隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回は目覚めた彼女のターンです。
それではどうぞ。


68.彼女の見解

 

 

 

 木ノ葉隠れの里にある木ノ葉病院の奥には、関係者以外立ち入り禁止の隔離病棟がある。

 そのうちの一室……厳重にいくつもの封印術や結界術が施された部屋の中で、赤髪の眠り姫は目覚めた。

「……ぁ」

 始めに見えたのは白い天井。

 一瞬、自分がどこにいるのかわからず混乱するも、やがて冷静に戻った頭が周囲の状況を確認して、漸く自分が今いる場所が病院だと認識し、長い赤髪が美しい女はゆっくりと身を起こした。

「う……く」

 身体が強張り、あまり言う事を聞かないが無理もない。

 鮮やかな赤髪の彼女……四代目火影の妻たる波風クシナが目覚めたのは、実に五年と三ヶ月ぶりだった。

 その間、看護師達によって、いつ目覚めても良いように定期的にストレッチなども施されていたけれど、いくらチャクラ量と生命力の高さで知られたうずまき一族出身といえど、何年も寝たきりであったのだ。

 流石にマトモに動けるようになるには時間がかかる。

 クシナが昏睡状態に陥ったのは、九尾の大半を抜かれ、瀕死になった直後であったのだから尚更だ。

 だが、自分が背負った使命として、それでも真っ先に確認せねばならないことがあった。

 彼女は半身を起こしたまま、封印術が施されている腹の上をそっと指でなぞり、確信をする。

(やっぱり……鎮まっている……)

 そこへ。

「クシナ……!」

 もしもの時の為に、彼女の病室に置いてあったマーキングの小物めがけて、飛雷神の術で彼女の夫たる男が時空を超えて現れた。

「……ミナ、ト」

 長いこと昏睡状態で、誰かと話すことも久しく……故に碌に開かない口を開き、難儀しつつも彼女は夫の名を呼ぶ。

 そんな彼女を前に、無理しなくて良いと行動で示すように、金髪碧眼の四代目火影は妻の背を右腕でそっと優しく抱きかかえ、囁くような声でクシナに問う。

「何が君の身に起きたのか、聞いてもいいかい?」

 本当の事を言えば、波風ミナト個人としては、五年ぶりに目覚めた妻に無理はしてほしくないし、休んでいてほしいという思いはある。

 だが、彼は火影だった。

 つい先ほど、うちは居住区がある方向からなにか……普通では見えない力が広がったような感覚は彼も受け止めた。

 そしてその直後に、ずっと精神世界で九尾と戦い続けていたのだろう妻が目覚めたのだ。

 その二つが無関係とは思えない。

 だから彼には、火影として事態を把握する責務があった。

 クシナとて火影の妻なのだ。

 それは重々承知している。

 だから、こくんと頷いて、碌に動かない怠い顎をなんとか動かしながら、彼女の感じ取ったものを告げる。

「……あの子、オビト、よ」

「……オビト?」

「鈴の音が聞こえたわ……夜の神社であの子が舞う姿も……その舞いに込められた願いを受けて、そして……私の中の九尾が鎮まった……」

 それは荒魂(あらみたま)から和魂(にぎみたま)へと転じるように、と彼女は己の見解を告げた。

 

 * * *

 

 一方、その頃。

「グアアアア!?」

 大筒木カグヤの末の息子……通称黒ゼツと呼ばれている寄生生命体は地面をのたうち回って苦しんでいた。

 正確には何が起こったのか彼にも理解出来ているわけではない。

 邪気を祓い清め鎮める、人々に安らかな気持ちを与える、そういう陰属性の願いを乗せたチャクラが、南賀ノ神社……木ノ葉隠れの里を中心に火の国中に広がったのだ。

 正直、その夜起きた現象は、普通の人間には大した影響はない。

 薄く広く「収束」と「安らぎ」という陰の加護を受けて広がった、自然エネルギーに近しいチャクラは、その土地に住まう人間から、悪事を企む気持ちを萎えさせたり、その時抱いている闘争心を低下させたり、あとはその夜はいつもよりも、グッスリ朝まで安眠出来た者が多かったりだとか……精々その程度の加護でしかなかった。

 ……肉体という殻に守られた、人間や動植物に対しては。

 だが、黒ゼツや尾獣のような精神生命体は違う。

 ダイレクトにその影響を受ける。

 特に黒ゼツは悪意の塊だ。

 そう思えば悪意特効の破邪のチャクラを受けて、ダメージを受けるのは当然であった。

 一方、似たような存在に見えるが、本人達自身は黒ゼツほど悪意はないからなのか、彼ほどダメージは受けていないらしい白ゼツとグルグルは、暢気にも聞こえる口調で「大変だよー、火の国中に仕掛けてた種が消滅してるよー」「全滅だー!」とそんな報告を黒ゼツにもたらす。

「ナニ!?」

 苦労して仕掛けたあれもこれも、全部?

 そんな動揺をしている黒ゼツに対し、「そうだよー」と無慈悲に白い……いつかの夢の成れの果てたる人造生物は、イエスを告げた。

「……ハアアアア!?」

 思わず、黒ゼツは卒倒した。

 

 * * *

 

 夜の神社で神楽舞いを奉納したその翌々日の夜。

 オビトは恩師にして現火影である波風ミナトに、火影塔(しょくば)ではなく、波風邸(じたく)の方へと呼び出されていた。そして思わぬ報告を受ける。

「え!? クシナさんが、目覚めた……!?」

 思わず驚きに目を見開きながらオビトが叫ぶと、声が大きいとばかりに師にしぃと口元に人差し指を立てられて、慌ててオビトは両手で自分の口元を覆う。

 二階ではまだ幼いナルトが寝ているのだ、今のは自分が悪い。

 そう思って眉間にぎゅっと皺を寄せるオビトに、落ち着いた声音でミナトが言う。

「うん。目覚めたといっても、流石に五年ぶりだからね。暫くは検査もあるし、リハビリもしないとだから、退院出来るのは早くても一ヶ月はかかる。そこで、クシナへの慰撫として、オビトには神楽を披露して欲しいんだ」

 と、ニコニコしながら金髪碧眼の美丈夫は語った。

「えっと……」

 正直な話、オビトは腰が引けていた。

 というのも、一昨日披露した神楽舞いであるが、あの時オビトは一種の神懸かり……トランス状態に陥っていた。

 あの時はあれが自然で、あれがどうしても必要だという確信が彼にあったのだ。

 だから行った。

 正月の宴で族長であるフガクさんに「芸を披露しろ」と無茶振りをされていたのを言い訳に、神楽舞いの奉納を強行した。

 それが正しいことであると、あの時のオビトは疑うこともなく感じていたのだ。

 ……が、一晩寝て起きた後、彼の身に襲ったのは共感性羞恥にも似た、いたたまれなさである。

 一言も喋らず、勝手に夜の神社で、皆の前で神楽舞いを披露して、そのままうちはオビトはクールに去るぜ! と言わんばかりにポカンとしている一族の皆を置いてさっさと帰って行ったのだ!

 今思えばなんだこの勘違い野郎は? クソ恥ずかしい!! やーいやーいあいつかっこつけてるウケるーとか一族の若年層には思われちまったんじゃねーの!? とその可能性に気付いて、翌日オビトはベットの上で悶え苦しみ、赤面しながらのたうち回った。

 クソはずい。

 穴があるなら埋まりたい。

 だが、やっちまった過去は無かったことにはならない!

 次会った時、シスイあたりにあの夜の事をからかわれるのではないかと、オビトとしては心臓バックバクである。

 そういう意味で、あの夜の行動は彼の中では黒歴史同然であったし、師に一族の前で神楽舞いを披露した事を言った覚えはない。

 が、こうして話題に出したという事は、あの夜の神楽がどこからか伝わったということで。

 ひょっとしてフガクさんから聞いた? と内心オビトはびくつきながら、動揺に冷や汗を掻きつつ、その真意を探るように師の顔を伺う。

 だがミナトはいつも通りの、ニコニコと感情の読めないアルカイックスマイルを浮かべているものだから、真相を知るのを諦め、オビトは項垂れた。

「明日の14時から宜しく頼むよ」

「……はい」

 愛妻家のミナト先生を前に、ノーと言えるわけがなかった。

 

 そうして、翌日。

「やあ、よく来てくれたねオビト」

 約束の14時を数分過ぎた頃に木ノ葉病院を訪れたオビトは、師の影分身に「ほらこっちこっち」と波風クシナのいる部屋に案内され、再び動揺を隠しきれずにいた。

 そこは以前にも見舞いに訪れた病室ではない。

 広く、白く、机もベットもないその部屋で、車椅子に乗って、膝の上を暖かそうなブランケットで覆った火影夫人・波風クシナが微笑む。

「久し振りね、オビト。……フフ、ミナトほどじゃないけど男前になったわね。元気そうで良かったわ」

 そう微笑む姿は、病み上がりだからか少しやつれて儚げにすら見えた。

 だが、それは良い。

 予測出来た事だ。

 しかし、四隅に配置された暗部といい、床に描かれた結界術の術式といい……これは……。

 波風ミナトの影分身はにこりと笑う。

 何も心配しなくていいというように……或いは質問は受け付けないよ、というように。

(ええい、ままよ……!)

 オビトは開き直ることにした。

 どういう意図があり、何故クシナの前で師はオビトに神楽を舞わせようとしているのか、彼にはわからない。

 わからないが、この結界術の意図はわかる。

 外に影響が漏れ出ないようにする。

 これはそれに特化した結界術だ。

 この場で今から起こることは、外に漏れることはない。

 ここは一つの異界だ。

 そう認識した瞬間、カチリとオビトの中のスイッチが切り替わった。

「……!」

 普段の騒がしさ明るさがどこかに消えたように、荘厳で静謐な雰囲気を纏う。

 そんなオビトに師ミナトは銀の鈴を二つ投げてよこす。

 それを受け取り、普段からつけている布眼帯に取り付けると、木遁で陰陽の杖を作り出し、掲げ……あの夜の神楽の再現をはじめた。

 

 * * *

 

 一言で感想を述べるならば、圧巻、それに尽きた。

 オビトが舞った神楽の原型と呼ぶべき剣舞神楽であれば、子供の頃から何度も見てきたのだから、今更驚くようなものではない……そう波風ミナトは思っていた。

 だが、こうして生で目の前でオビトが披露したそれを見た時、自分が抱いていたその認識のほうが間違いであったことを理解した。

 それほどに芸術として見ても、術式としても完成度の高い代物だった。

 だが、今日オビトをこの場に呼んで、わざわざクシナの眼前で舞わせたのは、芸術鑑賞なんてそんな理由じゃない。

「それで、クシナ。君の見立ては?」

 既に退出し、オビトの去った場で、波風ミナトは妻クシナに、彼女の見解を問う。

「……驚いたわ」

 そうして淡々と、封印術に長けたうずまき一族出身の人間として、己の分析結果を紡ぐ。

「オビトの披露した神楽……あれは舞踏の形をとった邪気祓いの結界術であり封印術の一種よ。構造や理念としては、うずまきの封印術にも近いわね……中でも一番近いのは四象封印の術式……かしら?」

 それから少し落ち込んだようにため息をつく。

「多分、元々武練祭の剣舞神楽にはそういう性質があったのよ。悪意祓いの儀。なんで今まで気付かなかったのかしら……」

 その妻の分析を聞きながら、ミナトの脳裏には、その神楽を始めた創始者が二代目火影うちはイズナだったという事実がよぎる。

(大した方だ……)

 敬意と共にそんな事を思う。

 もしも、これが里と国を守る為に仕掛けたものであったというのなら、まだまだ、あの方には敵う気がしないなと苦笑する。

「本来の剣舞神楽は男女一対の舞いとして、二人で太極の世界を表現したものだったけど、それをオビトは一人で再現し、再編成して、完成させた」

 先ほどまで見ていた光景を思い出す。

 男性性と女性性を矛盾なく違和感なく、一人の人間の中で調和させ体現しきっていた。

 まるでどちらでもない生き物かのように。

 ……そう、それこそカミサマのように。

「……多分あの子が選ばれた(・・・・)のは、世界というものに敏感で、自然エネルギーとの親和性が高かったから、なのでしょうね。悪意を弾き、鎮め、猛々しく恐ろしい荒魂を穏やかな和魂へと転じさせる……あれは既に、今までの剣舞神楽とは似て非なる別物よ」

 そう呟きながら、服の上から無意識にクシナは己の腹の封印の上をなぞる。

 やはり、あれほど猛っていた九尾は眠り、鎮まっている。

 まるで母の腕の中で眠る赤子のように、穏やかな眠りについたままだ。

 

 古来より神には荒魂(あらみたま)と和魂(にぎみたま)という二つの顔が存在しているという。

 荒魂とは、文字通りその神が持つ荒々しい側面が現れたものであり、勇猛さ、剛健さ、自然災害や神の怒りなど動的な面を担当する魂だ。

 それに対し、和魂は、穏やかさや平和を愛する心、調和や親愛など静的な面を担当する魂となっている。

 まるで別の神のように真逆の性質をしている二つであるが、どちらもその神の一側面であり、『陽』に属する荒魂と『陰』に属する和魂……二つで一つの神格なのだ。

 チャクラ生命体である尾獣は正確には神というわけではないが……それに近しい存在である事も間違いではない。

 そしてクシナの中には九尾の陰のチャクラが封印されている。

 かつてのクシナには完全体の九尾でも押さえ込むことが可能なチャクラがあったから、彼女が人柱力になったのだけれど、今のクシナにはかつて程の力はない。

 というのも、人柱力はその身から尾獣を引きずり出されると、死ぬ定めとなっている。

 五年と三ヶ月前のあの日、あの時クシナが九尾を引きずり出されて、それでも死ななかったのは、彼女が元から生命力に長けたうずまき一族の人間だったからと、体内にまだ尾一本分の九尾のチャクラが残っていたからなだけなのだ。

 それでも、九尾の大半を引きずり出された段階で、彼女の経絡はズタズタになった。

 例えリハビリをしたところで、もうクシナは前のようには戦えないし、完全体九尾を押さえ込む力も残されていない。陰陽にわけて九尾を息子と自分に再封印した理由もそういうことだ。

 だが、弱った自分でも半分なら押さえ込める……その判断はやはり甘かったのだろう。

 出産した直後の弱った身体で、瀕死状態で再び九尾を体内に封じられたクシナは、昏睡状態に陥ることになった。

 正確には身体は昏睡状態のまま、封印式の中で九尾と対話し争うこととなった。

 ……本当はもっとやりようがあったのかもしれない。

 九尾だって好きで人間の中に封じられているのではないのだから、話しあって、理解りあってもらって、それで自分の意思で鎮まって貰うのが一番良いのは頭では彼女だってわかっていたのだ。

 だが、彼女は……九尾の事が怖かった。

 恐ろしくて仕方なかった。

 そしてその気持ちは当然のように、九尾にも伝わる。

 終わらない主導権争いと、不発に終わる話し合いは結局それに端を発している。

 九尾は怒っていた。

 身勝手な人間達も、自分に怯え怖がっているくせに、大丈夫じゃない癖に口では大丈夫と嘯くクシナも、癪に障って仕方なかった。

 五年という月日は人間にとっては短いのかもしれないが、尾獣である九尾にとってはそうではない。

 クシナに封じられたのは九尾の陰のチャクラだ。

 だが、陰の中の陽という言葉があるように、陰のチャクラだからといってその側面一辺倒なんてそんな事はない。

 基本的には神の動的な側面を持つのが荒魂であり、動は陽の属性とされているが、荒魂の中にも陰の性質はある。動的な陰、死から生が生じる陰の中の陽としての性質。

 クシナの中に封じられた九尾も、怒りのあまりその側面が強く顕れていた……それだけの話なのだ。

 だが、それはあの夜、魂を鎮める陰の加護を得るための神楽によって鎮まった。

 それは元々クシナの中に封じられていた九尾は陰の属性を持つから、というのも無関係ではないだろう。

 安らぎと穏やかな眠りを与える陰の加護は、クシナの中にある九尾の怒りを溶かし宥め、その荒魂を和魂へと転じさせた。それが容易に成せたのはそれこそクシナの中に封じられたのが陰のチャクラで、与えられた陰の加護と親和性が高かったからだ。

「武練祭の剣舞神楽。あれとは既に別物として完成し、昇華されたオビトの陰陽一体の神楽。より強い神性と邪気祓いの力を得たそれに新たな名をつけるとしたら……」

 その妻の言葉を引き継ぐように、自信満々に意気揚々とミナトは口を開く。

「そうだね名付けて、天地神明陰陽降臨混然一体破魔ノ舞オビt「『破邪神楽』……とでも呼ぶべきかしら」あ、はい……」

 ドヤ顔で長々と、相変わらずのネーミングセンスを発揮させる夫の言葉にかぶせて、サラリとクシナはそう言った。

 ミナトの名付けはガンスルーだった。

 相変わらず手厳しい。

 でもいつものクシナが帰ってきてくれて嬉しい。

 そんな風に思わず複雑な心境になる四代目火影であった。

 

 オビトが再び波風邸に呼び出されたのは、この一週間後の事だ。

 名目上は、クシナがいつ帰ってきてもいいように片付けを手伝って欲しい。

 ナルトが会いたがっているから一緒に食事でもどうかと、そんな感じの呼び出しだった。

 おかしな話だ。

 いくら五年ぶりにクシナさんが帰ってくるといっても、お手伝いさんを雇っているのだから、掃除も片付けも手は足りているはずで、オビトの手助けなどミナト先生にはいらない筈なのである。

 ぶっちゃけその時点でなんとなく、裏があるのでは? という気もしたが、それでもオビトは快く引き受けた。

 前回波風邸に呼び出されたとき、夜遅くが理由でオビトに会えなくて、彼が来てた事を知ったナルトが翌日拗ねてぶー垂れていたという話も聞いていたからだ。

 そうして訪ねると、真っ先に出てきたのは元気の良い金髪碧眼の幼児だった。

 ぼすりとオビトの足に抱きつき、「オビトー、しゅぎょーみるってばよー!」と楽しそうに喚く。どうやら来年アカデミー入学の話が出ているのもあり、張り切っているらしい。

 玩具の手裏剣をドヤ顔でぺしぺし投げるナルトを見物させられたり、ナルトの忍者ごっこに付き合わされたり、そんな感じで、ミナト先生の大掃除を手伝ったあとは、夕飯までナルトの相手をして過ごした。

 それから三人で夕飯を取って、母親がもうすぐ帰ってくるというわりにいつもと様子の変わらないナルトに、こっそり母親が帰ってくる事をどう思っているのか尋ねると「んー、かあちゃんがかえってくるとか、おれにはよくわかんねぇってばよ……」とか言っていたので、どうも母親がいる生活というものにピンときていないだけだったことが判明したりなどもした。

 まあ、でもナルトの気持ちはわからんでもないのだ。

 なにせ、祖母に育てられたオビトにとって、父親と母親というのは写真でしか知らない存在なので、もし今行方不明で、推定死亡の両親が見つかって帰ってくると言われたとしても、きっとピンとこないのは一緒だ。

 薄情と言われようがこればっかりは仕方ない。

 まあ、そんな感じの午後を波風邸で過ごして、ナルトに絵本の読み聞かせを二人がかりでして、眠りに落ちるお子様の頭を撫でる。

 そうして一息ついてから、四代目火影たる美丈夫は、ただの父親の顔をしながら、「悪かったね。いつも息子の相手をしてくれて、ありがとうオビト。ココアでも飲むかい?」そういって微笑んだ。

 それから二人揃って下の居間へと移動し、宣言通りミナトはオビトにホットココアを差し出す。

 ……甘い。

 ココアなどあまりオビトは飲む機会はないのだが、きっとミナト先生は幼い息子の為にココアを常備しているんだろうなと、なんとなく思いながらその濃い茶色をした液体を啜る。

 お子様故ナルトはもう眠ったが、時刻はまだ夜の八時半だ。

「それで、ミナト先生。なんの話ですか?」

 オレに話があるんでしょう。

 そうオビトが切り出すと、それまでの父親としての顔から、ミナトはやり手の火影としての顔に切り替えつつ言う。

「ん……オビト、オレから君へお願いがあってね。いや、お願いというより命令かな?」

 そうして彼は、オビトが思ってもいなかった願いを口にした。

「オビト、今年の武練祭、君が神楽を舞うんだ」

「…………へ?」

 

 続く




イズナ「後世の人間からの過大評価が激しすぎる件について」

次回「面と化粧」
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