12月24日はうちはマダラの誕生日でヤンス。65話です。
12月24日、木ノ葉隠れの里。
「おお、オビト悪ぃな」
「何、これくらい大したことないし、いいって」
うちはオビトは朝から知り合いの金物屋のじいさん……尤もオビトにかかれば、里中のジジババが全員知り合いといって過言ではないのだが。に頼まれて、雨漏りをしている民家の修理に精を出していた。
「かー、ワシがあと十年若かったらなァ……いててて」
突発性の腰痛か、それとも慢性的なものか。
金物屋の老主人は、そうやってぼやきながら腰を押さえ摩る。
「いや、じいちゃん、もう65だろ? 無理すんなって」
その様子を見て、オビトは思わず苦笑した。
そんなオビトを見て、金物屋の老爺のほうもつられるように苦笑しながら、「寒かったろう、オビト。まあ上がれや」そういって、孫のように思っている黒髪隻眼の青年を家の中に招いた。
老爺の後ろについていくと、家の奥の仏間に通され、そこで温かい茶と煎餅を振る舞われる。
その部屋には、オビトもよくしる老婆の遺影が飾られており、黒髪隻眼の青年はそっと手を会わせ暫し黙祷。
そんなオビトを見て「本当にありがとうな、オビトや」そういって、懐かしそうに金物屋の主人は目を細める。
在りし日のことを思い出しているのかも知れない。
「……ばあちゃんはいつ?」
「三年前の冬だ。悪い風邪をこじらせて、そのままポックリと。まあ年だったし、お前さんが気にするこたぁねェ。ばあさんは最期まで「オビトちゃんに会いたいねェ」と言って、それから……あの時お前さんに救われた事をずっと感謝していたよ」
そういって老爺は、隣に座る青年の頭に手を伸ばし、その短くツンツンとした黒髪をグシャリと撫でる。
金物屋の老主人が言っているのは九尾事件の時に、オビトが二人を木遁で助けたときの話だろう。あの日、あの時オビトが、扉間先生に人前で使用することを禁じられていた木遁を無断使用して、初めて助けたのがこの金物屋の老夫妻であった。
「お前さんは、英雄だ。ワシらにとっても、里のものにとってもな」
「うん……ありがとうじいちゃん……」
それから暫く、亡くなったおばあさんを悼むように静かに過ごし、もらい物だという稲荷寿司と温かいすまし汁を昼時に振る舞われ、まるで実の祖父と孫か何かのような和やかで穏やかな時間を過ごした後に別れた。
今日は任務は入っていないけど、話があるとかで八つ時までに火影塔に来るように言われたのだ。
まだ時間まで判刻以上あるが、急いでいる時に限って困った老人に出くわすのが、うちはオビトクオリティである。
早めに出るに越したことはない。
(あ、雪……)
妙に寒いと思ったら、どうやら降ってきたようだ。
白い結晶がフワフワと里を彩り、実に綺麗だ。
とはいえ、木ノ葉で降る雪の量などたかが知れている。
たいしたことは無いが……その雪で思い出すのは去年の今頃の事だ。
オビトは同盟国の代表として、カカシ共々、去年水の国の都で開かれた第一回雪まつりに招待されたのだ。
まあ、祭りの内容的に、これの発案者は仮面で顔を隠していたときのオビト自身といえるので、先方に、木ノ葉の代表には、隻眼の木遁使い殿を是非ともどうかと打診を受けたのはそこまで不思議ではないが、雪で作られた雪像の数々を展示する雪祭りは、オビトにしてみればただの思いつきだったが、実際に目で見ると迫力があり、とても楽しめた事を覚えている。
水の国で一週間かけて開催された雪まつりというイベントは、大成功に終わったといえた。
その事から、これからも冬至の時期になると、雪まつりを一週間……年の暮れまで水の国の都で開催することが本決定した、らしい。
一昨日開幕した第二回雪まつりの開会式には、当代火影であるミナト先生や、火の国の大名子息夫妻も、国賓として招待されていた。
オビトが招待された去年の雪まつりは、水の国初の試みということもあり、色々模索している部分もあったので、気になることがあれば遠慮無く教えて欲しいと言われていた。
なので、オビトとカカシの立ち位置については、同盟国の代表である他に、祭りに対する外部アドバイザー的な側面もあったので、水の国には期間一杯、一週間の滞在となり、レポートも書かされて、火の国水の国双方に提出させられたりもしたのだが……問題点の洗い出しは、去年の時点で既に済んでいるという判断なのだろう。
二回目の開催である今年はそういう事もなく、ミナト先生達は普通に国賓として開会式に参加したあとは、一日だけ水の国に滞在して祭りを楽しみ、翌日……つまり昨日の朝には帰国する運びとなった。
そのことで、オビトに急遽入った任務はナルトの子守である。
いや、どう考えても上忍にさせるような任務ではないし、なんなら家政婦兼護衛のおばちゃんらがいなくて、先生が不在時も、波風邸は一定数の暗部によって守られているので、安全面ではオビトがナルトの子守を引き受ける理由はないのだが。
しかしまあ、オビトは何故かナルトに懐かれているわけで。
安全面では問題ないとはいえ、ミナト先生も息子に寂しい思いは出来るだけ味合わせたくなかったのだろう。
ミナト先生が帰宅するまでナルトの子守として、あの家に泊まる人間はオビトだけであり、21時にはオビトと違って帰宅してしまうとはいえ、リンもまたナルトの子守を頼まれていたのはオビトにとって役得だった。
ナルトがいるから二人きりではないとはいえ、おかげで久し振りにリンと長時間一緒に過ごせた。
ナルトはミナト先生の子で、オビトやリンの子でもなんでもないが、なんかやってることが疑似家族っぽくて、「ちょっと待っててね。夕ごはん作るから。オビト、今のうちにナルトくんをお風呂にいれてあげてくれる?」とか言いながらエプロンをつける姿とか、なんかスゴイ新妻っぽくて、オビトの胸はキュンとした。
きっと将来リンは良い母親になるんだろうなあって……つい自分が将来リンと結婚した妄想に耽り、「オビトー? なんかすっげーへんなかおしてるってばよ。おびと、オビトォー? おーい、もどってくるってばよー」とお風呂の中で、抱きかかえたナルトに顔をペチペチされたのは、まあご愛嬌ってやつである。
ナルトに絵本の読み聞かせをして寝かしつけて、「ふふ、ナルトくん、本当に良い子だし、可愛いよね」とオビトに同意を求める姿とか、母性が爆発してて、どこの女神かと思った。
やっぱりリンが世界で一番優しくて可愛い。
それがオビトの中の常識である。
もしやこの任務を授けてくれたミナト先生は、恋のキューピッドではないか?
なんて事を思うオビトであるが、お前いつリンに告白するの? とカカシには思われてるように、まだリンに好きとすら言っていない身である。
そして、大分外堀が埋まっている上でリンが逃げる気配がないから、てっきりオビトはリンに告白済みで、受け入れて貰えたんだろうなって、そんな風にミナト先生に誤解されている事をオビトは知らない。
因みに、オビトとしては別に告白する気が無いのではなく、18歳の誕生日の日に、リンがカカシに既にフラれ済みであった事を知ったけど、リンがカカシの事を諦めたと知ってすぐ告白するとか、なんか弱みにつけこんでいるみたいで卑怯じゃね? 不誠実じゃね? とか、リンにがっついてるとか思われたくないなーとか、そもそも諦めたといっても、リンはまだカカシの事が好きだし、あんまり負担かけたくないなあ……とか。
そんな事を思って、ほとぼりが冷めた頃に告白しよう! と考えた結果、ズルズルタイミングを逃がして今に至る。
リンの顔を見るだけでデレデレ、リンが生きていてくれているだけで世界よ今日もありがとう、と天にも昇る気持ちになれるオビトは、友人以上交際未満の今の関係でわりと満足しているのも問題だった。
カカシがもしこの現場を見ていたのなら、全てを理解し、こう言った事だろう。
「この、ヘタレが!!」
……と。
* * *
「火影様、うちはオビト上忍、ただいま参上しました」
うちはオビトは、珍しく一分の遅刻もなく予定していた一五時ぴったりに火影室に入室し、ビシリと敬礼をしながらハキハキとした声で、目の前の火影室の椅子に座る金髪碧眼の美丈夫に口上を述べる。
それににこり。
元担当上忍師でもある現火影は、相変わらず考えていることの読めないアルカイック・スマイルを浮かべながら、「ん、よく来てくれたね、オビト」そう言って楽にするように言うが、忍者は裏の裏を読むべし。
本当に楽にしたら、お前下忍からやり直したら? と銀髪の相棒に嫌味を言われる事違いなしなので、ビシリとそのまま直立不動を保つ。
そんなオビトに対して、一瞬だけ波風ミナトは成長したねェとこの成長を尊ぶ親のような眼差しを乗せたが、すぐに火影としての顔に切り替えて、「さて、うちはオビト上忍、今日の要件だけど……本決定前に君の意向を聞きたいと思ってね」とそんな事を言った。
(……?)
任務だったら受けるも受けないもないだろうに、どういうことだとオビトは眉間に縦皺を一つ増やす。
そんなオビトを真っ直ぐ見ながら、師は述べた。
「オビト、来年の春から、君、上忍師として働く気はないかい?」
そう、黒髪隻眼の青年にとっては予想外の任を、打診した。
「え」
「君ももう成人だ。それに上忍として働く姿を一年以上見てきたが、指導する側としても問題ない能力を既に持っているように思う。それに誰かを育てる事によってしか学べない事もある。オビト、君の夢は火影だろう。なら、教える側を早めに経験しておくのは悪い事じゃない。きっと君にとってプラスになる」
そう師は夢を叶えた先達として、オビトにアドバイスした。
オビトが上忍になったのは、今から一年と三ヶ月前。
それがまだ一年しか経っていないとみるか、もう一年も経っているのだとみるのかは人によって意見が分れる所だろうが、それだけの期間オビトを見てきた師の判断がそうなら、きっとオビトには既に上忍師としてやっていける能力は本当にあるのだろう。
と、そうオビトは思った。
正直、上忍師をやる自分というのはあまり想像がつかないのだけれど、ミナト先生の人を見る目を信じてそう思った。
それに、次代の火の意思を育てる事も、火影を目指すのなら大事なこと、というのはオビトにもわかるのだ。
まあ色々例外的な存在である初代様はともかく、二代目様も三代目様も勿論ミナト先生も、教育というものを重視してきたし、実際に幾人もの弟子を育ててきたのだ。
そしてオビト自身がその育てられた存在の一人だ。
オビトには三人の師がいる。
この火影室の主である四代目火影・波風ミナトに、初代火影千手柱間の弟であった扉間先生、そして三忍の一人で蝦蟇仙人の異名を持つ木ノ葉の狂気……自来也師匠。
三人の師を含め、色んな人達に様々なものを貰い、与えられて、そうして今ここにいるオビトがあるのだ。
沢山のものを与えられてここまで来た。
なら、それを返す時がきた。
それだけの話だ。
自分が与えられてきたように、これからは新しい木ノ葉の子等に与え、見守り、導くまでだ。
自信があるかと言われたら、あまりない。
だが、それも経験だろう。
やらなければ、成長もない。
「わかりました。四代目様……その話お受けします……!」
「ん……! 頼むよオビト」
大丈夫、君なら出来ると、茶目っ気たっぷりに師は笑った。
とりあえず、本日の要件は本当に上忍師への打診、これだけだったらしい。
そこでフッと疑問がオビトの脳裏によぎる。
「あのところで、四代目。来年の春からオレが上忍師を……ってのはいいんですけど、カカシには声かけなくていいんですか?」
はたけカカシが上忍になったのは彼が12歳……オビトが13歳の時の事だ。
天才少年の評判の通り、はたけカカシはオビトより五年も早く、上忍に昇進している。
上忍への昇格年齢としては、木ノ葉の歴史上ぶっちぎりの最速記録だ。
この忍界最速の名を恣にしている四代目火影波風ミナトでさえ、上忍に上がったのは彼が16歳の時である事を考えれば、やはりカカシの出世スピードは戦時中であることを考慮しても異常な早さである。
そんな出世頭のエリート忍者たるカカシだが、これまで上忍師を打診されたとは、噂ですら聞いたことがない。
確かに、カカシは先生をやるには若いが……とはいえ、オビトとはたったの一つ差だし、まだ上忍になって一年強のぺーぺーの新人上忍である自分よりも、上忍歴五年以上のベテラン上忍であるカカシのほうが先に話がきてもおかしくない筈だが……。
そう思うオビトに、師はふっと遠くを見るような目をしながら言った。
「いや、カカシにも打診はしたんだけどねェ……」
「え」
「初めて打診した二年前は、『流石に16歳の先生はどうかと……』とか言って暗部の仕事の忙しさを理由に断られて、今年は、一応気が進まないなりに引き受けてくれたんだけど……『お前たち不合格~忍者失格!』とか言って、翌日に担当下忍全員アカデミーに送り返しちゃったんだよね……」
「……ええ……」
オビトはドン引いた。
ニッコリ笑顔に、ガキ共を相手に語尾にハートマークが浮かびそうな声で駄目だしする相棒の姿が、ありありと脳裏に浮かんだからだ。
危うく? カカシの担当下忍になるはずだった卵達がトラウマになっていないことを、無責任に神に祈った。
「まあ、そんなわけで、カカシには任せられないかな……」
「了解です……」
しかし、今年カカシに上忍師になる話が来てたなんて知らなかった。
多分一日でアカデミーに突き返してたわけだし、カカシ自身がその話が広まらないように情報操作したんだろうが、それにしても自分にすら何も言わないなんて水くさいやつ……なんて思うと同時にもうちょっと情報収集とか頑張ろう……と思うオビトであった。
火影塔を出て、商店街に向かい、歩く。
昼に降っていた雪はもう止んだらしく、パラパラと地面にその名残が残るだけだ。
ただ、冬の例に漏れず、吐く息は白く、空は重い。
だが、きっと夜には綺麗に晴れるだろう。
あと一週間もすれば、今年も終わり、新年がやってくる。
(約束したからな)
来年は、うちはの新年の宴に出ると。
その際、族長であるフガクさんには芸を何か披露するように、なんて無茶ぶりもされているのだが、さて何をすべきなのやら。
まあ、考えても仕方ない。
そのうち思いつくだろう。
その時はその時だ、来年の自分に任せよう。
なんて、そんな風に暢気に考えていた。
その夜、オビトは夢を見た。
祖母と、二代目火影……うちはイズナの夢を。
続く
好きな人の外堀を無自覚で埋める系男子オビト。
因みにこの状況の三割くらいはリンがオビトをお姉ちゃん目線で見るのやめた影響でもあるので、全部が全部オビトのせいというわけでもなかったり。
カカシ先生が原作でナルト達の担当上忍師になるまでに、二回生徒達をアカデミー送りにしているのは公式設定なので悪しからず。
次回「神楽」