習わしであり……それによって結ばれた祖父母の夫婦仲が良好で、かつてはおしどり夫婦と呼ばれていたように、決して見合い結婚だからといって、幸せになれないなんて、そんなことはないのだろう。

 ……ただ、オビトには既に好きな人がいて、彼女以外の女性(ヒト)とそういう関係になるなどちょっと考えられないし、考えたくないだけで。

 リン以外の女の人を好きになる自分というのは、オビトには受け入れられないレベルで論外で、解釈違いなだけで。

 だからといって、返事も返さず、逃げて良いかは別の話だ。

 たとえオビト自身がどう思っていようと、オビトがうちは一族であることは変わらないし、自分の一族からも目を背けて逃げているような人間が火影になれるわけないだろって言うのも、まあ言われてみればそうだな……と、耳に痛くとも、オビト自身も納得出来てしまう意見であった。

 …………隻眼の木遁使いって二つ名で知られるようになって、ドベとか言われていた時代とは比べものにならないくらいに強くなって、上忍にも昇進して、未来の火影候補の一人だと言われるようになって……でも、オビトの本質はそこまで変わっていない。

 臆病で、逃げ癖があって、真っ直ぐ歩くのが苦手な、泣き虫忍者。

 それがうちはオビトだ。

 初めて写輪眼を開眼した時の事を思い出す。

 オビトを庇って、カカシが左目の視力を失って……口先ばっかりでみんなに助けられてばかりの自分が嫌になって、でも「仲間を守る」その言葉だけは口先だけの嘘にしたくなくて、その強い想いに呼応するように、写輪眼が花開いた。

(逃げたくない……逃げる自分でいたくないってそう思ってたのにな……三つ子の魂百までってか)

 だけど、自覚があろうがなかろうが、またこうして逃げの手を選んでいる。

 そんな自分を、瞬身のシスイの名で知られているあの少年によって、突きつけられてしまった。

 だが、気付いた以上はこのままでは駄目だろう。

 オビトは机の上に置いた手帳に手を伸ばし、そこに挟んでいたそれを手に取る。

 二週間ほど前に、リンに十九歳の誕生日プレゼントとして貰った、四つ葉のクローバーを押し花にして作った彼女お手製の栞だ。

 それにそっと口づけて、思う。

(リン、オレに勇気をくれ)

 

 * * *

 

 三日後、オビトは一族の長老衆がよくたまり場にしている、旧うちはヒカク邸へと足を運んでいた。

「あらあら、オビトちゃんいらっしゃい」

「オビトや、よく来たな」

 そう言ってニコニコと、先代うちは煎餅屋の店主夫妻がオビトを出迎える。

「じいちゃんばあちゃん、急な事なのに出迎えありがとな。ばあちゃんこれ良かったら貰ってくれよ」

 そういって手に持っている花束をオビトが差し出すと、ふくよかな老婆は頬を綻ばせながら、「まあ、沈丁花? 良い香りねェ」とすうと胸いっぱいに花の香りを吸い込み、嬉しそうにオビトに笑いかける。

 それに夫である老爺のほうもニヤニヤとしながら、「オビトは女の扱いが上手いな。うちの孫にも見習わせたいぜ」などと軽口を叩いた。

 彼らについて廊下を歩く。

 その先の大部屋には、忍び稼業を隠居した、五十代以上のうちは一族のジジババ達が、総出でオビトの訪れを待っていた。

「みんなー、オビトちゃんが来てくれましたよー」

 大切そうに胸に沈丁花を抱えた老婆が、朗らかに声を上げる。

 すると、老人達は口々に思い思いの言葉をオビトにかけていく。

「オビト、よく来てくれたなァ」

「最近忙しそうだが、体の調子はどうだ? 若いからってあんまり無理はするんじゃないぞ」

「おお、オビトこの前は助かったぞ」

「オビちゃん、よく来てくれたねェ……寒かったろう、こっちおいで。美味しいお饅頭もあるから、たんとお食べね」

「オビト、活躍は聞いてるぞ。お前は一族の誇りだ」

 そういって一通り話しかけられて、それに返事を返していく。

 和やかで穏やかな空気が流れるのは、実の孫でなくとも、彼らにとってオビトは孫みたいなものであり、そういう関係性をオビトがこれまで築いてきたからだ。

 そうしてオビトが到着して五分くらい経ったくらいに、先日古希を迎えた老爺が、期待するように微笑みながら黒髪隻眼の青年に言う。

「それでオビトや、こうしてワシらを集めたってことは、とうとう見合いに応えてくれる気になったって事かい?」

 その言葉を皮切りに、他の老人達も口々に思い思いの言葉を発していく。

「おお、遂にオビトも身を固めるのか」

「そりゃいい」

「オビトちゃんには少し年下の、可愛らしい女の子が合うと思うのよ。うちの孫なんてピッタリだと思うわ」

「あら? オビトちゃんには年上で、グイグイ引っ張ってくれるタイプの女の子のほうがいいんじゃないかしら? うちの孫なんかオススメよ。きっと似合いの夫婦になるわァ」

「なぁ、オビト……」

 ガバリ。

 好き放題に希望を述べていく老人達の前で、話題の中心たる青年は勢いよく、土下座と見紛うばかりに頭を深く深く下げた。

 それに、老人達は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、キョトンと言葉を止める。

「ゴメン……!! じいちゃんばあちゃん……オレ……オレ、好きな人がいるんだ!!」

 想いを誤解されないように、気持ちを込めながらに隻眼の木遁使いと称されている青年は言葉を紡ぐ。

「ずっとずっと、彼女の事だけが好きで、他の(ヒト)じゃ駄目なんだ……! だから、見合いとか、応えられない……! 言えなくて、期待させるようなことして、本当にゴメン、ごめんなさい」

 ずっと頭を深く下げたまま、緊張につぅとオビトの背に汗が一筋伝う。

 皆がどんな顔をしているのか、少し怖い。

 どんなに明るく振る舞っていても、オビトは元来臆病者だ。

 失望され、所詮はうちはの面汚しだと見限られるんじゃないかと、そんな嫌な想像がどうしても脳裏によぎる。

 そうしてオビトが頭を下げて、一秒、二秒、三秒……たっぷり三十秒ほど経った後に、先日古希を迎えた老爺が、思いもよらないほどに柔らかく優しい声で「顔をお上げ」とオビトに言った。

「そっか……好きな人がいる、か。すまなかったなァオビトや。ワシらのした事はどうやら、お前さんを苦しめることだったようだ」

 それから、その老爺の言葉に同意するように、先代うちは煎餅屋だった老婆も続く。

「そうねェ……アタシ達の時代は結婚は見合いが当たり前だったけど、もうそんな時代じゃないんだものねェ……ごめんなさいね」

 そこには、オビトの悪い想像の中に出てきた、失望したり蔑むような顔をしている者は一人もいなかった。

 寧ろ気まずげに、申し訳なさそうにしている老人のほうが殆どだ。

「じいちゃん、ばあちゃん……」

 ジンと思わず感動で胸が詰まるオビトを前に、この前還暦を迎えた老人がガハハと笑いながらバシバシとオビトの肩を叩きつつ言う。

「なぁに! 子孫を遺す気があるなら、別に構うめぇ。なあ、みんな!」

「そうねェ……もしもフラれたらその時は言ってね。そうしたら改めてうちの孫紹介させて貰うわァ」

「アナタ、狡いわよ。うちの孫だっているのですからね」

「おいおい、フラれる前提にするのはやめておいてやれ……」

「そうよそうよ、オビトちゃんなら大丈夫よ。こんなに格好いい男の子だもの。ねー?」

 そう老人達は好き放題に、思い思いに口にして騒ぐ。

「……じいちゃん、ばあちゃんたち……ありがとな」

 そうしてカラカラと、取り纏めるように、先代煎餅屋の主人は笑って言った。

「ま、お前さんも忙しいんだろうけどよ、少しでも悪いと思うのなら……来年の新年の宴には出てくれや。みんなお前さんの顔を見れるのを、楽しみにしてるんだからな」

「……善処するよ」

 

 * * *

 

 長老会との話はついた。

 ちゃんとわかってくれたという事なんだろう。

 あれ以来、本当に見合いの封書がオビトの元に送られてくる事は無くなった辺り、もっと早く話しておけば良かったなァと反省するばかりだ。

(嫌われるんじゃないかと思った……)

 ここまで向かい合うのを避けてきた理由は、結局それだ。

 親しくしてきた相手に嫌われるのが怖かった。

 オビトに見合いを用意したのは、オビトにとっては迷惑でも、老人達にとっては善意だろうから。

 それを無下にする真似をして、失望されたり、嫌われたりするんじゃ無いかと心のどこかで思っていた。

 その根拠はオビトが一族に対して抱いてきた疎外感が大きい。

 今でこそ将来有望扱いを受けているオビトだけど、幼少期……下忍時代までその評価はあまり芳しくなかった。

 老人受けこそ良かったけれど、それ以外の大人達にはヒソヒソと陰口をたたかれることも別に珍しくなかった。

 流石に面と向かって言われることはそんなになかったけど、子供というのは案外そういう他者からの空気に敏感なものだ。苦手意識はそういう所から培われていく。

 だが、もうオビトは、怯え縮こまっていた子供ではない。

 苦手だからってそれをそのまま放置していていいわけではない。

 それが大人になるっていう事だ。

 そして今回の件でもう一人、迷惑をかけた相手がいる。

「……オビトです、ごめんください」

「あら、オビトくんいらっしゃい」

 そういって族長夫人うちはミコトは、朗らかに笑ってオビトを家へ通した。

 

 長老衆がオビトに出した見合いの封書には、うちはの家紋が押し印されていた。

 そしてうちは一族の総意を認め、その許可を出すならこの人しかいない。

 うちは一族現族長……木ノ葉警務部隊三代目署長うちはフガク。

「アナタ、オビトくんが来てくれましたよ」

「入れ」

 そうフガクの低い声が響き、オビトは緊張しながら和室の戸を開く。

 そこでは、茶の湯の用意をしたうちはフガクが、すっと背筋を正し座す姿があった。

 無言で顎をしゃくり、正面に用意した座布団の上に座るよう促される。

 それに従い、オビトは対面の席に恐る恐る腰を下ろす。

 ……これが名家の現当主の貫禄というヤツなのか。

 普段ならこういう場合はあぐらで済ませるオビトであるが、流石に空気を読んで慣れぬ正座で出来うる限り姿勢を正しながら相対する。

 そんなオビトを前に、フガクはチラリと一瞥すると、慣れた手つきでチャカチャカと茶を点て始めた。

 酷く優美で、様になっている。

 もしこの人が忍び一族の当主ではなく、茶道の家元であると言われても納得してしまうかもしれない、そんな姿だ。

 コトリと、重厚な金箔を散らした黒い茶碗に、美しい深緑色の茶が差し出される。

 飲め、ということなのか。

 生憎、オビトに茶の湯の知識はそれほどない。

「……頂きます」

 そう口にして、茶を含む。

 ほろ苦いが、喉越しが爽やかで案外美味い。

 なんとはなしに、眼前に用意された練り切りを菓子切りで切り分け一口。甘い。

 その口直しに茶を含めば、旨味が増した。

「見合いの話は断ったそうだな」

 美味い茶と菓子に少し気が抜けたタイミングで、茶室の主たる男が言う。

 オビトがうちはの老人達の前で、「好きな人がいるから見合いには応えられない」とそう告げたのは、もう十日も前の事だ。

 当然、族長であるうちはフガクの元にもその連絡は行っていたのだろう。

「……はい」

 それに、姿勢を正しながら神妙に答えると、フガクはフッと男臭く笑いながら「そんな顔をするな。責めているわけではない」と告げ、自身も己で点てた茶を口に含んだ。

「シスイからも言われていた。お前はきっと見合いの話を受けることはないだろう、とな」

「シスイが……?」

 それに癖毛の少年を思い浮かべて、呟く。

「アレは他人(ヒト)のことをよく見ている」

 だから、見合いの話を断ったことを怒る気はないとフガクは言う。

「が、それとこれとは別だ」

 そういって、ギロリと眼光鋭くうちは一族の当主は、オビトを睨め付けた。

「いくら忙しいとは言え、流石に一族を蔑ろにし過ぎている。その自覚は……オマエにもあるようだな」

「……ごめんなさい」

 バリバリあった。

 うちはの新年の宴も、月に一度の集会も、オビトが参加した事は数えられるくらいだ。

 一度や二度ならフガクもそこまで咎めないだろう。

 なにせ現役の忍びで、上忍だ。

 忙しいならそんなこともある。

 だが、流石に一年以上会合に顔を出さないのは、オマエには一族の自覚があるのか? と族長である彼に怒られても仕方ない案件だった。

「以前もミナトを通して伝えた言葉だが……もう一度言う。たとえうちは地区外で暮らそうと、お前もうちはの子だ。たまには集会に顔を出しなさい」

 ぶっきらぼうな口調で仏頂面だ。

 だが、そこには確かに慈しみらしきものが宿っていた。

 オビトがあまり受けたことのない種類の慈しみ……強いて言うなら、前に波風邸に泊まったときに師から伝えられたものに近いそれを、父性愛と……そう呼ぶのかも知れない。

「オレからもミナトには言っておく。だから、来年の新年の宴は参加するように」

「……はい」

 元々、老人達とも約束した事だ。

 どちらにせよ、来年は出る気だった。

「それとそうだな……そこで何か芸でも披露して貰おうか」

 それでチャラだと、うちはフガクは不器用に微笑った。

 

 続く




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