おまたせしました、76話です。
「目標への距離は?」
無線に向けて、オビトがそう問いかけをする。
すると、すかさずカブトが『あと15m……いや、13mだね』と答え、「よし、じゃあ……」行けと言う直前で風切り音が聞こえ、オビトは少しだけ呆れた様な顔をしながら、ざっと樹の上から俯瞰して部下達による任務の遂行を見守ることにした。
その後、オビトの隻眼に映った後景は案の定というべきか。
アカデミー卒業仕立てホヤホヤの
「ギャアオオオ!!」
右腕を切り飛ばされ、のたうつ熊に返し刀で銀鼠色の少年は更に手傷を負わせる。
突如人間の子供に攻撃を加えられたことに、熊は痛みより怒りのほうが上回ったらしい。
そのままシンに残った左前足で爪の猛攻を仕掛けるが、その時『右!!』と無線からウルシの声が響くと同時、シンは熊の攻撃を右に避け、左方から熊の顔面に向けての起爆札をつけたクナイの投擲と、熊の後方斜め後ろからカブトによる麻痺毒を利用した吹き矢が同時に放たれ、「グギャアア!!」と悲鳴を上げた後、熊は三歩よろけ昏倒した。
すかさずざくりと、シンは迷うことなく熊の眼球から脳に刀を貫通させて絶命させる。
それから明るい顔で、銀鼠色の髪をした少年は仲間に二カリと笑いながらに言う。
「よし! これで人食い熊退治ミッションクリアだな!」
「てめーシンこの野郎!! なーにが『これで人食い熊退治ミッションクリアだな!』だ、この先走りやろーがァ……!!」
「いてっ」
そういって、ツカツカと詰め寄った黒髪団子鼻の少年は、そのまま自分より頭半個分小さな銀鼠色の髪の少年へとゴンと拳を振り下ろす。
「オレ何度も言ったよな!? お前が強いのはわかってるけど、それとこれとは別だ! 先走った事すんのはやめろって! てめーチームワークをなんだと思ってんだ、コラッ!!」
「いやー……あははは……それはあのタイミングだとバッチリ奇襲が決まると思ってだな……? それにウルシとカブトならオレに合わせてくれると思ってさ! ……すまんすまん!」
「合わせる合わせられないの問題じゃねー! 先に行くなら先に行くの一言も言えねーのかてめーはよ!!」
「……あーあ、まーた始まった」
そう言って、灰白色の髪に丸眼鏡がトレードマークの少年は呆れたような声を漏らし、オビトも釣られて苦笑する。
オビト率いる第四班が始動してから一ヶ月の月日が流れた。
元々アカデミーを四年で飛び級卒業したシンもカブトも将来を有望視されていたし、この二人に比べると忍術・幻術・体術に手裏剣術まで、どれをとっても劣っているウルシではあるが、その代わり視野が広くてリーダーシップに優れており、第四班の核のような存在だ。
身体能力と剣術に優れ、優秀な前衛であるシンに、頭脳明晰で毒も薬も使いこなす優れた医療忍者のカブトに、サポート役を惜しまず司令官気質のウルシと、中々にバランスの良いチームである。
問題と言えるものが一つあるとすれば、優秀な反面シンにはちょっとおっちょこちょいなとこと、先走り癖があるってことか。
頭が悪いわけでは決してないのに、考えるより先に動いてしまうところがあるのがあの銀鼠色の少年の課題だった。
まあ、そんなシンをなんだかんだいいつつきっちりサポートするウルシがいるからこそ、特に問題に進展しないというべきか……ウルシとカブトがきっちり毎回フォローしてのけるからこそ、シンが行動を改めないというべきか。
どちらにせよ、第四班は今のところ今年アカデミーを卒業したルーキー達の中では実力が頭一つ分抜きんでいるのもあってか、今朝任務受付所で四代目に言われたのだ。
「ん、第四班は中々優秀なようだね。よし、君たちここらでCランク任務に挑戦してみるかい?」
と。
この任務、君たちなら問題ないと思うんだよね、と相変わらず感情の読めない笑みを浮かべる金髪碧眼の美丈夫な火影様であったが、アカデミー卒業仕立てホヤホヤのルーキーに与える任務ではないという点を除けば、見立ては当たっていた。
今回受けた任務の内容は、『村人を襲った人食い熊の駆除、もしくは捕獲』だ。
依頼人は木ノ葉隠れの里から12㎞ほど離れた小さな村落の村長で、なんでもここ数年この熊により農作物への被害が出ていたのだが、つい二週間ほど前、運悪く熊に出くわして逃げ遅れたばあさまがその熊に食われてしまったのだとか。
人の味を覚えた熊は何度も人を襲うようになるので、出来れば駆除……若しくは捕獲して欲しいとのことである。
また駆除の場合であるが、熊の手や熊の肝は高級食材や薬の原料になるので、提出してくれたら追加報酬を出すとのことである。
熊退治の報酬額自体はCランク最底限度額である三万両だが、熊の手や肝を渡せば五万両まで報酬が上がると聞いた子供達は俄然やる気満々になって「任せて下さい!」と二つ返事で引き受けた。
とはいえ、勝算がなければその時点でウルシが「危険すぎる」と声を上げたことだろうし、なんだかんだお互いの実力を把握しているからこそ、その信頼から問題ないという判断だろう。
この依頼を受けることに反対する者は一人もいなかった。
基本、木ノ葉隠れの里において、下忍が受注できる任務はCランク任務とDランク任務となっているが、Cランク任務とDランク任務の違いは、前者が任務遂行者に負傷の危険性を伴うもの、後者が生命の危険を伴わないもの、となっている。
今回の人食い熊退治は、忍びにとっては然程脅威度が高くなくとも、一般人から見れば明らかに危険な猛獣の駆除、若しくは捕縛任務となる為Cランク任務に該当する。
通常、アカデミー卒業したての子供達の班に、負傷の危険を伴うCランク任務が回される事などないのだが……ルーキー達の中で一つ抜きんだ実力を持つ班と言われている、オビトの部下達の実力を把握するには丁度良いとそう計算して回されたんだろうなーとオビトは思っている。
実際、オビトとしては特に何も指示することなく、熊退治は無事終わったわけだが……万が一があった所でオビトがついている限り、たかが熊退治で問題は起きようはないし、全く食えない火影様である。
そんなことを思いながら、銀鼠色の髪をした少年を叱りつける黒髪団子鼻の少年を眺める。
目をつりあげながら怒るウルシに、叱られて申し訳なさそうにしているシンであるが、この二人の相性や仲は別に悪くない。ウルシの言葉にはシンに対する心配や、フォローを押しつけられるこっちの身にもなれ、という当然の主張も含まれているわけだから、自分が悪い自覚がある分、シンとしても無視しがたいのだ。
(ただまァ……オレが叱る前にウルシが叱っちまうから、オレが言う事ってあんまりないんだよなァ)
とはいえ、彼らの担当上忍師は自分であり、彼らを纏めるのは本来オビトの役目だ。
「はいはい、お前等そこまで。騒ぐのはそこまでにしろ。あんまり煩いと、他の獣を呼び寄せるぞ」
そうオビトが手をパンパン叩いて声をかけると、やれやれと言わんばかりの仕草でカブトは手にチャクラを纏い、余分な繊維や筋肉を傷付けないように器用に熊胆を取り出し、容器にしまった。
(こいつ本当に器用だな……)
それに思わずオビトは感嘆する。
チャクラ解剖刀は医療忍術の一種だが、確かとんでもなく繊細なチャクラコントロールを要する術の筈だ。
それを11歳そこいらの少年が、何の苦も無くスムーズに使いこなせるとは……これが天才ってやつかと思わざるをえなかった。
カブトが熊胆の取り出しにかかると同時に、誰に言われるでもなく自然とした役割分担でウルシは周囲の警戒に立ち、シンが自分が切り落とした右腕と、熊についたままだった左腕から綺麗に手首から先だけ切断し、血抜きをする。
それから、「オビト先生、熊の残りはどうするんですか?」と聞かれたので、「まあ、肝と手を渡せば退治した証明にもなるし、持って帰るのも邪魔だからな。血で獣が寄ってきても困るからオレが焼く」と答えると、ウルシは少しウキウキしながら「お、今日は先生の火遁が見れるのか」と楽しそうに笑った。
元々うちはは火を操る一族で有り、火遁の術に誇りを持っている。
それは木遁使いという通称を持つオビトも例外では無い。
オビトは、ウルシやシンに指示して周囲の樹に燃え移らないように、熊を埋める穴を掘らせると、穴底に置いた熊に向かって、結び慣れた印をむすんだ。
「火遁・業火球の術!!」
プクリと頬を膨らませ、火のチャクラを吹き出す。
それは名の通り、巨大な火の玉となって、横たわる熊の身を灰になるまで燃やし尽くした。
それを掘り出した時に使った土をかぶせれば、後始末は終わりだ。
「よし、任務完了だな。お前達、行くぞ」
そうオビトが声をかけると、子供達は「オウ!」「はい」「了解」など思い思いに言葉を返し、オビトに続いた。
依頼を受けた村に寄り、村長に熊胆と熊の手を渡した際には「こんなに状態が良い熊胆は見たことがない」と喜ばれた。
ボーナスとして更に一万両報酬を上乗せするとのことであり、子供達はほくほくである。
「これで
と、ウルシなどはカブトの頭を、大手柄だと言わんばかりにぐしゃぐしゃに撫で回して笑った。
それにカブトは鬱陶しそうに迷惑そうな顔を浮かべていたが、雰囲気は柔らかく、本気で嫌がっているわけでもなさそうであった。
それから任務完了の判と追加報酬を受け取り、帰路に就く。
帰るまでが遠足という言葉がある。
帰り道も、最低限の警戒は解かない。
なんだかんだうちの子達は仲が良いし、優秀なのだ。
村から里までは12㎞。
普通の人間が歩けば2時間から2時間半ほどかかる道程であるが、忍びの足であれば大した距離でもない。
現に日が沈むよりも早く里の門が見えた。
火影塔に寄り、任務終了の報告をしてレポートを提出すれば、今日の仕事はそれで終わりだ。
「あのさ、先生。この後、他に予定がなかったらだけど、修行見て貰っても良い?」
そう銀鼠色の髪の少年が問う。
それにオビトは軽く「ああ、良いぜ」と答えると、団子鼻の少年も、「あ、じゃあオビト先生、オレもお願いしていいか?」と聞かれ「勿論だ」とオビトが返すと、ウルシは照れくさそうに笑ったあと、軽い調子で丸眼鏡の少年にも声をかけた。
「おい、カブトも来いよ」
それに、灰白色の髪をした少年は肩を竦めながら「ボクはいいよ。修行もいいけど、他にやりたいこともあるしね」と答えた。
なんでも綱手様主催の、新人医療忍者向けの講習会に参加する予定なので、その予習と、術の研究をしたいのだそうだ。開催日は明後日とのことで、そっちの勉強に力を入れたいらしい。
それを聞いてウルシは相変わらずうちの弟はしっかりしてんなあと、感嘆のため息を吐いた後、「ま、お前なら大丈夫だと思うけどよ、ほどほどに頑張れよ」そういって、笑った。
* * *
コンコンと私室に可愛らしいノックの音が響く。
それに癒やされながらミナトは微笑むと、「空いてるよ」と声をかけ、ドアを開ける。
すると、彼の息子である少年は愛らしい上目遣いで父親を見上げると、胸に耳長狐のぬいぐるみを抱えながら、訊ねる。
「父ちゃん、はなしってなんだってばよ?」
その日、ナルトは、「ナルト、あとで話があるんだけどいいかい?」とそう父のミナトに言われていた。
当代火影である父が忙しいことは、その一人息子であるナルトはよく知っている。
食卓を共に出来るのは朝食の席だけの日など、珍しくも無かった。
最近は週の半分を父親と夕食を共に出来ているけど、ほんの少し前まで、夕食を共に出来る日もレアだったのだ。
そのことについて思うことは色々あるけど、父ちゃんは火影様で、火影っていうのはスンゲーかっちょよくて、わるいやつをやっつけるスッゲー存在なんだって、もうわかってるから、だからいいのだ。
それにどんなに忙しくても、父は自分を愛してくれている。
母と同じように。
と、考えて少しだけ幼児の心に複雑な気持ちがわいてくる。
母ちゃん、赤髪の眠り姫。
ナルトはずっと物心ついてから……もしくはその前から毎日のように母が眠っている病院へと通い続けていたけど、彼女が目覚めたのは今年に入ってからの事だ。
それまで彼にとって母親はどこか遠い存在だった。
昏々と眠り続ける母親というその人は綺麗で、お人形のようで。
ナルトのお母さんだよ、そう言われてもイマイチ自覚がもてなかった。
だけど、その母はとうとう目覚めた。
母が目覚めた日から約三ヶ月が過ぎて、共に暮らせるようになってから約一ヶ月が過ぎた。
目覚める前は、どんな顔で笑って怒って、どんな声で自分を呼ぶのかちっともわからなかった。
だけど、「会いたかった」と泣いて抱きしめてくれた体温の暖かさを浴びれば、ああこの人が自分の母ちゃんなんだと自覚するのは難しくなかった。
母ちゃんに会えて嬉しかったのは本当。
でも、母親がいない期間のほうがナルトの人生にとっては長すぎて、一緒に暮らすとなるとまだまだ戸惑うところのほうが多くて、つい癇癪を起こしたり、似たタイプだからこそぶつかり合ってしまうこともよくある。
でも、喧嘩しても、叱られても、そのあと「ごめんね、ナルト」そう言って抱きしめてくれるから、やっぱりこの人が母ちゃんで、母ちゃんが好きで……でもやはり、いつも一緒にいるのには慣れないのだ。
彼女は、週に二日、検査入院のため、病院に泊まり込む。
今日は丁度その日だ。
そのことに少しほっとしていることを、息子である
(さて、どのタイミングで話を切り出そうか)
愛しい息子を自室に招き、温かいホットミルクで持て成しながら、四代目火影波風ミナトは思案する。
金髪碧眼の息子は色合いこそ父であるミナトによく似ていたが、そのクリクリした瞳や表情雰囲気などはミナトよりも妻であるクシナによく似ていた。
それに、うちの息子は本当に可愛いなあと親バカな感想を思い浮かべながら、「最近母さんとはどうだい?」と一先ず本題に入る前に息子に思うところを尋ねる。
クシナが木ノ葉病院を退院し、この家で暮らすようになってから約一ヶ月。
長いこと眠っていたそのリハビリに、一度死にかけたその後遺症もあり、週に二日は病院に検査のため泊まり込むため彼女がずっと家にいるというわけではないが、物心ついた時には母がいない生活だったナルトには、家に母親がいるということ自体が慣れないものであり、時には感情が抑制出来なくて泣き出すこともあったが……人は慣れる生き物だ。
最近は少し落ち着いてきたが……ナルトはまだ五歳のお子様である。本当のところはどうなのか、この生活に無理をしていないのか確認がてら、対話が必要だとミナトは感じていた。
その父の言葉に、ナルトは昨日の事を思い出しながらに言う。
「んー、と、えーと……あのさ、あのさ、きのーさ、母ちゃんがオレにホットケーキつくってくれたんだけど、それがスッゲーうまかったんだよ」
「クシナは料理上手だからなァ。ホットケーキかぁ。父さんも食べたかったよ」
「母ちゃんにたのんだら、きっとよろこんでつくってくれるってばよ!」
オレからも父ちゃんにホットケーキつくってくれってたのむってばよ、と無邪気に息子ははしゃいだ。
「うん、ありがとう、ナルト」
「そんで、そんで、かあちゃんがさ、コンコンの耳、やぶれてるとこなおしてくれて、こんど服もつくってくれるってそう言ってたんだ……!」
コンコンというのは、今ナルトが抱えている耳長狐のぬいぐるみのことだ。
オレンジ色の体色をしており、ふわふわで、ミナトが息子の一歳の誕生日に贈ったプレゼントのぬいぐるみだ。
抱き心地がいいのか、一人で寝るとき、ナルトはそれをよく抱き枕にしていた。
「そっか、それは良かった」
それから暫しナルトの話しに耳を傾ける。
先日は何をしていたのか、うみののおばちゃんに手裏剣の投げ方を教えて貰ったこと。今ナルトの育てている鉢植えから芽が出てきたこと。外で遊ぶのも好きだけど、植物に水やりしてのんびり過ごすのも好きな事。
健全に、健やかに育っている我が子の姿に、ミナトの胸に喜びの感情が満ち満ちる。
思わず、微笑みが顔に浮かぶ。
四代目火影としてよく
「でさ、でさー!」
「……ナルト」
まだまだ話し足りないとばかりにはしゃぐ息子の頭を一撫でする。
すると、父親譲りの色彩を持つ息子は、父に宿った瞳の色に、この話は終わりだと悟って口を噤んだ。
(聡い子だ)
少しだけミナトの胸に罪悪感が滲むが、ここからは父として、ではなく火影としての自分の番だ。
「ナルト、君はオビトの事が好きかい……?」
「??? オビト?」
唐突に何故オビトの話になったのか。ナルトはイマイチわからないながらも「すきだってばよ?」と答えると、父は感情の読めない笑みを浮かべながら「そっか、それは良かった」と答え、告げた。
「ナルト、火影として父さんからナルトにお願いがあるんだ? いいかな?」
「? うん」
「オビトから、神楽を継いで欲しい」
続く
タヌキです。
タヌキは美味しいごはんがあれば頑張れます。
なのでごはん(感想)ください。タヌキです。
次回「顔合わせ」