そういえば言い忘れていましたが、本作は三部作予定になっています。
構想段階では完結するまで三十話くらいかなーと思っていましたが、この調子のペースでいくと普通に五十話越えそうで戦々恐々してます。おっふ。
オビトにとって祖母の死という出来事があろうが、容赦なく時間というものは平等に誰の上にも流れていく。
祖母が亡くなった四日後、オビトは柱間細胞とオビト自身の細胞を使って作ったという疑似臓器をとりつける為の手術を行った。
施術は成功、今のところ拒絶反応なども見られず、経過は順調とのことで、今日からは流動食とはいえ食事も再開出来る。
……木ノ葉に帰ってきて約十日、病院で目覚めてからは五日が経っていたのだが、消化器官にも損傷を受けていたこともあり、実はうちはオビトはこれまで一度も自分自身の口で食べ物を摂取していない。栄養摂取は全て点滴頼りだった。
二週間ぶりに再会した祖母を、朽ちた老木のように痩せ衰えたと衝撃を受けていたうちはオビト少年であったが、大概彼自身も痩せ衰えている。
元気なのは威勢とその口と表情くらいのものだ。
成長期途中のその手首は一回り細くなり、丸かった頬はこけ、片手足に片目もない上にそれ以外も包帯まみれなのもあって見た目は大変痛々しい。が、そんな体になってもオビト自身は念願の写輪眼を開眼出来たのもあってか、わりと普通に前向きでケロッとした態度なので、見た目ほどは悲惨な印象を受けないだけだ。
衣食住は生きていく上で基本だ。
そのうち食を取り戻したということは、オレが回復する日も近いな! と楽天的に黒髪隻眼の少年は考えた。
「ふぬぬ……」
オビトはマトモに使える左手でスプーンを握り、上半身を起こし、約二週間ぶりの食事を噛みしめるが、噛まずに飲み込める流動食とはいえ、長いことマトモに食事をしていない身にとっては、たかがスープを飲むだけでやけに大変だ。嚥下するだけで喉が怠い。
……オビト自身にそんな知識は無いので知らないのも無理はないのだが、そもそも食事を消化吸収するというのはそれだけで体力を消耗するものであり、一食食事を消化吸収するだけで人体に要求されるエネルギーというのはフルマラソンするのに匹敵する。病み上がり手術明けのオビトにとって、食事を取るという行為が大変なのは当然と言えば当然であった。
そんな黒髪の少年の食事風景を見て、銀髪の少年がため息を一つ。
オビトのチームメイトのはたけカカシである。彼は毎日のようにオビトの病室を訪れており、はじめはこいつも漸く優しさってヤツを覚えたのかァ大人になったなァカカシとか、こいつがこんなにオレの事心配してくれるなんて、オレ達本当に仲良くなれたんだな照れるぜとか、思っていたオビトであったが……あまりに頻度が高いので、こいつ大丈夫か? カカシお前……実は暇なのか? 家帰ってちゃんと体休めろよ……とか思い始めたのはここだけの話である。
あと、じーっと人の食事風景眺めるのはやめてほしい。気が散るから。
そうしてオビトが食事を開始してから十分後、ぼそりといつも通りの黒い口布ごしにカカシは呟いた。
「……手伝おうか?」
「いらねーよ……! 自分で食べれる!!」
カカシとしてはわりと普通に善意からの申し出だったのだが、これまでの顔を合わせる度に衝突してた過去もあり、オビトはこの一つ年下の少年に揶揄されたと思ったのだろう、ムキになってそう返事をし、なれぬ片手でスプーン相手に悪戦苦闘した。
「なぁ、オビト……」
「んだよ……」
それから更に十分、残したら食材と作ってくれた人に申し訳ないし、なんとか出された分は全部食べようと頑張ったオビトであったが、どう頑張っても食べきれそうになくて、器の中の残り三分の一を平らげることを諦めたタイミングでカカシはしんみりとした口調で言葉をかけた。
「……オビトはさ、いつか火影になるんデショ」
オレは火影になる男だ、とそれはオビトの口癖でもある。
だが、その言葉を信じた者はそういない。またあいつ大口叩いているよ、という反応が大半だったし、カカシも少し前までそちら側にいた。
「なる……! ……それがどうしたんだよ?」
なので、「は? お前には無理デショ? 現実見なよ」と皮肉たっぷりに言ってくるこの一つ年下の少年と喧嘩になることは、ほんの二、三週間前までは日常茶飯事だったのだが、今のカカシの発言には前まで伴っていた棘も嫌味めいた響きもなく、オビトは困惑気味に窓際に立つ銀髪の少年を見上げる。
「……返す」
「あ……?」
何を言われたのかさっぱりわからん、と言わんばかりに首を捻る一つ年上の少年を前に、カカシは後ろめたそうに斜め下に視線を落としつつ、左目を覆うようにつけた木ノ葉の額宛の上からオビトに貰った目を「だから、左目」と告げながら摩る。
「……返すよ。いつか火影になるんならさ、この目必要デショ」
「あのなぁ、カカシ……」
前まであった生意気さが嘘みたいに、意気消沈した様子でそんなことを言う一つ年下のチームメイトを前に、オビトはハァ~とため息を一つついて、それからきっぱりと言う。
「いらねェよ。言っただろーが、そいつはオレからお前への上忍祝いのプレゼントだってよ」
そういやこいつオレより年下だっけな、全くしょうがねェな~と言わんばかりの口調でオビトは続けた。
「わかってねェみたいだから、もう一度言うぞ。里の奴らが何て言おうとお前は立派な上忍だ。それがオレの気持ちなんだよ、受け取ってくれ」
「でも……!」
「あー、もう!!」
めんどくせー!! と言わんばかりにオビトは左手で頭をガリガリかくと、据わった目で睨むようにカカシを見上げ、親指をビシッと立てて、「いいか、オレがお前の右目で、お前はオレの左目だ……!!」とそう啖呵を切るように宣言した。
その言葉に思わずカカシは大きく目を見開く。
「ばあちゃんが言ってたんだ、写輪眼は左右揃って本来の力を発揮するんだって。なら
そっぽを向いて、唇をとがらせながら、オビトはそんな言葉を言う。その頬も耳も真っ赤で、自分でも恥ずかしい事を言った自覚はあったらしい。そんな黒髪の少年を見て自分もなんだか恥ずかしくなってきたのだろう、カカシもまた照れに耳を赤くしながら、オビトにぼそりと文句を投げつけた。
「……ちょっと、自分で言って照れるのやめてくれる……?」
「て、照れてねーよ! こ、これは部屋がちょっと暑かっただけだ!」
あー、暑い暑い、そんなことをわざとらしく言いながら、うちはオビトは左手でパタパタと顔を仰ぐ。
そんな一つ年上の少年を見ながら、カカシは思う。
(リンはオビトは嘘つかないよって言ってたケド……やっぱこいつ嘘つきじゃない?)
なんて。
因みに余談であるが、あくまでもリンは「オビトはね、(人助けに)嘘つかないよ」というつもりで発言していたのだが、生憎この場にいないリンの考えがカカシに伝わるわけが無かった。
「……オビトはさ、これからもオレとコンビ組んでやってくつもりなの?」
「あったりまえだろ?」
キョトン、質問の意図すらわからないとばかりに目を
……それにどれだけ自分の気持ちが救われたのか、きっとこのバカは気付いていないんだろうなとカカシは思う。でも、それでいい。うちはオビトは、それがいい。
「……なんだよ、オレと組むの嫌になったとか……言うんじゃねェだろうな、カカシィ」
さっきまであんなに強気だったのに、急に不安そうに自信なさげになるのがおかしくて、カカシは自然と込み上げる笑みを口内で抑えながら「イヤじゃないよ」と答えた。
……これからも相棒でいられることや、二人なら敵無しだと考えているオビトのその無条件の信頼が、本当は凄く嬉しかったのはカカシだけの秘密だ。
* * *
神無毘橋の戦いと呼ばれた死闘から二ヶ月と半月が過ぎ、オビトが木ノ葉病院を退院する日を三日後に迎えたその日、中期任務に出ていたオビト達の上忍師である波風ミナトが木ノ葉隠れの里に帰還した。
それに伴い正式に終戦条約の日取りと、風の国との同盟の締結、黄色い閃光の異名を持つ英雄、波風ミナトの四代目就任の発表も大々的になされ、里は漸く訪れた戦の終わりと、若くハンサムな次期火影の存在に浮き足だった。
もうお祭り騒ぎで、静謐が常の病院にまで明るい声が聞こえてくる。
が、当事者はお祭り騒ぎどころでなく、色々な手続きに忙殺されているようで、その渦中人物である波風ミナトが、一時は死に別れたと思われていた教え子の病室に顔を出す事が出来たのは、オビトが木ノ葉病院を退院する一日前の事だった。
「オビト、退院おめでとう」
「ミナト先生!」
退院祝いの花を抱えながら、爽やかな金髪碧眼の優男が黒髪の教え子に微笑む。
久しぶりの恩師の顔に感動したのだろう、その目尻には涙が浮かんでいたが、今は任務中ではないのでミナトは大目に見ることにした。それから改めて、そっとオビトの姿を上から下まで眺める。
……任務に出立する前にチラリと見た少年の姿はそれはもう惨いものだった。
生きているのが不思議なくらいで、手も足も目も片方がなく、包帯を巻いていない場所のほうが少ないくらいだった。
だが、今のオビトは違う。
包帯の取れた右側の顔には渦を巻いたような、皺のような傷跡が無数に走り、右の唇も傷が残っている上に左目は黒い眼帯で覆われてはいるが、肌艶は血色の良いピンクで、カラッとした明るい表情をしているからか、残った傷跡の惨さの割にはあまり痛々しくは見えない。
そして無くなった右手と右足には柱間細胞で作られたという義手義足が既に装着されており、義手であることを隠すためか右側にだけ黒い手袋が嵌められている。
オビトに面会する前にさらっと報告書に目を通していたが、それによると経過は順調であり、初代様の細胞との拒絶反応が出ることも一切なく、無理をしたら崩れてしまうそうだが、とりあえず走るのは無理でも歩行したり、食事をしたりする分には問題ない程度にリハビリが進んだので退院が決まった、とそう書かれていた。
あとは唯一の家族でもある祖母が亡くなったので、本人の希望で元の家を引き払い、退院後は独身の忍びが主に住んでいる集合住宅の一室を借りて生活する事になり、そこから週に一度病院に通院することになる。
オビトがつけているのはただの義肢義足ではない。
初代様の細胞が使われた特殊な義肢義足であり、オビトの場合はそこにプラス内臓のいくつかも初代様の細胞で作られた疑似臓器で補われている。今のところは問題がないが……馴染むまでは脆く崩れやすいのもあって、たとえ忍びに復帰しても激しい戦闘などには耐えることは無理だろう。
なので、ミナトは次期火影としての目線で、これは暫くオビトには里内のDランク任務を振って、リハビリに励んで貰うしかないなと判断し、うんうんと頷いた。
因みにここまでの思考速度は今のオビトを見てから一秒ほど。
忍界最速で有名な黄色い閃光は、思考能力の面でも最速だった。
だが、まあこんな五体不満足状態になってしまった直属の部下に対し、ミナトにも思うところは普通にある。
あの時、もっと早く駆けつけられたらとは思うが、ミナトに与えられていた任務を思えばそれも無理な話だ。ミナトが駆けつけた時には前線にいた木ノ葉の忍びは数えるほどしかいなかった。
ミナトがいなければ確実に前線は崩壊していたし、この戦争も木ノ葉の勝ちで終わることは無かった。その自覚が波風ミナトにはある。爽やかな優男といった風貌のミナトではあるが、冷徹にその辺りの割り切りで出来るという意味でも強い忍びなのである。
それでも、ミナトがはたけカカシのはらリンうちはオビトの師だ。
彼らに対し、ミナトには担当上忍師としての責任がある。
自分がいない間にオビトは死にかけ、自分がいない間にオビトは家族を亡くした。そんな時に寄り添ってあげることが出来なかったのは師としての心残りだった。
だからこそ、波風ミナトは謝罪する。
「遅くなって悪かったね……」
「ほんとだよ、おせーよセンセー」
オビトは拗ねるように口をとがらせながらそんな事を言う。
それに、少しだけ落ち込んだ沈痛な表情を師が顔にのせると、黒髪の少年は慌てたように手をワタワタしながら即座に前言を撤回した。
「なんてな……! ウソだよ。ウソウソ!! カカシから聞いたぜ。敵の増援は先生が倒してくれたってさ! それに四代目もミナト先生がなるんだろ? やっぱ先生はすげーや!!」
ミナト先生、四代目火影就任おめでとう! そういって、二カリと笑うオビトに、こちらが気遣うつもりだったのに、逆に気遣われちゃったなと苦笑しながら、ミナトは言う。
「ん! ありがとう。オビト」
それからポンと黒髪の少年の肩に手を当てて、訊ねた。
「でもオレの火影就任式より先に君の退院祝いだよ……何かお祝いに欲しいものはあるかい?」
これから火影になってしまえば、この子達とも今ほど気軽に接することは出来なくなる。
波風ミナト班は実質解散なのだ。
だからこそ、師として今のうちにやれることはやってあげたい。
そんな気持ちを込めた言葉に、最初は「お祝いなんて……」と断りかけたオビトであったが、あることを思いだしふっと口を閉じた。
それから覚悟を決めた顔で恩師の顔を見上げた。
「なら、ミナト先生。オレ先生にお願いがあるんだ」
その言葉に、思わず波風ミナトは目を見開く。
うちはオビトという少年はつい数ヶ月前までは、甘えたで口が達者なだけの未熟な子供だったのに……そこには一端の目と覚悟を秘めた男が立っていた。
続く
ミナト班三人の基本スタンス
カカシ:オビトに幸せになって欲しい
オビト:リンが幸せにならないと嫌だ
リン:カカシに幸せになって欲しい
トライアングル!