お待たせしました新章オビト上忍師編ですが、主人公不在でお送りします。
「16.マダラの眼」の裏側の話。
73.孤児院
「久しいなノノウ」
「ええ、そうですね、ダンゾウ様」
時は今から五年と半年ほど前に遡る。
十月十日。
波風ナルトが誕生し、後に『九尾事件』と名付けられる事件がその晩起こることを知る由もなく、その日、二代目木ノ葉忍術研究所所長であった男、志村ダンゾウは、かつて暗部に所属し『歩きの巫女』と呼ばれたくノ一……薬師ノノウの経営する孤児院へと訪れていた。
それは前々からの予定通りの来訪であり、四代目火影に就任したあの小僧……波風ミナトに頼まれてのことである。
木ノ葉忍術研究所所長ではなく、私設孤児院を経営する
命令では無く、お願いという形を取っていたが、それが木ノ葉の頂点たる火影の言葉であるならば、ほぼ命令と変わらない。
まあ、それでもダンゾウは色々考えた結果「良かろう」と諾を返した。
思うところは色々あるが、里が第一という意味では志は同じであったからだ。
木ノ葉隠れの関連施設には既に通達は行っている筈だが、出切れば顔を合わせて話した方がいいとその言い分はわからぬでもないし、将来里の為になるだろう優れた人材を見出すのはダンゾウも嫌いでは無かった。
「話はわかっておるな?」
応接室で、対面の席に腰掛けながらダンゾウは問う。
それに、「ええ……」と返しながらもノノウの顔色はあまり優れない。
そんな彼女を見て、「……わからんな、そちらにとっても都合の良い申し出だろうに」とダンゾウは呟いた。
「…………」
そう、考えようにとっては院にとって都合の良い申し出……それは確かだった。
発端が何かと言われたら、第二次忍界大戦が昨年終わったことである。
歩く鬼神と呼ばれたあの男……うちはマダラの死を切っ掛けにして四面楚歌からはじまった第二次忍界大戦は、前年の終わりにほぼ木ノ葉の勝利という形で終結した。
その立役者となったのが、終戦と共に四代目火影を襲名した黄色い閃光……波風ミナトである。
だが、いくらミナトや多くの手練れ達の活躍で華々しく覆い隠そうと、人は死ぬ。
元から弱いものは淘汰され、死と隣り合わせの職業が忍者というものではあるけれど、平時とは比べものにならぬほどに、死んでいく。
それが戦争というものだ。
では減った人材をどこから補充するか。
上層部会議で可決されたのが、木ノ葉隠れ縁の孤児院に対する、孤児達への優待支援制度である。
今まで木ノ葉の
とはいえ、予算にも限りがあるため、入学を受け入れるのは、各院各年一名ずつ、と制限を設けてはいるが。人数制限を設けているのは、里としては優秀なものにこそ来て欲しいからという事情もある。
この木ノ葉縁の孤児院出の生徒達の学費や住まいは、そのまま里の予算から出ることとなる。
更に、学年トップスリー内に入る成績の孤児を輩出した孤児院には、ボーナスとしての支援金が院にも還元される仕組みだ。
アカデミーを卒業し、正式に忍びになった者が出た際には、更に祝い金がその者を輩出した孤児院と孤児当人にも届く。
忍者学校に入学出来るのは各年各院に一人だけだ。
とはいえ、孤児院は一人減った分食い扶持は減るし、アカデミーに入学した孤児だって、無料で勉強が出来るのだから、そこまで悪い話じゃない。
それでも、ノノウの顔色が優れないのは、彼女が元は諜報部一と謳われた優秀なくノ一であり、忍というのがどういうものなのかをしっかり理解しているからだ。
忍者学校というのは、名の通り、忍者の卵を作り出すための教育機関である。
まあアカデミー出身でも全ての人間が忍者になるわけではないが、たとえDランク任務やCランク任務が常の下忍でも死は付きまとう。
ノノウは孤児院の子供達を、母として心から愛していた。
我が子にそんな血塗られた道を歩ませたくはない。
それが母としての彼女の想いだった。
ダンゾウには理解しがたいところだ。
三代目政権時代に可決された政策に、武練祭での「子供神楽」というものがある。
それは文字通り、5歳から10歳ほどの子供達によって行われる神楽舞いの奉納のことだが、剣舞神楽として、大人が重そうで煌びやかな飾り剣を片手に舞うのに対し、大人ほど体力もない子供は
化粧をして、煌びやかな衣装を身につけた、10人から12人ほどの子供達が一生懸命に舞う姿が愛らしいと、中々評判の良いコレだが……実は子供神楽自体が、孤児達への支援政策として始められたものであったりする。
そう、武練祭で子供神楽を舞っているのは、火の国中の孤児院に在籍する、舞踏が得意な選りすぐりの子供達なのだ。
三年に一度の武練祭は、火の国国内最大規模の祭りであり、国内外からも多くの者が訪れる。
中には舞踏の関係者や、スポンサーになってくれるだろう金持ち商人なども、例年多くが見に来るのだ。
だからこそ、武練祭の子供神楽に出る子供達にとっても、これが千載一遇のチャンスとなる。
武練祭に出る子供達は皆孤児であり、親がいない。
故に、この子供神楽で魅せることが出来れば……その才を見込んだ舞踏の名家が、部屋子や養子として引き取ってくれる
だからこそノノウの孤児院でも、才覚のありそうな子には神楽舞いを練習させて、武練祭の子供神楽に送り出した。
おかげで、その年の子供神楽に出場した女の子には良い里親が見つかり、ノノウも他の子供達も心から喜んだものだ。
里親との幸せそうな写真がついた絵葉書が届いて、嗚呼、本当に良かったなとそう思ったのだ。
だけど、そう思えたのは、あくまでも彼女が血なまぐささとほど遠い、温かい家庭に迎えられたからこその感想なのである。
我が子の健やかな幸せを願うのが、母親という生き物だ。
その辺、表向きの慈善事業と、将来木ノ葉に有益になる人材発掘の一環として、院の子供達を我が子とみることも無く、割り切って他者に運営を委任しながら、名ばかりの孤児院のオーナーをしているダンゾウには、本当に理解しがたいところだろう。
だが別に理解する気もなければ、その必要もない。
言うべきことだけを言うだけだ。
「まぁ、いい。通達はした。それに……子供の方から木ノ葉の忍になりたいと申し出る場合もないわけではない……尋ねてみるといい」
そうして、「邪魔したな」そう声をかけ、志村ダンゾウは護衛として連れてきていた油女タツマと共にノノウの孤児院を後にした。
* * *
五年前、春。
薬師ノノウの経営する孤児院に所属している丸眼鏡の少年は、幼馴染みにして院の兄弟でもある黒髪団子鼻の少年の言葉に、驚きの声を上げた。
「え? ウルシ、今なんて?」
「だから、オレ明日から木ノ葉の
「でも、ウルシ……忍者なんて好きじゃないってそう言ってなかったっけ?」
「まぁ、そうなんだけどよ……でも、考えてみたら戦争も終わったことだし、今忍者になってもそうすぐ危険にはならねーだろ? ただで勉強させてもらえるみたいだし、それにカブト知ってるか? アカデミーで良い成績をとったり、卒業してオレが正式に忍びになれたら、院に金が入るんだってさ。そしたら、おまえたちの生活もちっとは楽になるだろ?」
そういって、カブトより二つほど年長の少年はニッと笑った。
それから照れたような顔をして鼻を掻き、ウルシはとびっきりの内緒話をするように、声を潜めて言う。
「あとな、オレ、今日から『薬師ウルシ』になったから」
「え?」
その言葉に吃驚しながらカブトはニシシと笑う義兄を見上げる。
院の子供で、名字があるのは孤児院に入る前からあったものだけであり、当然昨日までウルシにもなく、彼はただのウルシだった。
それに今名乗ったその名字は、この孤児院のマザーであるノノウのものと同じである。
「姉ちゃんがな、アカデミーに入学する前に、お守り代わりに名ばかりのものだけど……て、オレを養子に籍を入れてくれたんだよ。だからオレは今日から薬師ウルシだ」
そう言って照れくさそうにウルシは笑う。
「なぁ、カブトお前は将来どうするんだ?」
「その……ボクは」
ウルシもそうだが、カブトも元々は戦災孤児だった。
親はわからない。
本当の名前も、その過去も、気付いた時にはカブトに何もなかった。
覚えているのは、マザーが死にかけていた自分を治療してくれたところからの記憶だ。
このカブトという名前も、ウルシに被らされたカブト姿を見たマザーにそう名付けられた。
幼いカブトにとっては、貧しくも温かい院での暮らしと、自分を救ってくれたマザーが世界の全てだった。
忍者なんて、外の世界には興味がなかった。
医療忍術を学んだのだって、武練祭の子供神楽に出場したのだって、そうしたらマザーが、みんなが喜ぶからだ。
カブトは自分を救ってくれたマザーのような人になりたかった。
「ウルシー? どこにいるの?」
「おっと、時間だ」
そう言ってウルシは、アカデミーに入学するに辺り、木ノ葉隠れ内のアパートに持っていく予定の自分の鞄を抱え直し、カブトに言った。
「じゃあな、カブト。長期休暇にはまた帰ってくるからよ、元気でな」
* * *
四年前、春、アカデミー入学式。
「やぁ、ウルシ」
「カブト!? お前、なんで」
「あれ? マザーから聞いてない? 今年のアカデミーへの新入生の募集、うちの院からの枠はボクになったんだよ」
そういって悪戯成功とばかりに、眼鏡をくいっとしながらカブトは笑う。
それに、ウルシはガリガリと後頭部を掻きながら、「お前こそ、忍者に興味ないんじゃなかったのかよ、たく」と苦笑するも、どことなく嬉しそうである。
そんな義兄兼幼馴染みの顔を見上げながら、育ての親でもあるマザーとも似通った微笑みを浮かべてカブトは言った。
「ボクは忍者に向いてる……医療忍術も極めたいしね」
だから、好都合なんだよと彼は笑う。
忍びになりたいかなりたくないかを置いておけば、カブトの発言は間違いではない。
医療忍術というのは幅広い知識と、繊細なチャクラコントロールを要するものであるので、なりたいからってそれだけでなれるものではないし、初歩の初歩といえる医療忍術……掌仙術だって、使いこなせるものはそう多くはない。
現にいくらマザーから教わったとは言え、この幼さで掌仙術を使えるのはカブトだけだ。そう考えると、間違いなくカブトは医療忍者としての才能があると言って良いだろう。
……アカデミーに入学したはいいものの、成績は後ろから数えた方が早いウルシとは秘めたスペックは比べものにならない。
正直弟妹達には危険なことをしてほしくないウルシとしては複雑な気持ちだが、この才能を眠らせるのが惜しいのも確かだ。
「それと……ボクも『薬師カブト』になったから」
そういって得意気に丸眼鏡の少年が笑う。
それを見て、少しだけ意表をつかれたように団子鼻の少年は目を見開いて、それからカブトの色の薄い
* * *
二年前、春。
「今日からオレとお前が同じクラスかぁ……」
そういって、ウルシは隣を歩く二つ年下の義弟をみながら、ぼやくような声で呟く。
今日から薬師ウルシと薬師カブト二人はアカデミーの五年生に進学する。
ウルシは順調に学年が上がった結果だが、カブトのほうは二回の飛び級を挟んだ結果同級生になったのだ。
カブトが凄いことはわかっていたし、オレの弟は凄いと誇らしい気持ちがあるが、兄の自負があるだけに出来の良すぎる弟と同級生になるとはなんとも複雑な気分である。
「何?」
文句あるなら言って見なよとばかりにニコリと微笑むカブトに、どこかの本で読んだ笑顔は最大の威嚇であるって説は正しいのかも知れないなーなんて考えるウルシであった。
「ウルシ! きてたのかよ、早くいこうぜ!!」
そんな風に馴染みの友人達に呼ばれた団子鼻の少年は「オウ、今行く!」そういってカブトの腕を取って走り出す。
それにカブトが「おい、ちょっと」と抗議の声をかけると、「お前を紹介しねーとだろ!」とウルシは答えて、馴染みのクラスメート達の前でカブトの背中をバシリと叩いて、こう宣言した。
「こいつ、オレの弟のカブトっていうんだ。メッチャ頭が良いんだぜ! 今日から同じクラスになったから、みんなよろしくな!!」
「おー、ウルシの弟?」
「似てねー」
「ねーねー、お菓子たべる~?」
「君、真眼のイズナシリーズ知ってる? 何巻がすき~?」
「よろしくな、カブト」
そんな風に、ウルシの紹介があったからか、早々にカブトは初見のクラスメイト達に馴染むことが出来た。
(ちょっと、強引だけど、ウルシのこういうとこやっぱり凄いな)
思えば名前も両親のことも覚えていないカブトが孤児院に早々に馴染めたのだって、積極的に声をかけて強引にもかかわってきたウルシの御陰と言えなくもない。
忍びの才能は……お世辞にも高いとはいえないけど、こうしてクラスの中心にいて人と人を繋ぐことに特化したウルシは、これはこれで得がたい才能の持ち主なのではないかとカブトは思う。……本人に言ったら調子に乗られそうだから言わないけど。
そうして早々に馴染んだからこそカブトは気付いた。
この新クラスメイト達の中で、一人だけ馴染んだ感もなく、ぽつんと窓辺で佇んでいる少年がいる。年齢はカブトと同じくらいだろうか? 十歳前後に見える。どこかで見た顔だ。
それが気になって、カブトは昼休みにウルシの袖をクイと引き、尋ねる。
「……あの子は?」
「あー? あいつか。あいつはお前と同じで孤児院出の飛び級組で、去年うちのクラスに入ってきたヤツだよ」
「声かけないの?」
「いや、声はかけたけどよ、やっぱ年が違うからかオレ等に気ィ使っちまうみたいなんだよなー。授業終わったらすぐ帰っちまうし。と、丁度いいや。カブト、お前声かけてこいよ!」
そういってバシリとウルシはカブトの背を叩く。
それにカブトは「なんでボクが?」と言わんばかりの嫌そうな顔をする。
「気になってるんだろーが! それに、アイツ、一年の頃はお前と同じクラスだった筈だぞ」
そう言われてカブトは思い出した。
そうだった、そういえばあんな生徒がいた。
ただあの頃はもうちょっと明るい顔をしていたし、見た目に寄らず活発的だったような気がするが。確か剣術が得意で、体術の成績は学年一位だった。名前は確か……。
「って、おい、ウルシ……!」
そんな思考にカブトが耽る間に、彼の腕を掴み、ウルシはずかずかと件の生徒の元に向かい、軽快な声で話を切り出した。
「よぉ、シン。今日からオレの弟も同じクラスになったんだ。お前とは年が近いし、よろしくな……!」
(ああ、そうだ、シンだ)
そう思い出しながら、ったく相変わらずウルシは強引だなと内心愚痴りつつカブトは言う。
「シンくん。確か、一年の頃以来……だったね? 改めまして、ボクの名前は薬師カブト。君と同じで孤児院からの進学組さ。よろしく」
そう言って右手を差し出すと、銀鼠色の髪色をした中性的な容姿の少年は、少しだけキョトンと黒い目を見開くと、ニッカリ。
思ったよりも人懐っこい笑みを浮かべて、カブトの手を取り明るい声で言った。
「ああ。オレは『根の意思』出身のシンだ。オレの事は呼び捨てでいいぜ。よろしくな、カブト!!」
これが、三人の実質的なファーストコンタクトである。
戦災孤児出身の三人の少年。
彼らがこの二年後、アカデミーを卒業した後、同じ班に配属される未来を知っているものは誰もいない。
続く
Q,オビトの担当下忍にはある共通点があります。それはなんでしょうか?
A.全員戦災孤児。
でした。というわけでオビト班第四班のメンバーは、薬師カブト、ウルシ、シンの三人になります。
ヒントは第一章16話で何故ダンゾウがノノウの孤児院尋ねたのでしょうか? で、第二のヒントは第三章63話で原作では木ノ葉アカデミーにいないはずなのに、社会見学の子供達の台詞にウルシとカブトの名が出てきたことですね。
メンバーを当てられた人はいたかな?
次回「根の意思」
おまけのキャラ紹介プロフィールその7
【挿絵表示】